Review58 帰ってきた人
午前八時十三分。
保健室。
佐伯真由は、窓を少しだけ開けた。
八月の朝の空気は、もう十分に暑い。
それでも閉め切ったままよりはましだった。
「……暑」
独り言。
言ったあと。
自分で少し笑う。
誰もいない保健室で。
冷房の設定温度を一度下げる。
「一度だけ」
誰に言い訳しているのか分からない。
机。
カルテ。
昨日の記録。
今日の予定。
いつもの朝。
そこへ。
スマートフォン。
Review0。
『今日は、
何したい?』
「……」
佐伯。
画面を見る。
少し。
考える。
すぐには。
浮かばない。
保健室を開ける。
来た人の話を聞く。
必要なら休ませる。
体温を測る。
怪我を診る。
先生に連絡する。
それは。
やること。
でも。
「何したい」
自分で。
小さく。
読み上げる。
「……」
昨日。
藤原が言った。
『何したいか、分からない』
その言葉。
少し。
分かる。
「私も」
佐伯。
入力欄を開く。
何も。
打たない。
一度。
閉じる。
「後で」
それだけ言って。
スマートフォンを伏せた。
◇
午前九時二十七分。
「失礼します」
扉。
開く。
一年生。
女子生徒。
顔。
少し青い。
「どうした?」
「お腹」
「痛い?」
「はい」
「座れる?」
「はい」
佐伯。
椅子を引く。
「朝ごはん」
「食べた?」
「……少し」
「何食べた」
「パン」
「一個?」
「半分」
「そっか」
言い方。
責めない。
でも。
聞く。
「いつから痛い?」
「一時間目」
「今」
「どんな感じ」
「ぎゅって」
「ずっと?」
「たまに」
「……」
佐伯。
表情を見る。
額。
汗。
手。
少し冷たい。
「横になる?」
「……」
生徒。
迷う。
「寝た方がいい?」
「先生が決める?」
「……」
生徒。
少し。
佐伯を見る。
「寝たい」
「じゃあ」
「寝よう」
「はい」
ベッド。
カーテン。
閉める。
「何かあったら」
「呼んで」
「はい」
佐伯。
少し離れる。
でも。
椅子に戻る前。
カーテンの向こう。
小さな声。
「先生」
「うん」
「怒られない?」
「何が」
「授業」
「……」
佐伯。
一瞬。
止まる。
「誰に」
「担任」
「怒る先生?」
「怒らないけど」
「……」
「私」
「最近」
「休み多いから」
声。
少し。
小さくなる。
「またかって」
「思われる」
「……」
佐伯。
カーテン。
少しだけ。
開ける。
「先生」
「うん」
「今日」
「どうしたい」
「……」
生徒。
驚いた顔。
「授業に戻る?」
「ここで休む?」
「……」
「分かんない」
「そっか」
「……」
「じゃあ」
「今は」
「五分だけ」
「休む?」
「……」
「五分後」
「また決める」
「……」
生徒。
少し。
安心したように。
「はい」
佐伯。
カーテンを閉じる。
そのまま。
ほんの少し。
動けなかった。
「……」
今。
自分。
誰かに。
同じことを。
された気がした。
◇
三年前。
暗い。
未登録領域。
『真由ちゃん』
声。
『あなたは』
『佐伯真由』
沙耶。
自分の名前を。
何度も。
呼んだ。
でも。
帰れ。
とは。
言わなかった。
「……」
佐伯。
現在。
机。
前。
座る。
「五分後に」
「また決める」
自分で言った。
その言葉。
胸。
少し。
残る。
◇
午前十時四十二分。
高瀬。
保健室。
扉。
ノック。
「どうぞ」
「失礼します」
「何」
「その」
「ちゃんとした入り方」
「保健室だから」
「いつも」
「ちゃんとして」
「はい」
高瀬。
入る。
手。
少し。
擦り傷。
「何したんですか」
「机」
「運んでたら」
「引っかけた」
「子ども?」
「教師!」
「消毒」
「します」
「はい」
佐伯。
手袋。
取る。
「痛い?」
「全然」
「嘘」
「何で」
「今」
「手引いた」
「……」
高瀬。
「ちょっと」
「痛い」
「はい」
「正直」
「大事」
「最近」
「それ」
「みんな」
「言う」
「流行ってます?」
「高瀬先生の」
「周り」
「それ」
「昨日」
「藤原にも」
「言われた」
佐伯。
少し笑う。
「じゃあ」
「定着」
「してますね」
「何が」
「正直に言う」
「……」
「俺」
「前」
「そんな」
「嘘ついてた?」
「大丈夫」
「って」
「よく言ってました」
「……」
「それ」
「嘘?」
「半分」
「また半分!」
◇
消毒。
終わる。
「はい」
「ありがとう」
「どういたしまして」
高瀬。
立つ。
でも。
出ていかない。
「……」
佐伯。
「何ですか」
「いや」
「今日」
「佐伯先生」
「何か」
「静か」
「保健室」
「いつも静かです」
「違う」
「また」
「静かの種類?」
「それ」
「真壁にも」
「言った」
「便利ですね」
「感覚!」
佐伯。
少し。
笑う。
「何かありました?」
「……」
今度は。
佐伯が。
少し。
止まる。
「分からない」
「……」
高瀬。
すぐ。
聞かない。
佐伯。
その沈黙。
気付く。
「聞かないんですね」
「言う?」
「……」
「まだ」
「じゃあ」
「待つ」
「……」
佐伯。
少し。
目。
細くなる。
「高瀬先生」
「何」
「最近」
「待てるように」
「なりましたね」
「……」
「褒めた?」
「全部」
「よし」
「でも」
「何」
「今」
「めちゃくちゃ」
「聞きたい顔」
「もう!」
二人。
少し。
笑う。
◇
高瀬。
扉。
前。
「じゃあ」
「戻る」
「はい」
「佐伯先生」
「何」
「今」
「何したいか」
「分からなくても」
「……」
佐伯。
少し。
顔。
上げる。
「何で」
「それ」
「いや」
「何となく」
「……」
「みんな」
「何となく」
「怖い」
「すみません」
「でも」
高瀬。
少し。
笑う。
「分からん日」
「あるらしい」
「……」
「最近」
「教わった」
「誰に」
「みんな」
「雑」
「本当に」
高瀬。
扉を開ける。
「じゃあ」
「また」
「はい」
閉まる。
佐伯。
一人。
「……分からん日」
小さく。
繰り返す。
少し。
肩。
力。
抜けた。
◇
午前十一時三分。
ベッド。
女子生徒。
起きる。
「先生」
「うん」
「五分」
「過ぎた?」
「二十分」
「……」
「寝てた」
「寝てた」
「お腹」
「少し」
「まし」
「どうしたい」
「……」
生徒。
少し。
考える。
「三時間目」
「戻る」
「うん」
「でも」
「また痛くなったら」
「来ていい?」
「もちろん」
「……」
生徒。
ベッドから。
降りる。
靴。
履く。
「先生」
「何」
「ありがとう」
「何が」
「休ませてくれて」
「……」
佐伯。
少し。
止まる。
「あなたが」
「休むって」
「決めたんだよ」
「……」
生徒。
一瞬。
きょとん。
そして。
「じゃあ」
「私」
「ちゃんと」
「休んだ?」
「うん」
「……」
少し。
笑う。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
扉。
閉まる。
「……」
佐伯。
胸。
少し。
温かい。
でも。
同時。
小さな。
違和感。
「私も」
誰かに。
そう。
言ってもらった?
◇
三年前。
『帰る?』
誰か。
聞いた。
女の子。
若い。
声。
『真由先生』
『帰りたい?』
「……」
佐伯。
息。
止まる。
記憶。
一瞬。
『分からない』
自分。
答えた。
『じゃあ』
『分からないままでいいよ』
声。
No.18?
その瞬間。
頭。
痛む。
「……っ」
机。
手。
つく。
Review0。
勝手に。
起動。
━━━━━━━━━━━━
過去記憶
同期率
佐伯真由
11%
━━━━━━━━━━━━
「……」
今まで。
自分。
何%?
見ていなかった。
次。
━━━━━━━━━━━━
共有記憶
部分復元可能。
━━━━━━━━━━━━
「誰と」
画面。
━━━━━━━━━━━━
対象
佐伯真由
橘沙耶
初回回答者
━━━━━━━━━━━━
「……」
佐伯。
胸。
強く。
鳴る。
初回回答者。
No.18。
三人。
同じ。
場面。
「……」
見る?
指。
動きそう。
止まる。
昨日。
結良。
一人で。
続けなかった。
自分。
その話。
聞いていた。
「……」
佐伯。
スマートフォン。
閉じる。
「一人で」
「見ない」
少し。
笑う。
「私も」
「言えるんだ」
◇
午後十二時五十六分。
職員室。
高瀬。
昼飯。
「今日」
「何」
藤原。
「おにぎり」
「見れば」
「分かる」
「真壁みたいなこと」
「言わない」
「何味」
「鮭」
「……」
「普通」
「普通好き!」
その時。
佐伯。
近づく。
「高瀬先生」
「はい」
「藤原先生」
「はい」
「少し」
「時間」
「あります?」
高瀬。
おにぎり。
見る。
時計。
見る。
「十分」
「十分で」
「終わらなかったら」
「昼飯」
「続き」
「食います」
「……」
佐伯。
少し。
笑う。
「お願いします」
「何」
「その」
「成長した人を見る目」
「別に」
「絶対」
「思ってた!」
◇
空き教室。
三人。
佐伯。
スマートフォン。
見せる。
「共有記憶」
藤原。
「沙耶さんと」
「No.18?」
「はい」
「見る?」
高瀬。
「……」
佐伯。
一度。
息。
「見たい」
「怖い?」
「怖い」
「……」
「でも」
「一人じゃ」
「見たくない」
「……」
高瀬。
少し。
頷く。
「じゃあ」
「一緒に」
「でも」
佐伯。
高瀬を見る。
「何」
「高瀬先生」
「入れない」
「……」
「俺」
「対象外?」
「はい」
「……」
「見守るだけ?」
「はい」
「……」
高瀬。
露骨に。
嫌そうな顔。
藤原。
「先生」
「何」
「今」
「やりたい顔」
「分かる?」
「分かります」
「でも」
佐伯。
少し。
笑う。
「そばに」
「いてください」
「……」
高瀬。
一瞬。
顔。
変わる。
「それなら」
「いる」
◇
沙耶。
呼ぶ。
数分後。
来る。
「どうしたの」
「沙耶さん」
「これ」
画面。
見せる。
沙耶。
表情。
変わる。
「……」
「覚えてる?」
「少し」
「……」
「見る?」
佐伯。
聞く。
沙耶。
すぐには。
答えない。
「怖い」
「……」
「私も」
「でも」
沙耶。
佐伯を見る。
「見たい」
「……」
二人。
頷く。
YES。
◇
三年前。
暗い。
廊下。
いや。
廊下に。
似ている。
場所。
壁。
白い。
端。
滲んでる。
「……」
佐伯。
床。
座っている。
若い。
顔。
青い。
「名前」
自分。
何度も。
呟く。
「佐伯」
「……」
「佐伯」
「……」
「何だっけ」
指。
震える。
その前。
沙耶。
しゃがむ。
『真由ちゃん』
「……」
『佐伯真由』
『真由ちゃん』
「……」
佐伯。
三年前。
『それ』
『誰』
『あなた』
「……」
『私?』
『そう』
『佐伯真由』
「……」
声。
少し。
離れた。
ところ。
『沙耶さん』
『一回』
『やめた方がいい』
「……」
佐伯。
現在。
胸。
強く。
鳴る。
女の子。
No.18。
制服。
顔。
まだ。
ぼやける。
沙耶。
『何で』
女の子。
『真由先生』
『今』
『名前』
『押し付けられてる』
「……」
沙耶。
顔。
変わる。
『押し付けてない』
『忘れそうだから』
『分かってる』
『でも』
女の子。
佐伯を見る。
『真由先生』
『今』
『自分の名前』
『聞きたい?』
「……」
三年前。
佐伯。
長く。
黙る。
『分からない』
「……」
女の子。
少し。
頷く。
『じゃあ』
『今は』
『言わなくていい』
「……」
沙耶。
『でも』
『このまま』
『忘れたら』
『うん』
『怖い』
『……』
女の子。
沙耶を見る。
『沙耶さんが?』
「……」
沙耶。
言葉。
止まる。
『……うん』
『真由ちゃんが』
『いなくなるの』
『怖い』
女の子。
少し。
表情。
柔らかくなる。
『じゃあ』
『それ』
『言えばいい』
「……」
沙耶。
『何』
『名前じゃなくて』
『怖いって』
「……」
現在。
沙耶。
目。
潤む。
「私」
「……」
小さく。
「忘れてた」
◇
三年前。
沙耶。
佐伯の。
横。
座る。
『真由ちゃん』
一度。
止まる。
『ごめん』
「……」
『私』
『あなたが』
『いなくなるの』
『怖い』
「……」
佐伯。
顔。
上げる。
沙耶。
泣いてる。
『だから』
『名前』
『言わなきゃって』
『思った』
「……」
三年前。
佐伯。
少し。
口元。
震える。
『私』
『……』
『今』
『名前』
『聞きたくない』
「……」
沙耶。
目。
大きくなる。
『でも』
一度。
息。
『一人に』
『ならないで』
「……」
沙耶。
すぐ。
『うん』
女の子。
少し。
離れたところ。
座る。
三人。
しばらく。
何も。
言わない。
◇
一分。
二分。
もっと。
長い。
佐伯。
少し。
呼吸。
戻る。
『……』
女の子。
『真由先生』
「……」
佐伯。
顔。
上げる。
『今』
『名前』
『聞いてもいい?』
「……」
佐伯。
長く。
考える。
そして。
『うん』
女の子。
沙耶を見る。
沙耶。
少し。
涙。
拭く。
『佐伯真由』
「……」
佐伯。
目。
閉じる。
『佐伯』
「……」
『真由』
少し。
胸。
押さえる。
『私』
『佐伯真由』
女の子。
『うん』
沙耶。
『うん』
「……」
三年前。
佐伯。
泣く。
でも。
笑う。
◇
現在。
佐伯。
目。
開く。
「……」
涙。
落ちてる。
沙耶も。
泣いている。
高瀬。
藤原。
少し。
離れて。
見ている。
高瀬。
何も。
言わない。
佐伯。
それに。
気付く。
「高瀬先生」
「うん」
「今」
「何も」
「言わないんですね」
「……」
「言おうと」
「した」
「何を」
「大丈夫?」
「……」
「でも」
「大丈夫じゃ」
「なさそうだから」
「……」
佐伯。
少し。
笑う。
「正解」
「採点?」
「今のは」
「感想」
「危な!」
藤原。
少し。
笑う。
沙耶も。
涙。
残ったまま。
笑う。
◇
「沙耶さん」
佐伯。
「うん」
「私」
「名前」
「呼んでもらったから」
「帰れたって」
「思ってた」
「……」
「違った」
「……」
沙耶。
「うん」
「私」
「自分で」
「聞くって」
「決めた」
「……」
「そのあと」
「名前」
「戻った」
「……」
高瀬。
「じゃあ」
「名前が」
「固定したんじゃなく」
「……」
「佐伯先生が」
「自分で」
「佐伯真由を」
「選んだ?」
「……」
真壁。
いない。
でも。
高瀬。
自分で。
言う。
「多分」
佐伯。
胸。
少し。
熱くなる。
「そうかも」
◇
沙耶。
黙っている。
佐伯。
見る。
「沙耶さん」
「何」
「今」
「自分」
「責めてる?」
「……」
沙耶。
顔。
止まる。
「何で」
「分かった」
「何となく」
「……」
「みんな」
「それ」
「怖い」
少し。
笑う。
でも。
沙耶。
目。
伏せる。
「私」
「真由ちゃんに」
「名前」
「押し付けてた」
「……」
佐伯。
「一回」
「うん」
「……」
「でも」
「止まった」
「……」
「No.18に」
「言われたから」
「うん」
「……」
「それで」
「私が」
「聞いていいって」
「言った時」
「ちゃんと」
「名前」
「呼んでくれた」
「……」
「だから」
一度。
佐伯。
沙耶の。
手。
少し。
触れる。
「ありがとう」
「……」
沙耶。
涙。
また。
落ちる。
「今」
「言う?」
「今」
「言いたい」
「……」
沙耶。
少し。
笑う。
「そっか」
◇
午後三時四十六分。
保健室。
佐伯。
一人。
スマートフォン。
Review0。
『今日は、
何したい?』
朝から。
未回答。
今。
もう一度。
見る。
「……」
何したい。
高瀬。
助ける。
藤原。
支える。
結良。
見る。
ナオ。
待つ。
それだけじゃない。
自分。
「……」
佐伯。
入力。
『今日は、
早く帰りたい。』
自分。
少し。
驚く。
「……」
続ける。
『帰って、
お風呂に入って、
何か食べたい。』
一度。
考える。
『できれば、
誰とも話したくない。』
「……」
少し。
罪悪感。
ある。
保健室。
誰か。
来るかも。
仕事。
残ってる。
でも。
入力。
消さない。
送信。
『そっか。』
「……」
佐伯。
笑う。
「本当に」
「それだけ」
でも。
嬉しい。
◇
午後四時五十八分。
高瀬。
保健室。
「佐伯先生」
「はい」
「今日」
「五時半」
「集ま」
言いかける。
佐伯。
顔。
少し。
変わる。
高瀬。
止まる。
「……」
「何」
「いや」
「今日」
「集まろうと」
「した?」
「少し」
「……」
「佐伯先生」
「何か」
「予定」
「……」
佐伯。
一瞬。
言いにくそう。
「帰りたい」
「……」
高瀬。
「今?」
「はい」
「……」
「めちゃくちゃ?」
「かなり」
「……」
高瀬。
少し。
笑う。
「じゃあ」
「帰ろう」
「……」
佐伯。
目。
少し。
大きくなる。
「集まり」
「やめる」
「みんな」
「……」
「必要なら」
「俺」
「あとで」
「聞く」
「……」
佐伯。
少し。
笑う。
「高瀬先生」
「何」
「今日」
「何点」
「……」
「採点禁止!」
「冗談」
「最近」
「それ」
「怖い!」
◇
佐伯。
鞄。
持つ。
「じゃあ」
「お先です」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
高瀬。
一度。
手。
振る。
佐伯。
扉。
出る。
廊下。
歩く。
誰にも。
呼び止められない。
少し。
変。
今まで。
帰る時。
何か。
忘れてない?
誰か。
困ってない?
そんなこと。
考える。
「……」
でも。
今日は。
「帰る」
自分で。
言う。
◇
午後五時二十六分。
スーパー。
佐伯。
かご。
持つ。
「何食べよう」
久しぶりに。
考える。
必要。
ではない。
食べたい。
「……」
惣菜。
見る。
唐揚げ。
焼き魚。
サラダ。
「……」
迷う。
少し。
楽しい。
その時。
スマートフォン。
高瀬。
『ちゃんと帰れた?』
「……」
佐伯。
少し。
笑う。
返信。
『スーパーです』
すぐ。
『何買う』
佐伯。
一瞬。
笑う。
『聞きます?』
既読。
少し。
『言いたかったら』
「……」
佐伯。
胸。
少し。
温かい。
『唐揚げにします』
『いいね』
『高瀬先生
昨日も唐揚げの話
してませんでした?』
少し。
返事。
『篠宮に聞いた?』
『聞きました』
『情報共有!』
『本人が
言いたくて
言ったので』
「……」
高瀬。
返事.
『ならOK』
佐伯。
小さく。
笑う。
「学習してる」
◇
夜。
午後九時四十分。
佐伯。
自宅。
風呂。
終わる。
髪。
乾かす。
テレビ。
つけない。
ソファ。
座る。
「……」
静か。
誰とも。
話してない。
夕飯。
唐揚げ。
食べた。
少し。
食べすぎた。
「……」
Review0。
『今日の自分を、
自分でどう思う?』
入力。
『三年前のことを
少し思い出した。』
『私は、
名前を呼ばれて
帰ってきたと思っていた。』
少し。
『でも、
本当は』
『名前を聞くって
自分で決めてから
帰ってきた。』
「……」
続ける。
『今日は
早く帰りたいって
言えた。』
『一人で
ご飯を食べた。』
『誰とも
話さなかった。』
一度。
止まる。
『少し寂しい。』
『でも、
今日は
それがよかった。』
送信。
数秒。
『うん。』
そして。
『真由先生。』
「……」
佐伯。
身体。
少し。
固くなる。
No.18。
『何』
返事.
『思い出したね。』
『少しだけ』
『うん。』
佐伯。
指。
止まる。
聞きたい。
あの時。
あなた。
何した。
何で。
そこにいた。
でも。
一つ。
先に。
『あの時』
『私に』
『帰れって
言わなかったよね』
返事.
少し.
『うん。』
『何で』
長い.
そして.
『私も』
『帰るかどうか』
『迷ってたから。』
「……」
佐伯。
目。
少し。
大きくなる.
『あなたも?』
『うん。』
『あの時
もう
Reviewに残るつもりだった?』
既読.
長い.
返事.
『まだ。』
「……"
『じゃあ
何で迷ってた』
返事.
『学校を』
『辞めたかった。』
「……」
佐伯。
完全に。
止まる。
No.18。
当時。
生徒。
卒業。
先生。
辞めないで。
でも。
自分は。
学校を。
辞めたかった?
『何があったの』
送る。
返事.
来ない.
少し.
そして.
『毎日』
『しんどかった。』
「……"
『何が』
『いろいろ。』
次.
『人も。』
『学校も。』
『自分も。』
「……"
佐伯.
胸.
締め付けられる.
No.18.
ずっと.
謎.
特別.
観測不能.
Review69.
そこで.
待つ人.
でも.
三年前.
ただ.
「学校」
「辞めたかった」
生徒.
だった.
◇
『誰かに
言った?』
返事.
『高瀬先生に。』
「……"
『高瀬先生
何て』
少し.
間.
『辞めてもいいって。』
「……"
佐伯.
息.
止まる.
今まで.
No.18.
高瀬.
喧嘩.
助ける.
話聞かない.
そんな.
記憶.
多かった.
でも.
『先生』
『そう言ったの?』
『うん。』
次.
『学校を辞めても』
『人生まで』
『辞めるわけじゃないって。』
「……"
佐伯.
目.
少し.
熱くなる.
『それで
楽になった?』
長い.
『少し。』
『でも』
『次の日には』
『またしんどかった。』
「……"
佐伯.
少し.
笑う.
『普通だね』
送る.
『うん。』
返事.
『先生も』
『万能じゃなかった。』
「……"
次.
『だから』
『好きだった。』
「……"
佐伯.
表情.
止まる.
『万能じゃないから?』
『うん。』
『たまに』
『ちゃんと』
『間違えるから。』
「……"
少し.
笑う.
でも.
その次.
『でも』
『一つだけ』
『許せなかった。』
「……"
佐伯.
胸.
少し.
強く.
鳴る.
『何』
既読.
長い.
そして.
『先生が』
『自分のことを』
『どうでもいいって』
『思ってたこと。』
「……"
佐伯.
息.
止まる.
高瀬.
自分を.
どうでもいい.
三年前.
No.18.
それを.
知っていた?
『どういう意味』
返事.
来る.
『先生』
『昔』
『自分が消えても』
『誰かが助かるなら』
『それでいいって』
『本気で思ってた。』
「……"
佐伯.
画面.
見つめる.
今の.
高瀬.
まだ.
少し.
そう.
でも.
変わってきた.
昼飯.
食べる.
止まる.
任せる.
自分の.
明日.
考える.
『だから
69?』
送る.
返事.
『うん。』
次.
『Review69で』
『先生は』
『初めて』
『自分を』
『残す方を』
『選ばないといけない。』
「……"
佐伯.
身体.
固まる.
誰も.
助けない.
自分を.
助ける.
そして.
今度は.
『自分を残す?』
返事.
『うん。』
『誰かの代わりに』
『消えない。』
「……"
佐伯.
胸.
強く.
鳴る.
No.18.
続ける.
『真由先生。』
『何』
『その時』
『高瀬先生が』
『自分を捨てようとしたら』
「……"
『止めて。』
佐伯.
指.
止まる.
『それって
私が決めていいの?』
すぐ.
返事.
『だめ。』
「……"
佐伯.
目.
少し.
大きくなる.
次.
『止めて。』
『でも』
『最後は』
『先生に決めさせて。』
「……"
佐伯.
ゆっくり.
息.
吐く.
『難しいね』
『うん。』
『でも』
『真由先生なら』
『できると思う。』
「……"
『何で』
返事.
『三年前』
『自分で帰るって』
『決められた人だから。』
「……"
佐伯.
目.
閉じる.
三年前.
名前.
聞くと.
決めた.
佐伯真由.
自分で.
戻った.
だから.
今度は.
高瀬が.
自分を.
選ぶのを.
待つ.
止める.
でも.
奪わない.
「……難しい」
声.
出る.
Review0.
『うん。』
『だから』
『今から』
『練習して。』
「……"
『何を』
返事.
『自分のことも』
『ちゃんと』
『選ぶ練習。』
「……"
佐伯.
今日.
早く.
帰った.
唐揚げ.
選んだ.
誰とも.
話さない.
選んだ.
小さい.
本当に.
小さい.
でも.
自分.
選んだ.
佐伯.
少し.
笑う.
『今日
一個できた』
返事.
『知ってる。』
「……"
『見すぎ』
『ごめん。』
「また」
佐伯.
吹き出す.
◇
その瞬間.
SYSTEM.
通知.
━━━━━━━━━━━━
対象
佐伯真由
固定役割
『帰還者』
適合率
88%
↓
64%
━━━━━━━━━━━━
「……"
佐伯.
画面.
見る.
帰還者.
自分.
ずっと.
それだった?
三年前.
帰ってきた人.
でも.
今.
もう.
三年.
生きてる.
次.
━━━━━━━━━━━━
新規自己情報
・暑いのが苦手
・早く帰りたい日がある
・一人になりたい時がある
・唐揚げを選んだ
・誰かを支えない夜もある
・佐伯真由として現在を選択中
━━━━━━━━━━━━
「……"
最後.
そこ.
『現在を選択中』
佐伯.
少し.
笑う.
「帰還者」
「だけじゃない」
三年前.
帰った.
それは.
自分の.
大事な.
過去.
でも.
今日.
早く帰った.
唐揚げ.
食べた.
一人.
静か.
それも.
佐伯真由.
帰ってきたことが。
人生の。
終着点ではない。
帰ってきたあとも。
毎日。
選び直している.
そして.
明日も.
きっと.
選ぶ.
何をしたいか.
まだ.
分からない日も.
含めて.
佐伯真由は.
今日も.
ちゃんと.
ここにいた.




