継承式の始まり
継承者のお披露目は、華美な装飾と豪華な参列者で彩られた。
だが、その華やかな見た目とは裏腹に、会場の空気はいびつなものが流れていた。
アミュール家の継承者はマリーにならなかったと、父親が宣言をしたからだ。
参列者がそろってすぐに、家族が登場し挨拶をした直後のことだった。
大きくざわついた会場だったが、前に立つマリーの涙に静まりかえる。
そこからは、マリーの独壇場だった。
マリーは涙ながらに話し始めた。
本来、自分が継承するべきものだったが、姉が奪ってしまったこと。
姉はそれから顔を合わせてくれず、我が物顔でアミュール家を取り仕切っていること。
妾の子として育った姉は、貴族としての常識に欠け、国の守護者としてのアミュール家の責務を果たせないかもしれないこと。
マリーの視点で悲劇的に語られたそれは、大きくゆがめられていた。
だが、それに異を唱える者はいない。
マリーは今まで貴族社会での交流を積極的にしていた。
顔を良く知った相手の話を疑う者はいなかった。
おまけに、天使のような容姿でハラハラと涙を流している。
今までの積み重ねと、外見の美しさに参列者は皆話を受け入れて、ともに涙を流した。
その場は、マリーが主役になっていた。
泣く彼女の元へ一人の男性が歩みよった。
王家の第二皇子シリル・メリエス。
彼はルカの婚約者として発表される人だった。
王位継承権が高い存在ではあるが、彼は王族関係者の間では評判が悪い。
思慮が浅く、遠い未来のことを考えられない人だった。
現に、まだルカの婚約者という立場で呼ばれているにも関わらず、マリーに寄り添っている。
婚約している男性が、未婚の女性と距離が近いことはタブーであるのに。
彼の行動は特に深い考えではなく、ただかわいらしいマリーが泣いているのを放っておけないという理由からだった。
アミュール家と王家の関係を強固にするための存在にすぎない男だった。
だが、彼もまたそれなりに映える外見をしている。
金髪にアイスブルーの瞳を持ち、整った顔立ち。
彼の悪い評判はあくまで王族内でのこと。ここに集まる参列者レベルでは、彼の人となりは深く知られていない。
輝かしい王家の第二皇子が、涙を流すアミュール家の本来の継承者に寄り添っている。
2人の美貌も相まって、それは悲劇のヒロインとヒーローのようだった。
この場にいないルカを悪役にして、継承式は一つの劇になっていた。
参列者もその状況に酔いしれて、口々にルカへの中傷をしている。
場の空気はすでに出来上がっていた。
もう誰にもそれを邪魔出来ない、そう思われた。
会場のドアが大きく開かれる。
現れたのは、渦中の人物であるルカだった。
会場からどよめきが上がる。
それは悪役の登場だけの意味ではない。彼女の外見を見てのものでもあった。
ルカの今までのドレスは野暮ったいものだった。
貴族はお抱えの洋服店があり、定期的に店を訪れる。
だが、国の守護者としてのアミュール家ともなると、国の中でも選りすぐりのデザイナーが家に訪れて、広間でその時期の最新のドレスを飾りたてる。
マリーや母親その中から自由に好きなだけ選ぶのだ。
だが、ルカは違った。
選ぶ機会は与えられず、メイドが適当に持ってきたものがドレッサーに入れられていた。
嫌がらせもあり、奇抜なデザインやルカの体型に合っていないものばかりが入れられ、珍しく貴族の集まりに出た時は、よく陰で笑われたものだった。
だが、今日の彼女は違う。
着ていた黒いドレスは不思議な色合いだった。
漆黒でありながら、照明の光に反応するように艶やかな表情を見せる。
ルカの体に沿うようなシンプルなドレスだが、スタイルの良さを引き立てるものだ。
ところどころに繊細な刺繍が施され、ポイントとして宝石が縫いつけられてある。
ドレスがシンプルな分、髪で華やかさを出していた。
髪は花をイメージさせるように、複雑にまとめられ、大きなルビーが施された髪飾りがつけられていた。
いつもはさげすみの象徴だった銀髪が、ドレスの色と美しく調和している。
華やかなドレスばかりの会場で、ルカは異色だった。
きらびやかな油絵の上に、真っ黒い墨が一滴垂らされる。
ルカは周りを気にせず、中央にいる家族へ目を向ける。
家族の反応は見物だった。
ここにルカが現れるとは思っていなかったのだろう。
ドレスもアクセサリーもないのに、なぜ、どこでと聞きたい顔をしている。
さぁ、主役の交代よ。




