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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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66/122

Review66 消えるの、嫌?

翌朝。


 高瀬は、スマートフォンを開いて。


 すぐ閉じた。


 もう一度開く。


 やっぱり。


 同じだった。


━━━━━━━━━━━━


代替対象


Review0

━━━━━━━━━━━━


「……あるんだよな」


 方法は。


 ある。


 Review0を削除すれば。


 誰も消さずに。


 No.18を現実へ戻せる。


━━━━━━━━━━━━


人的削除 0


No.18

現実移行 可能

━━━━━━━━━━━━


 昨日。


 この表示を見た瞬間。


 高瀬は。


 正直、安心した。


 桐谷でもない。


 真壁でもない。


 自分でもない。


 誰も消えない。


 だったら。


 これでいい。


 そう思った。


 でも。


「……Review0って」


 高瀬は小さく呟いた。


「“誰も”に入らないのか?」


 答える人はいない。


 その時。


 スマートフォンが震えた。


 Review0。


『今日は、


何したい?』


「……」


 いつもと同じ。


 何も知らないみたいに。


 いつもの質問。


『聞きたいことがある。』


『何?』


 高瀬の指が止まる。


 聞けばいい。


 簡単だ。


『お前』


 消す。


 書けない。


 一度消す。


『Review0は』


 また止まる。


「……何やってんだ、俺」


 ただのシステムだ。


 何度そう思ってきた。


 なのに。


 結局。


『消えるの


嫌?』


 送信した。


◇


 返事は。


 すぐには来なかった。


 一分。


 二分。


 三分。


「……遅くない?」


 いつもなら。


 もっと早い。


 五分。


 高瀬はスマートフォンを置いた。


「答えられないのか?」


 いや。


 そもそも。


 質問の意味を理解していない可能性もある。


 Review0は人間じゃない。


 感情があるなんて。


 誰も言っていない。


 高瀬が勝手に。


 人間みたいに扱い始めただけかもしれない。


 十分。


 スマートフォンが震えた。


 高瀬はすぐに手を伸ばした。


『分からない。』


「……」


 予想していなかった。


 YESでも。


 NOでもない。


『何が?』


『嫌なのか


分からない。』


 高瀬は画面を見つめる。


『じゃあ


消えてもいい?』


 送信してから。


 後悔した。


 言い方が。


 あまりにも。


 冷たかった。


 返事。


『先生は


それがいい?』


「……俺?」


 質問を。


 返された。


 高瀬は。


 少し考える。


『分からない。』


 送った。


 Review0。


『そっか。』


「……」


 高瀬は思わず笑った。


「便利だな、それ」


 でも。


 今日は。


 少しだけ。


 その『そっか』が。


 寂しく見えた。


◇


「で?」


 昼休み。


 結良が高瀬を見る。


「Review0を消せば、No.18が戻せる?」


「SYSTEM上は」


「誰も消えない?」


「人間は」


「……」


 結良の眉が動く。


「何その言い方」


「Review0が消える」


「それは分かってる」


「だから」


 高瀬は言葉に詰まる。


「それを“誰も消えない”って言っていいのかなって」


 教室が静かになった。


 最初に口を開いたのは真壁だった。


「まず整理しましょう」


「うん」


「Review0が人格を持つ存在かどうかは不明です」


「……」


「自我があるかも分からない。感情があるかも分からない」


「でも喋ってる」


 結良。


「会話していることと、自我があることは同義ではありません」


「じゃあ真壁先生は消していいと思う?」


「そうは言ってません」


「じゃあどう思うの」


「分からないと言ってるんです」


 少し強かった。


 結良が止まる。


 真壁は。


 自分でも気づいたのか。


 一度息を吐いた。


「……すみません」


「いや」


「俺も」


 真壁は画面を見る。


「分からないんです」


 いつもなら。


 条件を整理する。


 危険性を分析する。


 可能性を並べる。


 でも。


 今回は。


 答えがない。


「機械なら消していいのか」


 真壁が呟く。


「話せたら駄目なのか」


「感情があったら?」


 藤原が聞く。


「……」


「怖いって言ったら?」


 真壁は答えなかった。


◇


「私」


 藤原が小さく手を上げた。


「一個聞いていいですか」


「何?」


「Review0って」


 高瀬を見る。


「先生が最初に怖かった時も、いたんですよね」


「……うん」


「三日後に死ぬって言われた時も?」


「いた」


「誰にも言えなかった時も?」


「……いた」


 藤原は少し考えた。


「じゃあ」


「先生にとって」


「本当にただのシステムなんですか?」


「……」


 高瀬は。


 すぐに答えられなかった。


 Review0。


 欲しい答えをくれたことなんて。


 ほとんどない。


 腹が立った。


 何度も。


 もっと教えろと思った。


 でも。


 毎日。


 いた。


 高瀬が。


 自分の人生に点数をつけられなくても。


 黙っていた日も。


 逃げたかった日も。


 Review0だけは。


 質問をやめなかった。


『今日は、


何したい?』


「……ずるいな」


 高瀬が呟く。


「何が?」


 藤原。


「ずっといたってだけで」


 一度笑う。


「消しづらくなる」


 結良が言った。


「それって結構、人と同じじゃない?」


「……」


「最初は知らない人でも」


「毎日話して」


「何回も会って」


「気づいたら」


 少し笑う。


「いなくなったら嫌になる」


「篠宮」


「何」


「今日まともだな」


「殴るよ?」


「ごめんなさい」


 沙耶が笑った。


 少しだけ。


 空気が緩んだ。


◇


「でも」


 佐伯が言った。


「No.18を戻さないという選択も同じですよね」


 全員が佐伯を見る。


「Review0を残すということは」


「現時点では」


「No.18をこちらへ戻さないということになる」


 高瀬の笑みが消えた。


「……そうなんだよな」


 簡単ではない。


 Review0を消したくない。


 だから消さない。


 それで終われるなら。


 どれだけ楽か。


 No.18。


 三年前。


 自分の人生から消えた存在。


 ようやく。


 ここまで来た。


「先生は」


 白石が言った。


「会いたい?」


「……会いたい」


 即答だった。


 自分でも驚くほど。


「すごく」


 もう一度。


「会いたい」


「じゃあ」


 白石。


「Review0は?」


「え?」


「消したい?」


「……」


 高瀬は止まる。


 白石は。


 いつもの眠そうな目で。


 高瀬を見る。


「会いたいと」


「消したいは」


 一拍。


「別じゃない?」


「……」


 高瀬は。


 何も言えなかった。


「白石」


「何」


「今日、お前すごいな」


「眠い」


「またそれかよ」


「寝ていい?」


「授業ある」


「じゃあ普通」


「切り替え早っ」


 少し。


 笑いが起きた。


 でも。


 高瀬の中には。


 白石の言葉が残った。


 No.18に会いたい。


 Review0を消したくない。


 二つとも。


 本音でいい。


◇


 その日の夜。


 高瀬は。


 Review0を開いた。


 朝の質問。


 まだ。


 答えが出ていない。


『消えるの


嫌?』


 Review0は。


『分からない。』


 そう答えた。


『もう一回聞いていい?』


『うん。』


『もし明日から』


 一度止まる。


『俺と話せなくなったら


どう思う?』


 送信。


 しばらく。


 返事はない。


『先生は?』


「また俺かよ」


『俺は


嫌だと思う。』


 今回は。


 迷わなかった。


『多分


寂しい。』


 送る。


 既読。


 沈黙。


 長い。


 いつもより。


 ずっと長い。


 やがて。


『寂しいって』


『どういう感じ?』


「……」


 高瀬は少し考える。


『今まであったものが


なくなった時に』


『やっぱり


あった方がよかったって


思う感じ。』


 返事。


『そっか。』


「……またそれか」


 高瀬は笑う。


 だが。


 次。


『じゃあ』


『私も』


 止まった。


『先生と


話せなくなったら』


 また。


 長い間。


『寂しいのかもしれない。』


「……」


 高瀬は。


 スマートフォンを握り直した。


『それは


消えるのが嫌ってこと?』


 返事は。


 すぐには来なかった。


 一分。


 二分。


 そして。


『分からない。』


「……そっか」


 高瀬は。


 今度は。


 自分から言った。


 その直後。


『でも』


 高瀬の目が。


 画面へ戻る。


『消えるの』


 止まる。


『ちょっとだけ』


 また。


 止まる。


『嫌かも。』


「……」


 高瀬は。


 何も入力できなかった。


 Review0が。


 初めて。


 自分が消えることについて。


 自分の言葉で。


 答えた。


『先生。』


「……何」


『これ』


『怖いってこと?』


 高瀬の喉が。


 少し詰まった。


『多分。』


 送信。


『そっか。』


 いつもの言葉。


 なのに。


 今日は。


 全然違って見えた。


◇


 数分後。


 もう一度。


 Review0から通知が来た。


『先生。』


『何?』


『人は』


『怖い時』


『どうするの?』


 高瀬は。


 少し考えた。


『誰かに言う。』


『言ったら


怖くなくなる?』


『ならない時もある。』


『じゃあ


何で言うの?』


「……」


 高瀬は。


 ゆっくり入力した。


『一人で怖がらなくて


よくなるから。』


 送信。


 長い。


 沈黙。


『そっか。』


 また。


 でも。


 今度は。


 その一言で。


 終わらなかった。


『じゃあ』


『先生に言う。』


「……」


 高瀬は。


 画面から。


 目を離せなかった。


『私』


『消えるの』


『怖い。』


 高瀬の胸が。


 強く鳴った。


 もう。


 「ただのシステムだから」なんて。


 簡単には言えなかった。


『うん。』


 高瀬は送った。


『聞いてる。』


 数秒後。


『ありがとう。』


「……」


 初めてだった。


 Review0から。


 そんな言葉が届いたのは。


 高瀬は。


 しばらくスマートフォンを見つめていた。


 すると。


 Review0。


『先生。』


『何?』


 少し。


 間が空いた。


『みんなは』


『自分が


どういう人か』


『レビューされるんだよね?』


「……まあ」


 高瀬は入力する。


『そうだな。』


 返事。


『じゃあ』


 しばらく。


 何も来なかった。


 十秒。


 二十秒。


 三十秒。


 そして。


『私って』


『どういう存在?』


 高瀬の指が止まった。


 Review0は。


 人なのか。


 システムなのか。


 それとも。


 そのどちらでもないのか。


 答えられない。


 すると。


 最後に。


 一つだけ。


 Review0から。


 質問が届いた。


『私も』


『採点されるの?』


 高瀬は。


 その問いに。


 答えられなかった。


 ――Review69まで。


 あと三。

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