18話 至急移動
至急移動
その日。オレはいつも何かあったら問題だからと治夫の家に行く前には今から行くとメールをしている。ところが、今日は返事が返ってこない。しかし、だからといって家にいないというわけでもないので、向かっていた。ドアをそっと開けると、なにやら話し声がする。しかし、玄関を見ても靴はなかった。入ってみると。どうして、メールの返事がこないのかようやくわかった。誰かと電話をしているようなのだ。春男はオレに気がついた。
「うん。あ、洋介が来たから。うん、手伝ってもらうよ、うん。じゃあ、あとで。」
オレはなんだか、いやな予感がした。
「悪いんだけど、大至急、本の移動を手伝って欲しいんだ。作品より優先だ。」
「なんだって?なんでだ?」
春男は慌てて、ダンボールを押入れの中から出してきた。慌てたまま、組み立てる。
「母さんがリフォームするって言い出したんだ。このなかに、この棚の本入れてくれ。倉庫に持っていく。」
春男の部屋は紙で溢れているために、スペース確保のために、倉庫を借りている。しかし、前回、結構たくさんを持っていったのでしばらくはこなくていいと話してはずだった。
「なんで、リフォームと、本の移動が関係あるんだ?」
オレは袖をまくって、本をしまい始めた。
「なんでも、壁紙を代えるらしい。そうなると、部屋の荷物を全部出さないといけないんだ。父さんの荷物の中には、いろいろまずものがあってってねぇ……。」
話している間も手を休めずに、春男は話していた。誰にだって、見られたくないものはあるだろう。しかし、春男の父親の場合、ちょっと他の男性とは違うもののようだ。
「来たぞ!」
突然、ドアが開くと、そこには春男の父親がいた。
「じゃ、これ、下の父さんの車の近くに運んでくれ。ビニールシート引いた?」
「ああ。」
つまり、まず、本を外に出し、父親の荷物を入れて、それから本を積んで倉庫に持っていくらしい。オレは、この暑い中、とにかく、階段を上ったり、降りたりをした。春男の父親もしていたが、どうも、荷物自体はそんなに重たい物ではないようだ。
「よし、僕が部屋のほうをどうにか整頓しておくから、洋介は父さんと、倉庫に行ってくれ。」
春男の本が積み終わると、車で倉庫へと向かった。オレは聞いてみた。
「春男の家に運んだ箱の中には、なにが入ってたんですか?」
春男から、俺が事情を知っていると聞かされていたのかもしれない、結構すぐに答えてくれた。
「今度の公園のバザーに出す、服やビーズアクセサリー、ぬいぐるみにレースや毛糸の編物たちだ。」
服を作るのは知っていたが、ビーズアクセサリーにまで手を広げていたとは!老後も仕事には困らなさそうだ。
「私も息子が借りるというんで、一緒に借りて、倉庫は二つ持ってるんだが、服の布やミシンやらでいっぱいいっぱいなんだ。つめられるだけ、ぬいぐるみは詰めてきたが、入りきらなくて。」
五十代後半の男性が言う台詞だろうか。とりあえず、倉庫に着き、本をしまい、春男の家に戻る頃にはすっかりオレの腕は震えていた。
「いやぁ、手伝ってくれてありがとう。御礼にサイズさえ教えてくれれば、服くらいならいつでも作るからね。あ、レース編みもセーターでもできるからね。」
そう言って、春男の父親は去っていった。春男の家のほうは、狭くなったものの、歩けるだけのスペースはできていた。
「とりあえず、最低、三日間はこのままだね。」
「明日は筋肉痛だな。」
「明日までに、作品がんばって仕上げるよ。」
「頼んだぞ。」
まだ震える腕を見ながら、オレはしみじみ、隠し事は大変だと思った……。




