姑息な嫌がらせ
儀式の次の日からすべてが変化した。
色んなことが一度に起こり、疲れ果てたルカは遅くに目が覚めた。
前回の人生では、体調が悪かったりして朝食の時間に間に合わなかった場合、家族はルカを待たずに食べ始めていた。
ルカには冷めた料理が出されるか、何も出てこないことすらあった。
とりあえず何かつまみに行くかと、自分でさっと身支度をして食事をとる部屋へ行く。
案の定、誰もいなかったが変化があった。
ルカの登場にあわせて、食事が用意されたのだ。
おまけに作りたての暖かさだった。
変わったのはそれだけではい。
メイドや執事の態度ががらりと変わった。
前まではルカを見るとあからさまに侮蔑の目を向けたり、聞こえるように陰口をたたいていた。
だが、それもなくなり今は困惑しながらもルカに頭を下げている。
どうやら、ルカが寝ている間に父親が何かを言ったらしい。
変化はもう一つあった。
家族の3人が、徹底的にルカを避けた。
食事をする場所を変えて、時間をずらし、ルカの前に姿を現さなかった。
嫌な家族と会わず、メイドや執事が正当に自分を扱う。
ルカにとってはそれは良い変化のはずだが、何ぜか嫌な予感がする。
いままで高圧的だった家族たちが、向こう側から避けるようなことをするのだろうか。
疑問に思いながらも、二日を過ごし、そして三日目に事件が起こった。
家の中が妙に静かだった。
いつもは身支度を手伝いにくるメイドが、時間になっても現れない。
ルカはいぶかしがりながらベット降りて、気が付いた。
ルカの前回の記憶が確かであれば、今日はアミュール家の継承者お披露目の日だった。
王家の施設を使って、他の守護者の家を始めとした国内の有力貴族がすべて集まる。
ルカは前回の時のことを思い出した。
華やかな装いのマリーが皆に祝福され、自分はまるでいないもののように扱われた。
継承のお披露目を、私抜きで進めるつもりだろうか。
そもそも、ルカに継承されたと発表すること自体考えられなかった。
プライドの高いアミュール家が、一族の力を妾の子に取られたと素直に言うだろうか。
嫌な予感がしたルカは、急いでクローゼットをあける。
だが、信じられないことにそこは空だった。
室内用も、外で着るための物も、何もドレスが入っていない。
なぜこんな、と呆然とするルカだったが、すぐに犯人に心当たりがついた。
おそらく、メイドが運んだのだろう。
昨日、ルカが食事を取る時に、いつもは後ろに控えている専属のメイドがいなかった。
その時に、ルカの部屋からドレスを運び出したのだ。
寝間着のままでパーティー会場に行くわけには行かない。
ルカは茫然とし、笑えてきてしまう。
「あまりにも幼稚なことをするのね……」
すると、床から闇が吹き上がり中からリアンが現れた。
「お困りのようですね」
「えぇ、見ての通り。姑息な嫌がらせを受けているみたい」
さてどうしようか。
このまま部屋で何もせずに待っているという選択肢もある。
だが、ここ2日の家族の様子とこのクローゼットのことを考えると、今日のお披露目の場では前回と違うことが起こっているだろう。
それもルカに都合の悪いことが。
今からドレスを買いに行くか。
または背格好が似ているマリーのドレスをメイドに持ってこさせるか。
嫌がらせに荷担していることを考えると、メイドが自分の指示に従うとは思えなかった。
ルカはどうしようかと考えていたが、ふと、リアンが甲冑から平服に替わったのを思い出した。
「リアンは服を闇の魔法から作り出せることが出来るのですか?」
「魔法、というほどちゃんとしたものではないですよ。闇の力を私のイメージに併せて具現化させ、身にまとわりつけただけです」
「……それ、私にも出来ませんか?」
リアンはキョトンとした後、考えるそぶりをする。
「出来ないことはないですが、華やかなものは難しいです。……それに、今の洋服の上から重ねることになるので、少し野暮ったくなるかも知れません」
ルカは自分の姿を見る。
寝間着はゆったりとしたデザインだ。リアンは気を使って『少し』と言ってくれたが、この上から新たに一枚洋服を身につけるとなると、目も当てられない姿になるだろう。
ルカは少し考え、唐突に脱ぎだした。
リアンは目を見開いて、視線をすぐにそらす。
ルカは下着姿になった後、リアンに言った。
「これなら大丈夫でしょう。華やかなものじゃなくていい。美しい黒でシンプルにいきましょう」
リアンは少し視線をはずしながらも、ルカに向かって指を鳴らす。
すると、ルカの足下から闇が吹き出して体を包み込んだ。
徐々に体に沿ってドレスが形作られていく中、ルカは笑みを浮かべた。
あいつらのお葬式の色にぴったりのドレスの色ね。




