16話 テレビにて
テレビにて
その日。誰も関係者が見ていなかったとしても、テレビは流れていた。もし、知っていたら、誰かくらいは録画しただろう。
きれいな格好をした、アナウンサーがマイクを持って、インタビューをしていた。
「はい、本日のドキュメンタリー、女性、南極の探検家である、秋本 洋子さんです。こんにちは。」
「こんにちは。」
「さっそくですが、南極に行こうと思ったきっかけはなんですか?」
「ずっと昔から夢だったんですけれど、できないと思っていたんです。なので、大学を出て、そのまま就職しました。」
「編集関係だったとか。」
「ええ。そこで、最初に頼まれた大きい仕事が、作品の一部を作家の家まで取りに行くということだったんです。」
「普通、取りに行くものなのですか?」
「いえ、その作家さんは珍しい人だったみたいで。普段、取りに行っていた人が入院中で、私が行くことになったんです。」
アナウンサーは頷いてみせた。
「すると、その家には雪のページがいっぱい開かれた雑誌が、床にばら撒いて、置いてあったんです。足の踏み場に困りました。」
「いっぱいと、言いますと?」
「たぶん、十冊はあったと思います。なんでも、雪国の話を書くために気分を出したかったみたいです。」「雑誌を見て、雰囲気を想像する、ということですね。」
「そうだと思います。それをみて、つい言ってしまったんです。「南極に行くのが夢だったんです」と。すると、その作家さんが言ったんです。「過去形の夢なの?」って。その言葉にはっとしたんです。まだ、過去形じゃないって。その人もすぐに行くことを薦めてくれて、私はそのまま、仕事をやめました。」
「じゃ、その作家に会わなければ、ここにいることもなかった、この仕事に就いていなかった、ということですね?」
「ええ。恩人なんです。」
秋本はにこやかに言った。
「よろしかったら、その作家のお名前を教えていただけますか?」
「春男さんという作家さんなんです。」
「男性の作家ですね方ですね。苗字がない?」
「なかったと思います。」
「そうですか、それでは、秋本さんが撮ってきた南極の映像をご覧ください。」
その言葉のあとに、南極の氷が大きく削られていく映像が流れていた。恩人であるという、作家のことにはもう触れられることはなく、ドキュメンタリーはそのまま流れていた。
普通、テレビで紹介されたら、少しは世間に知られて、本も売れるというものだろう。しかし、このあと、春男の本の売上がかなり上がったという事実は確認されていない。インターネット上でファンの間で噂が広がっただけだった。
一方春男の家では。春男が前髪をかき上げながら言った。
「そういえばね、写真がきたよ。コメント付きで。」
「写真?ああ、秋本さんか。ん?テレビに出た?なんだ、だったら、春男の本の紹介でもしてくれたらいいのに。」
「そりゃ、ないよ。」
「だろうなぁ。」
誰にも知られずに、その番組は終わった。




