46話 編集長代理
編集長代理
いつも通っているせいか、あまりに気にしなかったが、部屋に入るとすぐにその違いに気がつくということは、それだけその存在が大きかったということなのかもしれない。オレの隣の同僚の女の子が編集長の机を綺麗にしていた。机の面がこれだけ大きく見えたことなどあっただろうか。
「おはよう。どうしたのさ?急に綺麗になんかしちゃって。」
「それが、今日から編集長の代理がくるんです。」
「代理?本人は?」
「家で、大きな荷物を持ち上げて、腰を痛めたそうで。よっぽど、ひどかったのか、一ヶ月、休まれるそうです。」
「一ヶ月?」
オレは目を丸くした。普段から連休などないと言い切っている編集長が休む?
「そんなに悪いの?」
なんだか、逆に心配になってきた。
「いえ、ついでに、全身の健康検査をしたら、胃を痛めていたそうで、それで、休養です。」
「ああ、なるほど。」
ちょっとほっとした。いくら毎日のように怒鳴られているとはいえ、姿が見えないというもの、なんだか落ち着かない。
「代理ってどんな人?」
「さぁ?詳しいことはあまり聞いていないんですけど。」
そして、新しい編集長がやってくると、他の社員も同様に前の編集長への心配など、消え去った。
「代理をさせていただきます、坂口 紀美子です。」
なかなか美しい。そう素直に思えたのはその一日だけだった。
作家が逃げれば。
「捕まえなさい!情報の収集はしておきなさいよ!」
作家の作品が出来上がらなければ。
「缶詰にでもして、縛り上げておきないさいよ!逃げ出したら、あなたに書いてもらうわよ!」
電話でも。
「それくらいの取材ができないなんて、この仕事やめれば!」
まぁー、編集長に負けないくらいによく怒鳴った。
「すごいですねぇ。」
最初はみんなが噂をするので、むすっとしていた同僚の女の子もさすがに、目を丸くしていた。
「だね。」
そこに声が飛んできた。
「佐々木って誰?」
「あ、はい。」
オレは慌てて、編集長の前まで飛んでいった。
「これなんだけど。」
坂口編集長が見せてきたのは、売上一覧表だ。下のほうを指差した。
「ここよ。この春男って作家。作品、あなたが取りに行っているの?なんで?」
「あの。家が近いので。」
「だから?そんなもの、送ってもらいなさいよ、ファックスでもなんでもあるでしょ!」
「いえ、あの、ファックスだと、送る前に勝手に自信を無くして、書くのをやめちゃうんです。」
「はぁ?そんな作家クビにすれば?そんなに売れているわけでもないようだし。」
「え?」
「今度の作品、取りに行かなくていいわ。送らせなさいよ。送ってこなかったら、そのままクビね。話は以上よ。」
そのまま編集長はどこかへ行って行ってしまった。なんだか、大変なことになってきた。




