3話 名前の由来
名前の由来
名は体を表すという。本当かどうかは定かではない。
ところで、春男の母親は、真希、という。料理関係の本を出す時はカタカナにして表示している。なので、オレはどんな漢字なのか、最近になって知った。
実名だと考えると、母親世代にしては、なんてハイカラな名前だろうと、オレはひそかに感心していたのだが、このあいだ、ちょっとショックなことを知った。
どうやら、その名前は、母親の母、つまり、春男のおばあさんがつけたらしいが、その当時、まだ田舎にすんでいた彼女の家には、かまどがあった。
そして、子供が将来、薪に困ることがないようにという意味をこめて、その名前にしたようだ。そのままつけるのはどうかと、おじいさんが反対して、この字が使われたのだと、春男は聞いたそうだ。
今ではすっかり電気の世の中になってしまった。まぁ、たしかに、彼女は食事に困るような生活はしていない。その点では良かったのかもしれない。
そんな名前のつけかたのセンスは、春男の母親にも引き継がれたようで、春男の名前も、秋生まれだから、アキとつけたようだ。
「秋生まれだから、秋ね。」
「単純すぎるだろう!それに女性らしい名前だ。男だぞ?」
「あら、ダメ?」
春男の父親は、さすがに完全に反対はできなかったようだが、せめて漢字くらい変えて欲しいといったそうだ。漢字も秋の字をそのままつけようとしていたそうだ。それが、亜樹斗になっているということは、父親の交渉の努力が入っているのだろう。
そんな事実を、小学校時代の宿題で名前の由来を調べて知った春男は、すっかり自分の名前が嫌いになったようだ。
「まさか、そんな理由だなんて思わないだろう?もうちょっとさ、長男なんだから、名前に凝ってくれてもいいとか思わないか?」
しかし、オレも長男だが、自分の名前もそんなに凝ったものだとはいえない。それに、名前を調べるという、宿題があったかどうかさえも思い出せない。
そういわれてみると、オレも自分の名前の由来はよくわからない。まぁ、すっかりこれに慣れて改めて気にもしていないといえるかもしれない。
「まぁ……な。だけど、春子だって、夏子だっているじゃないか。お前だけじゃないぞ。」
「みんな女の子の名前じゃないか。」
「秋なら男でもいるだろ。冬だっているだろ。」
知り合いに誰かいなかったか、考えてみたが、急に言われるとあまり思いつかなかった。理由はともかく、あまり自分の名前を気に入っていないようだ。
「妹の翔子は父さんがつけたんだ。」
「なるほど。」
これで、名前が大きく違う理由はわかった。
しかし、この春男というペンネーム。これは春男が自分で付けた名前だ。秋に対抗して、春にしたという、よくわからない理由だ。しかし、どう考えても、この名前をつけるセンスは母親譲りだというのは言わないでおこう。
オレにまで言われたら、今度はペンネームさえも変更すると言い出しかねない。やっと、この名前で少し広まってきたというのに、いまさら変更されたあとのことを考えると、あたまがいたくなる。余計な種はまかないに限るとオレは思った。
ついでに。
「お前が結婚して、子供が生まれたら、絶対にオレにも名前の候補を上げさせてくれ。」
「いいけど?」
それだけは言っておいた。




