Review69 採点欄に「生きたい」はありません
あなたは、あなたを何点にしますか
暗闇の中。
高瀬は、自分の名前を見ていた。
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No.69
高瀬
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その下。
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採点対象
自分自身
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そして。
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あなたは
あなたを
何点にしますか
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「……俺を?」
返事はない。
今まで。
何度も採点された。
教師として。
人間として。
誰かの記憶の中で。
誰かの人生の中で。
良かった。
悪かった。
救われた。
傷ついた。
必要だった。
いなくなってほしかった。
他人がつけた点数なら。
いくらでもあった。
でも。
自分が。
自分につける点数だけは。
一度もなかった。
スマートフォンが震える。
━━━━━━━━━━━━
Review69
第一審
開始
━━━━━━━━━━━━
同時に。
No.18の声がした。
「先生」
「……何だよ」
「全部、話す」
「……」
「三年前のこと」
高瀬は返事をしなかった。
できなかった。
さっき見た文章が。
まだ頭から離れない。
『この先生は
いつか
自分から
死ぬ方を選ぶ。』
投稿者。
No.18。
「……お前だったんだな」
「うん」
「最初に俺を採点したの」
「……うん」
高瀬は目を閉じた。
三年間。
会いたかった。
思い出せないことが怖かった。
何か大切なものを失っている。
その感覚だけが残っていた。
だから。
ずっと追いかけた。
助けたいと思った。
戻したいと思った。
なのに。
「何でだよ」
自分でも驚くほど。
低い声が出た。
「……先生」
「俺は」
一度、言葉が詰まる。
「お前に会いたかった」
「……」
「ずっと」
拳を握る。
「なのに、ようやく声が届いたと思ったら」
画面を見る。
「最初に俺を採点したのがお前?」
「……うん」
「だったら何なんだよ」
声が大きくなる。
「俺がこうなったのも、お前のレビューのせいなのか?」
沈黙。
「三日後に死ぬって言われたのも」
「SYSTEMも」
「Review0も」
「全部……」
「違う」
No.18が。
初めて強く遮った。
「……何が」
「私が先生を採点したから始まったんじゃない」
「じゃあ何で!」
「それは――」
No.18の声が止まった。
高瀬は歯を食いしばる。
怒っている。
間違いなく。
なのに。
それだけじゃなかった。
聞きたくない。
でも知りたい。
責めたい。
でも。
声が聞けたことを。
どこかで嬉しいと思っている自分もいる。
それが。
一番腹立たしかった。
「……俺」
高瀬は小さく言った。
「お前に怒っていいのかすら分かんねえよ」
No.18は。
少し黙ってから。
「怒っていいよ」
「……」
「先生」
震えた声。
「私も」
一度。
息を吸う。
「ずっと、謝りたかったから」
その瞬間。
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記憶復元
許可
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「……え?」
世界が。
反転した。
◇
最初に戻ってきたのは。
音だった。
雨。
校舎の窓を激しく叩く。
雨の音。
次に。
匂い。
濡れたアスファルト。
そして。
息苦しいほどの湿気。
「待て!」
自分の声。
三年前。
高瀬は走っていた。
昇降口を抜ける。
外。
雨の中。
一人の女が歩いている。
傘も差していない。
制服の肩から。
水が滴っている。
「待てって!」
女は止まった。
でも。
振り返らない。
「……何ですか」
「帰るなら送る」
「大丈夫です」
「大丈夫な人は、そんな歩き方しない」
「歩き方?」
「……」
高瀬は言葉に詰まった。
遅い。
というより。
どこへ行くか決めていない。
ただ。
足だけを前に出している。
そんな歩き方だった。
「先生」
「何」
「私」
女が少しだけ振り返る。
笑っていた。
でも。
目は。
全然笑っていなかった。
「何点に見えます?」
「……は?」
「元気度」
「何だそれ」
「百点満点」
「知らん」
「じゃあ」
女は笑う。
「八十点?」
「……」
「六十点?」
「……」
「四十点?」
声が。
少しずつ。
小さくなる。
「……二十点?」
雨が。
二人の間を叩く。
女は。
笑ったまま。
「先生」
胸元を握った。
「私ね」
一拍。
「ずっと」
笑顔が。
崩れた。
「百点の“助けて”を出してたんですよ」
「……」
涙なのか。
雨なのか。
もう分からなかった。
「でも」
唇が震える。
「誰にも届かなかった」
高瀬は。
動けなかった。
「先生にも」
「……ごめん」
考えるより先に。
言葉が出た。
女が目を見開く。
「何で先生が謝るんですか」
「気づけなかった」
「先生のせいじゃない」
「でも――」
「ほら」
女が。
泣きながら笑った。
「また自分のせいにした」
「……」
「先生って」
「何でも自分のせいにしますよね」
「そんなこと――」
「するよ」
強かった。
「誰かが失敗したら、自分の声かけが悪かった」
「誰かが泣いたら、もっと早く気づけた」
「誰かが傷ついたら、自分が何とかできた」
「……」
「それ」
女は高瀬を見る。
「優しいんじゃないよ」
高瀬の表情が変わった。
「自分が全部背負えば」
「他の人を責めなくて済むだけ」
「……」
「先生」
一歩。
近づく。
「いつか」
その目だけは。
今でも。
鮮明だった。
「先生も」
「私みたいになりますよ」
「何言ってんだ」
「全部自分のせいにして」
「誰かが助かるなら自分が傷つけばいいって思って」
「最後には」
女の笑顔が消えた。
「自分が消えればいいって思う」
「……」
現在の高瀬の胸を。
その言葉が貫いた。
少し前。
自分が消えればいい。
そう思った。
誰かを救えるなら。
それが一番いいと。
三年前。
No.18は。
もう。
見抜いていた。
◇
「先生」
三年前の彼女が言った。
「一個だけお願いしていいですか」
「何」
「私のこと」
少し笑う。
「レビューして」
「……は?」
「私が」
目を伏せる。
「生きててよかったか」
高瀬は。
即答した。
「無理」
女が顔を上げる。
「……何で?」
「そんなもん、俺が決めていいわけないだろ」
「先生なら決めていい」
「よくない」
「だって先生――」
「教師でも」
高瀬は遮った。
「無理だ」
「……」
「人が生きてていいかどうかなんて」
一歩。
「他人が点数つけることじゃない」
女の目から。
また。
涙が落ちる。
「じゃあ」
「誰が決めるんですか」
「お前」
「……」
「自分で決めろ」
「無理です」
「じゃあ今は零点でいい」
「……え?」
「今、自分の人生が零点にしか見えないなら」
「無理に百点って言わなくていい」
雨の中。
高瀬は。
まっすぐ彼女を見る。
「明日、一点になるかもしれない」
「また零点になるかもしれない」
「十点の日もある」
「八十点の日だって来るかもしれない」
「……」
「でも」
「その点数を」
ゆっくり。
「他人に決めさせるな」
女は。
何も言わなかった。
長い。
長い。
沈黙。
やがて。
「……先生」
「何」
「それ」
泣きながら。
ほんの少し笑った。
「先生も忘れないでね」
◇
記憶が。
消えた。
「……っ」
高瀬は。
床に膝をついた。
思い出した。
自分が言った。
自分の人生の点数を。
他人に決めさせるな。
そう言った。
なのに。
「俺……」
自分だけは。
ずっと。
他人のレビューで。
自分を決めていた。
「最低だな……」
その瞬間。
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自己評価を検出
暫定値
12点
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「……は?」
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高瀬
自己評価
12 / 100
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「待て」
「俺、まだ何も――」
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Review69では
発言ではなく
自己認識を採点します
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高瀬の顔から。
血の気が引いた。
嘘は。
つけない。
百点と言えば。
百点になるわけじゃない。
今。
自分自身が。
本当に。
自分を何点だと思っているか。
それが。
そのまま。
数字になる。
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存在維持基準
50点
━━━━━━━━━━━━
「……」
━━━━━━━━━━━━
50点未満の場合
No.69
削除対象へ移行
━━━━━━━━━━━━
「俺が……?」
また。
自分が消える。
ただし。
今度は。
誰かを救うために。
自分から選ぶわけじゃない。
自分自身が。
自分に。
生きる価値がないと。
点をつけている。
━━━━━━━━━━━━
残り時間
10:00
━━━━━━━━━━━━
数字が。
動き出した。
◇
「高瀬!」
「……真壁?」
突然。
声が繋がった。
「聞こえますか!」
「何で――」
「強制接続です!」
「先生!」
結良。
「悠平!」
沙耶。
「先生!」
藤原。
次々。
声が入る。
「お前ら……」
「高瀬先生」
真壁。
「今、何点ですか」
「……12」
数秒。
沈黙。
「低っ」
白石。
「お前、今それ言う!?」
「ごめん」
「全然悪いと思ってないだろ!」
「ちょっと思ってる」
こんな時なのに。
高瀬は。
笑ってしまった。
━━━━━━━━━━━━
自己評価
13点
━━━━━━━━━━━━
「……上がった」
「一個!?」
結良。
「先生もっと笑って!」
「そんな雑な治療ある!?」
「知らないよ!」
結良の声が。
突然。
震えた。
「……消えないでよ」
「……」
「今度は」
一度。
息を詰まらせる。
「勝手にいなくならないでよ」
高瀬は。
何も言えなかった。
◇
「俺たちからレビューを送ります」
真壁。
「無理だ」
「なぜ」
「他者評価は禁止されてる」
「……」
「俺が俺をどう思ってるかしか、反映されない」
沈黙。
「じゃあ」
ナオだった。
「先生が知らない先生を」
「教えればいい」
「……え?」
「僕たちは」
「点数をつけない」
ナオは。
ゆっくり。
言葉を選んだ。
「先生が知らない」
「先生の話をする」
「……」
「それを聞いて」
「最後に」
「先生が決めればいい」
真壁が。
小さく息を吐いた。
「……それなら」
「他者評価にはならない」
高瀬は。
目を閉じた。
「分かった」
一度。
息を吸う。
「聞かせてくれ」
◇
「では俺から」
真壁。
「高瀬先生」
「うん」
「あなたは面倒です」
「いきなり!?」
「人のことになると冷静じゃなくなる」
「勝手に責任を背負う」
「相談する頃には、だいたい自分の中で結論が出ている」
「非常に扱いづらい」
「俺いま自己評価上げる時間なんだけど!?」
「知っています」
真壁が。
少し笑った。
「でも」
声が変わる。
「俺が」
「人間の未来まで数字で見ようとした時」
静かに。
「あなたは」
「俺を数字として見なかった」
「……」
「だから俺は」
一拍。
「あなたがいる未来を」
「まだ見たいです」
高瀬は。
返事ができなかった。
◇
「次、私」
結良。
「先生はうざい」
「お前まで!?」
「説教長い」
「顔見すぎ」
「こっちが何も言ってないのに、“何かあった?”って聞いてくる」
「あと自分のことになると、急にバカ」
「最後いる!?」
「いる」
結良は。
笑った。
でも。
すぐに。
声が震えた。
「でも私が」
「自分で決めたいって言った時」
「先生だけは」
「正しい答えを押しつけなかった」
「……」
「私が選んだ答えを」
「ちゃんと見てくれた」
鼻を啜る。
「だから」
「先生も」
「自分で決めてよ」
「……」
「消える方じゃなくて」
「残る方を」
◇
「悠平」
沙耶。
「……うん」
「弟としては」
「六十点」
「おい!」
「連絡遅い」
「一人で抱える」
「大丈夫って言う時、大体大丈夫じゃない」
「姉ちゃん」
「でも」
声が。
柔らかくなる。
「私にとっては」
「代わりいないよ」
「……」
「誰かを助けるために」
「自分を代わりに使わないで」
高瀬は。
俯いた。
◇
藤原は。
高瀬が。
自分の失敗を。
誰かの前で。
笑い話に変えてくれた日のことを話した。
佐伯は。
高瀬が。
答えを出せないまま。
隣に座っていた日のことを話した。
白石は。
「先生」
「何」
「俺」
少し考えて。
「先生の前だと」
「黙ってても平気」
「……」
「それだけ」
「それだけ?」
「結構すごいこと」
「……そっか」
「うん」
ナオは。
最後に。
青いノートを開いた。
「先生」
「何」
「僕」
「先生が」
「正しい人だから好きなんじゃないよ」
「……」
「間違えたあとに」
「もう一回考えるから」
高瀬は。
目を閉じた。
真壁が知っている自分。
結良が知っている自分。
沙耶が知っている自分。
藤原。
佐伯。
白石。
ナオ。
全部。
違う。
でも。
全部。
自分だった。
━━━━━━━━━━━━
自己評価
43点
━━━━━━━━━━━━
高瀬が。
初めて。
数字を見る。
━━━━━━━━━━━━
残り時間
03:12
━━━━━━━━━━━━
「……あと七点」
結良。
「先生」
「自分のいいところ!」
「急に言われても出ねえよ!」
「教師十三年やったんでしょ!」
「一個くらいあるでしょ!」
「一個って言うな!」
笑う。
でも。
時間は。
止まらない。
━━━━━━━━━━━━
02:31
━━━━━━━━━━━━
十三年。
失敗した。
怒られた。
間違えた。
子どもを傷つけたこともある。
保護者への言葉を。
帰ってから。
何度も後悔した。
辞めたいと思った日も。
あった。
でも。
それだけじゃない。
卒業の日。
『先生でよかった』
そう書かれた。
小さな手紙。
泣きながら。
『また来る』
そう言った子。
何年か経って。
『覚えてますか』
笑って声をかけてくれた子。
「……俺」
全部。
失敗だったわけじゃない。
━━━━━━━━━━━━
自己評価
46点
━━━━━━━━━━━━
「上がった!」
「あと四!」
でも。
そこから。
動かなかった。
━━━━━━━━━━━━
01:26
━━━━━━━━━━━━
「……くそ」
たった四点。
なのに。
遠い。
自分を。
半分以上。
肯定できない。
その時。
「先生」
No.18。
全員が。
黙った。
「まだ」
「私のレビュー」
「最後まで読んでないよ」
「……え?」
◇
━━━━━━━━━━━━
3年前
No.18 → 高瀬
未処理レビュー
━━━━━━━━━━━━
表示された文章。
『この先生は
いつか
自分から
死ぬ方を選ぶ。』
「……これだろ」
「違う」
No.18。
「続きがある」
画面が。
ゆっくり。
動いた。
『この先生は
いつか
自分から
死ぬ方を選ぶ。』
『多分
誰かを助けるために。』
『この人は
そういう人だから。』
「……」
『だから私は』
『先生が
自分を捨てようとした時』
『一回だけ』
『先生の代わりに』
『先生を評価する。』
高瀬の。
喉が鳴る。
『この先生は』
『間違える。』
『逃げる。』
『誰かを傷つける。』
『自分のことになると』
『びっくりするくらい』
『馬鹿になる。』
「……おい」
結良が。
泣きながら。
少し笑った。
「三年前からバレてるじゃん」
「うるさい……」
次。
『でも』
高瀬は。
息を止めた。
『私が』
『自分の人生を』
『零点だと思った日に』
『この人だけは』
『私を』
『点数で見なかった。』
「……」
『だから』
『先生が』
『自分を零点だと思う日が来たら』
『私は』
『このレビューを返します。』
高瀬は。
ようやく。
分かった。
彼女が。
なぜ。
レビューという形で。
これを残したのか。
三年前。
自分が彼女に渡した言葉を。
いつか。
自分が忘れた時。
返すため。
これは。
高瀬を採点するためのレビューじゃなかった。
高瀬自身に。
もう一度。
採点させるための。
レビューだった。
最後の文章。
『高瀬先生。』
『あなたは』
『あなたが思っているより』
『ちゃんと』
『誰かの人生に』
『残っています。』
「……」
画面が。
滲んだ。
「ずるいだろ……」
高瀬は。
手の甲で。
涙を拭った。
「三年前のくせに……」
No.18が。
少し笑う。
「先生」
「……何」
「あの日」
「先生が私に言った」
他人に。
お前の人生の点数を。
決めさせるな。
「だから」
声が震える。
「最後は」
「先生が決めて」
━━━━━━━━━━━━
残り時間
00:30
━━━━━━━━━━━━
高瀬は。
目を閉じた。
百点じゃない。
そんなわけがない。
立派でもない。
完璧でもない。
間違える。
逃げる。
弱い。
格好悪い。
それでも。
零点なのか。
「……違う」
━━━━━━━━━━━━
00:20
━━━━━━━━━━━━
今の自分を。
百点だとは。
到底思えない。
でも。
零点にも。
したくない。
━━━━━━━━━━━━
00:15
━━━━━━━━━━━━
「俺」
高瀬は。
初めて。
少し笑った。
「まだ完成してないんだよな」
十。
「これからも間違える」
九。
「多分、逃げる日もある」
八。
「誰かを傷つけるかもしれない」
七。
「でも」
六。
「そのたびに」
五。
「もう一回考える」
四。
「だから」
三。
高瀬は。
自分自身へ。
初めて。
点数をつけた。
「――五十点」
━━━━━━━━━━━━
自己評価
50点
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
存在維持条件
達成
━━━━━━━━━━━━
ゼロ。
音が。
消えた。
「……」
誰も。
何も言わなかった。
本当に。
終わったのか。
高瀬自身も。
分からなかった。
数秒後。
「……先生?」
藤原。
「いる?」
「……いる」
「本当に?」
「多分」
「多分って何!」
藤原の声が。
泣きながら。
笑った。
「よかった……」
その一言で。
張っていたものが。
一気に。
切れた。
「先生!」
結良。
「バカ!」
「何で!?」
「十二点から始める人いる!?」
「俺だって好きで十二点じゃねえよ!」
「悠平」
沙耶。
泣いている。
「……ごめん」
「謝らない」
「……」
「今は」
一度。
息を吸う。
「生きててよかったって言って」
高瀬は。
止まった。
そして。
小さく。
「……生きててよかった」
自分の口から。
初めて。
その言葉が出た。
真壁が。
長く。
息を吐く。
「……ギリギリすぎます」
「悪い」
「褒めてません」
「分かってる」
白石。
「五十点」
「何」
「先生っぽい」
「どういう意味?」
「百点って言えないところ」
「……」
「でも」
「零点じゃなくなった」
「……うん」
高瀬は。
笑った。
「そうだな」
五十点。
半分。
足りない。
だから。
残りの五十点は。
これから。
生きながら。
決めればいい。
そう思えた。
終わった。
今度こそ。
本当に。
そう思った。
――ピッ。
「……?」
SYSTEM。
━━━━━━━━━━━━
Review69
第二審へ移行
━━━━━━━━━━━━
「……は?」
誰かの。
息を呑む音。
「第二審……?」
真壁。
「聞いてないぞ」
高瀬の。
笑顔が消えた。
━━━━━━━━━━━━
No.69
存在維持を確認
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
残存対象
2名
━━━━━━━━━━━━
「……」
分かってしまった。
Review0。
No.18。
━━━━━━━━━━━━
現実固定可能数
1
━━━━━━━━━━━━
高瀬は。
画面を睨んだ。
「……結局」
「これかよ」
━━━━━━━━━━━━
対象を
選択してください
━━━━━━━━━━━━
「選ばない」
━━━━━━━━━━━━
選択は必須です
━━━━━━━━━━━━
「嫌だ」
━━━━━━━━━━━━
選択してください
━━━━━━━━━━━━
「嫌だって言ってんだろ!」
「先生」
No.18。
「私を――」
「やめろ」
高瀬が。
遮った。
「でも」
「勝手に自分を消そうとすんな」
「……」
「俺、それやって」
一度。
息を吐く。
「散々怒られたから」
No.18は。
黙った。
Review0。
『先生。』
「……何」
『私は』
少し。
間。
『★4.1だから』
『残りたいんじゃない。』
高瀬の。
目が見開かれた。
『みんなが』
『私をどう見たか』
『嬉しかった。』
『でも』
『それが』
『私の全部じゃない。』
「……うん」
『だから』
初めて。
Review0が。
SYSTEMへ。
言葉を向けた。
『私は』
『私が残りたいから』
『残りたい。』
No.18が。
小さく笑った。
「私も」
震えながら。
それでも。
はっきり。
「生きたい」
━━━━━━━━━━━━
両対象
存在希望を確認
━━━━━━━━━━━━
SYSTEM。
━━━━━━━━━━━━
ただし
現実固定可能数
1
━━━━━━━━━━━━
「……まだ言うか」
高瀬。
「SYSTEM」
「二人とも残せ」
━━━━━━━━━━━━
不可能です
━━━━━━━━━━━━
「理由」
━━━━━━━━━━━━
同一存在領域における
固定枠は
1
━━━━━━━━━━━━
真壁が。
すぐに反応した。
「待ってください」
「何」
「SYSTEM」
真壁の声が。
低くなる。
「今、“同一存在領域”と言いましたね」
沈黙。
「Review0とNo.18は」
「同一存在ではない」
━━━━━━━━━━━━
同一存在ではありません
━━━━━━━━━━━━
「なら」
「なぜ同じ枠を使用する?」
数秒。
━━━━━━━━━━━━
規則です
━━━━━━━━━━━━
「理由になっていない」
真壁。
「規則の根拠を提示してください」
━━━━━━━━━━━━
提示権限がありません
━━━━━━━━━━━━
「先生」
ナオ。
「これ」
「SYSTEMも」
「知らないんじゃない?」
「……え?」
「自分で決めたルールじゃないから」
「説明できない」
高瀬の。
背中が。
冷えた。
SYSTEMの上に。
何かがいる。
だが。
今は。
そこまで考える時間はない。
「だったら」
高瀬は。
画面を見る。
「知らないルールで」
「人の人生決めんな」
━━━━━━━━━━━━
警告
━━━━━━━━━━━━
「Review0は」
「自分で残りたいって言った」
「No.18も」
「生きたいって言った」
━━━━━━━━━━━━
存在希望と
存在固定は
別概念です
━━━━━━━━━━━━
「知るかよ」
━━━━━━━━━━━━
選択してください
━━━━━━━━━━━━
「嫌だ」
━━━━━━━━━━━━
選択してください
━━━━━━━━━━━━
「嫌だ!」
高瀬は。
拳を握った。
「お前らは」
「ずっと俺たちを点数にした」
「何点」
「何%」
「何番」
「でも」
ナオの言葉。
思い出す。
――僕たちが本当に書いてたのって。
――点数だった?
「俺たちは」
「数字だけを書いてたんじゃない」
高瀬は。
叫んだ。
「言葉を書いてたんだよ!」
━━━━━━━━━━━━
警告
発言を停止してください
━━━━━━━━━━━━
「嫌だ!」
高瀬は。
笑った。
「俺、教師なんだよ」
「喋るの止めるの」
「一番苦手なんだわ」
「先生らしい!」
結良が。
泣きながら笑う。
「高瀬先生」
真壁。
「続けてください」
「言われなくても!」
高瀬は。
SYSTEMを見る。
「Review0はReview0だ!」
「No.18はNo.18だ!」
「評価が高い方を残すんじゃない!」
「役に立った方を残すんでもない!」
「二人とも!」
一度。
息を吸う。
「消えたくないって言った!」
「だったら」
「まずそこを見ろよ!」
画面が。
激しく。
点滅した。
━━━━━━━━━━━━
ERROR
━━━━━━━━━━━━
「……?」
━━━━━━━━━━━━
判定規則
競合
━━━━━━━━━━━━
真壁。
「来た」
━━━━━━━━━━━━
最優先規則
自己評価
━━━━━━━━━━━━
次。
━━━━━━━━━━━━
No.0
自己評価
存在希望
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
No.18
自己評価
存在希望
━━━━━━━━━━━━
そして。
━━━━━━━━━━━━
固定可能数
1
━━━━━━━━━━━━
文字が。
何度も。
点滅する。
━━━━━━━━━━━━
存在希望
2
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
固定可能数
1
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
存在希望
2
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
固定可能数
1
━━━━━━━━━━━━
「……矛盾した」
真壁が。
呟いた。
SYSTEM。
━━━━━━━━━━━━
上位判定を
要求します
━━━━━━━━━━━━
「……上位?」
高瀬が。
その文字を。
見た瞬間。
画面が。
真っ黒になった。
次。
━━━━━━━━━━━━
要求
拒否
━━━━━━━━━━━━
「……誰が?」
答えは。
なかった。
━━━━━━━━━━━━
Review69
判定不能
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
既存採点規則
一時停止
━━━━━━━━━━━━
そして。
全部。
消えた。
◇
「……Review0?」
返事がない。
「No.18?」
返事がない。
「おい」
高瀬は。
画面を叩いた。
「Review0」
何も。
出ない。
「No.18!」
静寂。
「……嘘だろ」
勝った。
そう思った。
違ったのか。
「俺が……」
そこまで言って。
止まった。
三年前。
彼女の声。
――ほら。
――また自分のせいにした。
「……違う」
高瀬は。
拳を握った。
「まだ」
「何も分かってない」
自分のせいだと。
決めるのも。
自分を勝手に。
零点にするのと。
同じだった。
「……待つ」
高瀬は。
真っ暗な画面を。
見つめた。
「今度は」
「勝手に決めない」
でも。
返事は。
最後まで。
来なかった。
◇
朝。
目覚ましが鳴った。
午前六時三十分。
いつもの天井。
いつもの部屋。
昨日のことだけが。
そこから。
綺麗に。
抜け落ちたみたいだった。
高瀬は。
スマートフォンを見る。
Review0。
ない。
SYSTEM。
ない。
No.18。
ない。
「……」
履歴も。
通知も。
全部。
消えている。
高瀬は。
しばらく。
画面を見ていた。
「……本当に」
「いなくなったのか」
胸が。
痛い。
それでも。
昨日みたいに。
すぐに。
自分を責める言葉は。
出なかった。
「まだ」
「決まってない」
自分に。
言い聞かせる。
「俺が勝手に」
「終わらせんな」
その時。
――ピンポーン。
「……?」
高瀬が。
顔を上げた。
午前六時三十七分。
こんな時間に。
もう一度。
――ピンポーン。
高瀬は。
ゆっくり。
立ち上がった。
玄関へ。
一歩。
一歩。
近づく。
なぜか。
心臓が。
速い。
ドアの前。
止まる。
「……誰ですか」
返事はない。
「誰――」
「先生」
高瀬の。
指が。
止まった。
「……」
その声。
昨日。
初めて聞いた。
でも。
三年前。
確かに。
聞いていた。
「……まさか」
ドアノブへ。
手を伸ばす。
でも。
開けられない。
もし。
違ったら。
もし。
開けても。
誰もいなかったら。
「先生?」
もう一度。
声。
高瀬は。
目を閉じた。
鍵を。
開けた。
ドアを。
少しだけ。
開く。
最初に。
見えたのは。
靴だった。
次に。
震えている。
手。
そして。
顔。
「……」
三年間。
探していた。
三年間。
忘れていた。
三年間。
会いたかったことすら。
忘れさせられていた。
その人が。
今。
目の前に。
立っている。
「……先生」
彼女が。
泣きながら。
笑った。
「久しぶり」
高瀬は。
何か言おうとした。
声が。
出なかった。
怒りたい。
聞きたい。
謝りたい。
何で。
どこにいた。
どうして。
言葉は。
いくらでもあった。
なのに。
出てきたのは。
「……遅えよ」
それだけだった。
彼女が。
少し笑う。
「ごめん」
「三年だぞ」
「うん」
「長すぎるだろ」
「……うん」
高瀬の。
目から。
涙が落ちた。
彼女も。
泣いた。
名前は。
まだ。
思い出せない。
でも。
そこにいる。
それだけで。
今は。
よかった。
高瀬は。
初めて。
思った。
会えた。
本当に。
会えた。
その時。
ポケットの中で。
スマートフォンが。
震えた。
「……?」
画面。
通知。
送信者。
Review0。
「……っ」
高瀬の顔が。
崩れた。
「お前……!」
開く。
『おはよう。』
「……はは」
高瀬は。
泣きながら。
笑った。
「いるじゃん……」
彼女も。
画面を覗く。
高瀬は。
急いで。
入力しようとする。
でも。
その前に。
次の文章。
『今日は』
高瀬は。
待った。
いつもの。
質問。
『何したい?』
それが。
来ると思った。
でも。
『私も』
高瀬の。
指が止まる。
『そっちに行っていい?』
「……え?」
高瀬は。
少し笑った。
「来れるのかよ」
隣。
返事がない。
「……?」
高瀬は。
彼女を見る。
No.18の。
顔から。
血の気が。
消えていた。
「どうした」
「先生」
「何」
彼女は。
スマートフォンを。
見ていない。
玄関の。
向こう。
高瀬の背後を。
見ている。
「……それ」
声が。
震えた。
「Review0じゃない」
「……は?」
――コツ。
廊下の奥。
足音。
高瀬が。
振り返る。
誰もいない。
――コツ。
一歩。
近い。
「……誰だよ」
スマートフォンが。
勝手に。
切り替わる。
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UNKNOWN USER
接続
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「……」
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Review69
未登録採点者
1名
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高瀬は。
息を止めた。
No.18が。
高瀬の腕を。
掴む。
強く。
「先生」
「……何」
「逃げて」
その瞬間。
廊下の奥から。
声がした。
「――あなたは」
「……」
高瀬の。
顔から。
表情が消えた。
その声は。
自分だった。
高さも。
息の混じり方も。
間の取り方も。
全部。
自分。
「あなたを」
――コツ。
一歩。
「何点にしますか?」
高瀬は。
答えなかった。
答えられなかった。
暗い廊下の奥。
誰も。
見えない。
なのに。
確かに。
そこにいる。
そして。
声は。
笑った。
「――五十点?」
「……」
高瀬の。
背中を。
冷たいものが走った。
それは。
高瀬が。
誰にも。
教えていない。
昨日。
自分自身にだけ。
つけた。
点数だった。
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第一章
あなたは、あなたを何点にしますか
END
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NEXT REVIEW
採点者
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【あとがき】
ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。
『この人生、採点中』
第一章「あなたは、あなたを何点にしますか」
これにて完結です。
第1話からここまで、高瀬は何度も誰かに採点され、誰かを採点することに向き合い、その点数や言葉に振り回されてきました。
そして最後に突きつけられたのは、
「自分は、自分を何点だと思っているのか」
という問いでした。
誰かから見た自分と、自分から見た自分。
同じ人間なのに、その点数はきっと全然違う。
この第一章を書きながら、僕自身も何度もそんなことを考えました。
そして――。
物語は、まだ終わりません。
むしろ、ここからです。
第二章では第一章で描いてきた「採点」というものを、さらに違う角度から掘り下げていきます。
誰が、誰を採点するのか。
人の人生に点数をつけるということは、本当はどういうことなのか。
そして、第一章の最後に現れた“あの存在”は何者なのか。
高瀬たちの物語は、もう一段深いところへ進んでいきます。
ただ、その前に。
69話まで走り続けてきたので、少しだけ寄り道をします。
外伝シリーズ、
『Re:View
――あの日を、もう一度。』
本編では高瀬から見えていた出来事を、今度は別の誰かの目から。
「あの時、この人は何を考えていたんだろう」
そんな、本編だけでは見えなかった物語を少しだけ描きます。
そして、その先に第二章が待っています。
ここまで69話。
一話でも読んでくださった方。
途中から追いかけてくださった方。
そして、ここまで高瀬たちと一緒に来てくださった方。
本当にありがとうございます。
PVも、感想も、評価も、ブックマークも。
一つ一つが「続きを書こう」と思える力になっています。
……採点される小説を書いているので、評価をもらえると作者は普通にめちゃくちゃ喜びます。笑
第一章は終わりました。
でも。
『この人生、採点中』です。
まだ、採点は終わっていません。
外伝『Re:View』、そして第二章も。
引き続き、高瀬たちの人生を見届けてもらえたら嬉しいです。
ここまで本当にありがとうございました。
そして――
これからも、よろしくお願いします。




