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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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52/120

Review52 忘れてと言った人

 音楽室を出た結良は。


 走らなかった。


 走りたいくらい。


 焦っていた。


 胸の奥が。


 ずっと。


 ざわざわしている。


『私が、忘れてってお願いしたから』


『Reviewを守るため』


『あなたを守るため』


『高瀬先生を守るため』


 聞きたいことが。


 多すぎる。


 どういう意味。


 何から守った。


 何が起きた。


 あなたは誰。


 どうして。


 私たちは。


 あなたを忘れた。


「……」


 階段。


 一段。


 降りる。


 また。


 一段。


 以前なら。


 多分。


 そのまま。


 一人で。


 続きを聞いていた。


 怖くても。


 泣きそうでも。


 誰かに話したら。


 止められる気がして。


 だから。


 一人で。


 答えまで。


 行こうとした。


「……違う」


 小さく。


 声にする。


「今日は」


「違う」


◇


 職員室。


 高瀬。


 自席。


 採点処理。


「……」


 紙。


 一枚。


 見る。


「三点」


 書く。


 次。


「四点」


 書く。


 そして。


 止まる。


「……」


 赤ペン。


 置く。


「何か」


「採点」


「嫌になってきた」


「仕事してください」


 真壁。


 隣。


「してる!」


「手」


「止まってます」


「精神的には」


「頑張ってる」


「評価不能」


「それ使うな!」


 藤原。


 少し離れた席から。


「高瀬先生」


「はい」


「今」


「三分で」


「二枚です」


「計測してる!?」


「仕事なので」


「何の!」


 その時。


 職員室。


 扉。


 少し。


 強めに。


 開く。


「先生」


 結良。


「……」


 高瀬。


 顔。


 上げる。


 すぐ。


 分かった。


「篠宮?」


「ちょっと」


「話したい」


「……」


 いつもの。


「今日何点」


 でも。


「顔変」


 でもない。


 声。


 少し。


 震えている。


「分かった」


 高瀬。


 立つ。


「藤原」


「真壁」


 二人も。


 結良の顔。


 見る。


 立ち上がる。


「先生」


 結良。


「何」


「三人」


「呼ぶ?」


「……」


 高瀬。


 一瞬。


 止まる。


「篠宮は」


「どうしたい」


「……」


 結良。


 少し。


 考える。


「呼びたい」


「……」


「一人で」


「話したくない」


「分かった」


 高瀬。


 頷く。


「じゃあ」


「三人」


「……」


 一度。


 言い直す。


「いや」


「必要なら」


「みんな」


「呼ぼう」


◇


 十分後。


 空き教室。


 高瀬。


 藤原。


 真壁。


 佐伯。


 ナオ。


 白石。


 結良。


 二人の桐谷。


 そして。


 沙耶。


「……」


 白石。


 教室。


 見回す。


「また」


「増えてない?」


「数えるな」


 桐谷。


「先生」


「今」


「何人ですか」


「数えるな」


 玲司。


「二人とも」


「それ言うんだ」


 結良。


 少し。


 笑う。


 その笑い。


 高瀬。


 見る。


 少し。


 安心する。


 でも。


「篠宮」


「うん」


「ゆっくりで」


「いい」


「……」


 結良。


 椅子。


 座る。


 両手。


 膝。


 上。


 指。


 少し。


 絡んでいる。


「音楽室」


「行った」


「うん」


「昨日の」


「フレーズ」


「弾いた」


「……」


「続き」


「勝手に」


「指」


「動いた」


 沙耶。


 表情。


 少し。


 変わる。


「続き?」


「うん」


「覚えてた?」


「身体が」


「……」


 結良。


 少し。


 苦く笑う。


「頭より」


「先に」


「覚えてた」


◇


「そこで」


 結良。


「音声」


「出た」


「Review0?」


 真壁。


「うん」


「初回回答者」


「……」


 高瀬。


 背筋。


 少し。


 伸びる。


「No.18」


「多分」


「……」


「声」


「聞いた?」


「聞いた」


「どんな」


「先生」


「何」


「今」


「めっちゃ」


「前のめり」


「……」


 高瀬。


 自分。


 気付く。


 椅子。


 少し。


 前。


 出てる。


「ごめん」


「いいけど」


「……」


 一度。


 息。


 吐く。


「若い」


「女の子」


「多分」


「当時」


「高校生くらい」


「……」


 高瀬。


 胸。


 強く。


 鳴る。


 先生。


 と。


 呼んでいた。


 制服。


 屋上。


 味噌ラーメン。


 全部。


 繋がる。


「それで」


 藤原。


 落ち着いた声。


「何を」


「聞いた?」


「……」


 結良。


 目。


 少し。


 伏せる。


「最初の」


「Review0」


「……」


『今日の自分?』


『……最悪』


『でも』


『明日はもうちょいマシにしたい』


「……」


 ナオ。


 少し。


 目。


 細くなる。


「やっぱり」


「その人」


「普通ですね」


「何が」


 白石。


「もっと」


「謎の人」


「みたいな」


「感じだったけど」


「……」


「普通に」


「しんどい日」


「ある人」


「……」


 高瀬。


 その言葉。


 少し。


 胸。


 刺さる。


 そう。


 No.18。


 Review69。


 観測不能。


 固定不能。


 そんな。


 大きな言葉。


 ばかり。


 付いていた。


 でも。


 最初は。


『今日、最悪』


 そう言う。


 一人の。


 女の子だった。


◇


「あと」


 結良。


 少し。


 声。


 小さくなる。


「その人」


「私に」


「言った」


「……」


「今?」


 佐伯。


「うん」


「Review0で」


「……」


 結良。


 沙耶を見る。


「私」


「その人を」


「忘れたの」


「……」


「自分で」


「じゃない」


「……」


 沙耶。


 もう。


 分かっている顔。


「本人に」


「頼まれた」


「……」


 空気。


 止まる。


 沙耶。


 ゆっくり。


 目。


 閉じる。


「やっぱり」


 小さく。


「そうだった」


「沙耶」


 高瀬。


「知ってた?」


「……」


「全部じゃない」


「何を」


「知ってた」


 高瀬。


 声。


 少し。


 強くなる。


 沙耶。


 高瀬を見る。


「悠平」


「……」


 名前。


 姉に。


 呼ばれる。


 それだけで。


 高瀬。


 一瞬。


 止まる。


「今」


「怒る前に」


「聞いて」


「……」


 高瀬。


 拳。


 少し。


 握っていた。


 開く。


「分かった」


◇


 沙耶。


「三年前」


「Review0を」


「作ったのは」


「結良」


「私」


「それから」


「もう一人」


「……」


「No.18」


 真壁。


 沙耶。


 頷く。


「多分」


「今」


「そう呼ばれている子」


「……」


 高瀬。


「名前」


「……」


 沙耶。


 口。


 開く。


 でも。


 音。


 出ない。


「……」


「沙耶?」


「言えない」


「SYSTEM?」


「違う」


「……」


 沙耶。


 喉。


 押さえる。


「本当に」


「口に」


「できない」


「……」


 真壁。


 表情。


 変わる。


「記憶保護」


「かもしれない」


「どういう」


「その名前を」


「誰かが」


「発音すること自体」


「制限されてる」


「……」


 高瀬。


「そんなこと」


「できる?」


「Review0」


 結良。


 小さく。


「なら」


「できた?」


 全員。


 結良を見る。


「私」


「分かんないけど」


「……」


「あの人を」


「忘れたの」


「自分で」


「やったなら」


「……」


「名前も」


「守った可能性」


「ある」


◇


「何から」


 高瀬。


「守った」


 沙耶。


 長く。


 黙る。


「SYSTEM」


「……」


「でも」


「当時」


「SYSTEM」


「今みたいな」


「形じゃ」


「なかったんだよな」


 真壁。


「はい」


 沙耶。


「だから」


「正確には」


 一度。


 言葉。


 選ぶ。


「SYSTEMになる前の」


「何か」


「……」


「何か?」


 白石。


「名前」


「ないんですか」


「なかった」


「……」


「最初は」


「ただ」


「Review0の」


「回答を」


「整理する機能」


「だった」


「……」


 藤原。


「整理」


「うん」


「毎日」


「回答」


「増える」


「……」


「だから」


「過去の回答を」


「探しやすくしたり」


「共通する言葉」


「まとめたり」


「……」


 結良。


 顔。


 少し。


 変わる。


「私」


「作った?」


「三人で」


「……」


「あなたは」


「質問」


「彼女は」


「回答の整理」


「私は」


「記録」


「……」


 高瀬。


「役割」


「分かれてた」


「うん」


「……」


「じゃあ」


「今のSYSTEMの」


「元」


「……」


 沙耶。


「その整理機能」


「……」


 教室。


 静か。


◇


「待って」


 ナオ。


「最初は」


「自分の回答」


「整理するだけ」


「はい」


「じゃあ」


「どうして」


「他人を」


「採点するように」


「なった」


「……」


 沙耶。


「そこ」


「私も」


「全部」


「覚えてない」


「……」


 高瀬。


「でも」


「No.18」


「知ってる?」


「多分」


「……」


「じゃあ」


 高瀬。


 スマートフォン。


 取る。


「聞く」


「待って」


 結良。


「……」


 高瀬。


 手。


 止まる。


「何」


「先生」


「今」


「その人」


「助けなきゃって」


「思ってる?」


「……」


 高瀬。


 答え。


 遅れる。


「思ってる」


「……」


「めちゃくちゃ?」


「……うん」


「何で」


 高瀬。


 眉。


 寄る。


「何でって」


「俺」


「忘れてる」


「……」


「その人」


「俺を」


「待ってる」


「……」


「俺に」


「先生辞めないで」


「って」


「言った」


「……」


「俺」


「その人から」


「いっぱい」


「もらった」


「……」


「なら」


「助けたい」


「……」


 結良。


 少し。


 目。


 潤む。


 でも。


「先生」


「何」


「また」


「同じ顔してる」


「……」


「何の」


「自分が」


「何とかしなきゃって」


「顔」


「……」


 高瀬。


 言葉。


 詰まる。


「それ」


 藤原。


 静かに。


「私も」


「思いました」


「……」


 真壁も。


 何も。


 言わない。


 でも。


 高瀬を。


 見ている。


「俺」


 高瀬。


「また?」


「少し」


 藤原。


「はい」


「……」


 高瀬。


 背もたれ。


 ゆっくり。


 身体。


 預ける。


「マジか」


「マジです」


「……」


 結良。


「先生」


「何」


「No.18」


「私にも」


「言った」


「……」


『今度は』


『一人で』


『私を助けに来ないでね』


「……」


 高瀬。


 目。


 少し。


 大きくなる。


「それ」


「……」


「あの人」


「言った」


「うん」


「……」


 結良。


 高瀬を見る。


「多分」


「先生にも」


「同じこと」


「言いたいんじゃない?」


◇


 高瀬。


 スマートフォン。


 見る。


 Review0。


 画面。


 開く。


『今日の自分を、自分でどう思う?』


「……」


 入力。


 指。


 止まる。


 質問。


『No.18』


 打つ。


 消す。


「……」


「先生?」


 結良。


「今」


「やめた?」


「うん」


「何で」


「俺」


「今」


「答え」


「取りに」


「行こうとしてた」


「……」


「だから」


「今」


「聞かない」


「……」


 結良。


 少し。


 笑う。


「今日」


「何点」


 高瀬。


「俺?」


「うん」


「……」


「六十六」


「自分で」


「上げた」


「昨日」


「六十一だったから」


「調子乗った?」


「ちょっと」


 少し。


 笑い。


 空気。


 ほんの少し。


 軽くなる。


◇


「じゃあ」


 真壁。


「今」


「分かってること」


 ホワイトボード。


 書く。


『Review0』


 一。


 質問。


『今日の自分を、自分でどう思う?』


 二。


『結良・沙耶・No.18』


 三。


『採点機能なし』


 四。


『回答整理機能あり』


「この」


 真壁。


「回答整理機能が」


「今のSYSTEMの」


「前身」


「可能性」


「高い」


 沙耶。


「うん」


「そして」


 藤原。


「No.18は」


「自分を」


「みんなの記憶から」


「消した」


「……」


「理由」


 結良。


『Reviewを守る』


『結良を守る』


『高瀬を守る』


 真壁。


 書く。


「でも」


「何から」


「守ったのか」


「完全には」


「不明」


「……」


 高瀬。


 その文字。


 見る。


「一個」


「違和感」


「何」


「真壁」


「俺」


「守られてる?」


「……」


 全員。


 少し。


 高瀬を見る。


「結果として」


「先生」


 結良。


「めちゃくちゃ」


「巻き込まれてる」


「そう!」


「守り方」


「下手じゃない?」


 沙耶。


 少し。


 笑う。


「それ」


「あの子に」


「言ったら」


「怒ると思う」


「……」


 高瀬。


 顔.


 上げる。


「どんな」


「怒り方」


「え」


「その人」


「怒る?」


「……」


 沙耶。


 少し.


 懐かしそうに.


 笑う.


「怒るよ」


「どう」


「大声」


「出さない」


「……」


「静かに」


「言う」


「……」


「何を」


「例えば」


 沙耶.


 高瀬を見る.


「悠平が」


「勝手に」


「一人で」


「危ないこと」


「やった時」


「……」


『先生』


『そういうところ』


『ほんと嫌い』


「……」


 高瀬.


 胸.


 強く.


 鳴る.


「……」


 声.


 知ってる.


 記憶では.


 まだ.


 出ない.


 でも.


 身体が.


 先に.


 反応する.


「先生?」


 藤原.


「大丈夫?」


「……」


 高瀬.


 胸.


 押さえる.


「それ」


「言われたこと」


「ある」


「……」


「覚えてる?」


「違う」


「……」


「感覚」


「……」


 沙耶.


 少し.


 目.


 潤む.


「そっか」


◇


「他」


 高瀬.


「何か」


「その子のこと」


「……」


 沙耶.


 少し.


 考える.


「甘いもの」


「好き」


「……」


「何」


「プリン」


「……」


 高瀬.


 身体.


 止まる.


「プリン?」


「うん」


「……」


 桐谷.


「高瀬」


「お前」


「昔」


「プリン」


「好きだった」


「……」


 高瀬.


 沙耶.


 見る.


「俺」


「その人の」


「影響?」


「多分」


「……」


 白石.


「先生」


「影響」


「受けすぎじゃない?」


「何か」


「俺の好物」


「全部」


「誰か由来に」


「なってく!」


 結良.


「人なんて」


「そんなもんじゃない?」


「……」


 高瀬.


 少し.


 笑う.


「それ」


「昨日」


「桐谷に」


「言われた」


「じゃあ」


 結良.


「先生」


「昨日から」


「ちゃんと」


「学んでる?」


「一応!」


◇


 沙耶.


「あと」


「音楽」


「……」


 結良.


 顔.


 上げる.


「好きだった?」


「すごく」


「……」


「何」


「聴いてた」


「そこ」


 沙耶.


 少し.


 苦笑.


「思い出せない」


「……」


「でも」


「よく」


「イヤホン」


「片方」


「高瀬に」


「渡してた」


「……」


 高瀬.


 頭.


 一瞬.


 痛む.


「……っ」


「先生」


 藤原.


「無理しない」


「大丈夫」


「……」


 一瞬.


 映像.


 廊下.


 放課後.


 夕陽.


 片方の.


 イヤホン.


『先生』


『これ』


『絶対好きだから』


「……」


 女の子.


 笑っている.


 顔.


 まだ.


 ぼやける.


 でも.


 制服.


 髪.


 肩より.


 少し.


 長い.


「……」


 高瀬.


 目.


 開く.


「見えた」


「何」


 真壁.


「髪」


「……」


「肩より」


「ちょっと」


「長い」


「……」


「制服」


「うち?」


「多分」


「顔」


「まだ」


「見えん」


「……」


 沙耶.


 少し.


 高瀬を見る.


「でも」


「近付いてる」


「うん」


◇


 SYSTEM.


 突然.


 全員の.


 スマートフォン.


 震える.


「……」


 高瀬.


 見る.


━━━━━━━━━━━━


旧式Review


記憶同期を検出。

━━━━━━━━━━━━


対象


高瀬

篠宮結良

橘沙耶

━━━━━━━━━━━━



「三人」


 真壁.


 次.



━━━━━━━━━━━━


共有記憶


復元可能。

━━━━━━━━━━━━



「共有?」


 結良.


「三人とも」


「同じ場面に」


「いた?」


「……」


 沙耶.


 顔.


 少し.


 強張る.


「多分」


 SYSTEM.



━━━━━━━━━━━━


復元を


実行しますか?

━━━━━━━━━━━━



YES


NO



「……」


 高瀬.


 画面.


 見る.


「押す?」


 結良.


「……」


 高瀬.


 すぐ.


 答えない.


「沙耶」


「私は」


 少し.


 怖そうに.


「見たい」


「結良」


「……」


 結良.


 指.


 制服.


 袖.


 つまむ.


「怖い」


「うん」


「でも」


「見たい」


「……」


 高瀬.


 二人.


 見る.


「俺も」


「……」


「じゃあ」


 藤原.


「三人で」


「決めた」


「はい」


「無理そうなら」


「途中で」


「止める」


「……」


 SYSTEM.



━━━━━━━━━━━━


中断可能。

━━━━━━━━━━━━



「珍しく」


 真壁.


「親切」


「逆に怖い」


 白石.


「言うな」


◇


 三人.


 YES.


 同時.


 押す.


 瞬間.


 音.


 消える.


◇


 三年前.


 夕方.


 音楽室.


 高瀬.


 扉.


 前.


「何してんの」


 自分の.


 声.


 今より.


 少し.


 若い.


 中.


 結良.


 ピアノ.


 沙耶.


 窓際.


 そして.


 もう一人.


 女子生徒.


 後ろ姿.


「先生」


 女子生徒.


 振り返ろうと.


 する.


 でも.


 顔だけ.


 白い.


 靄.


「また」


「来たんですか」


「またって」


「学校だぞ」


「先生なんだから」


「……」


 沙耶.


「悠平」


「この子たち」


「今」


「大事な話」


「してる」


「俺」


「邪魔?」


 三人.


「うん」


「全員!?」


 結良.


 三年前.


 笑う.


「先生」


「廊下」


「行って」


「ひど!」


 女子生徒.


 笑う.


「でも」


「いてもいいよ」


「……」


 高瀬.


「どっち」


「先生」


「顔」


「すごいから」


「何が」


「仲間外れ」


「された顔」


「……」


 今の.


 高瀬.


 記憶の外側で.


「俺」


「昔から」


「顔なんだ」


 誰にも.


 届かない.


◇


 三年前.


 沙耶.


 机.


 上.


 ノートパソコン.


「じゃあ」


「もう一回」


「確認」


「……」


 画面.


『今日の自分を、自分でどう思う?』


 結良.


「質問」


「これ」


「一個だけ」


 女子生徒.


「うん」


「増やさない」


「……」


「何で」


 高瀬.


「先生」


「いるなら」


「聞いて」


「はい」


「質問」


「いっぱいあると」


「正解」


「探し始めるから」


「……」


 高瀬.


 少し.


 止まる.


「なるほど」


「一個なら」


「その日の」


「自分の言葉」


「出せる」


「……」


 女子生徒.


「多分」


「それが」


「一番いい」


 結良.


「じゃあ」


「決まり」


 沙耶.


「保存するよ」


「うん」


◇


 高瀬.


 その光景.


 見る.


 初めて.


 Review0を.


 作る場面.


 そして.


 女子生徒.


 まだ.


 顔.


 見えない.


 でも.


 声.


 どんどん.


 近い.


「先生」


 三年前の.


 女子生徒.


 高瀬を見る.


「何」


「先生も」


「答えて」


「俺も?」


「当然」


「……」


 高瀬.


 入力.


『普通』


「先生」


「何」


「つまんない」


「何で!」


「普通って」


「逃げじゃん」


「……」


 高瀬.


 少し.


 ムッとする.


「じゃあ」


「何て書けば」


「知らない」


「自分で」


「考えて」


「……」


 高瀬.


 画面.


 見る.


 少し.


 考える.


 消す.


『今日は疲れた』


 止まる.


『でも』


 追加.


『生徒と話せたから』


『ちょっとマシ』


「……」


 女子生徒.


 画面.


 見る.


 少し.


 笑う.


「それ」


「先生っぽい」


「何が」


「知らない」


「でも」


 一度.


 笑う.



「私は好き」



「……」



 現在の高瀬.



 胸.



 強く.



 締め付けられる.



 その言葉.



 覚えてる.



 いや.



 覚えてない.



 でも.



 身体が.



 知ってる.


◇


 場面.


 揺れる.


「待って」


 沙耶.


 声.


「ここから」


「……」


 三年前の.


 沙耶.


 顔.


 変わる.


 パソコン.


 画面.



『回答データ 3』



 その下.



『共通項目を抽出しますか?』



「……」


 真壁.


 現実側で.


 SYSTEM.


 見る.


 でも.


 三人には.


 届かない.


◇


 三年前.


「これ」


 結良.


「何」


 沙耶.


「整理機能」


「……」


 女子生徒.


「共通項目?」


「うん」


「例えば」


「疲れた」


「って」


「みんな」


「書いてたら」


「まとめられる」


「……」


 結良.


「便利」


「でも」


 女子生徒.


 少し.


 眉.


 寄せる.


「何」


「共通じゃないもの」


「消さないよね」


「……」


 沙耶.


「消さない」


「……」


「絶対?」


「……」


 沙耶.


 少し.


 笑う.


「そこ」


「大事?」


「大事」


「……」


 女子生徒.


 画面.


 指.


 差す.


「同じところ」


「探すのは」


「いい」


「でも」


「違うところ」


「邪魔って」


「なったら」


「嫌」


「……」


 高瀬.


 息.


 止まる.


 今のSYSTEM.


 まさに.


 それ.


 分類.


 共通.


 評価.


 不要情報.


 削除.


「……」


 女子生徒.


 三年前.


 もう.


 分かってた?


◇


 画面.


 突然.


 ノイズ.


 記憶.


 飛ぶ.


「……!」


 結良.


「待って」


 沙耶.


「まだ」


 高瀬.


「顔!」


 女子生徒.


 振り返る.


 今度こそ.


 顔.


 見えそう.


 でも.


 その瞬間.


 SYSTEM.



━━━━━━━━━━━━


保護領域


到達。

━━━━━━━━━━━━



 記憶.


 止まる.


「ふざけんな!」


 高瀬.


 記憶の中で.


 叫ぶ.


 次.



━━━━━━━━━━━━


これ以上の復元には


対象本人の


許可が必要です。

━━━━━━━━━━━━



「本人」


 結良.


「No.18?」


 SYSTEM.



━━━━━━━━━━━━


YES

━━━━━━━━━━━━



「……」


 三人.


 止まる.


 記憶.


 終了.


◇


 空き教室.


 高瀬.


 結良.


 沙耶.


 三人.


 同時.


 目.


 開く.


「……っ」


 高瀬.


 机.


 手.


 つく.


「先生」


 藤原.


「大丈夫?」


「……うん」


「結良」


「大丈夫」


「沙耶さん」


 佐伯.


「はい」


「……」


 三人.


 顔.


 見合わせる.


「同じ」


 結良.


「見た?」


「うん」


 沙耶.


「……」


 高瀬.


 胸.


 まだ.


 速い.


「顔」


「あと」


「ちょっとだった」


「先生」


「何」


「それ」


「今」


「大事?」


「大事!」


「でも」


 結良.


 少し.


 笑う.


「私」


「別の方」


「気になった」


「何」


「最後」


「その人」


「言った」


「……」


『違うところが邪魔になったら嫌』


「……」


 真壁.


 表情.


 変わる.


「今のSYSTEM」


「真逆」


「……」


 藤原.


「じゃあ」


「SYSTEMが」


「歪み始めた時」


「No.18」


「最初に」


「気付いた?」


「可能性」


 高瀬.


「だから」


「自分を」


「消した?」


「……」


 沙耶.


 少し.


「多分」


◇


 その時.


 Review0.


 高瀬.


 結良.


 沙耶.


 三人.


 同時.


 通知.


「……」


 画面.



『見たんだね。』



「No.18」


 高瀬.


 今度は.


 すぐ.


 質問.


 打たない.


 結良.


 高瀬を見る.


「先生」


「何」


「我慢してる?」


「めちゃくちゃ」


「……」


 少し.


 笑う.


 そして.


 No.18.



『顔を見るには』


『まだ早いよ。』



 高瀬.


「何で」


 思わず.


 声.


 出る.


 メッセージ.



『先生が』



『私を思い出した瞬間』



『Review69が始まるから。』



「……」


 全員.


 止まる.


「条件」


 真壁.


「名前じゃない」


「記憶?」


 SYSTEM.



『そう。』



「……」


 高瀬.


 指.


 震える.


『じゃあ』


『お前を思い出さなければ』


『69は始まらない?』



 少し.


 間.



『うん。』



「……」


 高瀬.


 顔.


 強張る.


「じゃあ」


「思い出さない方が」


「……」


 言いかけ.


 止まる.


 No.18.



『それは嫌。』



「……」


 高瀬.


 胸.


 痛む.



『いつか』



『ちゃんと思い出して。』



『でも』



『今じゃない。』



「……」


 結良.


「何で」


 入力.



『何を待ってるの?』



 返事.


 しばらく.


 来ない.


 そして.



『みんなが』



『自分で選べるようになるのを。』



「……」


 藤原.


「みんな?」


 次.



『高瀬先生だけじゃない。』



『結良も。』



『沙耶も。』



『真由先生も。』



『尚も。』



『真壁先生も。』



『桐谷先生も。』



「……」


 白石.


「俺」


「……」


 一瞬.


 止まる.


 次.



『白石くんも。』



「……」


 白石.


「後付け?」


 ナオ.


「悠真」


「今そこ?」


「いや」


「順番!」


 張り詰めていた.


 空気.


 一瞬.


 崩れる.


 高瀬.


 思わず.


 笑う.


 No.18.



『ごめん。』



「謝った!」


 結良.


「この人」


「普通に」


「面白い?」


 高瀬.


 胸.


 また.


 変な.


 懐かしさ.


◇


 そして.


 No.18.



『だから』



『69まで』



『あと少しだけ』



『今を増やして。』



「今?」


 高瀬.



『今日何食べたとか。』



『誰と喋ったとか。』



『何に腹が立ったとか。』



『何が嬉しかったとか。』



「……」



『そういうのを』



『いっぱい増やしてから』



『来て。』



 高瀬.


 画面.


 見つめる.


 69に.


 必要なのは.


 強さでも.


 攻略法でも.


 正解でもない.


 今.


 生きている.


 情報.


 自分たちが.


 一人の人間として.


 持っている.


 くだらない.


 大事なもの.


「……分かった」


 高瀬.


 声.


 出す.


「69」


「急がない」


 藤原.


 少し.


 笑う.


「本当に?」


「……」


「努力します」


「そこ」


「まだ」


 結良.


 笑う.


◇


 その時.


 真壁.


 画面.


 見る.


「高瀬先生」


「何」


「もう一個」


「来てる」


「……」


 SYSTEM.


 ではない.


 Review0.



━━━━━━━━━━━━


共有記憶復元により


初回回答者情報


一部解放。

━━━━━━━━━━━━



「一部」


 結良.


「何」


 画面.



━━━━━━━━━━━━


氏名情報


1文字のみ


復元可能。

━━━━━━━━━━━━



「……」


 全員.


 息.


 止まる.


「一文字」


 高瀬.


 胸.


 強く.


 鳴る.


「見る?」


 藤原.


「……」


 高瀬.


 すぐ.


 答えない.


 No.18.


 言った.


 今じゃない.


 でも.


 一文字.


 これは.


 許可された情報?


「結良」


「何」


「どうしたい」


「……」


 結良.


 少し.


 考える.


「見たい」


「沙耶」


「私も」


「……」


 高瀬.


「俺も」


 三人.


 タップ.


 画面.


 白.


 そして.


 一文字.



『美』



「……」


 高瀬.


 身体.


 固まる.


「美」


 結良.


 小さく.


 読む.


「名前の」


「最初?」


 真壁.


 次.



━━━━━━━━━━━━


回答


非開示。

━━━━━━━━━━━━



「じゃあ」


 高瀬.


「名字?」


「下?」


「分からん」


「……」


 でも.


 高瀬.


 その文字.



『美』



 見ているだけで.


 胸.


 変.


 懐かしい.


 苦しい.


 何か.


 すぐ.


 近く.


 ある.


「……」


 頭.


 一瞬.


 映像.


 教室.


 夕方.


 女の子.


 後ろ姿.


 誰か.


 自分.


 呼んでいる.



『――さき』



「……!」



 高瀬.


 目.



 見開く.



「先生?」


 藤原.



「今」



「……」



「何か」



「聞こえた」



「何」



 高瀬.



 口.



 乾く.



「名前」



「……」



「多分」



「名前」



 全員.



 静か.



「何て」



 高瀬.



 頭.



 探る.



『――さき』



 前.



 聞こえない.



 でも.



 最後.



 確かに.



「……さき」



「……」



 結良.



 顔.



 少し.



 変わる.



「私も」



「え」



「今」



「何か」



「……」



 結良.



 目.



 閉じる.



「み」



「……」



「み……」



 胸.



 強く.



 鳴る.



 でも.



 その瞬間.



 Review0.



 激しい.



 警告.



━━━━━━━━━━━━


停止。


━━━━━━━━━━━━


記憶復元率


上限到達。

━━━━━━━━━━━━



「……」


 結良.


 目.


 開く.


 高瀬.


 画面.


 睨む.


 でも.


 追わない.


 今は.


 追わない.


「先生」


 結良.


「何」


「止まれる?」


「……」


 高瀬.


 一度.


 長く.


 息.


 吐く.


「止まる」


「……」


「マジ?」


「マジ」


 結良.


 少し.


 笑う.


「今日」


「六十八点」


「あと一!」


「先生」


「そこ」


「上げようとしない」


「……」


 高瀬.


 笑う.


「分かった」


「68で」


「いい」


◇


 夜.


 高瀬.


 Review0.



『今日の自分を、


自分でどう思う?』



 入力.



『あと少しで


名前を思い出せそうだった。』



 止まる.



『でも、


今日は止めた。』



 また.


 止まる.



『昔の俺なら


多分そのまま行ってた。』



 少し.



『止まれたのは、


一人じゃなかったからだと思う。』



 送信.



 数秒.



 返事.



『うん。』



 次.



『それが』



『今の先生なんだね。』



「……」


 高瀬.


 少し.


 笑う.



『昔の俺は嫌い?』



 送る.



 長い.



 返事.



『嫌いだった時もある。』



「……」


 高瀬.


 胸.


 少し.



 痛む.



 次.



『でも』



『大好きだった時もある。』



「……」



 高瀬.



 完全に.



 動きを.



 止める.



 No.18.



 若い女性.



 元生徒.



 高瀬を.



 先生と呼ぶ.



 味噌ラーメンを.



 教えた.



 先生を辞めないで.



 と言った.



 そして.



 高瀬を.



 大好きだった時も.



 ある.



「……」



 高瀬.



 画面.



 見つめる.



 最後.



 No.18から.



 一通.



『おやすみ、先生。』



「……」



 指.



 少し.



 震える.



『おやすみ』



 打つ.



 一度.



 消す.



 そして.



『おやすみ。』



 送る.



 名前は.



 まだ.



 呼べない.



 でも.



 69で.



 会いたい人は.



 昨日より.



 少しだけ.



 人の形を.



 取り戻していた.

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