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第4話-後編

 ウィリアムは特に名乗らず扉をノックすると、珍しく直ぐにどうでもよさそうな返事が返ってきた。


「はい、開いてます」



 素直にドアを開くと、鏡に向かってイヤリングを着けているクロエがいた。遠くからでもわかるほんのりピンクの頬。どうやら化粧を施してもらったらしい。

 イヤリングに気をとられて、こちらにあまり気がついていない。背後まで来て鏡越しに目があってようやく気が付いたようだ。


「だれ?」


 ゆっくりとクロエがこちらを振り返り、たっぷり三秒掛けた後、突然魔術を発動させた。


「!?」


 急に彼女の身体が消えたと思いきや、すぐにバルコニーのカーテンの方から声があがる。



「な、なんであんたがいるのよ!!」

「っはは!さすがだな。この状況で上級光系移動魔術なんて」

「う、うるさい!!黙って入ってこないでよ!国王でしょ?マナーはどこにいったのよ!?」

「お前が開いてますって言ったんだろ。どうだ?そのドレス。俺が選んだんだぞ」

「はっ………」


 まさかそんな、とクロエは自分の着ているドレスをバッと見下ろした。



「俺、正面から見てないんだけど」



 彼の楽しそうな声色に、からかわれてると気づいたクロエは、しぶしぶカーテンから出てきた。


 どうせ見られるんだ。

 こっちから見せてくれるわ!



「これでいい!?満足ですか?国王陛下!!」

「あ……うん」



 勢いに任せてぶつけた言葉に気圧されたのか、はたまた似合っていないのか、ウィリアムに微妙な顔をされた。

 彼は口元を手で隠すようにしてわずかに考えると



「ショール入ってただろ?」

「え?そうね、あったわよ」

「絶対着ろよ」

「へ…?」

「絶対、着ろ」

「はい」


 その剣幕に今度はこちらが気圧される。

 少し怖かった。さすが腹黒くても国王。



「な、なんで急に?城の衣裳室から借りようと思ってたのに」



 妙な空気に居心地の悪さを感じて、クロエは話題を変えた。



「あー18になったし。お祝いに」

「へ、へぇ……ありがと」



 意外にもまともな理由に少し拍子抜けた。こんなにすんなりいくやり取りではないはずなのだ。



「なんだよその反応」

「ウィリアムのことだから、絶対裏がありそうで」

「そんなわけないだろう。今回は特に無い」

「今回()ぁ?」

「もういいだろ。似合ってるんだしさすが俺」



 ウィリアムはフッと満足そうな笑みを浮かべると、ベッドの脇に置いてあった、ドレスと同色の靴を持ち上げた。そのまま自分を見上げてくるクロエの肩を軽く押すと、ポスンとベッドに座らせる。



「どうしたの?」


 足元で膝跪く彼に声をかけると、足首を優しく掴まれた。


「仕上げだよ。いつまでもルームシューズ履いてんな」



 ゆっくりと壊れ物を扱うようにウィリアムの手によって持ち上げられた。

 自分の足はこんなに小さかっただろうか。否、彼の手が大きいのだ。

 そんなことを考えていたら、片方の手にある靴にぴったりと収まっていく。その仕草は自分が女扱いされていることが示されているようで、こそばゆい。



「ありがとう。でも国王にこんなことさせてたら、あたしが怒られちゃうわね」


 困ったようにそう言ったら、彼は無言で立ち上がってドアに向かった。


「ショール。絶対、忘れるなよ」

「はいはい」


 去り際に念を押されて、レイラは苦笑しながら返事をした。


「…ナディアさん来るまで、歩く練習しておこう……」


 * * * 


 ウィリアムは足早にクロエの部屋を出て自室に向かうと、その付近でメイドに声をかけられた。


「陛下、お夕食なんですが……って!ご気分が優れないのですか?お顔が真っ赤ですよ!?」


 慌てて駆け寄ってきたのは、片手で顔を覆っていたからだろう。



「大丈夫、なんでもない。夕食は部屋に持ってきてくれないか?」

「はい、かしこまりました」


 ドアを閉めると、そのままベッドに直行して正面から倒れ込んだ。



「っあーー!……やってくれたな、ナディア……」


『貸し1つでいいですよ』



 彼女がそう言った意味をウィリアムは痛感していた。

 カーテンから出てきたクロエを見た瞬間、思わず息を呑んだ。


 チークで色づいた頬をさらに紅くして。

 まつ毛も髪同様緩くカールされてるし、形のいい唇もグロス効果でキラキラしていて。


 見惚れてたなんて言えなかった。なんせ次に襲ってきたのは自分への反省。ドレスのサイズを誤ったかもしれない。

 いや、申し分なくぴったりなんだろうが、その…あれだ。



(あいつ着痩せし過ぎだろ…)



 形がはっきりするタイプを選んだつもりではなかったが、予想を越えて結果はそうなった。


(靴履かせたのはやり過ぎだったか?)


 むしろよくそれだけに留まった自分を称えたい。

 なにしろ彼女の足を掴んだ時、その小ささに驚いた。


(抱き締めたら俺が死ぬからな)


 彼女の電撃を思い出して寒気を感じていると、夕食を運んできたメイドが首を傾げていた。

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