44話 化粧品
化粧品
「あら、佐々木さん、手、ガサガサ。」
急に隣にいた同僚の女の子が言い出した。自分に手を見ていると、確かにそうだが。
「冬だしね。」
オレがそういうと、女の子は引出しから、クリームを出してきた。
「冬だからって油断していると、手だって歳をとるんですよ。手、出して。」
オレはためらったが、にらんでいる眼差しに勝てるわけがない。しぶしぶ、オレは手を出して、塗りこんだ。
「男性だって、みかけって大事なんですからね!」
オレは少し、つややかになった手を見ながら言った。
「そんなものかねぇ。」
その日の夕方、春男の家に行くと、なにやら、テーブルの上に置いてある。オレはコートやら、マフラーやらを外しながら聞いてみた。
「化粧品?」
まさか、これも資料だなんていわないだろうなぁと思っていると、春男は近づいてきた。
「たしか、これが、手で、これが唇。これがパックで、これが……なんていったかな?」
「靴下?」
「かかと用だって。保湿をするそうだよ。手袋は手用。寝るときにはめて寝るんだとさ。」
「どうしたんだ、これ。」
春男は自分の椅子に戻った。
「友人の女の子がね、いま、化粧品関係の会社に勤めているんだけど、「今の時代、男の人も外見を磨くべきなのよ!」って言って、くれた。これ、全部、男女兼用だって。」
「こんなにあるのか?」
「ねぇ。僕もびっくりしたよ。爪やすりまでくれた。けどねぇ、手を綺麗にしたところで、誰か見てくれるわけじゃないしなぁ。」
確かに、春男の場合はそうだろう。
「せっかく、くれたんだから、顔だけでもやったらどうだ?」
「もうやったんだ。」
春男の顔をしげしげと見つめたが、はっきりいってわからない。
「そんなにすぐに効果が出るわけじゃないんだな。」
「みたい。それに、料理する時に、クリームも落ちる。女性はえらいよ。」
しみじみと春男は言った。
「でも、手は綺麗になった。ほら。」
たしかに、爪がつややかになっている。
「へぇ。」
「でも、一人でやっているときほど、寂しい光景はないね。」
オレは想像してみた。男が一人、部屋で爪を磨いている光景を。
噴出した。
「なんだい、急に。」
「いや、確かに、寂しい光景だなぁとおもって。」
「君も持っていくかい?」
「いらん。もらってもやらないしね。妹さんにでもあげたらどうだ。」
「あ、いいねぇ。明日にでも、父さんがくるからそのときにでも渡しておく。」
話は決まったようだ。
数日後。オレは愕然とした。春男の父親に偶然会ったのだ。その顔はあまりにも、つややかになっていた……。




