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白い鳥

男の怒りとともに、ドアの下の隙間から光の粒が流れ込む。

光は地下室の床をルカを囲むように満たして、ふわりと浮かび上がった。


複数の箇所にまとまっていき、やがて矢のような形になる。


ルカにねらいを定めている。


ドア越しに男が言った。

「致命傷は与えず、じわじわといたぶってくれる」


その言葉とともに、矢がルカに放たれた。

とっさに身をちじこませる。それで身を守れるとは思えないが、せめてもだ。


だが、その矢はルカに当たることはなかった。


ルカの周りを黒いベールのようなものが包み、バリアのようにルカを守ったからだ。

自分に何が起こったのかわからないルカだが、胸元の宝石がパキンと割れたことで状況を察した。

ドレスに付けられた宝石には、リアンの魔力が込められている。

それがルカを守ってくれているのだろう。


エルニア家が押さえ込んだのはリアン自身で、彼が宝石に込めた魔力までは範囲外だったらしい。


リアンに見捨てられたのではないか、と思っていた気持ちが消えていく。


よかった。

彼はちゃんと私を守ってくれている。


それがわかり、最悪の状況の中でも心に余裕が生まれた。

宝石はたくさん付けられているから、しばらくはルカを守ってくれているだろう。


ドア越しの男は、ルカが守られているとはわからないはずだ。

彼の想像の中では、ルカは死なない程度に光の矢で貫かれている状態のはず。

彼がルカの状態を確かめようとドアを開けた時がチャンスだ。


闇のベールに包まれながら、ルカは周りを見渡す。

何か、何かこの状況を打破するためにできること。


ふと、格子に止まる白い鳥が目に入る。

異常な状況でも飛び立つことのない鳥は、ルカをじっと見つめたままで動かない。


リアンに言われたことを思い出す。

ルカには『使役』の力があると。


あの鳥を使役することはできないだろうか。

操り、ドアが開けた瞬間に男の隙をつくきっかけにでもなるかもしれない。

可能性は限りなく少ないだろうが、外に助けを呼ぶことも考える。


何にせよ、ここで何もしないよりマシだ。


使役とは具体的にどうすればいいかわからないが、ダークナイトの力を欲したときのように、鳥に思いをとばした。


お願い、私を助けて。あなたの力を貸して。


白い鳥は一瞬ぴくりとはねた。

羽をぎこちなく動かし、ぴたりと止まる。

そして、ルカを改めて見つめた。


うまく……いったのだろうか?


様子をうかがっているっと、鳥がふわりと飛んで矢の合間を掻い潜り、ルカの目の前に舞い降りた。


ルカの目をじっと見つめ、くちばしを開く。

「驚きましたね、まさか私を使役するとは」


ルカは驚き、目を見開いた。

「と、鳥がしゃべっ……!?」


鳥は首を傾け、ルカをじっと見つめながら口を開いた。

「私はホワイトナイトのジェロム・エルニアと申します。以後お見知り置きを」


そういって、翼をうやうやしく広げ、片翼を胸の前に添える。

まるで人間がお辞儀をしているような仕草だ。


彼がホワイトナイト、と言ったか。

この鳥が、始祖?


混乱するルカに、鳥はピチチッっとおもしろそうに鳴く。

「混乱するのは無理ありません。この姿でホワイトナイトの始祖と言われても……と思われたでしょう?」


問いかけに、ルカは正直にうなずく。

鳥は続けた。

「これは仮の姿です。魔力の一部を鳥の形に変えています。ダークナイトの力を受けついだあなたの様子を見に来たのです。リアンが認めた人がどのような人なのか。……まさか、使役されるとは思いませんでした」


ルカはにわかには信じられなかったが、鳥がしゃべっている時点で受け入れざるおえない。

混乱を押さえて、鳥に話す。

「……あなたがどういう存在なのかはわかりました。使役された、と言っていましたが、私に協力してくれるということですか?」


この鳥がどういう存在なにかはさておき、今の状況をなんとかしなければならない。

ただの鳥ではなく、ホワイトナイトの力を持っているのなら、脱出への糸口が大きくなったということだ。


ルカの問いかけに、鳥はまたピチチッと笑う。

「おっしゃるとおりです。あなたの手となり足となりましょう」


「……ありがとう。まず、この光の矢をなんとかしないとならない。ドア越しの男を倒すことが出来る?」


「彼を殺すということでしょうか?」


鳥の問いかけに、ルカは頭をふる。

「いいえ。……私は魔力を正式に使ったことはないけれど、使っている者の意識がなければ魔力は使えないですよね?つまり、この光の矢も消える」


鳥は答える。

「技量が高かったり、魔力が多い者が使えば意識に関わらず自動制御のような形で使うことは出来ますが、この程度であれば大丈夫でしょう」


「では、あの男を倒して。意識を失わせる程度でいい」


「かしこまりました」


その時、光の矢が止んだ。

ドア越しに、ルカの様子を伺う気配がする。

おそらく、生死を確認しているのだろう。


あれだけの矢が降り注げば、急所を外しているとはいえ死んでいてもおかしくない。

だが、男の想像とは異なりルカは宝石に込められた魔力のベールで守られ、傷一つ負っていなかった。


ドアにのぞき窓はないので、物音一つたてなければ男はルカが死んだと思いドアを開けるだろう。


ルカはドレスを確認する。

宝石はずいぶん減って、残りわずかになっていた。

もう次の攻撃の波に耐えられる量はないだろう。


これが最後のチャンスだ。

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