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婚約破棄の申し出

突然、人が現れたことで参列者は驚き、騒ぎになる。


だが、それも徐々に静まりかえった。

リアンの威圧感で動けなくなったからだ。


驚愕しているのは参列者だけではない。

家族もまたそうだ。


彼らが見たリアンの姿は、闇をまとった甲冑姿だった。

目の前の美しい男が、儀式の時に現れた始祖だとすぐに結びついていないようだった。


だが、彼はダークナイトの証である闇の中から現れた。

彼が『そう』なのだと、徐々に本能で理解したようだった。


父親と母親は先ほどの勢いをなくし、一歩下がっている。

マリーは驚いているのもの、大きく表情に出すことはなかった。

リアンをずっと見つめ、視線を離さない。


その緊迫の場面に空気を読まず、割って入ってきたのがシリルだった。


「婚約者の私をさしおいて、彼は誰だ?」

少しのいらだちと純粋な疑問で聞いてきた。


彼は目の前の存在がどういうものかわからない。

自分はマリーをエスコートしていることは棚に上げ、婚約者が別の男とやってきたことが気にくわないらしい。


それは、生まれからくる傲慢さと、本人の思慮の浅さからくるものだった。


ルカが話そうと口を開いたが、リアンが先だった。

「婚約者?エスコート一つ出来ない男が婚約者を名乗っていいのですか?この時代は」

そう言って、シリルに微笑みかける。


シリルははじめ驚き、そして徐々に不機嫌になっていく。

王族として表面上は大切に扱われていたから、リアンのように直接の苦言を呈されることはなかったからだ。

シリルは怒りを滲ませながら答える。

「私はあらかじめマリーから事情を聞いていた。ルカが非道なことをしていると。そのような女性をエスコートすることは、この国の王族として許し難いことだ」


そして、ルカに向き合う。

「君には失望した。マリーから力を奪って、我が物顔でダークナイトを侍らせている。婚約者として恥ずかしいよ」

そう言って、こちらを軽蔑するような顔を向ける。


恥ずかしい?

どの口がそれを言うのだろう。


ルカは最初の人生でも、シリルがこんな調子だったことを思い出した。


婚約を発表した後、ルカは家族から愛されなかったことに自暴自棄になりどんどんと落ちていった。


それに追い打ちをかけたのが、シリルの浮気だった。


彼は弱っていくルカに手をさしのべることをせず、マリーに乗り換えたのだ。

彼曰く、「聞いていた話と違う。アミュール家との関係のために婚約したが、私の人生のお荷物になるようならいらない」ということだった。


悪びれも、罪悪感も無く言い放っていた。

彼の中では、ルカに迷惑をかけられたのだから当然の行為だと思っているのだろう。

自分を正当化することに長けている男なのだ。



ルカが聞いた彼の最後の一言はこうだった。

「私の妻として、美しくあることもできないのであれば、何のために生きている?」


ルカがその言葉に絶望し、泣いてもシリルは不思議そうな顔をするだけだった。


自分以外の人間は、自分のためにある。

選ばれた人間が持つおごりを、シリルは最後隠そうとしなかった。

もうルカのことを、取り繕う価値もない人間だと思っていたのだろう。



そして、ルカの同意なく婚約が破棄された。


そこから先は坂を転がるように転落していき、行き着いた先が処刑場だったというわけだ。


どういうルートをたどっても、この男と破局する未来はどうやら変わらないらしい。



なら、こちらから切ってやる。



ルカはにっこりと微笑んだ。

「ならば、婚約破棄いたしましょう」


シリルはあっけに取られた顔をした。

「・・・・・・何?」


言われたことが頭に入ってこないのだろう。惚けた顔をした。

ルカは今度はゆっくりと告げた。

「ですから、婚約破棄をしましょう。あなたと、わたしの」


ようやく理解できたのだろう。シリルの顔が怒りに染まった。

「あなたは何を言っているのかわかっているのか?王族の私が言い出すならまだしも、あなたが婚約を破棄することなど出来ない」


婚約破棄を自分ではなく、ルカが言い出したことが一番の怒りの箇所だったらしい。


その言葉に加勢するように、黙っていた父親が続いた。

「そうだ!何を言い出す!家で決めた結婚に反対することなど許さん!!おまえは、そもそも自分の意志をもてるような存在ではないことを忘れたのか?」


次の瞬間、父親の口は闇にふさがれた。

リアンが動いたからだ。

足元から溢れる闇を伸ばし、父親の口や手足を拘束した。

「余計な真似をしましたか?」


話しかけられたルカは首をふる。

「いいえ。ちょうど良かったわ。うるさかったし」

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