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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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63/119

Review63 返事がない日

 午前七時四十八分。


 高瀬は、職員室に入るなり自分の机を見た。


 何もない。


「……よし」


 小さく呟く。


 昨日は朝から沙耶のパンが置いてあった。


 だから今日は何もないことに、なぜか少し安心した。


「何が“よし”なんですか」


「うわっ」


 右から藤原の声が飛んできた。


 高瀬は肩を跳ねさせる。


「最近それ多くない?」


「何がですか」


「みんな急に現れる」


「私は最初からいました」


「……」


 高瀬は藤原の席を見る。


 鞄。


 資料。


 飲みかけのコーヒー。


 確かに、いた形跡はある。


「俺が見てない?」


「はい」


「即答」


「最近は特に」


「……改善します」


「全部?」


「何が」


「いえ」


 藤原が少し笑う。


「何でもありません」


「絶対、昨日までの俺いじってるだろ」


「気のせいです」


「顔が楽しそう!」


 そんな。


 普通の朝だった。



◇



 午前八時二分。


 高瀬はスマートフォンを開く。


 Review0。



『今日は、


何したい?』



 もう、この問いにも慣れてきた。


 少し前なら、答えを出そうとして考え込んでいた。


 今日はそこまで力まない。


「何したい……」


 授業をする。


 昼飯を食う。


 昨日、担々麺で胃が少し重い。


「……軽いもの食お」


 入力。



『昼は


軽いものを食べたい。』



 送信。


 数秒。


 いつもの。



『そっか。』



「……」


 高瀬は少し笑った。


「本当に何でも“そっか”だな」


 そして、無意識に別の入力欄を開く。



『No.18


おはよう』



 送信。


「……」


 既読。


 つかない。


 まあ。


 朝だ。


 今までだって、即座に返ってくるとは限らなかった。


 スマートフォンを伏せる。



◇



 午前十時十六分。


 二時間目。


 高瀬は授業中だった。


「じゃあ、このグラフ」


 黒板の横に映した資料を指す。


「数字だけ見れば、こっちの地域の方が豊かに見える」


 生徒たちが資料を見る。


「でも、本当にそう言い切れる?」


 一人が手を挙げた。


「物価が違ったら、同じお金でも価値が違う」


「うん。いいね」


 別の生徒。


「平均だから、一部の人がめちゃくちゃ多く持ってる可能性もある」


「それもある」


 高瀬はチョークを置いた。


「じゃあ」


 一度、教室を見渡す。


「一個の数字で、その場所に住む人全部を説明できる?」


「できない」


 何人かが答えた。


「そうだな」


 言ってから。


 少しだけ。


 止まる。


 自分でも分かった。


 また。


 SYSTEMに繋がった。


 でも。


 今日は、それ以上考えなかった。


「じゃあ、教科書七十八ページ。数字の裏に何があるか探してみよう」


 授業を続ける。


 それでいい。


 ただの社会の授業だ。



◇



 授業後。


「先生」


 結良が廊下で追いつく。


「何」


「今日の授業」


「うん」


「途中でSYSTEMのこと考えた?」


「……」


 高瀬が振り返る。


「何で分かる」


「顔」


「また顔!?」


「一瞬だけ」


「そんな分かりやすい?」


「前よりは分かりにくい」


「それ褒めてる?」


「半分」


「……」


 高瀬は苦笑する。


「でも途中でやめた」


「何を」


「考えるの」


「……」


 結良の表情が少し柔らかくなる。


「授業だったから」


「うん」


「ならいいんじゃない」


「うん」


 結良が数歩進む。


 でも。


 高瀬はその背中を見て、ふと思い出した。


「篠宮」


「何」


「今日、Review0来た?」


「来た」


「何したいって?」


 結良が振り返る。


「先生」


「……」


「それ、聞いていいか聞いた?」


「……」


 高瀬。


 完全に止まる。


「忘れてた」


「六十三点」


「今の話数みたいに言うな!」


「え?」


「いや、何でもない!」


 結良が怪訝な顔をする。


 高瀬は咳払いした。


「改めて。言いたかったら教えて」


「今日は」


 少し考えて。


「放課後、寄り道したい」


「どこ」


「まだ決めてない」


「一人?」


「そこまで聞く?」


「すみません!」


 結良が笑う。


「たぶん一人」


「そっか」


「先生」


「何」


「今の“そっか”」


「Review0みたい」


「感染した!」


「便利だよ」


「確かに」



◇



 昼。


 十二時四十分。


 高瀬は職員室で、ざる蕎麦を食べていた。


「軽い」


 藤原が見る。


「昨日の担々麺が」


「重かった」


「歳ですね」


「違う!」


「三十六」


「まだいける!」


「誰と戦ってるんですか」


「自分?」


「それ一番危ないです」


 高瀬は蕎麦をすすりながら笑った。


 その時。


 真壁が戻ってくる。


「お疲れ」


「お疲れ様です」


 手には缶コーヒー。


 ブラック。


「真壁」


「何ですか」


「今日、ブラックなんだ」


「今日もです」


「あ」


「昨日も」


「はい」


「……」


「何」


「いや、最近いろいろ変わるから」


「変わってないものもあります」


「そうだな」


 高瀬は少し笑う。


「変わらなきゃいけないわけじゃないもんな」


「はい」


 真壁が缶を開ける。


 でも。


 一口飲む前に止まった。


「……」


「真壁?」


「はい」


「今、何か見た?」


 言ってから。


 高瀬は自分で気づく。


「あ」


 一度口を閉じる。


「ごめん。言いたくなったら」


「……」


 真壁は高瀬を見る。


 以前なら必ず続いた。


 何を見た。


 誰がいる。


 何が起こる。


 今日は来ない。


「見ました」


 真壁が自分から言った。


「うん」


「でも」


 一度、缶コーヒーを机に置く。


「何を見たのか」


「分からなかった」


「……」


「未来なのに?」


「はい」


 藤原も箸を止める。


「映像?」


「違う」


 真壁は眉間を押さえた。


「音だけ」


「何の」


「チャイム」


「……学校の?」


「多分」


 高瀬は壁の時計を見る。


 十二時四十二分。


「何時のチャイム」


「分かりません」


「何回?」


「……」


 真壁が少し考える。


「六十九回」


 高瀬の手が止まった。


 藤原も。


「……」


 数秒。


「数えたの?」


 高瀬が聞く。


「数えてません」


「じゃあ何で」


「分かるんです」


「……」


 真壁自身が一番、不思議そうだった。


「聞いた瞬間」


「六十九回だって」


「分かった」


 職員室のざわめき。


 電話の音。


 紙をめくる音。


 全部は普通。


 でも。


 高瀬の背中だけ。


 少し冷たくなる。


「観測深度は」


 聞きかける。


「……」


 止まる。


「見たい?」


 真壁が聞く。


「……真壁が」


「見せてもいいなら」


 真壁はスマートフォンを開いた。



━━━━━━━━━━━━


観測深度


34%


━━━━━━━━━━━━



「変わってない」


「はい」


 高瀬。


 少しだけ。


 息を吐く。


「じゃあ」


 藤原。


「今のは」


「観測深度とは別?」


「多分」


「……」


 高瀬は蕎麦を見る。


 まだ半分ある。


 昨日までの自分なら。


 食べるのをやめて。


 すぐ全員を集めた。


 真壁の未来を聞き続けた。


「先生」


 藤原。


「何」


「食べないんですか」


「……」


 高瀬は箸を持ち直す。


「食う」


「はい」


「ちょっと気になるけど」


「はい」


「かなり気になるけど」


「はい」


「蕎麦のびる」


「ざる蕎麦なので」


「……確かに」


 真壁が小さく笑った。


「先生」


「何」


「そこ」


「今」


「間違える?」


「気が動転してた!」


 ほんの少し。


 空気が戻った。



◇



 午後三時四十八分。


 放課後。


 結良は昇降口にいた。


 今日は一人で寄り道する。


 それだけ決めた。


 行き先はまだ。


「……どこ行こ」


 靴を履く。


 スマートフォン。


 Review0。


 朝の回答。



『放課後、


どこかに寄りたい。』



 その下。


 返事。



『そっか。』



「適当」


 少し笑う。


 駅前。


 本屋。


 カフェ。


 雑貨屋。


 どこでもいい。


 目的がなくても。


 歩けばいい。


 その時。


「篠宮」


 後ろ。


 高瀬。


「……」


 結良が振り返る。


「何」


「今」


「帰る?」


「うん」


「寄り道?」


「うん」


「……」


 高瀬。


 何か。


 言いたそう。


「先生」


「何」


「一緒に行きたい?」


「……」


「違う!」


「今の間」


「絶対」


「ちょっと思った」


「いや」


 高瀬は苦笑する。


「普通に」


「気をつけて」


「うん」


「それだけ」


「……」


 結良。


 少し。


 高瀬を見る。


「本当に?」


「本当に」


「どこ行くか」


「聞かない?」


「聞きたい」


「でも?」


「言いたかったら」


「後で」


「聞く」


「……」


 結良。


 少し笑う。


「じゃあ」


「後で」


「気が向いたら」


「教える」


「うん」


 結良が外へ出る。


「先生」


 一度。


 振り返る。


「何」


「今の」


「結構」


「よかった」


「何点?」


「採点させようとしてる!」


「冗談!」


 結良が笑って歩いていく。


 高瀬も。


 笑う。


 でも。


 結良の姿が見えなくなった瞬間。


 ふと。


 スマートフォンを見る。


 朝。


 送った。



『No.18


おはよう』



 まだ。


 既読がない。



◇



 午後四時十九分。


 図書室。


「悠真」


「何」


 ナオが青いノートを見ている。


「今日」


「進まない」


「そっか」


「……」


 ナオ。


 白石を見る。


「最近」


「それ」


「みんな」


「使う」


「便利」


「……」


 ナオが少し笑う。


「今日」


「本当に」


「一行も」


「増えない」


「じゃあ」


「増えないんじゃない」


「……」


「それで」


「終わり?」


「俺に」


「続きを」


「書いてほしい?」


「嫌」


「なら」


「終わり」


「……」


 白石は本へ目を戻す。


 ナオも。


 しばらく。


 真っ白なノートを見る。


「悠真」


「何」


「僕」


「今日」


「何したいって」


「Review0に」


「書いたと思う」


「知らん」


「当てて」


「嫌」


「一回」


「小説を書く」


「……」


 ナオ。


 目。


 少し。


 大きくなる。


「当たった」


「お前」


「毎日」


「それじゃん」


「……」


「じゃあ」


「僕」


「変わってない?」


「知らん」


「……」


「悠真」


「何」


「今日」


「冷たい」


「眠い」


「……」


 ナオ。


 少し。


 笑う。


「それなら」


「いい」


「何が」


「冷たい理由」


「僕じゃない」


「……」


 白石。


 本。


 少し。


 下げる。


「お前」


「前」


「俺が」


「機嫌悪いと」


「自分のせい」


「って」


「思ってた?」


「少し」


「……」


「それ」


「やめろ」


「うん」


「俺」


「普通に」


「寝不足の日」


「あるから」


「うん」


「昨日」


「ゲーム」


「二時まで」


「してた」


「……」


 ナオ。


 顔。


 しかめる。


「それは」


「寝て」


「今」


「初めて」


「注意された」


「当然」


 二人。


 少し笑う。



◇



 午後四時四十六分。


 高瀬。


 職員室。


 一人。


 ではない。


 周りには先生たち。


 でも。


 仲間たちは。


 それぞれ。


 自分の時間を過ごしている。


 昨日。


 今日。


 全員を集めていない。


「……」


 悪くない。


 そう思う。


 それでも。


 スマートフォン。


 見る。



『No.18


おはよう』



 未読。



「……」


 さすがに。


 少し。


 気になる。


 もう一通。



『今日


忙しい?』



 送る。


 既読。


 つかない。


「……」


 高瀬。


 画面を見る。


 その時。


「先生」


「うわっ!」


 白石。


「何で」


「みんな」


「後ろから!」


「前から」


「来ました」


「……」


「マジ?」


「はい」


「俺」


「重症?」


「多分」


「……」


「何」


「見てた」


「いや」


 高瀬。


 スマートフォン。


 伏せる。


「何でもない」


「……」


 白石。


 少し。


 高瀬を見る。


「本当に?」


「……」


 一瞬。


 言わない。


 でも。


「No.18」


「返事ない」


「……」


 白石。


「今日?」


「朝から」


「……」


「いつも」


「返ってくる?」


「大体」


「……」


 白石。


 少し。


 考える。


「じゃあ」


「待てば」


「……」


 高瀬。


 苦笑する。


「簡単に」


「言うな」


「何で」


「不安」


「……」


「じゃあ」


「不安なまま」


「待てば」


「……」


 高瀬。


 白石を見る。


「お前」


「本当に」


「強いな」


「普通」


「それ」


「最近」


「最強ワードだな」


◇



「先生」


 白石。


「何」


「No.18って」


「先生に」


「返事する係?」


「……」


 高瀬。


 止まる。


「違う」


「じゃあ」


「返事ない日」


「あるんじゃない」


「……」


「あの人にも」


「何か」


「あるかも」


「……」


「話したくない日」


「とか」


「……」


 高瀬。


 胸。


 少し。


 痛む。


 No.18。


 昔。


 自分に。


『先生と話したくない日も増えた』


 そう。


 言っていた。


 その時。


 高瀬は。


『今の君は本当の君じゃない』


 そう言った。


「……」


 白石。


「先生?」


「うん」


「大丈夫?」


「……」


 高瀬。


 少し。


 笑う。


「分からん」


「そっか」


「……」


「本当に」


「それだけ?」


「何て」


「言ってほしい」


「……」


 高瀬。


 少し考える。


「大丈夫って」


「言って」


「嫌」


「何で!」


「分からんのに」


「大丈夫って」


「言えん」


「……」


 高瀬。


 一瞬。


 止まる。


「確かに」


「じゃあ」


 白石。


「待つ」


「……」


「うん」


「待つ」



◇



 午後五時二十八分。


 結良から。


 写真。


 一枚。


 本屋の棚。


 メッセージ。



『結局


本屋にした』



 高瀬。


 少し。


 笑う。



『いいじゃん』



 返事.



『何も買ってない』



『それでもいいじゃん』



 少し。


 既読。



『先生


今日


やたら肯定するね』



『何かあった?』



 指。


 止まる。


 一瞬。


『何でもない』


 打ちかける。


 消す。



『No.18から


返事ない』



 送る。


 既読。


 少し。


 返事.



『そっか』



「……」


 高瀬。


 思わず笑う。



『お前もか』



『便利だから』



 次.



『心配?』



『うん』



『じゃあ


心配してればいいんじゃない』



「……」


 高瀬。


 画面。


 見つめる。



『何もしないで?』



 返事.



『今できること


ないんでしょ』



「……」


 そう。


 ない。


 No.18が。


 どこにいるのか。


 正確には。


 知らない。


 Review69。


 その向こう。


 ただ。


 待つしかない。



『それ


苦手』



『知ってる』



「……」


 高瀬。


 少し笑う。



◇



 午後六時九分。


 高瀬は職員室を出た。


 今日は早い。


 別に。


 何かあるわけじゃない。


 帰る。


 それだけ。


 階段を降りる。


 途中。


 放送設備から。


 音。



 キーン。



「……?」


 高瀬。


 止まる。


 校内放送。


 故障?


 次。



 キーン。



 少し間。



 キーン。



「……」


 高瀬。


 眉を寄せる。


 チャイムではない。


 ただの。


 電子音。


 でも。


 何か。


 嫌。


 四回。


 五回。


 六回。


「……」


 昼。


 真壁。


『六十九回』


「まさか」


 高瀬はスマートフォンを取る。


 真壁に。


 電話。


 でも。


 押す直前。


 止まる。


 今。


 何回?


 十二。


 十三。


「……」


 音は。


 続く。


 高瀬。


 階段の途中。


 動けない。


 二十。


 二十一。


 誰か。


 他に。


 反応してる?


 廊下。


 先生。


 一人。


 普通に。


 歩いている。


「……?」


 二十九。


 三十。


「聞こえてない?」


 高瀬。


 近くの教師に。


「すみません」


「はい?」


「今」


 言いかける。


 音。


 三十八。


「……何でもないです」


「?」


 教師。


 去る。


 四十三。


 四十四。


 心臓。


 速い。


 五十。


 五十一。


「……」


 高瀬。


 目を閉じる。


 呼吸。


 浅い。


 六十。


 六十一。


 六十二。


 今日。


 Review62。


 昨日。


「……」


 違う。


 今は。


 六十三。


 六十四。


 高瀬。


 目を開ける。


 六十五。


 六十六。


「……やめろ」


 六十七。


 六十八。


 ――。


 静か。


「……」


 六十九。


 来ない。


 高瀬。


 数秒。


 待つ。


 ない。


「六十八?」


 昼。


 真壁は。


 六十九回。


 そう言った。


 でも。


 高瀬には。


 六十八。


 その瞬間。



 スマートフォン。



 震える。



━━━━━━━━━━━━


既存予測モデル


崩壊率


68%

━━━━━━━━━━━━



「……」


 高瀬。


 喉。


 鳴る。


 次.



━━━━━━━━━━━━


現在値


維持。

━━━━━━━━━━━━



「……何だよ」


 数字。


 上がってない。


 でも。


 音。


 六十八回。


 崩壊率。


 六十八。


「あと一」


 口。


 出る。


 その時。


 背後。


「高瀬先生」


「……っ!」


 振り返る。


 真壁。


「何で」


「ここ」


「未来」


「見ました」


「……」


「何を」


 高瀬。


 聞く。


 真壁。


 顔。


 青い。


「言います」


「うん」


「さっきの」


「六十九回」


「……」


「最後の一回」


「音じゃなかった」


「……」


 高瀬。


 眉。


 寄る。


「じゃあ」


「何」


 真壁。


 少し。


 唇。


 乾いている。


「声」


「……」


「誰の」


「分かりません」


「何て」


 真壁。


 一度。


 息を飲む。


「……」


 そして。


 言った。



『先生。』



「……」


 高瀬。


 完全に。


 動きを。


 止める。


 女の。


 声。


 真壁。


 続ける。


「それだけ」


「……」


「六十八回」


「音が鳴って」


「最後」


「女の人が」


「先生って」


「……」


 高瀬。


 手。


 震える。


「No.18?」


「分かりません」


「……」


「でも」


 真壁。


 少し。


 目。


 伏せる。


「泣いてた」


「……」


 高瀬。


 胸。


 強く。


 鳴る。



◇



 午後六時十八分。


 高瀬。


 真壁。


 二人。


 階段。


 座る。


 誰も。


 集めない。


「真壁」


「はい」


「怖い?」


「はい」


「俺も」


「……」


 真壁。


 少し。


 高瀬を見る。


「今」


「何したい」


「……」


 高瀬。


 一瞬。


 答え。


 浮かぶ。


 No.18に。


 連絡。


 何度も。


 送る。


 結良。


 藤原。


 佐伯。


 全員。


 呼ぶ。


 69について。


 考える。


 でも。


「……帰りたい」


「……」


 真壁。


 少し。


 目。


 大きくなる。


「学校から?」


「うん」


「……」


「今日は」


「もう」


「帰りたい」


「……」


 真壁。


 少し。


 笑う。


「俺も」


「じゃあ」


「帰る?」


「はい」


 二人。


 立つ。



◇



 その夜。


 午後十一時三十一分。


 高瀬はベッドに横になっていた。


 眠れない。


 スマートフォン。


 何度目か。


 開く。



『No.18


おはよう』



『今日


忙しい?』



 未読。


「……」


 Review0。



『今日の自分を、


自分でどう思う?』



 高瀬。


 入力。



『今日は


No.18から


返事がなかった。』



『心配だった。』



『何回も


連絡したくなった。』



 少し。



『でも


二回でやめた。』



『白石に


返事する係じゃないって


言われた。』



『確かに


その通りだった。』



 一度。


 手。


 止まる。



『返事がないだけで


嫌われたとか


消えたとか


勝手に決めそうになった。』



 続ける。



『分からないものを


分からないままにするのは


まだ苦手。』



『でも今日は


待った。』



 少し。



『あと


六十八回


変な音を聞いた。』



『怖かった。』



 一度。



『今日は


そんな日だった。』



 送信。


 数秒。


 いつもの。



『うん。』



「……」


 高瀬。


 少し。


 目。


 細くなる。


 Review0。


 自動応答?


 それとも。


 彼女?


 もう。


 そこも。


 分からない。


 画面。


 閉じようとする。


 その時。



 既読。



「……」


 高瀬。


 身体。


 起こす。


 朝の。



『No.18


おはよう』



 既読。


「……」


 胸。


 強く。


 鳴る。


 数秒。


 返事。



『ごめん。』



「……」


 高瀬。


 息。


 吐く。


 安心。


 まず。


 それが来た。


 次.



『今日は』



『返事したくなかった。』



「……」


 高瀬。


 指。


 止まる。


 少しだけ。


 胸。


 痛い。


 でも。



『そっか』



 送る。


 それだけ。


 既読。


 少し。



『怒らない?』



「……」


 高瀬。


 苦笑する。



『ちょっと寂しかった』



『でも怒ってない』



 返事.



『そっか。』



「……」


 今度は。


 向こう。


 それを使った。


 高瀬。


 少し。


 笑う。



『何かあった?』



 送って。


 一瞬。


 手。


 止まる。



『言いたくなかったら


言わなくていい』



 追加。


 既読。


 長い。


 一分。


 二分。


 高瀬。


 待つ。


 そして。



『今日は』



『昔のことを』



『思い出してた。』



「……」



『どんな』



 返事.



『先生に』



『返事しなかった日のこと。』



「……」


 高瀬。


 胸。


 少し。


 締まる。



『三年前?』



『うん。』



『何で返事しなかった』



 長い。


 返事.



『話したくなかったから。』



「……」


 そのまま。


 今と。


 同じ。



『俺


怒った?』



 既読。


 少し。



『怒った。』



「……」


 高瀬。


 目。


 閉じる。



『何て』



 返事.



『心配してるのに』



『何で無視するんだって。』



「……」


 胸。


 痛い。


 想像。


 できる。


 昔の。


 自分。


 心配。


 だから。


 返事。


 欲しい。


 心配している自分を。


 相手が。


 安心させるべきだと。


 どこかで。


 思っていた。



『ごめん』



 打つ。


 今日は。


 消さない。


 でも。


 続ける。



『心配してたとしても』



『返事するかどうかは


お前が決めていい』



『話したくない日も


あるよな』



 送信。


 既読。


 長い。


 そして。



『うん。』



 次.



『今日』



『それを』



『試した。』



「……」


 高瀬。


 眉。


 寄せる.



『俺を?』



『うん。』



「……」


 一瞬。


 少し。


 腹立つ。


「試したって」


 声。


 出る。


 でも。


 すぐ。


 No.18。



『ごめん。』



『嫌だった?』



 高瀬。


 考える。


 正直。



『ちょっと』



『でも』



『返事ない時間で


気づいたこともあった』



 少し.



『俺


お前から返事来るの


当たり前にしてた』



 送る。


 返事.



『うん。』



 次.



『私も』



『返事するのが』



『当たり前になってた。』



「……」


 高瀬。


 胸。


 少し。


 ざわつく.



『嫌だった?』



 返事.



『嫌じゃなかった。』



『でも』



『少し怖くなった。』



「……"



『何が』



 長い。



『先生が』



『私の返事がないと』



『立てなくなること。』



「……」


 高瀬。


 完全に。


 止まる。


 返事。


 No.18。


 答え。


 昔の記憶。


 69の情報。


 いつの間にか。


 頼っていた。



『だから今日


返さなかった?』



『うん。』



「……」


 少し。


 寂しい。


 でも。


 分かる。



『俺


ちゃんと一日過ごした』



 送る。


 返事.



『見てた。』



「……"


 高瀬.


 少し笑う.



『見てたんかい』



『ごめん。』



『そこは謝らんでいい笑』



 少し.


 間.


 No.18.



『先生。』



『何』



『今日』



『返事しなくても』



『先生』



『授業してた。』



『お昼食べてた。』



『結良と話してた。』



『真壁先生と帰った。』



「……"


 高瀬.


 画面.


 見る.



『うん』



 返事.



『それが』



『嬉しかった。』



「……"


 胸.


 少し.


 温かい.



『でも』



 一行.



『六十八回』



 高瀬.


 表情.


 止まる.



『知ってる?』



 既読.


 返事.


 来ない.


 一秒.


 三秒.


 十秒.



『うん。』



「……"



『あれ何』



 長い.



『Review69が』



『こっちを』



『探し始めた。』



「……"


 高瀬.


 身体.


 固まる.



『こっち?』



『私たち。』



「……"



『たち?』



 指.


 震える.



『お前以外


誰がいる』



 既読.


 長い.


 とても.


 長い.


 そして.



『まだ』



『言えない。』



「……"


 高瀬.


 胸.


 強く.


 鳴る.


 初めて.


 No.18.


 一人ではない.


 可能性.



『危ない?』



 送る.


 返事.



『少し。』



 高瀬.


 すぐ.



『助けに』



 打つ.


 止まる.


 画面に.


 その文字.



『助けに』



「……」


 54話.


『私を助けに来ないで。』


『会いに来て。』


 高瀬.


 消す.



『俺に


今できることある?』



 送る.


 返事.



『ある。』



「……"



『何』



 No.18.



『明日も』



『普通に』



『一日過ごして。』



「……"


 高瀬.


 思わず.



『それだけ?』



 返事.



『それが』



『一番難しいでしょ。』



「……"


 否定.


 できない.



『先生。』



『何』



『63。』



「……"


 数字.



『あと6』



『うん。』



 そして.



『今日から』



『69は』



『先生たちを』



『探し始める。』



「……"



『どういう意味』



 返事.



『今までは』



『先生たちが』



『69に近づいてた。』



 一度.



『ここからは』



『69の方が』



『近づいてくる。』



「……"


 高瀬.


 背中.


 冷たい.


 最後.



『だから』



『何が起きても』



『すぐに』



『意味をつけないで。』



「……"



『何で』



 返事.



『69は』



『先生が』



『意味をつけたものから』



『使うから。』



「……"


 高瀬.


 完全に.


 動けない.


 意味を.


 つける.


 評価する.


 分類する.


 SYSTEMと.


 同じ.



『じゃあ


どうすればいい』



 送る.


 No.18.



『見て。』



『聞いて。』



『感じて。』



『でも』



『すぐに』



『答えにしないで。』



「……"


 高瀬.


 画面.


 見つめる.


 それは.


 今まで.


 一番.


 苦手だったこと.



 分からないことを。



 分からないまま。



 持っておく。



 六十八回の音。



 最後に聞こえる。



 泣いた女の声.



 No.18の向こうにいる。



 「私たち」。



 何一つ.



 まだ.



 答えはない.



 でも.



 今夜.



 高瀬は.



 それを.



 無理に.



 一つの意味にしなかった.



 怖い。



 それだけ.



 今は.



 それだけでいい.



 Review69まで。



 あと六。



 そして。



 初めて。



 向こう側からも。



 足音が。



 聞こえ始めた。

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