24話 ミステリー(前編)
ミステリー(前編)
基本的に、春男が作品を書くときは俺とだいたいを相談して、書く方向を決めてから書き始める。そんななか、春男が言った。
「ミステリーを書きたい。あ、包丁は逆にして、柄の部分を逆に握るんだ。で、肉を叩くとやわらかくなるんだよ。こしょうとかが飛ばないように気をつけてね。」
なぜか、春男の料理を手伝いながら、オレも食うし、仕事の話もしていた。
「無理。」
言われたとおり、肉を叩きながらオレは言った。
「なんでー?」
「お前の場合、主人公は多いと途中で消える。一覧表を書き出すところからやらないといけないだろう。あれは時間がかかる。前にもやったことがあっただろう?」
「それは……そうだけど。」
春男の担当が長いせいか、弱点が分かる。春男の場合は、主人公が多すぎると途中でいなくなる。下手すると、半分がいなくなる。
それぞれに作家には向き不向きというものが合って、得意分野で書くと売れるのに、そこから外れると売れなくなるという作家がいる。もちろん、なんでも可能という作家もいるが、めったにいない。そして、春男はこの万能タイプには当てはまらない作家だった。
「でもねぇ、一回くらい。」
「お前の作品は一回でも冒険が出来るほど売れてない。」
「う。」
春男もその辺はよくわかっているようだ。
「わかったよ。あ、小麦粉、タマゴ、パン粉の順だよ。」
オレたちは、カツを春男の母特製の梅ソースで食べた。
「だけど、なんで、ミステリーなんだ?」
「ん?ああ、パソコンのインターネットに載っていたんだ。今世紀最大のミステリーって。」
「……それ、なにかの広告じゃないのか?」
「うん。映画の。」
こんなことで、作品を書く方向を決めるのは、本当に春男くらいなものに違いない。そんなことで書くものを決められても、困る。
「ま、明日までに何か他のものを考えておいてくれよな。」
「わかった。」
そして、翌日。春男のアパートに行ってみると、なにやらパトカーやら、人だかりが出来ていた。
「なんだ?」
よくみると、春男の部屋から人が出入りしている。
「春男!」
「入らないで下さい。」
「あの部屋、知り合いのものなんです。」
「どうぞ。」
慌てて階段を駆け上がると、鑑識が指紋を取っている。
「こちらの方がこの部屋の住人の知り合いだと。」
「春男は?」
「春男さん?」
「いや、本名は違うんですけど、作家名で……。」
言葉が続かなくなったのは、部屋の隅に布をかけられたものを見たからだろう。
「ご確認を。」
ペラッとめくられると、そこには春男がいた。




