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11話 不機嫌の理由

不機嫌の理由


 春男はめったに怒らない。ついでに、めったに不機嫌になることもない。そんなに物事を気にしないのが理由なのだろう。長生きしそうだ。そのせいか、逆に不機嫌な時ははっきりとわかる。それは大抵、春男の家に入ったときからわかる。

「来たぞー。」

というオレの言葉に対して、んーと唸るような声をしているときは機嫌が悪い。キーボードの叩き方もいつもより音がする。

さて、原因はなんだろう?いつもとおりにソファに座ってみた。ちょっと考えてみる。カレンダーを見ると、最近展示会に行ってきたようだ。

「そういえば、最近、展示会に行ってきたんだろう?どうだった?」

春男は珍しく、椅子ごと振り返って言った。

「最悪だった。」

怒りの原因はこれだったようだ。

「どこが?というより、なんの展示会だ?」

「絵だよ。いかりが、テーマなんだけど、ひどい!」

「絵が?」

「場所が!展示会場だよ?それなのに、床はあっちこっちはげているし、壁にはシミがあるし。警備員はいないし、受付の人がぼんやりと座っているだけ。それも料金の徴収だけ。センサーはなさそうだったし、絵の前に、簡単に越えられそうな紐があるだけ。あれじゃ、盗みだって簡単だ。チケットもないし、パンフレットもない!」

めずらしく、春男は一気に言った。

「別に、豪華なのを作れって言っているわけじゃない。紙の印刷だけでもあったっていいじゃないか!あんなの、絵に失礼だ!行くのに、一時間以上もかかったのに、見て回るのは十分ですんだ。まったくもって、ひどい!」

「あー、絵のほうはどうだったんだ?」

絵の話になったからか、少し顔が和らいだ。思い出すように春男が言った。

「んー。やっぱり、海の絵が多いねぇ。」

海?オレは眉をあげた。

「それに、いかりだけを書いたっていうのも、少なかったかな。抽象的に書かれているものは、結構あったなぁ。」

 オレの脳裏に、なにか浮かんだ。

「春男。それは、もしかして……船を止める時に降ろす、あのイカリか?」

「そうだよ。他になにかあるの?」

怒りの絵と思っていた……。

「なるほど。」

しかし、そんな聞くだけでボロボロそうな場所の展示をなぜ春男が知っているのか、謎だ。

イカリの絵……、絵と海が好きな人以外行くことなどあるのだろうか。だから人が集まらなくて、建物の修理にお金が回らないだけなのではないだろうか。

「人はきていたか?」

「んー。館長は少なくともいたな。」

きっと、オレの考えは当たっているに違いない。

「まぁ、そんなに怒ってないで、とりあえず、作品書け。」

「んー……。」

まだ不機嫌そうだ。それにしても、よっぽど絵が好きだとか、絵を仕事にしている人が怒るならまだしも、春男には言われたくないだろうなぁとオレはぼんやり考えていた。



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