Review64 六十九に、いない人
午前七時五十二分。
「高瀬先生」
「はい」
「今日、変です」
「朝一番に言う?」
藤原は高瀬の顔を見た。
「先生じゃないです」
「よかった」
「よくはないです」
「どっち」
藤原が無言でスマートフォンを差し出した。
「これ」
「……?」
画面にはReview0。
『今日は、
何したい?』
「いつものじゃん」
「下」
高瀬がスクロールする。
『今日、
六十九で何したい?』
「……」
指が止まった。
「増えてる」
「はい」
「俺のは……」
自分のスマートフォンを開く。
『今日は、
何したい?』
その下。
『今日、
六十九で何したい?』
「ある」
「……」
二人。
顔を見合わせる。
「先生」
「何」
「何したいですか」
「え」
「六十九で」
「……」
高瀬は画面を見る。
昨日。
No.18が言った。
『ここからは
69の方が
近づいてくる。』
「……まだ分からん」
「私もです」
「じゃあ」
高瀬は入力する。
『まだ分からない。』
送信。
『そっか。』
「強いな、こいつ」
「何がですか」
「何でも受け止める」
「先生も最近そうですよ」
「俺?」
「そっか」
「……」
「そっか」
「やめて」
「そっか」
「腹立つな!?」
藤原が笑う。
高瀬もつられて笑った。
その時。
「朝から楽しそうですね」
真壁。
「おはよう」
「おはようございます」
「真壁も来た?」
「何がですか」
「二個目の質問」
「来ました」
「何て答えた?」
「言いたくありません」
「……」
高瀬。
一拍。
「そっか」
「今の」
藤原が笑う。
「上手でした」
「何の評価!?」
◇
午前八時十一分。
職員室。
沙耶も来た。
佐伯も。
桐谷。
桐谷。
「……」
高瀬は二人を見る。
「やっぱり朝から強い」
「何が」
「絵面」
「まだ言う?」
戻った玲司が呆れる。
「慣れない?」
「慣れたけど」
「じゃあいいだろ」
「慣れた上で面白い」
「最悪」
現実側桐谷が鞄を置く。
「で」
「何で集めた」
「集めてない」
「じゃあ何」
「みんな勝手に来た」
「職員室だからな」
「……」
高瀬。
「確かに」
沙耶がため息をつく。
「朝から大丈夫?」
「姉に心配された」
「姉だから」
「昨日それ減っただろ!」
「SYSTEM上ではね」
「ちゃんと姉だった」
「ちゃんと弟だった?」
「そこは微妙」
「何で!」
佐伯が笑う。
「朝から元気ですね」
「真由まで!」
「褒めてます」
◇
「で」
高瀬がスマートフォンを出す。
「これ」
全員。
確認する。
『今日、
六十九で何したい?』
少しだけ。
空気が変わった。
沙耶。
「私にも来た」
佐伯。
「私も」
二人の桐谷。
「ある」
「俺も」
真壁。
「全員ですね」
「多分」
高瀬が言う。
「69が」
「俺たちに」
「質問し始めた」
「……」
沙耶。
「No.18が言ってたこと?」
「多分」
「多分」
真壁が繰り返す。
「先生」
「何」
「今」
「ちゃんと多分って言いましたね」
「……」
高瀬。
少し笑う。
「成長した?」
「採点します?」
「やめろ!」
◇
昼休み。
空き教室。
結良。
白石。
ナオ。
高瀬。
「じゃあ」
結良が言った。
「全員」
「来てる?」
「二個目?」
「うん」
白石。
「来た」
ナオ。
「僕も」
結良。
「私も」
高瀬。
「何て答えた?」
「先生」
「……」
結良がじっと見る。
「あ」
「また」
「言いたかったら」
「学習」
「してる」
「してる!」
結良は少し笑う。
「私は」
「帰りたいって」
「書いた」
「……」
高瀬。
反応しそうになる。
でも。
「そっか」
「……」
結良。
眉を寄せる。
「今の」
「何」
「ちょっと腹立つ」
「何で!?」
「便利に使いすぎ」
「難しい!」
白石が笑う。
「先生」
「極端」
「じゃあ何て言えばいい?」
「普通に」
「そうなんだ、とか」
「同じじゃん!」
「違う」
「日本語難しい!」
◇
ナオが手を挙げた。
「僕」
「書いた」
「何て?」
「続きを書きたい」
「69で?」
「うん」
「……」
高瀬。
少し意外だった。
「小説?」
「多分」
「何で69で?」
「分からない」
ナオは青いノートを見る。
「でも」
「69って聞いた時」
「最初に」
「それが浮かんだ」
「……」
「なら」
白石。
「それでいいんじゃない」
「うん」
高瀬。
「白石は?」
「言いたい」
「お」
「寝たい」
「……」
「69で?」
「うん」
「何で!?」
「最近眠い」
「お前それゲームだろ!」
「昨日は十二時に寝た」
「成長してる!」
「普通」
「出た!」
結良が吹き出す。
「69で寝る人」
「初めて見た」
「まだ誰も行ってない」
「確かに」
◇
高瀬は笑いながら。
ふと思った。
これでいい。
69。
特別な日。
何かが起きる日。
でも。
そこにいるのは。
いつもの人たちだ。
帰りたい。
続きを書きたい。
寝たい。
そんな答えでもいい。
「先生は?」
結良。
「俺?」
「何したい」
「……」
高瀬。
少し考える。
「まだ」
「分からない」
「ふーん」
「何」
「前なら」
「誰かを助けたい」
「って言ってた」
「……」
高瀬。
少しだけ。
目を伏せる。
「そうかも」
「今は?」
「会いたい」
「……」
結良の表情が変わる。
「No.18に?」
「うん」
「助けたいじゃなく?」
「うん」
高瀬は。
自分でも確かめるように。
もう一度。
「会いたい」
それだけだった。
◇
午後三時十九分。
異変は。
かなり地味に始まった。
「先生」
ナオが高瀬を呼ぶ。
「何」
「これ」
スマートフォン。
━━━━━━━━━━━━
Review69
参加予定者
11名
━━━━━━━━━━━━
「……参加予定者?」
結良も開く。
「私も出てる」
白石。
「俺も」
高瀬。
自分の画面。
━━━━━━━━━━━━
Review69
参加予定者
11名
━━━━━━━━━━━━
「十一」
高瀬。
「今いるメンバー?」
「数えよう」
結良が指を折る。
「先生」
「私」
「悠真」
「ナオ」
「藤原先生」
「真壁先生」
「佐伯先生」
「沙耶さん」
「桐谷先生」
「桐谷先生」
「……」
止まる。
「十」
「一人足りない」
「No.18?」
高瀬。
「多分」
結良。
「じゃあ十一」
「合う」
白石が画面を見る。
「でも」
「名前ない」
「……」
表示は。
人数だけ。
高瀬。
「SYSTEM」
「何で人数だけ」
返事。
━━━━━━━━━━━━
参加者情報は
順次確定します。
━━━━━━━━━━━━
「順次?」
次.
━━━━━━━━━━━━
現在
10/11名
確定。
━━━━━━━━━━━━
「……」
高瀬。
眉を寄せる。
「一人」
「未確定?」
結良。
「No.18じゃない?」
「……」
高瀬。
少し。
嫌な感じ。
でも。
決めない。
「分からん」
白石。
「うん」
高瀬。
「今はそれで」
◇
午後四時二分。
全員。
集まった。
今回は。
高瀬が呼んだ。
「すみません」
高瀬。
「久しぶりに」
「集合」
「本当に久しぶり」
沙耶。
「二日くらい?」
「短!」
玲司。
「感覚おかしくなってる」
「毎日集まってたからな」
現実側桐谷。
「会議好き」
佐伯。
「嫌い!」
高瀬。
「毎回長いし!」
藤原。
「先生が長くするんです」
「俺!?」
「主に」
「反省します」
「早い」
◇
参加予定者。
十一名。
現在。
十名確定。
「まず」
高瀬。
「ここにいるのが」
俺。
藤原。
真壁。
佐伯。
沙耶。
二人の桐谷。
結良。
白石。
ナオ。
「十人」
「はい」
「じゃあ」
沙耶。
「No.18が十一人目」
「……」
高瀬。
「そう思う」
「でも」
「決めない?」
「うん」
「昨日言われたから?」
「それもある」
高瀬は画面を見る。
「69は」
「意味をつけたものから使う」
「……」
藤原。
「じゃあ」
「私たちが」
「十一人目はNo.18だって」
「決めたら」
「それを使われる?」
「可能性」
「……」
結良。
「めんどくさ」
「分かる」
高瀬。
「俺も」
「めちゃくちゃ」
「めんどくさい」
真壁。
「先生」
「何」
「今」
「考えるの」
「嫌になってません?」
「ちょっと」
「珍しい」
「俺だって疲れる!」
◇
その時。
SYSTEM。
━━━━━━━━━━━━
Review69
参加予定者情報を更新。
━━━━━━━━━━━━
全員。
画面を見る。
━━━━━━━━━━━━
11名
↓
10名
━━━━━━━━━━━━
「……」
空気。
止まる。
「減った?」
沙耶。
高瀬。
「何で」
SYSTEM.
━━━━━━━━━━━━
参加条件を
満たさない対象を
除外しました。
━━━━━━━━━━━━
「誰」
返事.
━━━━━━━━━━━━
情報開示を開始。
━━━━━━━━━━━━
名前。
一つずつ。
表示される。
━━━━━━━━━━━━
高瀬
参加
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
藤原
参加
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
真壁
参加
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
佐伯
参加
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
橘沙耶
参加
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
桐谷玲司
参加
━━━━━━━━━━━━
次。
━━━━━━━━━━━━
桐谷玲司
参加
━━━━━━━━━━━━
「二人とも」
玲司。
「うん」
現実側。
少し。
息を吐く。
続く。
━━━━━━━━━━━━
篠宮結良
参加
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
白石悠真
参加
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━
ナオ
参加
━━━━━━━━━━━━
十人。
終わった。
「……」
高瀬。
画面を見る。
「No.18」
いない。
沙耶。
「やっぱり」
「十一人目が」
「No.18だった?」
SYSTEM.
━━━━━━━━━━━━
否定。
━━━━━━━━━━━━
「……え?」
高瀬。
顔。
上げる。
「じゃあ」
「十一人目」
「誰」
返事。
━━━━━━━━━━━━
該当情報は
削除されました。
━━━━━━━━━━━━
「削除?」
真壁。
「誰かいた」
「でも」
「いなくなった?」
高瀬。
「待って」
「じゃあNo.18は」
SYSTEM.
━━━━━━━━━━━━
対象No.18は
Review69参加者として
登録されていません。
━━━━━━━━━━━━
「……」
高瀬。
息。
止まる。
「何で」
SYSTEM.
━━━━━━━━━━━━
参加条件を
満たしていません。
━━━━━━━━━━━━
「条件って何」
返事.
━━━━━━━━━━━━
Review69は
現実側存在を
対象とします。
━━━━━━━━━━━━
「……」
誰も。
すぐには。
言わなかった。
結良。
小さく。
「現実側」
高瀬。
画面。
見つめる。
「No.18は」
「現実側じゃない?」
SYSTEM.
━━━━━━━━━━━━
YES
━━━━━━━━━━━━
胸。
強く。
鳴る。
「じゃあ」
「俺たちが69に行っても」
「No.18には」
「会えない?」
返事.
━━━━━━━━━━━━
質問形式が
不正確です。
━━━━━━━━━━━━
「……何が」
高瀬。
声。
少し。
強くなる。
SYSTEM.
━━━━━━━━━━━━
Review69に
『行く』
という処理は
存在しません。
━━━━━━━━━━━━
「……」
真壁。
顔。
変わる。
「先生」
「何」
「俺たちが」
「69に行くんじゃない」
「……」
昨日。
No.18。
『ここからは
69の方が
近づいてくる。』
高瀬。
ゆっくり。
息を吐く。
「69が」
「こっちに来る」
「……」
結良。
「じゃあ」
「No.18は?」
誰も。
答えられない。
◇
その時。
高瀬のスマートフォン。
別の通知。
No.18。
「……!」
開く。
『先生。』
『今』
『SYSTEMと
話してる?』
高瀬。
『うん』
すぐ.
『69の参加者に
お前がいない』
既読.
返事.
『うん。』
「……"
『知ってた?』
『知ってた。』
高瀬.
指.
少し.
強くなる.
『何で言わなかった』
送る.
数秒.
返事.
『先生が』
『私を参加させようと
すると思ったから。』
「……"
図星.
完全に.
図星.
『参加できない?』
返事.
『できない。』
「……"
『じゃあ
69で会えない?』
長い.
返事.
『それは』
『まだ分からない。』
高瀬.
眉.
寄せる.
『どういうこと』
No.18.
『先生。』
『69で』
『私を探さないで。』
「……"
高瀬.
胸.
ざわつく.
『何で』
返事.
『探した瞬間』
『先生は』
『私がいる場所に』
『意味をつけるから。』
「……"
昨日と.
同じ.
『じゃあ
どうやって会う』
送る.
返事.
『会えるなら』
『会う。』
『会えなかったら?』
長い.
返事.
『その時は』
『会えない。』
「……"
高瀬.
少し.
腹が立つ.
寂しい.
怖い.
「何だよ」
小さく.
漏れる.
沙耶.
「悠平?」
「……」
高瀬.
画面.
見る.
昔なら.
『絶対会う』
『必ず助ける』
そう.
言った.
でも.
今.
『俺は
会いたい』
送る.
『でも
お前が会えないって
選ぶなら』
止まる.
少し.
苦しい.
『聞く』
送信.
既読.
長い.
そして.
『うん。』
次.
『私も』
『会いたい。』
「……"
高瀬.
目.
少し.
大きくなる.
『じゃあ』
No.18.
『でも』
『会いたいだけじゃ』
『会えない。』
「……"
『何が必要』
返事.
『先生が』
『私を』
『昔の私として
探さないこと。』
「……"
61話.
三年前の私も.
今の私も.
69の私も.
全部.
私.
『分かった』
打つ.
でも.
止まる.
本当に.
分かった?
まだ.
分からない.
『分かるようにする』
送る.
返事.
『それでいい。』
◇
その夜。
午後十時四十三分。
高瀬。
Review0。
『今日の自分を、
自分でどう思う?』
入力.
『69の参加者が
十人になった。』
『No.18はいなかった。』
『最初は
めちゃくちゃ焦った。』
『今も
焦ってる。』
一度.
『でも』
『いないから
連れていく』
『会えないから
探す』
『そういうのは
違う気がする。』
続ける.
『俺は
No.18に会いたい。』
『No.18も
俺に会いたいと言った。』
『今は
それだけ分かってる。』
送信.
『うん。』
「……"
高瀬.
少し.
笑う.
『あと』
『十一人目が
誰だったのか
気になる。』
送る.
『うん。』
「そこも」
「そっかで」
「終われよ」
一人.
笑う.
でも.
直後.
SYSTEM.
━━━━━━━━━━━━
Review69
参加者
10名
━━━━━━━━━━━━
次.
━━━━━━━━━━━━
非参加者
1名
━━━━━━━━━━━━
「……"
高瀬.
眉.
寄せる.
さっき.
十一人目は.
削除された.
なのに.
非参加者.
一名.
━━━━━━━━━━━━
非参加対象
No.18
━━━━━━━━━━━━
「……"
高瀬.
画面.
見る.
次.
━━━━━━━━━━━━
理由
現実側存在ではないため
━━━━━━━━━━━━
ここまでは.
知ってる.
でも.
その下.
━━━━━━━━━━━━
補足
対象No.18は
Review69発生時点で
現実側存在へ
移行する可能性があります。
━━━━━━━━━━━━
「……え」
高瀬.
身体.
起こす.
━━━━━━━━━━━━
移行条件
未達成
━━━━━━━━━━━━
『条件は?』
入力.
━━━━━━━━━━━━
回答不可
━━━━━━━━━━━━
「……"
高瀬.
息.
吐く.
「そこ」
「教えろよ」
次.
━━━━━━━━━━━━
警告
━━━━━━━━━━━━
赤い.
文字.
━━━━━━━━━━━━
対象No.18の
現実移行が成立した場合
━━━━━━━━━━━━
少し.
間.
━━━━━━━━━━━━
現実側存在
1名を
代替削除します。
━━━━━━━━━━━━
「……"
高瀬.
完全に.
止まる.
No.18が.
こっちに.
来れば.
代わりに.
誰か一人.
消える.
「……ふざけんな」
小さく.
声.
出る.
そして.
SYSTEM.
━━━━━━━━━━━━
Review69まで
あと5
━━━━━━━━━━━━
高瀬は.
初めて.
69に.
来てほしくないと.
思った。




