39話 春男の手のひらの中(後編)
春男の手のひらの中(後編)
「だけどさ、いつのまにか仲良くなってるんだよねぇ。お腹になにも黒いものがないってわかるからだろうな。気がつかないところで、気配りもしているし。そういうことに気がつくと、もう遅い。面白くって手放せなくなるんだよ。」
「手放せない……。」
「そう。小さい子供のぬいぐるみみたいなものだよな。あんたもあいつに、はまっているだろう。」
「いや、別に……。」
反論しようとした時である。なにやら、ドアが開いた。
「ただいま、洋介、来ている?」
「来ているぞ。」
と、自分で答えた。
「いやぁ、ごめん。君が帰ってくる前にもどってこられると思ったんだけど。あ、はい、これ。」
春男は花束を先輩に差し出した。
「花?」
「うん。結婚といえば、ブーケだろう?」
「まて。それは間違っている。ブーケは新婦だけが持つものだ。」
「そうなの?」
それを聞いてか、先輩は震えて笑い出した。
「あっはははは。なにを、買いに行ったのかと思ったら。あっはははは。」
「あ、あれ?そうだっけ?」
「あっははははは。」
「そ、そんなに笑わなくたっていいじゃないですか。」
「いやー、面白かった。せっかくだし、もらっていくよ。あー。おかしい。オレの用事は済んだし。あー、楽しかった。あー。じゃ、今度は式でな。」
「わかりましたよ。」
「じゃあな。くくくく。」
先輩の笑いはまだ完全に止まっていないようだった。笑い上戸だったようだ。ドアが閉まってから、オレは諭すように言った。ついでに、ソファに座りなおした。
「お前、普通に考えても、わかるだろう?花はおかしいって。」
「たしかに、テレビで見ると投げるのは新婦さんだけど。」
「今まで結婚式、行ったことなかったのか?」
「ないねぇ。」
オレはため息をついた。こんなことで作家として大丈夫なのだろうか……。
「そういや、高校の先輩なんだってな。」
「うん。僕らが入ったときには、いなかったけど。」
「……ん?どういう意味だ?」
「三つ上なんだ。先輩が卒業してから僕らが入った。」
「じゃ、なんで知り合いなんだ?」
「それがねぇ、思い出せないんだよねぇ。誰かの紹介だったような気がするんだけどなぁ。」
「なに、している人なんだ?」
「……なんだっけ?」
オレは深くため息をついた。
「それで、式はいつなんだ?締め切りは変更しなくていいのか?」
「あ、変更してくれ。えっとねぇ……。」
春男はもらった招待状を見ながら言った。
聞きながらオレは思った。こいつは、いつでもオレたちの手を離せるのではないかと。手放せないのはどっちだろう。




