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26話 誕生日

誕生日


 歩いているとそうでもないが、夕方がどんどん暗くなる今日この頃。

ん?春男の家の階段を上っている最中に、なにやらすれ違った男性がいた。暗くてはっきりとは顔が見えなかったが、あれは……。今日も鍵のかかっていない、ドアを開けて声をかけた。

「春男ー。入るぞー。」

「おう。」

 しかし。部屋があまりに綺麗になっているわけでも、春男の切った髪がそろえられているわけでもなかった。なにか大きな荷物が来た様子もない。キョロキョロと部屋の中を見渡すオレに、なにか思ったのか、春男が聞いた。

「なんだ?」

 オレはソファに座りこんだ。

「なんだか、さっき、お前の親父さんに似た人を見かけたんだが。気のせいだったのかなとおもって。」

 後ろを向いたままの春男が言った。

「ああ、本人だよ。さっきまで来ていたから。」

「そのわりには、別になにも変わってないな。」

 春男の父親が来た後は、来たのがわかるくらいに部屋が綺麗になっているとか、食事ができているとか、春男の髪がすっきりしているなどの変化が見られたものだ。

「これからデパートに行くんで忙しいんだって。」

「デパート?あと三時間くらいで閉まるだろう?今から行くのか。」

「行ったねぇ。」

「なんで?」

「母さんの誕生日プレゼントを買いに行った。」

「はぁー。えらいもんだ。」

 素直にオレは感心していた。いまどきの男性ならともかく、銀婚式をすぎた男性が妻のためにプレゼントを買うだろうか。それも毎年。

「息子の誕生日は忘れるのに、妻のは忘れていないってところが、すごいかもねぇ。」

 春男はくるりと振り返った。向いた、方向の棚にはカバンが置かれている。

「ああ。今年はカバンでよかったな。」

 春男の誕生日の前に珍しく、本当に珍しく、春男の母親がやってきて、息子の生活を見ていったらしいのだが、この家にカバンが三つしかないことに愕然としたようだ。

 多いだろうか、三つ。一つは、高校時代から使っていた学校用のカバン。二つ目は、やはり同じように高校時代からプライベートに使っていたカバン。いくら春男が出かけないといっても、八年も使えばある程度は古くなる。そして今回のカバンが来た。オレのほうがまだ持っているぞ。と、ちょっと思ったものだ。

毎年、春男へのプレゼントいえば、ケーキやら食事やらだが、今年は珍しく、物だった。

「来年もなにか、物にしてもらえ。ところで。親父さん、何買うんだ?」

「見せに来たパンフレットは、最新型の包丁と、ミキサーと、レンジだった。お釜もいいなぁって言っていたけど、予算がねぇ。」

春男は再び、パソコンに向かいだした。

「おい。それ、親父さんがこっそり使うためのものじゃないか?」

春男の父親は妻に黙って、料理などをしている。腕前も悪くない。いや、むしろ、いいほうだ。

「ま。そうとも言うよね。」

それは、スポーツが自分が好きなために、相手も好きにさせる作戦と同じようなものだろうか?自分が使いたいから贈るとは。

「まぁ、母さんは単純にもらって喜んでいるからいいんじゃないの。」

「まぁ、それもそうだな。」

 そんなことでも、夫婦が仲良しならいいかと、オレは自分を納得させた。



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