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42話 賞の候補

 賞の候補


別に眠かったわけではないが、目が冷めるような話から朝が始まった。

「え!?春男のがですか?」

「そうだ。あんな地球を売っぱらう話のどこが、環境問題を考える一作になっているのやら……。審査委員の顔が見たいわ!」

春男のことを決して快く思っていない編集長は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。春男の作品が賞の候補に上がったのだ……。

「すごいわねぇ。」

オレの隣の同僚の女の子は驚いたように、笑顔で言ったが……。

普通なら喜ぶべきことであるが……、春男の場合はそうはいかないのが現状だ。

それに本人に言っても、

「へぇ。」

だけで終わるだろう。

いや、最初のデビューの時にもらった賞の時は、あとから聞いた話だが、

「へぇ、そうなんですか。」

だけで終わったそうだ。普通なら大騒ぎとか興奮するとか、あっただろうに。その頃はまだオレは、春男の担当ではなかった。

ところで、春男は賞をもらったにもかかわらず、作品はそんなに売れなかった。大きなニュースと災害と、清純派のヌードの発売と重なり、新聞でもテレビでもそんなに取り上げられなかったのだ。オレでさえ、記憶になかった。担当になってから読んだ。

今まで賞をもらってきた人たちの中で、一番売れ方が少ない本になった。だが、賞金だけは受け取り、それで、いま住んでいるところの家賃をまとめて払ったと、いつだったか本人が言っていた。

さて、今、賞をもらって、報道されたらどうだろう。まず、忙しくなる。そこで、趣味の展示会にはいけなくなる。金が余る。次に、本が売れる。金が入る。

春男の問題はここだ。ただでさえ、出かけるのが面倒なのに、趣味だからこそ、出かけている展示会に行けなくなったら、ただのひきこもり作家だ。

次に、金が入るとどうなるか。買い物に行かなくなる。ネットで買うだろう。それをしないのは、今はそんなに金がなく、割引の安い時間のスーパーに行っているからだった。また外に出なくなる。そうすると、絶対に太る!遺伝的に太らない人もいるが、オレと出会ってから春男は確実に丸くなりつづけている。

まずい……。売れて欲しいし、有名にもなってほしいが、健康のほうが大事というものだ。

「あのね、まだ候補でしょ。もらってから考えたら?」

オレの考えにあきれたように春男はあっさりと言った。どうやら本人よりも盛り上がっていたようだ。

「だけど、こう、ワクワクとかしない?」

「だって、もらえなかったら、そのぶんガックリくるじゃないか。」

「まぁ、それはそうだけど。」

「それに、貰ってもなぁ。」

「なんだ。」

「金が手に入っても、ここの家賃の前払いにしちゃうし。あんまり生活に変化なんてないんじゃないかな。いま、そんなに本なんか読まれないだろうし。売れないんじゃない?いまだに、隣の新しい人なんか、僕が何している人なのか知らないんじゃないかなぁ?きっとそんなものだよ。」

前回の経験のせいか、春男はあっさりと言い切った。どうして、こうも冷静なのか、ときどき、頭を開けてみたくなるのは、今も昔も同じだと思った。

 後日。編集長は踊って喜んだ。賞が他の人に贈られたからだった。

「ほらね。」

期待もしていなかったせいか、春男は別にがっかりしなかったようだ。オレは半分がっかりして、半分ほっとした。さて、今日はどこへこいつを連れ出そうか……。


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