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エスコートの相手

ルカは家族の前まで歩みを進めた。


すると、父親が大きな声をあげる。

「なぜここに来た!」


それにルカは冷静に返した。

「なぜも何も。これは継承者を披露する場でしょう。私がいなければ話にならないはず。……それとも、お忙しいみなさんを集めて、何もしない予定だったのですか?」


本来、今日は継承者をお披露目することが一番の目的だったはず。

だが、マリーたち家族はこの場を自分たちの境遇を訴え、ルカをつるし上げる場に仕立てあげた。


だが、それを国内有数の貴族を集めてやっていることは問題だ。

守護者の継承のお披露目は、その重要性から国の行事に近いものだ。

だからこそ、この人数が集まったが、ただのお涙頂戴の舞台をするには来賓客に失礼ではないか?


ルカはそれを暗に示した。

父親は図星を指されたのか、何も言わなくなる。


そんなルカの態度が気にくわないのか、そばにいた母親が話の矛先を変えた。

「あなた、そのドレスはどうしたの。それにその髪飾り……我が家のものではないようね。まさか、どこかから盗んできたの?」


醜聞を広めたい意図が見える。


だが、その手には乗らない。

「私のドレスです。朝起きたら自分のドレスがすべて無くなっていたようで、急いで取り寄せました。この髪飾りはアミュール家にあった物です。盗んだなんて発想がなぜ出て来るのでしょう?」


母親が叫ぶ。

「あなたは髪飾り一つ持っていないはず!そのようなルビーが付いた物は我が家にはない!」


ルカが嘘をついていると言わんばかりの勢いだ。


家を守る女主人として、自分が把握していないものを持っていたことが気に障ったのだろう。

だが、髪飾り一つもっていないと言うのはまずいのではないか。


妾とはいえ貴族の娘に、何も与えていないと公言したも同じだった。


冷静な人であれば、状況がおかしいとわかってくるはずだ。

現に、会場の隅で隣同士こそこそと話している姿がちらほらと見える。


ルカは答えた。

「これは始祖から与えられたもの。アミュールの家に保管されていたものです」


保管、と言ったが正確には『隠していた』だ。


魔力は一日で使える量が限られているのだという。

体力と同じで、使ってもある程度の日数が立てば上限まで回復するのだという。


魔力は宝石に宿すことが出来た。

魔導の実験や、有事の際に魔力切れを起こさないようにと、リアンはいくつかの宝石に魔力を貯蔵していた。


リアン曰く、アミュール家の継承に使われる宝石がもっとも大きく魔力を込めたものということだった。

代が変わる内に継承式で使われる宝石の記録だけが残り、他の宝石は忘れ去られていた。


ルカを始め、家族すら知らなかった隠し場所。

リアンは執事やメイドたちの目を掻い潜ってルカを案内し、宝石を集めさせた。


そして部屋に戻ると、集めた宝石をルカのドレスへまとわせ、一番大きいルビーは髪飾りに変えた。


つまり、今ルカが身につけているものはアミュール家の隠し財産というわけだ。


ルカは続ける。

「お義母様がご存知なかったのは意外ですね?家の女主人であるのに」


取り仕切っている家の中に、価値のある宝石がいくつもあった。

財産を守る貴族の妻としての責務を果たせていないということだ。


母親は激高して何かを言おうとしたが、それまで黙っていたマリーが口を開く。

「……お姉さま。私たちは守護者の筆頭。貴族の礼儀を大切にしなければなりません。それはこの国の秩序を重んじることです。今日のお姉さまは、同伴も付けずに一人でやってきて、みなさまに挨拶もなさらない。それがアミュール家の継承者として正しい姿なのでしょうか」


今度は大義名分を盾に、ルカを糾弾してきた。


たしかに、ルカはこの会場に一人でやってきた。

本来、社交の場に女性が訪れる時は男性にエスコートされてくるものだ。


一回目の人生では、婚約者であるシリル・メリエスとともにこの場へ来た。


ルカはちらりとシリルを見る。

彼はマリーに寄り添っていた。まるでルカから守るナイトのように。


前の継承式では、マリーは従兄弟にエスコートされてきたが見たところ彼の姿はない。

この場で彼女をエスコートするような人物と言えばシリルくらいだった。

つまり、今回の人生ではシリルはマリーをエスコートしてきたのだろう。


姉の婚約者にエスコートをさせて、それを糾弾するのか。


だが、マリーは何の疑問も持たずルカの品位だけを問いただす。


その思考回路がいっそ不気味に思えた。


あきれたルカの様子を見て、勢いがそがれたと思ったのか、それまで黙って見ていたシリルが口を開いた。

「本来の継承者である妹から始祖の力を奪ったというのは本当なのか?……君がそんな人だとは思わなかった。たとえどんな生まれだろうと、ともにこの国を支ええていこうと心に言い聞かせていたのに」


言い聞かせるほどでないと結婚が出来ないのだという。


婚約者をエスコートしない男が、どの口で言うのか。


ルカは思わず天を仰いだ。


家族も、婚約者も

あまりにも醜悪だった。


もうまともにやり取りはしたくない。


ルカは極上の笑顔を浮かべて言った。

「みなさんの言い分はよくわかりました。私がいかにアミュール家の継承者としてふさわしくないか。けれど、そんなことは関係ない。だって、私はもう選ばれているのだから。あなたたち負け犬がどうこう言ったところで、その事実は覆らない」


その言葉に、家族は怒りに震え、周りは唖然とした。

だが、その空気を無視してルカは続ける。

「あぁ、一つ訂正を。私はちゃんとエスコートしてもらいましたよ?……来てください」


ルカの一言で、彼女の下から闇が吹き上がる。

それは固まりになり、中から人が現れる。


「彼女のエスコートの相手は私です」


リアンが現れた。

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