第5話-前編
◆第五話◆
気づかないふりをした
抑え込もうとした
けれど
一度気持ちに気づいてしまったら
それは行き場を失いそうで
少し動かせば簡単に壊れそうで
逃げたくなる
シバルモノハ、ナニ?
「報告は以上です」
「わかった」
ナディアは目の前の国王に頭を下げる。宮廷魔術師としての仕事を終え、そのまま自室に帰ろうとドアに向かうと、ウィリアムに名前を呼ばれ引き留められた。
「どうしたんですか?」
「いや…その……」
どうやら無意識だったようで言い淀まれた。
若干二十歳にして、王として確かな手腕を持ち、賢王とまで謳われるこの男が、こんな反応をするなんてナディアは1つしか思い浮かばない。
「大丈夫でしたよ。パーティー」
それだけ言うと彼はホッとしたように肩をおろした。
「ご存知でしょうけど、ああいうパーティーでは研究者は挨拶で手一杯なんですよ?」
クスクスと笑うとウィリアムはふてくされたように顔を背けた。
「でも…」
「なんだ?」
「『無自覚』は怖いですよね~マダムキラーならぬ、お坊っちゃまキラーかしら」
「っ……楽しんでるだろ」
ジトリという視線は無視をして、「はい♪」と満面の笑みを返す。
「大丈夫ですよ。まず高嶺の花すぎるのと、あの娘が放つ『話し掛けないで』オーラが、ね。ウフフ」
「あー、想像できる」
ウィリアムは腕を組んで上を向いた。
「そんなに心配なら、ご自分で言ったらどうです?」
「……それ、宮廷魔術師が言ってもいいのか?」
「あら♪知らないんですか?この国の風物詩を」
「?」
「人間の寿命は長くても100年。裏を返せば、政治に関わる者は約50年で変わります」
スッとナディアの顔から表情が消え、その言い方にウィリアムは少し寒気がした。
これが自分とは違う、時の流れに生きる者。
「あなたの曾お祖父様が、血筋ではなく、能力で貴族を選んだ。より優れた人に<貴族の義務>を果たして欲しかったから。だから今のこの国の貴族は、積極的に養子を受け入れるのです。その制度に変わってからたった150年で、この国は変わった。人間の手によって」
胸の前で手を組んで、懐かしむように目を伏せてとても優しい声色で続けた。
「だから貴族の考えも、他国とはかけ離れてるんですよ♪ここまで王族の婚姻が緩い国に、…なるなんて…っ……ププ」
しかし彼女の肩が細かく震え出し、口元を手で覆った。
「笑うな!真面目なことだと思って聴いてたら、結局……」
「宮廷魔術師はただのアドバイザーです。事務的仕事もしますし、研究もします。でも、政治に口は出しません。だから、コレも1つのアドバイスとして捉えて下さい」
「…?」
「短い人生の中で芽生えた感情は大切にして下さい。そして、何もしないまま諦めないでください」
ニコリと柔らかく笑って言ったその一言に、ウィリアムは耳を疑った。
自分は国王だ。
それが何に関することであれ、自分勝手な判断など下せない。何よりも国民のことを考える__それが国王。
「私が言えるのはここまでです。では失礼致します」
ドアが閉まる音がやけに大きく聞こえてウィリアムは我に返った。そして、肝心の部分を言っていかなかったことに気がづいた。
「『風物詩』って…なんだよ」
続きは午後に公開します




