地下室
どれだけ時間がたっただろう。
ルカは床に寝そべって、差し込む月明かりに照らされていた。
あの後、リアンを何度か読んだかやはり彼は現れない。
どうしたのだろうといろいろと考えるも、まだ彼と知り合って日は浅い。
どういった状況で出てこないのか見当もつかない。
自然と悪い想像に行き着いて、そのたびに振り払う。
私がうまく彼の力を使いこなせないのだろうか。
もしくは、私は彼に見捨てられたのか。
せめて助けが呼べないかと、格子がはめられた窓に向かって叫んだりもしたが、閉じこめられた屋敷の敷地が広く人が周辺にいないのか、外の動きは何もない。
ただ一羽、状況をあざ笑うかのように白い鳥がやってきて、ルカを見下ろすだけだった。
閉じこめられた地下室が、前の人生で処刑前に閉じこめられた部屋に似た石造りのものだったので、余計に暗い気持ちが加速していく。
せっかく新たな人生をやり直せたのに、ここでまた私の命は奪われてしまうのか。
結局運命は変わらないのか……。
暗く沈む気持ちを必死に奮い立たせていると、外で動きがあった。
人の気配が近づいてくる。
石の廊下をこつこつと靴の音がなり、だんだんと大きくなってルカのいる部屋のドアの前で止まった。
「ルカ・アミュール、聞こえているな?」
男の声が響く。
その声にルカは反応しない。
誰であるかわからない中で、返事をするのはためらわれたからだ。
相手は返事を気にせず、ルカが聞いていることを前提に話し始めた。
「私はエルニア家の者。ホワイトナイトを始祖を持つ家だということは、守護者としての教育を受けていないあなたでもわかるだろう」
この国の4人の守護者のうちの一つ。
光の魔力を司るホワイトナイトを始祖に持つ家だ。
指摘の通り、守護者としての教育を受けていないルカは一般的に知られている知識しか知らない。
ホワイトナイトは光の魔法を使う始祖。けがや病気の回復などで人々を救ったと言われている。
ドアの前の男は続けた。
「ホワイトナイトの力は回復だけではない。光を使った魔法も使い、攻撃役としても先の戦争には参加していた。平和な世の中では知られていないことだが……だから知らなくて当然だろう。条件さえそろえば、攻撃に特化したダークナイトの力を押さえ込めると言うことを」
ルカはハッとした。
男が言っていることが本当ならば、リアンはエルニア家の持つホワイトナイトの力でルカのそばに現れないということだ。
つまり、この状況から救い出してくれるリアンには頼れない。
ルカは口を開いた。
「エルニア家が私に何の用なんですか。まさか、ホワイトナイトの力だけでなく、ダークナイトの力も欲しいのですか?」
男は馬鹿にしたように笑って答える。
「力を二つ得られれば、我が家はさらに安泰になるでしょうね。ですが、そう簡単な問題ではないのですよ。四つの家は今まで均衡を保ってきた。もし、我が家が二つの力を持ったら、残り二つのルーンナイトとアークナイトから攻撃をされるでしょう」
四つの家はこれまでずっと一つの力を保持していた。その均衡が崩れることをおそれているのだろうか。
だが、攻撃に特化したダークナイトと、回復と光の攻撃を使えるホワイトナイト。
その二つの力を持つことができれば、他の二つの力には対抗できるのではないのか?
押し黙ったルカが何を考えているか察したのか、男が続ける。
「……これから死にゆくあなたに、一つだけ教えてあげましょうか。四つの家の力は、一方通行に力関係がある。闇が光に弱いようにね。つまり複数の力を手にしたからといって、簡単に勝てるというわけではない。『我々』が今まで通り力を保持することで平和を保てているのだよ」
我々、と言った。
ルカは察する。この男……つまりエルニア家はアミュール家とつながっているということだ。
今まで四つの家で成り立ってきた関係を崩す可能性があるルカを、アミュール家以外の家も疎ましく思っている。
そして、エルニア家はアミュール家と手を組んだということだろう。ルカを排除し、ダークナイトの力をアミュール家に戻すために。
ルカは地面に伏せながら、小さな笑い声をあげた。
なぜ笑うのかわからなかったのか、男はいぶかしむ。
「なぜ笑っている?」
ルカは笑いながら答えた。
「小さいな、と思って。自分たちの立場を守るために、そうやって今まで汚いことをしてきたのでしょうね。……守護者が聞いてあきれるわ」
その瞬間、男の怒りがドアごしに伝わってきた。
「ダークナイトの力を素直に受け渡すのなら、苦しまずに殺してやろうと思ったが……守護者を愚弄するのなら、それ相応の苦しみを与えてやろう」




