20話 母親の催促
母親の催促
状況が悪かった。その時、オレは寝ぼけ眼で、コーヒーを飲んでいたのだ。もうかなり日はでていたが、オレはさっき起きたばかりだった。隣に座ったオレの母親は急に言い出した。
「ねぇ、あんた結婚しないの?」
オレは噴き出した。
「ちょっと!やだぁ、コーヒーを!もう!」
オレは口からダラダラ落ちてくるコーヒーをぬぐいながら言った。
「急に変なこと言うからだろう!」
一気に目が覚めた!
ところで、ここは家ではない。オレは夏休みを取った。といっても、三日間だけだが。たまには帰って来いといわれて、ひさしぶりに、実家に帰ってきた次の日の朝の出来事だった。コーヒーのこぼれた机を拭きながら、母親は言った。
「だってぇ、別に結婚してもいい年でしょ。」
「あのね、オレの歳で結婚しているのは、もう子供のいる奴ばっかりなの。なんだよ、急に。」
「亮介に彼女ができたらしいのよ。今度、家につれて来るって。」
母親はにまにま笑いながら言った。亮介はオレの弟だ。まだ大学生だが、今日は朝から友人と出かけていていない。
「それで?」
「弟が先に結婚するっていうのもどうかな、と思っただけよ。」
いつの時代の話だ?しかし、初耳だ。オレは目を丸くした。
「だって、あいつ、まだ大学生だろう?結婚するの?」
「するとしての話よ。」
なにも決まっていないのに、母親の想像だけで話を振られるというのも、どうだろうか?というより、彼女を連れてくるといっただけで、そこまで考えている母親の想像力のほうが恐ろしい。社会人なら考えるかもしれないが。
「女の子のいる家なら、お姉さんからって思うけど、男の場合はどっちからでもいいんじゃないか?そんなことは、まず、結婚話が確定してから言ってくれよ。」
「ま、そうなんだけど。いつまでも、春ちゃんの面倒ばかり見ていてもねぇ。」
うちの母親は、ずっと春男が本名だと誤解しつづけている。しかし、あえて、解く必要もないのでそのままにしてある。しかし、別に俺は春男の面倒を見ているわけではない。
「仕事なの!」
「わかっているけど。そういえば、春ちゃん、結婚は?」
思い出したように母親が言った。
「さぁ。」
「彼女とかいるの?」
「さぁ。」
オレは正直に答えた。本当に知らないのだ。しかし、母親にはそれが不満だったようだ。
「なんで知らないのよ。」
「なんで、知っている必要があるんだよ。」
母親はため息をついた。ため息をつきたいのはオレのほうである。
「まったく、若いもんが、たまの休みに家でゴロゴロしているなんて……情けない。」
「たまの休みなんだからいいじゃないか。」
がさがさ、新聞を広げながら、言った。
ふと、オレは考えていた。弟が結婚しようが、しまいが、オレの結婚の催促は続きそうだ。しばらく実家には帰らないでおこうと。
ついでに、思った。春男も実家に帰ると催促されているのだろうか。ちょっと気になった。




