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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第二章 あなたは、誰の採点者ですか

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Review2 お前、俺に★2つけた?

 朝の教室へ入った瞬間、高瀬悠介は足を止めた。


 いつもと同じように騒がしい。


 窓際では男子生徒が三人で笑い、黒板の前では女子生徒が昨日のテレビ番組について話している。廊下を走った生徒が教師に注意され、「走ってません、早歩きです」と苦しい言い訳をしていた。


 見慣れた朝だった。


 ただ一つ。


 教室のあちこちで、スマートフォンの画面が光っていることを除けば。


「先生!」


 一人の男子生徒が駆け寄ってきた。


「先生にも来た?」


「何が?」


「Review!」


 高瀬の表情が変わる。


 男子生徒が差し出した画面には、昨夜から何度も見た表示があった。


『あなたに、新しいReviewが届きました』


「……来たよ」


「やっぱ先生にも来てるんだ!」


 その声に、周囲の生徒たちが反応した。


「先生、何件?」


「星いくつだった?」


「誰から来たか分かった?」


「ちょっと待て。一気に喋るな」


「俺、三件来た!」


「私五件!」


「多くない?」


「人気者なんで」


「絶対家族込みじゃん」


「うるさい!」


 笑いが起きる。


 高瀬はその様子を見ながら、昨夜の光景を思い出していた。


 街中で一斉に鳴り始めたスマートフォン。


『あなたに、新しいReviewが届きました』


 あれから一晩。


 ニュースでも取り上げられている。


 原因不明。


 運営元不明。


 特定のアプリをインストールしていなくても表示される。


 端末によっては電源を切っても、再起動すると再び現れる。


 ネット上では朝までに無数の噂が生まれていた。


 新型ウイルス。


 大規模な広告。


 政府の実験。


 海外企業のサービス。


 宇宙人。


 最後の一つに至っては、もはや何でもありだった。


 それでも。


 子どもたちの順応は早い。


 昨夜まで世界になかったものを、もう遊び始めている。


「先生」


「ん?」


「これ、先生にも書けるよ」


「……何を?」


「Review」


 女子生徒がスマートフォンを操作した。


「ほら」


 高瀬は画面を覗き込む。


『評価する相手を選択してください』


 その下に検索欄。


「名前入れると出てくる」


「待て」


 高瀬の声が低くなる。


 女子生徒が高瀬悠介と入力した。


 検索。


 数秒後。


 画面に名前が表示された。


『高瀬悠介』


 年齢。


 職業。


 その二つまで一致している。


「……なんで」


「先生、有名人?」


「違う」


「じゃあ何で出てくるの?」


「俺が聞きたいよ」


 女子生徒は楽しそうだったが、高瀬は笑えなかった。


 誰でも検索できる。


 誰でも評価できる。


 昨日までとは明らかに違う。


「星も選べるよ」


 女子生徒の指が動く。


「待て待て待て」


「先生は……」


「押すなよ」


「★2」


「低いな!」


「宿題多いから」


「それ昨日も言われたぞ」


「じゃあ顔でプラス一個」


「★3?」


「はい」


「微妙にリアルなのやめろ」


 教室に笑いが起きる。


 高瀬も反射的に笑った。


 しかし、女子生徒が本当に投稿しようとしたところで手を伸ばした。


「そこまで」


「えー」


「今はやめとけ」


「なんで?」


「何が起きるか分からないから」


「ただのレビューでしょ?」


 高瀬は答えなかった。


 ただのレビュー。


 昨日までなら、そう言えた。


 星一つ。


 星五つ。


 それは誰かの感想でしかなかった。


 けれど高瀬は知っている。


 その星が。


 人間の記憶を。


 関係を。


 人生そのものを。


 変えることがある。


「とりあえず」


 高瀬は教卓へ向かった。


「学校にいる間は触らない。先生たちもまだ何なのか分かってないから」


「先生も分かんないの?」


「……分からないことの方が多い」


「大人なのに?」


「大人を何だと思ってる」


「全部知ってる人」


「幻想だ。それは早めに捨てろ」


 何人かが笑った。


「ほら、スマホしまえ。朝の会始めるぞ」


 生徒たちが渋々スマートフォンを片づけていく。


 その途中。


 教室の後ろから声がした。


「でもさ」


 一人の男子生徒が笑いながら言った。


「★5なら別によくない?」


 高瀬は振り返った。


「……なんで?」


「だって最高ってことでしょ?」


 悪意なんてない。


 本当に。


 ただそう思っているだけだった。


 高瀬は何も答えられなかった。



◇



 一時間目が終わる頃には、学校全体へ暫定的な方針が伝えられた。


 正体が確認できるまで、生徒は校内でReviewを使用しないこと。


 不審な通知には不用意に触れないこと。


 トラブルがあれば教師へ相談すること。


 当然の対応だった。


 そして。


 当然のように、完全には守られなかった。


 二時間目の休み時間。


「誰から来た?」


「三件」


「星は?」


「言わん」


「低かった?」


「うるさい」


 廊下では。


「これって消せないの?」


「俺アンインストールしようとしたけど、そもそもアプリ一覧にない」


「怖っ」


 別の教室では。


「俺、親父に★1つけよかな」


「理由は?」


「いびき」


「本人に言えよ」


 怖がる生徒。


 面白がる生徒。


 興味を持たないふりをして、何度もスマートフォンを確認する生徒。


 反応はバラバラだった。


 高瀬は授業の合間に何度も教室を見た。


 今のところ。


 大きな異常はない。


 昨夜のような『最適化』も表示されていない。


 もしかしたら。


 すべてのReviewが現実へ影響するわけではないのかもしれない。


 そう思い始めていた。



 昼休みまでは。



◇



「お前だろ!」


 職員室まで怒鳴り声が聞こえた。


 高瀬は弁当へ伸ばしていた箸を止めた。


 続いて、何かが倒れる音。


「……っ」


 椅子を引き、廊下へ出る。


 声は自分の教室からだった。


 高瀬が駆け込むと、二人の男子生徒が向かい合っていた。


 一人が、もう一人の胸ぐらを掴んでいる。


「何してる!」


 高瀬は二人の間へ入った。


「離せ」


「先生、こいつ――」


「まず離せ」


「でも!」


「話は聞く。だから離せ」


 男子生徒は歯を食いしばっていたが、やがて手を放した。


 周囲には十人以上が集まっている。


「何があった?」


「こいつが俺に★2つけた」


 高瀬の目が止まった。


「……何で分かった?」


「これ!」


 男子生徒がスマートフォンを突き出した。


『★★☆☆☆』


 その下に文章がある。


『普段は普通だけど、すぐ人のこと馬鹿にするし、自分が悪くても謝らない。正直、一緒にいると疲れる時がある。』


「昨日、こいつと喧嘩したんです。そん時、同じこと言われた!」


「俺じゃねえって!」


「じゃあ誰だよ!」


「知らねえよ!」


「お前しかいないだろ!」


「証拠あんのかよ!」


「だから内容が――」


「待て」


 高瀬が遮った。


「これだけで誰が書いたか決めつけるのは違う」


「でも!」


「仮にこいつが書いていたとしても、胸ぐらを掴んでいい理由にはならない」


「……」


「一回、落ち着け」


「無理ですよ」


 男子生徒は吐き捨てるように言った。


「こんなの来たら」


 スマートフォンを握る手に力が入る。


「朝からずっと考えてるんですよ。誰が書いたんだろって」


 高瀬は黙って聞いた。


「友達だと思ってたやつが、裏で俺のことこんなふうに思ってんのかなって」


「……」


「誰と喋ってても」


 男子生徒は周囲を見た。


 そこにいるのは、毎日一緒に過ごしてきたクラスメイトだ。


「こいつかなって思うんですよ」


 怒っている。


 でも。


 それ以上に。


 怖がっていた。


 高瀬はようやく気づいた。


 ★2という数字だけが、この生徒を傷つけているわけではない。


 誰が書いたのか分からない。


 だから。


 全員が疑わしく見える。


「……嫌だったな」


 高瀬が言った。


 男子生徒が少しだけ顔を上げる。


「でも、だからこそ決めつけるな」


「じゃあどうすればいいんですか」


 答えを求められる。


 教師だから。


 大人だから。


 きっと正しい答えを持っていると思われている。


 でも。


 高瀬にも分からなかった。


「……少なくとも」


 ゆっくり言葉を選んだ。


「星二つで、お前全部が決まったわけじゃない」


「……」


「誰かがそう感じた。それは事実かもしれない。でも、その人から見えたお前が、お前の全部じゃない」


 男子生徒は黙っている。


「直した方がいいところがあるなら考えればいい。でも、知らない誰かにつけられた星の数で、自分まで自分を決めるな」


「……はい」


 小さな返事だった。


 完全に納得したわけではないだろう。


 それでも。


 握っていた拳からは力が抜けた。


 高瀬はもう一人の男子にも目を向ける。


「お前も」


「はい」


「今は距離置いとけ。お互い頭冷やせ」


「……分かりました」


 周囲の生徒たちも散っていく。


 大事にはならなかった。


 高瀬はそう思った。


 ただ。


 教室の一番後ろで。


 一人の女子生徒だけが。


 誰とも話さず。


 スマートフォンを握っていた。



◇



 午後になると。


 教室の空気は少しずつ変わっていった。


「誰か私に★1つけたんだけど」


「俺じゃないよ」


「聞いてないけど」


「いや、一応」


「何で先に否定するの?」


「え?」


「書いたの?」


「違うって!」


 別の場所では。


「お前、俺に何個つけた?」


「書いてないよ」


「ほんと?」


「ほんとだって」


「じゃあスマホ見せて」


「なんで?」


「見せられないの?」


 そして。


「私、★5来た!」


「マジ?」


「誰から?」


「分かんない」


「告白じゃね?」


「え、怖い怖い!」


 そう言いながら、嬉しそうに笑う。


 星を自慢する生徒も出てきた。


「俺、平均4.2」


「何その平均」


「五件来てるから」


「うわ、私3.6」


「勝った」


「ムカつく!」


 高瀬は、その会話を少し離れたところから聞いていた。


 まだ。


 たった一日だ。


 なのに。


 もう比較が始まっている。


 誰が上。


 誰が下。


 誰が好かれている。


 誰が嫌われている。


 昨日まで存在しなかった数字が。


 少しずつ。


 人間関係の中へ入り始めていた。



◇



 放課後。


 職員室では緊急の打ち合わせが行われた。


「他のクラスでも揉め事が出ています」


「保護者から問い合わせも来てます」


「学校で止められるんですか、これ」


「少なくとも校内では使用禁止を徹底するしかないでしょう」


「でも、誰が使ったか確認できないですよね?」


「そもそも運営元が分からないものを、どう指導するんですか」


 誰も答えを持っていない。


 高瀬はそれを聞きながら、少しだけ妙な感覚を覚えていた。


 今まで。


 Reviewのことで悩んでいるのは、自分だけだった。


 誰にも相談できない。


 説明しても信じてもらえない。


 そんなものだった。


 今は違う。


 全員が知っている。


 それなのに。


 安心はしなかった。


 むしろ。


 怖かった。


 教師も。


 生徒も。


 保護者も。


 誰でも採点できる。


 そして。


 誰でも採点される。


 これまで自分だけが背負っていたものが。


 世界中へばら撒かれたように感じた。


「高瀬先生」


 声をかけられた。


「はい」


 振り返る。


 昼休み。


 教室の一番後ろでスマートフォンを握っていた女子生徒だった。


「ちょっといいですか?」


「どうした?」


「……話したいことがあります」


 高瀬は彼女の表情を見て。


 すぐに立ち上がった。



◇



 誰もいない教室。


 女子生徒は自分の席へ座り、高瀬はその前の椅子を反対向きにして腰を下ろした。


「何かあった?」


「昼の」


「うん」


「★2のReview」


 高瀬は続きを待った。


 女子生徒は膝の上で両手を握った。


 何度か口を開きかけて。


 やがて言った。


「……私が書きました」


「そうか」


 女子生徒が顔を上げる。


「怒らないんですか?」


「理由聞いてから」


「理由があったら、いいんですか?」


 高瀬は一瞬、答えに詰まった。


「……それも含めて聞きたい」


 女子生徒は俯いた。


「あの二人と、私、小学校から一緒なんです」


「うん」


「★2つけた子、別に悪い人じゃないです」


「うん」


「面白いし。困ってる時に助けてくれたこともあります」


 高瀬は黙って聞く。


「でも……人のこと、すぐ馬鹿にするんです」


「どんなふうに?」


「失敗した時とか。見た目とか。テストの点とか」


「……」


「本人は全部、冗談のつもりです」


 女子生徒は笑おうとした。


 でも。


 笑えなかった。


「私も何回も言われました」


「嫌だって伝えた?」


「言いました」


「本人に?」


「はい」


「それでも?」


 女子生徒が頷く。


「“冗談じゃん”って」


 高瀬は昼休みのReviewを思い出した。


『正直、一緒にいると疲れる時がある。』


 意味が変わった。


 さっきまでは。


 誰かが陰で書いた悪口のようにも見えた。


 今は。


 本人へ直接伝えても届かなかった言葉にも見える。


「昨日、Reviewが書けるって分かって」


 女子生徒が続けた。


「これなら……本気で嫌だったって伝わるかなって思ったんです」


「匿名だったら?」


「……はい」


「名前を書かなかったのは?」


「怖かったから」


「何が?」


「また笑われるのが」


 高瀬は何も言えなかった。


 昼間。


 ★2をつけられた男子は。


 確かに傷ついていた。


 誰が書いたのか分からず、友人まで疑った。


 でも。


 今。


 目の前にいる女子生徒も。


 ずっと傷ついていた。


 片方だけを見ていた時には。


 簡単だった。


 両方を見ると。


 途端に分からなくなる。


「先生」


「ん?」


「私、悪いですか?」


 高瀬はすぐに答えなかった。


 悪い。


 悪くない。


 どちらかを言えば、この子は少し楽になるのかもしれない。


 でも。


 その答えを、自分が決めていいのだろうか。


「……分からない」


 女子生徒が驚いた。


「先生なのに?」


「先生だからって、何でも答え持ってるわけじゃないよ」


「……」


「ただ」


 高瀬は少しだけ身体を前へ傾けた。


「お前が嫌だったことは、本当なんだと思う」


 女子生徒の目が揺れる。


「だから、それはなかったことにしなくていい」


「……はい」


「でも」


 高瀬は続ける。


「その嫌だった気持ちと、あいつの人間全部を★2にすることが同じなのかは……先生にもまだ分からない」


 女子生徒はしばらく黙っていた。


「じゃあ」


 小さな声。


「書かなきゃよかったですか?」


 高瀬はまた考えた。


「それも、今すぐ先生が決めることじゃないと思う」


「……難しい」


「難しいよ」


「もっと簡単に答えてください」


「無茶言うな」


 女子生徒が少しだけ笑った。


「先生でしょ?」


「先生は人生の攻略本じゃないんです」


「役に立たない」


「★2?」


「今ので★3」


「上がったならいいか」


 今度は。


 少しだけ自然に笑えた。


「でも」


 高瀬は言った。


「一個だけ約束して」


「何ですか?」


「もう一回、本人と話そう」


 女子生徒の笑顔が消えた。


「……嫌です」


「今すぐじゃなくていい」


「でも」


「一人で無理なら先生もいる」


「……」


「Reviewに言わせて終わりにするんじゃなくて、お前の言葉で伝える方法も考えよう」


 女子生徒はすぐには頷かなかった。


 それでいい。


 高瀬は待った。


 しばらくして。


「……考えます」


 小さく答えた。


「うん」


 それ以上は求めなかった。



◇



 女子生徒が帰ったあと。


 高瀬は一人、教室に残った。


 窓から夕方の光が差し込んでいる。


 机。


 椅子。


 黒板。


 何も変わっていない。


 それなのに。


 昨日までとは。


 少し違う教室に見えた。


 ★2をつけられた生徒。


 ★2をつけた生徒。


 傷ついた人。


 傷つけられていた人。


 同じ二人が。


 見る場所を変えれば。


 簡単に入れ替わる。


「……採点なんかできるかよ」


 誰もいない教室で呟いた。


 その時。


 スマートフォンが震えた。


 高瀬は画面を見る。



『Reviewが届きました』



 自分宛てだった。



「……俺?」



 開く。



『★☆☆☆☆』



 星は一つ。



 高瀬は思わず苦笑した。


「いきなり低いな……」



 その下。



 本文を読む。



『先生は、いい先生だと思います。』



「……?」



 高瀬の眉が寄った。



 ★1。



 なのに。



『話も聞いてくれます。』


『怒る時も、ちゃんと理由があります。』


『困った時、助けてくれたこともあります。』



 褒めている。



 それなのに。



 ★1。



 高瀬はゆっくりスクロールした。



『でも。』



 指が止まる。



『先生は、みんなの話を聞きます。』



『だから。』



『誰か一人の味方にはなってくれません。』



 高瀬の表情から。


 笑みが消えた。



『それが正しい先生なのかもしれません。』



『でも私は。』



『正しい先生じゃなくて。』



『一回だけでも。』



『私の味方になってほしかったです。』



 そこで。


 文章は終わっていた。



 高瀬は動かなかった。



 誰が書いたのか。



 分からない。



 今日の生徒なのか。



 昔の生徒なのか。



 それすら分からない。



 でも。



 星一つだから。



 刺さったわけではなかった。



『誰か一人の味方にはなってくれません。』



 その言葉に。



 思い当たるものが。



 一つではなかった。



 教師として。


 公平でいようとした。



 片方の話だけで決めないようにした。



 全員の話を聞こうとした。



 それは。



 間違っていないと思っていた。



 今も。



 間違っているとは思わない。



 それでも。



 その正しさの向こうで。



 誰かが。



 自分を選んでほしいと。



 思っていたのかもしれない。



「……誰だよ」



 高瀬は呟いた。



 返事はない。



 もう一度。



 Reviewを最初から読む。



 そして。



 最後まで。



 読み終えた時だった。



 画面の下に。



 さっきまではなかった表示が現れた。



『この評価を受け入れますか?』



 YES。



 NO。



 高瀬の指が止まる。



「……受け入れる?」



 公開するか。



 ではない。



 誰かを評価するか。



 でもない。



 今度は。



 自分へ向けられた評価を。



 受け入れるか。



 拒むか。



 高瀬は画面を見つめた。



 ★1。



『一回だけでも、私の味方になってほしかったです。』



 YES。



 NO。



 簡単に押せるはずがなかった。



 自分は。



 この評価を受け入れるべきなのか。



 それとも。



 知らない誰かがつけた★1に。



 自分の人生を決めさせるべきではないのか。



 高瀬は。



 昼間。



 生徒へ言った自分の言葉を思い出した。



『知らない誰かにつけられた星の数で、自分まで自分を決めるな』



「……」



 自分で言った。



 数時間前に。



 なのに。



 今。



 たった一つの星から。



 目を離せない。



 高瀬は。



 そこで初めて。



 昼間の生徒が。



 なぜあれほど苦しんでいたのか。



 ほんの少しだけ。



 分かった気がした。



 画面には。



 まだ。



 YESとNOが浮かんでいる。



 高瀬は。



 どちらにも触れなかった。



 ただ。



 その下に。



 いつの間にか現れていた一文を。



 見つめていた。



『未回答の場合、評価は保留されます』



 高瀬の目が細くなる。



「……保留?」



 時間制限はない。



 強制もされない。



 少なくとも。



 今は。



 選ばなくてもいい。



 高瀬はスマートフォンを閉じた。



 そして。



 数歩歩いたところで。



 また震えた。



「……何だよ」



 振り返るように画面を見る。



 新しい通知ではない。



 さっきのReview。



 ただ。



 一箇所だけ。



 変わっていた。



 ★☆☆☆☆



 その下。



 投稿者。



 さっきまで。



『匿名』



 だった場所に。



 文字が浮かび始める。



 高瀬は立ち止まった。



 一文字。



 また一文字。



 名前が表示されるのか。



 そう思った。



 違った。



 現れたのは。



 名前ではなかった。



『あなたは、この人物を知っています』



 高瀬の呼吸が止まる。



 その下に。



 もう一行。



『そして――』



 文字が乱れた。



 消える。



 高瀬は画面を睨む。



「……続きは?」



 何も出ない。



 数秒。



 十秒。



 やがて。



 最後の一文が表示された。



『あなたは一度、この人物の人生を採点しています』



 高瀬は。



 その場から。



 動けなくなった。

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