Review5 レビュー件数:109
高瀬はスマホを見つめていた。
【評価者】
閲覧権限がありません。
その画面のまま数分が過ぎていた。
意味が分からない。
分からないことばかりだった。
誰が評価しているのか。
なぜ自分なのか。
何のためのレビューなのか。
考えれば考えるほど頭が痛くなる。
高瀬はため息を吐いた。
そして何となく画面をスクロールする。
今まで見ていなかった場所。
何かヒントがあるかもしれない。
そんな期待はしていなかった。
どうせまた。
【閲覧権限がありません】
だろう。
そう思っていた。
だが。
画面の下に小さな項目を見つける。
【詳細情報】
「……なんだこれ」
高瀬はタップした。
数秒。
読み込み。
画面が切り替わる。
【評価対象】
高瀬悠介
【現在の評価】
2.8
知っている。
問題はその下だった。
【レビュー件数】
109
「……は?」
高瀬は目を細めた。
見間違いかと思った。
だが変わらない。
109。
さらに下。
【評価者数】
109名
高瀬はスマホを顔から離した。
もう一度見る。
109。
109。
109。
「多くないか?」
思わず呟いた。
レビュー件数109。
評価者数109名。
つまり。
109人が自分を評価している。
そんな話があるか。
教師時代だってそんな人数に採点されたことはない。
文化祭でもない。
公開授業でもない。
意味が分からない。
その時。
スマホが震えた。
【あなたへのレビューが更新されました】
高瀬は無言で通知を開く。
★★★★☆
数を正しく認識できています。
「褒められてる気がしない」
即座に画面を閉じた。
家にいると頭がおかしくなりそうだった。
高瀬は立ち上がる。
財布を持つ。
靴を履く。
そして外へ出た。
気分転換が必要だった。
そうじゃないと。
本当にレビューと会話し始めそうだった。
平日の昼。
空は青かった。
教師だった頃なら授業中の時間だ。
今は違う。
自由。
そのはずなのに。
少しだけ落ち着かなかった。
コンビニへ行く。
お茶を買う。
公園を歩く。
駅前へ向かう。
ただ歩く。
目的はない。
何となく。
気付けば人を眺めていた。
サラリーマン。
高校生。
犬を散歩させる老人。
ベビーカーを押す母親。
色んな人がいる。
そして高瀬は。
何となく数え始めていた。
一人。
二人。
三人。
「俺何やってんだ……」
自分でも笑う。
だが続ける。
暇だった。
教師を辞めてから。
こういう無意味な時間が増えた。
百一。
百二。
百三。
途中でやめようと思った。
だが続けた。
本当に何となくだった。
百七。
百八。
そして。
目の前を女性が通り過ぎる。
百九。
高瀬の足が止まった。
「……」
嫌な汗が流れる。
偶然だ。
ただの偶然。
そう思った瞬間。
スマホが震えた。
【あなたへのレビューが更新されました】
高瀬はゆっくり通知を開く。
★★★★★
観察力は高く評価されています。
「偶然だろ……」
声が弱かった。
自分でも分かる。
少しだけ。
怖くなっていた。
夕方。
高瀬は帰宅した。
ソファへ座る。
スマホを机へ置く。
もう今日は見ない。
そう決めた。
だが。
数秒後には手に取っていた。
「……」
終わっている。
完全にレビューに振り回されている。
その時。
また通知が届く。
【あなたへのレビューが更新されました】
高瀬は半ば諦めながら開いた。
★★★★☆
本日も全員と接触済みです。
高瀬は画面を見つめたまま固まった。
全員。
その言葉の意味を考えたくなかった。
考えてはいけない気がした。
だが。
頭の中には。
今日すれ違った109人の顔が浮かんでいた。




