21話 代筆屋
代筆屋
まだまだ暑い日差しのでている今日この頃、机の上に見慣れないものがあった。春男の机の上にあるにしてはかわいずぎる。
「なんだ、このペンギン。」
文章にすると奇妙に見えるかもしれない。しかし、本当にそこにペンギンがいた。もちろんホンモノではない。ほんものを飼うことも出来るだろうが、春男なら面倒だといって、飼わないだろう。
そこにあったのは置物だった。
「可愛いじゃないか。ランプ?」
「いや、ゼリーいれ。」
ひっくり返してみると、たしかに、あける口がある。めずらしく、市販品だ。
「どうしたのさ?食っていい?」
「どうぞ。冷やした方が旨いけど。妹が持ってきた。ところでね、幽霊は一年中いるのに、どうして夏にばかりピックアップされるのかな?」
あいかわらず、こいつの質問にはとりとめがない。ゼリーは喉に詰まる前になくなっていた。こんにゃく入りなら詰まっていたかもしれない。
「そりゃ、盆とかが夏にあるからじゃないのか?夏休みもあるし、墓参りには最適な時期だろう。ほかにも、暑さを、寒い話で乗り切ろうという昔からの知恵も含まれているのかもしれないけど。それで、幽霊がどうした?」
「うん。妹の友人が見えるんだって。今日、二人でここにきてね、その話をしに来たんだ。でも、ありゃ、きっとただの友人じゃなさそうだ。」
にまにま笑いながら春男が言った。突っ込むべき問題が多すぎてオレは言葉を失った。もうゼリーも入らないような気がした。まだ一つしか食べていないというのに。
妹の彼氏に何故笑うのやら?幽霊が見えるというそんな話を信じたのか?それとペンギンが何のかかわりがあるのだろうか。
謎だらけに近い。どれからいこう。オレに関係のありそうなところからいこう。
「で?それがお前の仕事と関係があるのか?」
「その彼がね、幽霊の代筆屋を始めるんだって。」
それはなんだと聞く、気にもなれなかった。たぶん、聞くだけむなしくなるような気がしていた。
「……それで?」
「でも、急にやったら危険だろうから修行してからやるんだって。」
オレは一応、うなずいておいた。なんて胡散臭い話なんだろう。妹さん、変な男にでも捕まっているのではないだろうか。あんなにしっかりしているように見えても、人は外見だけではわからないというものだ。なんだか、心配になってきた。
「そのあと、幽霊の了承が取れたら、物語にしようかと思うんだけど、どう?」
オレになんと言えというのだろう。幽霊の了承?
考えた結論は先延ばしに限る。もしかしたら、それまでに春男が忘れてくれるかもしれない。それに期待したいと思った。
「じゃ、その修行が終わってから、具体的に考えるというのはどうだ?」
「うん、いいよ。」
素直に春男が折れた。そのうち、妹さんにでも会いに行く必要でも出てくるかもしれない……。変な奴にかかわってなけりゃいいのだが。これで、家族の問題が起こって、春男の仕事に遅れでも出たら困るというものだ。
スキャンダルくらいなら春男がそんなに有名ではないから平気だろうが。
こんなことに悩まされる自分をのろいたくなった。どうして、こいつの担当なのだろうと。これさえなければ、結構マシな作家なのに!




