13話 雨女
雨女
朝から今日はからりと晴れていて、雨のあの字もなかった。
ところで、オレはまったく迷信深いほうでも、縁起を担ぐほうでもない。しかし、春男は結構信じているようだ。オレがその日、春男の家に向かっていると、雨が降り出した。もうすぐでアパートに着くというところでどしゃぶりになり、春男の家についたときには、すっかり雨も滴るような状態になっていた。
「雨なんか降るなんて聞いていないけどなぁ。」
ぶちぶちと文句を言いながら、春男に部屋に入ると、靴があった。中を覗き込むと、ソファに座った女性が声をかけてきた。
「こんにちは。」
「どうも。」
「あ、やっぱり降ってきたかぁ。はい、これ。」
春男は慌てて、オレにタオルを持ってきてくれた。
「どうも。やっぱり?雨が降るようなこと、言っていたか?」
オレの記憶の中の天気予報ではない。
「ううん。彼女が来ているから。」
オレの頭の上にはてなマークが浮かんだ。
「彼女は雨女なんだよ。」
オレはなんといえばいいのやら、言葉に詰まった。彼女のほうも苦笑して、春男のほうを見つめていた。まさかそんな紹介をされるとは思っていなかったのだろうか。
「えっと、春男のお知りあいですか?」
「ええ。大学が一緒だったの。本の感想を言いに来たんです。あと、ちょっと聞きたいことがあったので。じゃあ、私はそろそろ、これで。」
「うん。また帰ってきたときに、僕がここにいたら、遊びに来てね。」
「うん。じゃあね。」
彼女は、傘を持って出て行った。こんなに晴れていた中で傘を持ち歩いていたのだろうか?
「本の感想って?」
「最新刊の前編の。」
「あー、あれか。」
砂漠化が進んだ、砂漠に人が集まり緑色の傘を広げ、人工衛星で写真をとり、いかにも、緑が多いかのように偽造されているという話だ。いまどきの人工衛星では、そんなことをしてもばれる。そのために、傘を差す人間までが緑のマントをかぶって行うという話だ。
「で?なんだって?」
「偽造目的がよくわからないといわれた。」
「そりゃ、前編だけでわかったら、後編読まなくてすむじゃないか。」
「だから、結末を話してあげたんだよ。その写真を元に、他の星のものに地球を高い値段で売りつけるからだって。」
オレは目を丸くした。
「なんで、話したんだよ。前編を読んでくれているなら、後編も買ってもらえよ。売上に響くぞ?」
「彼女、しばらくアフリカに行くんだ。本も買えないような場所に。」
「アフリカ?」
「うん。雨女だから。雨の少ない地域に行くんだよ。」
オレは言葉を失った。窓の外がいつの間にからりと晴れている。オレはまだ、タオルを握り締めているというのに。本当にそんな理由でアフリカに行くのだろうか。確かめようがない。
オレは基本的に、そんな力は信じない。しかし、外は雲ひとつない快晴になっていた。地面の濡れた色だけが、降ったことを証明していた。




