19話 愛と健康
愛と健康
料理が大きく健康に影響する。それはオレは体を持ってわかっていた。コンビニの弁当を続けて食べると、春男の作る料理を食べるよりも、早く体がだるくなる。それはともかく。
その日、オレは目を丸くした。春男が出かけると言っても、せいぜい展覧会や美術館くらいで、新幹線を使って出かけたというようなことを、オレは春男の担当になってから一度たりとも聞いたことがなかった。つい、さっきまでは。
「見舞いにでかける?お前が?」
いや、春男が非情だと言っているわけではないが、田舎にまで行くなんてめずらしいと思っただけのことだ。
「そんなに悪いのか?」
オレは縁起でもないことを言った。しかし春男は気にしていないようだ。
「いや、そうじゃないけど孝行がてら見舞いに行こうかと思って。母親と妹と、三人で行くんだ。まぁ、お中元みたいなものだね。」
そんなお中元、嬉しいだろうか?しかし、孫の顔でも見れば、元気になるかもしれないというものだ。しばらく、春男の料理は食べられないが、まぁ、しかたがない。
「そうか、まぁ、気をつけていけ。仕事はメモ程度には書けよ。」
「わかっているよ。」
春男の家のパソコンは道運びができるようなノート型ではない。しかし、話がまったく進まないと言うのは困る。メモをとって帰ってきてから、一気に仕上げてもらう予定だ。
しばらくして春男から戻ってきたとメールが入った。ついでに土産を取りにこいとのことだ。次の作品の打ち合わせもあることだし、と春男の家に向かった。廊下にあった水は結構減っていた。おかげで歩いても、みしみし音がしない。
「毎日、飲んだり料理に使っていたしねぇ。」
春男はそう言った。
「はい、これ、土産。ついでに、作品も。」
本当に、まともな土産店で買ったようなものだった。オレはちょっと安心した。
「ありがと。どうだった?田舎の方は。」
「少し、都会に近付いていたけどまだまだだね。」
なにがまだまだなのかは、あえて問わないことにした。
「そういえば、おじいさんの病気のほうは大丈夫なのか?」
「これからの、ばあさんの料理次第かな。」
「どういう意味だ?」
「血圧が高いから、薄味の料理にしてくださいって医者からいわれていたけど、ばあさんの料理、濃いんだよねぇ。」
オレはふと思い出した。
「お前のじいさん、料理できるようなこと言ってなかったか?自分で作れるじゃん。」
「うちの母さんと一緒で知らないんだよ。で、黙ったまま濃い料理食べつづけて、体壊すっていうのも愛かねぇ。」
しみじみと春男は言った。それはどうだろう?
「いっそのこと、言ってみたらどうだ?」
「離婚されたらどうするのさ?いまさら、困ると思うよー。けんかの種になるようなことは墓場まで持っていくって言っていたよ。」
春男の家系はこんな状態ばっかりなのだろうか。
「お前も、彼女ができたら黙っておくか?」
「どうだろう。その時になったら考えてみる。」
オレはそのときが早くくればいいのに、と思う反面、一生こないんじゃないかとも思った。




