32話 結婚の理由
結婚の理由
「あー暑いねぇ。」
「それだけ着込んでりゃ、暑いはずだ。」
春男は何枚着込んでいるのか、やけに丸い。どうみても、まだ冬前だというのに、こんなことで平気なのだろうか。
「そういえば、この間の日曜に、ひさしぶりに父さんがきてねぇ。」
「来て?」
「絶叫してた。」
そら、そうだろう。それほど、春男の髪はひどかったのだ。
「で?なんか言っていたか?」
「ううん。でも直せるところは直していった。」
くるりと春男は回って見せたが、どこが変わったのかわからなかった。文句をいわれなかっただけでもよかったことにしたいものだ。
ところで。今日はなぜ外に出かけているのかというと。春男が買い物に行きたいと言い出したのだ。しかし、春男は方向音痴のせいか、一人で行く自信がなかったようだ。
「それで、何をしに行くんだ?」
「父さんから、自分の誕生日プレゼントの催促がきた。」
なるほど、それで、忙しい中をわざわざ春男に家に来たのかと、妙に納得した。
「今年はなんだ?」
「登山リュックだって。」
「登山?」
これまた初めて聞いた。新しい趣味の開拓でも始めたのだろうか。どうも普段の姿から考えると、あまりアウトサイド系には見えない。なんだか気になった。
「なんで、登山なんだ?」
「きのこ、取りに行くんだって。ツアーに参加するんだってさ。」
やっぱり料理に関係していたようだ。オレは感心した。これだけの情熱があるのあら、料理人でもなったほうがよかったのではないだろうか。そう言うと、春男はある話をした。
「最初はね、そうするつもりだったらしいよ。でもばあさんが男性たる者、大学に行くべきだって反対したそうだ。」
「お前の家、基本的にカカア天下だもんな。」
「で、じゃあ、せめて食品関係の仕事に就こうとしたわけ。」
「なるほど。」
「とくに興味がなかったらしくって出世もせずに、仕事の後には料理や菓子つくりを習っていたらしい。そこで、母さんに出会った。」
「そのころには、もう教えていたわけか。」
「そう。母さんに一目ぼれをした父さんは見とれて、指をちょっと切ったらしい。それを心配して、話をするようになったそうだ。」
「いい話だ。」
「で、その料理教室は、上級者向けなのに、カルチャーセンターのミスだって言って、初心者のふりをして、今に至る。まぁ、これだけ長い間気がつかないのは、母さんが外で忙しく働いているからだろうけど。お、ついたねぇ。」
「ああ、登山リュックは二階だな。」
オレたちは、店の中へと入っていった。
「きのこがたくさん取れたら、持って帰れるらしいけど、いる?」
「別に嫌いじゃないが、もらっても料理できないから、いらん。」
そう考えると、やっぱり少しは料理ができたほうがいいかもしれないと、ちょっと思った。




