第4話-中編
そんなやり取りをしたのが一週間前。
パーティーの当日、そろそろ準備のために衣裳室へ向かおうとしたクロエのもとに、大きくて平たい箱が届いた。一目で高価なものだと見て取れる。
何度メイドに尋ねても自分宛だったので恐る恐る開けると、中には夜空を彷彿とさせるようなインディゴブルーのドレスと薄手のショールが入っていた。
「なに……これ?」
両手で持ち上げてまじまじと眺めていたら、部屋にまたノックが響く。
「クロエちゃん。ちょっといい?…ってあら♪」
入ってきたナディアが、ドレスを見て微笑んだ。
「届いたのね~」
「ナディアさんが?」
「いいえ、私はコッチ」
はい、と渡された小箱の中には、金色の装飾が施されたネックレスが入っている。
「綺麗…」
「よかったら、着けて行って。そのドレスに合うと思うから」
「ありがとうございます。でも…これ……」
「まだわからないの?陛下からプレゼントよ」
「へいか!?」
当たり前のように言われてクロエは思考が追い付かなかった。
「今、会議だけど…もうすぐで終わると思うから、行く前に着てるところを見ていただいたら?」
ふんわりとした雰囲気の中にも不敵な笑みを浮かべたナディアに、クロエは顔を赤くした。
送り主に見せる?恥ずかしすぎる!
「い、いやですよ、もう!着替えて来ます!!」
バサリとドレスを抱いてクロエは浴室に向かった。
シャワーを浴びて髪を乾かしてから、もう一度まじまじとドレスを見た。
「ウィルが選んだ……とかじゃないわよね。多分調達してくれたのよ、うん」
確かに自分の今の立場を考えると一着くらいきちんとしたものを持っていた方が都合がいい。
普通に渡しても受け取らないと踏んだのか、このタイミングで届けるなんてつくづく要領のいいやつだ、と一人で納得してから足を通す。
長さは膝丈くらいで、カクテルドレスというやつだろう。袖は無くチューブトップ型で、胸から伸びたリボンを首の後ろで縛り、背中の(というよりはほぼ肩甲骨の下に近いが)ホックも止める。
鏡を見ると、自分の金髪とよくマッチしていた。なんとなく髪を巻いてみて、左肩へと流してから、もらったネックレスを着けた。
「よし…」
「クロエちゃん終ったぁ?」
ふぅ、と一息ついたところで、ドアの向こうから暢気な声が聞こえた。
「な、ナディアさん!?まだ居たんですか?」
結構時間をかけたつもりだったのに。
どうしてまだいるんだろう…。
「いるわよ。先にメイクしてたのよ~♪」
浴室から戻ると、ドレッサーの前で道具を広げているナディアがいた。おいでおいでと手招きされるまま鏡の前に座らされた。
「少しやってあげるわね」
「え!」
止めてください、と言いかけたが、よくよく考えてみれば化粧なんてしたことがなかった。
興味が無かったというのと、そんな暇が無かったから。少し緊張しながら、クロエは素直に
「お、お願いします…」
と言ってみた。
* * *
「はい、できた☆」
そう言ってクロエの肩を叩くと、緊張が少しとれたように力が抜けた。
「じゃあ、私も着替えてくるわ。後で迎えに来るわね~」
ふわぁと舞うようにナディアは部屋を出ると、そのままドアを背に、にんまりと声に出さずに笑った。
(上出来ね。惚れ惚れしちゃったわ)
普段から相手の目を奪う容姿を持った少女だが、彼女は自分の魅力にまるで気がついていない。
双子として生まれ、ほぼ同じ顔持ったあの姉妹は、それぞれに魅力があった。
幼い頃から知る彼女たちの成長を見るのが楽しみだったが、残念ながら片方はもう見れない。少女が女性へと成長していく今、あのあどけない顔はいつまで見られるのだろうか。
小さく一息ついてナディアが自室に戻ろうとした時、ウィリアムが目に入った。
「あら陛下。今日の公務は終わりました?」
「あぁ今終ったよ。そこクロエの部屋だよな?ど
たんだ?」
「陛下へのプレゼントにラッピングを施してたんですよ〜♪貸し1つでいいですよ」
と意味深な言葉を残し、ナディアは白衣を翻して去って行った。
ウィリアムは彼女の残した言葉をもう一度考えてから、ある答えが浮かんだ。思わず口元が緩みそうになるのを必死で堪えて、目の前のドアをノックした。
後編はこの後 5/4 12時に公開します。




