5話 手紙を何度でも
手紙を何度でも
オレは、四代目の春男の編集員だ。当然、オレの前には三人の編集者がいたことになる。
その三代目の編集員はとても几帳面だった。春男も色々質問すると、調べてくれて、便利だったというくらいだから、頼りにもなったのだろう。だが、あまりに几帳面すぎたのか、体のほうがダウンしてしまい、そのままオレに担当が変わった。
その際に、彼から手紙が送られてきた。春男のマニュアルとでもいうのだろうか。注意書きがたくさん書かれていた。最初は、こんなものと思ったが、実際にあってよかったと思うことが多々あった。
そして、今でも几帳面な彼からは毎年、年賀状がやってくる。もう担当をやめてから三年以上経っているにもかかわらず、だ。それは、手書きで、なかなか文字が美しい。そのせいか、その文字には見覚えがあった。後ろを見てみると、確かに、彼の名前があった。しかし、今は年賀の季節でもないのに、どうしたことだろうか。
よくみてみると、それは引っ越しの案内だった。
春男の家にもそれは来ていた。
「ああ、きているよ。もう、パソコンの中の住所一覧も変えたよ。」
春男はハガキ入れのケースから出してきた。
「あいかわらず、几帳面な人だなぁ。あの人が担当した人、全員に送っているのかな?」
「返事を送ると、来るんだよ。前に言っていた。返事が来ると、また書かなきゃいけないって強迫観念に襲われるんだって。それもできるだけ早くに送らなきゃって思うみたいだよ。結構、損な性格だよね。」
たしかに、体を壊すのも無理はないかもしれない。
「それに、聞かれると、答えなきゃいけないって気持ちにもなるんだって。」
質問だらけの春男の担当はかなり大変だったのではないだろうか。
「体を壊している時に、見舞いを送ったら、見舞いの御礼が来た。でもねぇ、一番大変だったのは、僕のおすそ分けだったみたい。」
まさか?
「まさか、もらった分だけ持ってくるのか?」
「あたり。」
「だって、お前のおすそ分けって、オレなんか来るたびにもらっているぞ?」
「彼の時もそうだった。まぁ、彼の場合、きっちり二週間ごとに一回だったけど。次の時に来るたびに何か持ってきていた。ありゃ、給料つぎ込んでいたんじゃないかなぁ。」
「だったら、わけなきゃいいじゃないか。」
「そう、思ったのは、彼がもうこの仕事をやめてからなんだ。そのころは、全然そんなこと思わなかったんだよ。」
想像するだけで、なんだか、泣けそうだ。
「ところでね、引っ越しのハガキって、なにか祝い、送ったほうがいいのかな?たしか、引っ越し祝いっていうよね?」
「やめておけ。あ、わかった、せめて、手紙だけにしておけ。そうしたら、戻ってくるもの、手紙だろう。」「そうか、じゃ、そうしようかなぁ。」
春男はなにやら考え出した。
それから、しばらくして、春男が文通をしていることを知った。
「僕はパソコンで打って、印刷しているけどね。書くなんて、面倒で。」
もちろん、相手は三代目の編集員だ。
「なんで、文通なんだ?」
「引っ越し祝い代わりに、手紙を送ったら返事が来たんだ。つい、返事をしたら、また送られてきてねぇ。」
オレは後悔した。こんなことなら一回ですむ、引っ越し祝いのほうがよかったのではないだろうか。手紙で聞いてみようかどうしようか迷ったが、春男だけできっと手がいっぱいだろう。心の中で手を合わせるだけにしておいた。あやまるのは、年賀で謝ろうと思った。




