43話 優しくない部屋
やさしくない部屋
すっかり外は寒い。吐く息さえも白い。そんななか、オレは春男の作る夕食に預かろうと、家へと向かった。これのおかげで、栄養も偏らずにいられる。ところが、玄関を開けると、なにやら、うめき声がする。
「春男?」
声をかけると、
「なぁーにぃー。」
と返事がしたのでほっとしたが、やけに鼻づまりの声だ。どうやら、春男はテレビを見ていたようで、目を真っ赤にして泣きはらしていたようだ。
「あー、よかったぁー。」
なにやら感動したようだ。コートを脱ぎながらオレは聞いてみた。
「なに、見てたんだ?」
「犬のドキュメンタリー。ああ、泣けたー。こんな泣けるような作品を書きたいものだね。」
「今はダメだ!」
慌ててオレは止めた。
「なんで?」
「作品の途中だろうが!設定を変えるな!話のすじも変えるな。変えると違う話になる。次回の時にしろ。」春男の場合、本当に途中でがらりと話が変わってしまうことがある。
「そうかぁ。しょうがないね。」
そう春男は言ったが、気をつけて見ておかないと、無意識のうちに影響されて、それが作品に出てしまう。
「ああ、僕も犬を飼いたくなったよ。」
なにやら夢のような口調で春男は言った。
「無理。」
オレはソファにどさっと身を沈めて即答した。
「なんで?」
「散歩が面倒だって言い始めるから。猫とかもダメだ。どれが自分の猫か忘れるだろうから。水槽系もダメだ。水をこぼして、機械にかかってみろ、全部ぱぁだ。」
オレは両手を広げて見せた。さすがに春男もちょっと目を丸くした。
「そこまで言うか?」
「オレだから言うんだ。植物でも難しいのに、お前に動物なんか飼えるか!」
「植物?」
オレはため息をついた。すっかり忘れているらしい。
「お前、サボテン駄目にしただろうが。あんなに手間隙かからない植物を!」
「あ。」
そう。春男の部屋は夏、クーラーのせいで寒い。冬は暖房で暑い。今もオレは着ていたセーターを脱いだ。暑いのだ。この部屋は、植物にも人間にも優しくない生活環境なのだ。
「ダメかぁ……。」
春男は少々がっかりしたようだった。しかし、無責任で生き物を飼うよりマシだ。
「それに、ここペット、ダメじゃなかったか?」
「どうだろう……。誰も飼ってないみたいだけど。」
「まぁ、とりあえず、サボテンで挑戦してから、考えるんだな。」
「わかったよ。今日はボルシチだけど。食べる?」
「食う。」
そして数日後。春男の家にはサボテンが置かれた。さて、いつまでもつことやら。よっぽど、外に置きっぱなしにしておいたほうが、長持ちするんじゃないかなぁとオレはかなり真剣に思っている。
「いつかは動物に挑戦する。」
春男は断言していたが、きっと一週間後にはきれいさっぱり忘れていることだろう。




