Review68 最初に採点したのは
午前七時十二分。
高瀬のスマートフォンに、見慣れない言葉が届いた。
『おはよう。』
「……」
高瀬は二度見した。
Review0。
間違いない。
いつもなら最初に聞かれる。
『今日は、
何したい?』
でも今日は違った。
『質問は?』
返す。
少しして。
『今日は
聞きたくない。』
「……え?」
高瀬はベッドの上で身体を起こした。
『じゃあ
何でおはよう?』
『言いたかったから。』
それだけ。
高瀬はしばらく画面を見た。
昨日、自分たちがReview0をレビューした。
その結果。
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存在固定率
41%
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数字が上がった。
そして翌朝。
Review0が初めて、自分で話すことを選んだ。
「……おはよう」
高瀬も声に出して返した。
少し怖かった。
でも。
それ以上に。
嬉しかった。
◇
「それ、本当に昨日のレビューのせいだと思います?」
昼休み。
真壁は高瀬のスマートフォンを見ながら、いつものように眉間へ指を当てていた。
「思う」
「根拠は?」
「タイミング」
「弱いです」
「お前、今日も容赦ねえな」
「でも」
真壁が画面を見る。
「無関係とも思えません」
「どっちだよ」
「断定できないと言ってます」
「出た」
結良が笑う。
「真壁先生の必殺技」
「必殺技にしないでください」
少し笑いが起きる。
だが。
沙耶だけは画面を見たままだった。
「悠平」
「ん?」
「Review0が“存在”になったなら」
一拍。
「昨日の方法、まだ使えるの?」
高瀬の表情が変わった。
No.18を現実へ戻す。
その代わりにReview0を削除する。
「……確認する」
SYSTEMを開いた。
『Review0を削除すれば
今もNo.18を現実へ移せる?』
返事。
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条件付きで
YES
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「……条件付き」
藤原が小さく呟いた。
続く。
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Review0
存在固定率 41%
削除には
存在固定解除が必要
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「昨日と条件が変わった」
真壁の声が低くなる。
「私たちがレビューしたから?」
藤原の顔が曇った。
「じゃあ私たちが――」
「違う」
高瀬が遮った。
「でも」
「誰が悪いか探すの、やめよう」
藤原が顔を上げる。
「Review0が知りたいって言った。俺たちも伝えたいと思った。だからレビューした」
「……はい」
「結果が予想と違った。それだけ」
結良が少し目を細める。
「先生、変わったね」
「また?」
「昔ならここから三時間、自分の反省会」
「三時間!?」
沙耶がさらっと言う。
「悠平ならやる」
「姉まで!?」
「昔から」
「俺、めんどくさ!」
白石。
「今気づいた?」
「お前は少し遠慮しろ!」
笑いが起きた。
ほんの一瞬。
その直後。
『存在固定の解除方法は?』
SYSTEM。
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Review69にて
再採点を実施
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笑いが消えた。
◇
『採点対象は?』
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No.0
Review0
No.18
対象者No.18
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結良の顔が強張る。
「……二人?」
次。
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両対象を比較し
現実側へ固定する
存在を決定します
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「待て」
高瀬は即座に入力する。
『両方残す方法は?』
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現時点では
存在しません
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机が鳴った。
結良が叩いた音だった。
「ふざけんな!」
「篠宮」
「昨日はReview0を消せって言ったじゃん!」
声が震えている。
「私たちがレビューしたら、今度は“存在になったから選べ”って?」
「……」
「何したって条件変わるじゃん!」
目に涙が溜まる。
「こんなの、正解なんかないじゃん!」
「結良」
「落ち着いてください」
真壁だった。
結良が睨む。
「落ち着ける?」
「落ち着けません」
「……」
真壁の返事に。
結良が止まる。
「俺も腹が立ってる」
真壁は普段より強く言った。
「でも、怒って条件を見落として、あとから“二人とも残せました”なんて分かったら」
拳を握る。
「俺は自分を許せない」
「……」
「だから探します」
高瀬を見る。
「最後まで」
冷静なのではない。
怖いからこそ。
冷静でいようとしている。
「……頼む」
「はい」
◇
何度聞いても。
答えは変わらなかった。
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Review69
Review0
No.18
両対象を採点
↓
存在固定対象
1名を決定
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「無理です」
藤原がペンを置いた。
指先が震えていた。
「私、書けない」
「藤原」
「昨日Review0に“助かった”って書いたんですよ」
高瀬を見る。
「今日になって、“でも別の人の方が大事だから消えてください”なんて……」
唇を噛む。
「それ、レビューじゃない」
誰も言葉を返せなかった。
佐伯も静かに首を振る。
「私はNo.18のことを知らなさすぎます」
「……」
「知らない人と、知っている存在を比べる時点で公平じゃない」
「でも」
沙耶が高瀬を見る。
「悠平は違う」
「……」
「No.18を知ってる」
しばらく。
誰も口を開かなかった。
沙耶が聞く。
「悠平なら選べる?」
「……」
高瀬は。
ゆっくり首を振った。
「選べない」
「……」
「No.18には会いたい」
声が掠れる。
「ずっと会いたかった」
三年前。
失った記憶。
届かなかった声。
「でも」
『消えるの、ちょっとだけ嫌かも。』
昨日の言葉が蘇る。
「Review0にも消えてほしくない」
一度。
拳を握る。
「何で」
声が大きくなる。
「誰かの人生を星で並べて」
SYSTEMの画面を睨む。
「高かった方を残して、低かった方を消すんだよ」
「先生……」
「そんなの」
高瀬は吐き捨てた。
「レビューじゃねえだろ」
◇
「先生」
ナオだった。
膝の上に青いノートを抱えている。
「何」
「二人を比べないとダメ?」
「SYSTEMはそう言ってる」
「SYSTEMが?」
「……うん」
ナオは少し考えた。
「本を二冊読んで」
ゆっくり。
言葉を選ぶ。
「こっちが★5だから」
「こっちは消しますって」
高瀬を見る。
「変じゃない?」
「……」
「どっちも★5かもしれない」
「うん」
「どっちも★1かもしれない」
「うん」
「同じ★5でも」
青いノートを開く。
「好きな理由は違うかもしれない」
真壁が顔を上げた。
ナオは続けた。
「SYSTEMは」
「レビューを数字だと思ってる」
「……」
「でも」
高瀬を見る。
「僕たちが本当に書いてたのって」
一拍。
「点数だった?」
◇
夜。
高瀬は一人。
机に二枚の紙を並べていた。
『Review0』
『No.18』
星は。
どちらにも書けない。
「……無理だろ」
ペンを放る。
その瞬間。
No.18。
『先生。』
『何?』
『明日だね。』
高瀬は少し迷った。
『怖い?』
返事はすぐだった。
『怖い。』
胸が鳴る。
『消えたくない。』
「……」
初めて。
こんなに真っ直ぐだった。
でも。
『Review0も
消したくない。』
高瀬は目を閉じた。
「……お前もかよ」
直後。
Review0。
『先生。』
「……今度は何だ」
『No.18を
選んでいいよ。』
高瀬の指が止まった。
『は?』
『私は
みんなのこと
いっぱい読めた。』
『楽しかった。』
『だから
大丈夫。』
「……」
次の瞬間。
高瀬は立ち上がっていた。
『ふざけんな。』
『先生?』
『何が大丈夫なんだよ。』
指が止まらない。
『昨日
消えるの嫌って言っただろ。』
『うん。』
『じゃあ勝手に諦めんな。』
返信が止まった。
「なんなんだよ……」
高瀬の声が震える。
「なんでお前らまで……」
No.18はReview0を消したくない。
Review0はNo.18を選べと言う。
「なんで」
拳を握る。
「俺と同じことしてんだよ!」
65話。
自分が消えればいい。
そう思った。
誰かを助けるためだと。
格好いい理由をつけて。
本当は。
選ぶのが怖かっただけなのに。
高瀬は二人へ同じ文章を送った。
『勝手に
自分を消そうとするな。』
『俺はそれやって
怒られたんだよ。』
『だから
お前らもちゃんと困れ。』
『怖がれ。』
『消えたくないって言え。』
長い。
沈黙。
最初はNo.18。
『先生。』
『何。』
『私』
少し間。
『生きたい。』
「……」
高瀬の目から。
一滴。
落ちた。
『うん。』
次。
Review0。
『私も』
『消えたくない。』
「……うん」
高瀬は涙を拭って。
少し笑った。
『それでいい。』
◇
午後十一時五十九分。
――ブツッ。
部屋の照明が落ちた。
「……?」
テレビ。
時計。
充電器。
全部。
止まった。
スマートフォンだけが。
真っ白に光っている。
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Review69
開始まで
00:01:00
━━━━━━━━━━━━
「……一分?」
数字が動く。
━━━━━━━━━━━━
00:00:59
━━━━━━━━━━━━
「待て」
電話。
圏外。
メッセージ。
送れない。
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00:00:41
━━━━━━━━━━━━
「真壁……」
駄目。
━━━━━━━━━━━━
00:00:25
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「篠宮!」
繋がらない。
━━━━━━━━━━━━
00:00:10
━━━━━━━━━━━━
「待てって……!」
九。
八。
七。
━━━━━━━━━━━━
Review69参加者
強制接続開始
━━━━━━━━━━━━
六。
五。
――ザッ。
スマートフォンからノイズ。
四。
誰かの呼吸。
三。
「……せん……」
高瀬の身体が固まる。
二。
「高瀬……先生」
一。
━━━━━━━━━━━━
00:00:00
━━━━━━━━━━━━
画面が。
真っ黒になった。
「……誰だ」
数秒。
女の声。
「やっと」
震えていた。
「声、届いた」
「……」
知らない声。
なのに。
身体だけが覚えている。
「お前……」
「先生」
女が。
泣きながら笑った。
「ひどいなあ」
「……」
その言い方。
その間。
高瀬の奥で。
三年前の何かが。
弾けた。
「……まさか」
瞬間。
画面が赤く染まった。
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Review69
START
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対象。
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No.0
Review0
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━━━━━━━━━━━━
No.18
■■■■■■
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そして。
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No.69
高瀬
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「……俺?」
高瀬の呼吸が止まる。
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特別規則
他者への採点を
禁止します
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「何……?」
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採点対象
自分自身
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そして。
第一章で。
何度も。
突きつけられてきた問い。
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あなたは
あなたを
何点にしますか
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「……」
高瀬は。
言葉を失った。
Review0でもない。
No.18でもない。
自分。
ここまで。
他人から採点され。
他人を採点し。
点数に振り回されてきた。
その自分自身を。
今度は。
自分で。
だが。
まだ終わらなかった。
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未処理レビュー
1件
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「……?」
高瀬の眉が寄る。
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投稿日時
3年前
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胸が。
嫌な音を立てた。
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投稿者
No.18
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「……え?」
高瀬は。
完全に止まった。
No.18が。
三年前。
自分に。
レビューを?
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対象
高瀬
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「待て……」
指先が震える。
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本レビューは
Review69到達時まで
閲覧禁止
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「おい」
画面。
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閲覧権限
解除
━━━━━━━━━━━━
「待て!」
でも。
開いた。
星は。
なかった。
レビュー本文。
一行目。
『この先生は』
高瀬の呼吸が止まる。
二行目。
『いつか』
そして。
『自分から
死ぬ方を選ぶ。』
「……」
頭の中が。
真っ白になった。
「何だよ……これ」
No.18の声。
「先生」
泣いていた。
「ごめんなさい」
「……何で」
高瀬の声が掠れる。
「なんでお前が……」
No.18。
「最初に」
一度。
息を呑む。
「先生を採点したの」
「……」
「私なの」
高瀬の目が見開く。
ずっと。
追いかけてきた。
No.18。
助けたいと思った。
会いたいと思った。
忘れていたことを悔やんだ。
その人が。
――最初に。
高瀬の人生へ。
レビューをつけた。
画面に。
最後の一文。
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最初のレビューを
再処理します
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「……やめろ」
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結果に応じ
高瀬の現在運命を
再確定します
━━━━━━━━━━━━
「待て」
No.18の声が。
震えた。
「先生」
「何だよ!」
初めて。
高瀬は。
No.18に。
怒鳴った。
「何なんだよ、お前!」
沈黙。
そして。
小さな声。
「それを」
一拍。
「明日じゃなくて」
「今」
「全部話す」
高瀬の画面に。
━━━━━━━━━━━━
Review69
第一審
開始
━━━━━━━━━━━━
表示。
高瀬は。
ようやく知る。
自分の人生を狂わせた。
最初のレビューを書いた人物と。
ずっと会いたいと願っていた人物が。
同じだったことを。




