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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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9/118

Review9 作戦

午前零時十九分。


眠れない。


高瀬は。


ベッドの上で天井を見ていた。


目を閉じる。


開く。


スマートフォンを見る。


また伏せる。


それを。


何度繰り返したか分からない。


昨日。


藤原と一緒に見た。


たった二行。


『LOOP』


『2』


意味は。


まだ分からない。


二回目。


そう考えるのが。


一番自然だった。


でも。


何が二回目なのか。


時間なのか。


Reviewなのか。


自分なのか。


「……やめよ」


高瀬は。


スマートフォンを伏せた。


藤原にも言われた。


決めつけるな。


今。


考えるべきことは。


そこじゃない。


明日。


いや。


もう今日。


自分は死ぬ。


まず。


それを越える。


去年のことも。


消えた男子生徒も。


LOOPも。


生きていれば。


調べられる。


『一人で無理なら』


藤原の声を思い出す。


『二人でやります』


高瀬は。


少しだけ笑った。


「……寝るか」


目を閉じる。


怖くないわけじゃない。


むしろ。


怖い。


でも。


三日前とは。


少しだけ違った。


明日を迎えるのが怖い。


それでも。


明日を迎えたいと。


思っていた。



◇



「寝ました?」


朝。


職員室へ入った瞬間。


藤原に聞かれた。


「おはようございます」


「寝ました?」


「挨拶は?」


「おはようございます。寝ました?」


「二時間くらい」


「帰ってください」


「来て三秒」


「二時間しか寝てない人に授業させたくないです」


「でも今日」


高瀬は。


スマートフォンを見る。


━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


予定された死亡まで


残り


8時間17分


━━━━━━━━━━━━


「……」


藤原も。


画面を見る。


昨日。


全部話した。


だから。


もう隠す必要はない。


「八時間」


藤原が呟く。


「はい」


「怖いですか?」


高瀬は。


少しだけ考える。


「怖い」


「私もです」


「藤原先生が?」


「当たり前じゃないですか」


藤原は。


机から一枚の紙を取り出した。


「だから」


高瀬の前に置く。


「考えます」


紙の一番上。


大きな文字。


『死なない作戦』


「……」


高瀬は。


紙を見る。


「ネーミング」


「分かりやすいでしょ」


「小学生の作戦会議?」


「死ななければ何でもいいです」


「それはそう」


藤原が。


ペンを持つ。


「まず」


「はい」


「今日、一人にならない」


紙へ書く。


「一人にならない」


「次」


「階段に近付かない」


「昨日の事故?」


「念のため」


書く。


「屋上に行かない」


「行かない」


「道路」


「出ない」


「刃物」


「触らない」


「火」


「近付かない」


「電気」


「学校で電気避けるの無理じゃない?」


藤原のペンが止まる。


「……確かに」


「蛍光灯全部消す?」


「別の意味で問題になります」


「ですよね」


高瀬は。


少し笑った。


藤原も笑う。


こんな状況で。


笑っている。


それが。


少しだけ。


おかしかった。


「でも」


藤原が言う。


「こうやって一個ずつ潰します」


「はい」


「今日の夜まで」


高瀬を見る。


「一緒にいます」


「……」


「何です?」


「いや」


高瀬は。


紙を見る。


『死なない作戦』


馬鹿みたいな名前。


でも。


一人で残り時間を数えていた三日前より。


ずっと。


心強かった。


「ありがとうございます」


「それ」


「はい?」


「生きてから言ってください」


高瀬は。


笑った。


「分かりました」



◇



「何してる」


声。


二人が振り返る。


真壁だった。


高瀬は。


反射的に紙を裏返した。


「何も」


真壁が。


裏返された紙を見る。


「怪しい」


「怪しくない」


「なら見せろ」


「嫌だ」


「怪しい」


「堂々巡りやめない?」


真壁は。


藤原を見る。


「藤原」


「はい」


「何してる」


「作戦会議です」


「藤原先生?」


「何です?」


「味方だと思ってた」


「嘘は苦手なので」


真壁が。


高瀬を見る。


「何かあった?」


「……」


昨日。


真壁は言った。


『本当に困ってるなら』


『話せ』


今。


本当に。


困っている。


でも。


高瀬は。


まだ言葉にできなかった。


「真壁」


「何」


「あとで」


真壁は。


少しだけ。


眉を寄せる。


「またそれか」


「ごめん」


「……」


「でも」


高瀬は。


真壁を見る。


「話す」


真壁は。


数秒。


黙った。


それから。


「分かった」


「聞かないの?」


「言いたくないなら聞かない」


昨日と。


同じだった。


「ただ」


真壁は続ける。


「本当に困ってるなら」


一拍。


「俺もいる」


「……」


藤原が。


真壁を見る。


「今の」


「何」


「ちょっと格好よかったです」


「やめろ」


「珍しい」


「藤原まで何なんだ」


高瀬も笑う。


「真壁」


「何」


「ありがとう」


「気持ち悪い」


「お前ほんと素直じゃないな」


「お前に言われたくない」


いつもの会話。


でも。


高瀬には。


少しだけ違って聞こえた。



◇



午後三時三十二分。


授業。


「先生」


「何」


「さっきから時計見すぎ」


「そう?」


「五分で四回見た」


「数えてたの?」


「気になるから」


「授業に集中してください」


「先生が言う?」


教室が笑う。


高瀬も。


笑った。


でも。


時計を見る。


15時32分。


スマートフォン。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★☆☆☆


予定された死亡まで


残り


2時間03分


━━━━━━━━━━━━


あと。


二時間。


指先が。


少し冷たくなる。


「先生?」


「……大丈夫」


言ってから。


少し考える。


「いや」


生徒を見る。


「ちょっと緊張してる」


「何に?」


「今日」


「今日?」


「まあ、色々」


「またそれ」


「先生にも言えないことあるんです」


「じゃあ終わったら教えて」


「……」


高瀬は。


少しだけ笑った。


「終わったらな」


チャイムが鳴る。


「はい、今日はここまで」


「先生」


「ん?」


「また明日」


一瞬。


胸が詰まる。


でも。


今度は。


「おう」


答えた。


「また明日」


教室を出る。


廊下。


藤原が。


待っていた。


「あと二時間?」


「はい」


二人が歩き出す。


その時。


向こうから。


真壁が来た。


「高瀬」


「ん?」


「さっきの話」


「……」


「あとでって言ったよな」


「言った」


「今、時間ある」


高瀬は。


藤原を見る。


藤原は。


何も言わなかった。


高瀬が決めるのを。


待っている。


「真壁」


「何」


「俺」


その時。


スマートフォンが震えた。


画面が。


光る。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


予定された死亡まで


残り


2時間03分


━━━━━━━━━━━━


真壁の視線が。


画面へ落ちた。


「……死亡?」


高瀬が。


止まる。


藤原も。


真壁を見る。


「今」


高瀬が聞く。


「見えた?」


「何が」


「この画面」


「星と」


真壁が。


淡々と答える。


「予定された死亡まで、って」


「……」


見えている。


Reviewが。


真壁にも。


「誰が死ぬ」


真壁が聞く。


高瀬は。


少しだけ迷った。


もう。


隠す意味がなかった。


「俺」


真壁の表情が。


止まる。


「いつから」


「三日前」


「……三日前」


真壁が。


小さく繰り返した。


「何?」


「いや」


「今、何か」


「何でもない」


高瀬は。


真壁を見る。


でも。


追及しなかった。


昨日。


真壁が。


自分にしてくれたように。


「言いたくないなら」


高瀬は言った。


「聞かない」


真壁が。


少しだけ。


目を細める。


「……そう」


それから。


息を吐いた。


「で」


「?」


「俺は何すればいい」


「……信じるの?」


「目の前で変な画面見せられた」


「いや、それでも」


「あと二時間なんだろ」


「……うん」


「なら」


真壁は。


持っていた書類を机へ置いた。


「話は二時間後でいい」


「仕事は?」


「人が死ぬより重要な仕事があるなら教えてくれ」


藤原が。


真壁を見る。


「私も昨日、似たようなこと言いました」


「知らん」


「真似しました?」


「知らん」


「真壁」


高瀬が笑う。


「ありがとう」


「だから」


真壁が。


嫌そうな顔をする。


「そういうのは生きてから言え」


高瀬と。


藤原が。


同時に黙った。


「……何」


真壁が聞く。


藤原が。


吹き出した。


「同じこと言った」


「何が」


「私も」


「知らん」


高瀬も。


笑った。


あと二時間。


怖い。


でも。


今は。


三人だった。



◇



午後四時五十七分。


残り。


三十八分。


場所は。


校舎一階。


小さな会議室。


窓。


閉めた。


カーテン。


開けた。


机。


壁際へ移動。


椅子。


必要最低限。


「……」


高瀬は。


部屋を見る。


「やりすぎじゃない?」


「死因分からないんですよね?」


藤原が言う。


「はい」


「なら可能性は減らします」


真壁が。


壁際の机を押す。


「これもいらない」


「会議室から机なくなったら何室?」


「今日だけ高瀬生存室」


「嫌な名前」


「死なない作戦よりマシ」


「真壁先生」


藤原が睨む。


「何」


「私のネーミングに文句あります?」


「ある」


「死なない作戦、分かりやすいですよ」


「小学生」


「高瀬先生も言いました」


「告げ口やめて」


高瀬は。


笑った。


笑いながら。


時計を見る。


16時58分。


あと。


三十七分。


笑いが。


少しだけ。


消える。


藤原が気付く。


「高瀬先生」


「はい」


「時計」


「……見ない方がいい?」


「見てもいいです」


藤原は。


少しだけ笑う。


「でも、一人で数えないでください」


高瀬は。


その言葉を聞いて。


ゆっくり。


頷いた。



◇



午後五時二十九分。


残り。


六分。


高瀬は。


会議室の床に座っていた。


藤原が。


右。


真壁が。


左。


「……何で床?」


高瀬が聞く。


「椅子が壊れる可能性」


藤原。


「そんな死に方ある?」


「ゼロとは言えません」


「じゃあ天井落ちる可能性は?」


真壁が言う。


三人。


同時に。


上を見る。


「……」


「……」


「……」


高瀬が。


口を開く。


「今それ言う?」


「悪い」


「真壁が謝った」


「そこ?」


高瀬は。


少し笑った。


17時31分。


あと四分。


笑えなくなる。


心臓が。


速い。


手が。


震えている。


藤原が。


気付いた。


何も言わず。


高瀬の手を握った。


「……藤原先生」


「嫌なら離します」


「いや」


高瀬は。


首を振る。


「そのままで」


左。


真壁を見る。


「真壁」


「嫌だ」


「まだ何も言ってない」


「手は握らん」


「何で分かった」


「顔」


「最近みんな顔読みすぎじゃない?」


「気持ち悪い」


「死ぬかもしれない友人に言う?」


「まだ死んでない」


高瀬が。


止まる。


真壁は。


時計を見たまま。


続ける。


「だから」


一拍。


「死んでから考える」


「……」


高瀬は。


少しだけ笑った。


「それ、縁起悪くない?」


「じゃあ訂正」


真壁が言う。


「明日の書類」


「何」


「まだ出してないだろ」


「……」


「生きて出せ」


「この状況で仕事?」


「締切は待たない」


「鬼かよ」


「明日出せ」


高瀬は。


頷いた。


「分かった」


17時34分。


あと一分。


部屋から。


会話が消えた。


秒針の音。


高瀬の呼吸。


藤原の手。


真壁の視線。


それだけ。


17時34分30秒。


あと三十秒。


「高瀬先生」


藤原が言う。


「はい」


「生きてください」


「……はい」


「明日」


「はい」


「学校来てください」


「……はい」


真壁。


「書類」


「今それ言う?」


「忘れるな」


「分かったよ」


あと。


十秒。


高瀬は。


目を閉じなかった。


九。


八。


七。


怖い。


六。


五。


死にたくない。


四。


三。


明日。


二。


一。


17時35分00秒。


「……」


何も。


起きなかった。


一秒。


二秒。


三秒。


高瀬は。


瞬きをする。


「……え?」


藤原が。


時計を見る。


「過ぎた」


真壁も。


見る。


17時35分05秒。


「高瀬先生」


藤原の声が。


震えている。


「過ぎました」


「……」


高瀬は。


自分の胸へ手を当てる。


心臓。


動いている。


呼吸。


できる。


痛くない。


何も。


起きていない。


17時35分10秒。


「……生きてる?」


「はい」


藤原が。


笑った。


目に。


少しだけ。


涙が浮かんでいる。


「生きてます」


高瀬は。


力が抜けた。


床へ。


そのまま仰向けになる。


「……よかった」


笑った。


「マジで」


声が。


震えた。


「よかった……」


藤原が。


目元を拭う。


真壁は。


壁にもたれたまま。


大きく息を吐いた。


「高瀬」


「ん?」


「書類」


「お前本当にそれ言う?」


「明日」


「出すよ」


「絶対?」


高瀬は。


笑った。


「絶対」


明日。


また。


約束した。


今度は。


守れる。


そう思った。


17時35分20秒。


「藤原先生」


「はい」


「真壁」


「何」


「ありがとう」


二人を見る。


「二人がいて――」


ぽたり。


床に。


赤いものが落ちた。


「……え?」


藤原の顔から。


笑顔が消える。


高瀬が。


鼻へ触れる。


指。


赤い。


「高瀬先生?」


「……鼻血?」


次の瞬間。


視界が。


大きく揺れた。


「高瀬!」


真壁の声。


身体に。


力が入らない。


「……何だ、これ」


頭。


痛い。


違う。


痛いというより。


中から。


何かが。


押し広げてくる。


「高瀬先生!」


藤原が。


身体を支える。


声が。


遠い。


景色が。


滲む。


知らない。


いや。


知っている。


何かが。


頭の中へ。


流れ込んでくる。


教室。


夜。


誰かの声。


笑い声。


知らない顔。


違う。


知っている。


でも。


思い出せない。


「……やめ」


高瀬の身体が。


崩れた。


「高瀬!」


真壁が。


受け止める。


スマートフォンが。


床へ落ちた。


画面。


━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


予定時刻


17時35分


━━━━━━━━━━━━


藤原が。


それを見る。


「……予定時刻?」


次。


━━━━━━━━━━━━


死亡原因


外的要因では

ありません。


━━━━━━━━━━━━


「高瀬先生!」


藤原の声。


でも。


高瀬には。


もう。


ほとんど聞こえていない。


画面。


━━━━━━━━━━━━


死亡原因


記憶復元による


脳負荷


━━━━━━━━━━━━


そして。


最後。


━━━━━━━━━━━━


記憶復元率


8%


━━━━━━━━━━━━


高瀬の意識が。


暗闇へ落ちた。

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