Review6 既読
眠れなかった。
当たり前だ。
眠れる方がおかしい。
昨日届いたレビューが頭から離れない。
★★★★☆
本日も全員と接触済みです。
あの一文。
意味が分からない。
だが。
意味が分からないからこそ気持ち悪い。
高瀬はベッドの上で何度目かの寝返りを打った。
午前一時九分。
時計の数字が妙に目につく。
「今度は一〇九かよ……」
考えすぎだ。
そう自分に言い聞かせる。
だが。
頭の中は昨日のことでいっぱいだった。
百九人。
評価者百九人。
そして。
全員と接触済み。
意味が分からない。
高瀬は諦めたように起き上がった。
スマホを手に取る。
レビュー画面。
もはや最近一番見ているアプリだった。
「いや、待てよ」
ふと思う。
もし。
本当に誰かがこれを書いているなら。
質問できるんじゃないか?
馬鹿げている。
だが今さらだ。
レビューが届く時点で十分馬鹿げている。
高瀬はメモアプリを開く。
そして打ち込んだ。
【お前誰だ?】
数秒。
何も起きない。
「だよな」
高瀬は苦笑した。
その瞬間。
スマホが震えた。
【あなたへのレビューが更新されました】
「うわっ!」
反射的に通知を開く。
★★☆☆☆
質問が雑です。
高瀬は固まった。
「は?」
もう一度読む。
★★☆☆☆
質問が雑です。
「いや返事してるだろ!」
思わず声が出た。
夜中である。
隣人に聞かれたら終わりだ。
だがそれどころではない。
返事をした。
絶対に。
偶然ではない。
高瀬は再びメモを開く。
【じゃあ何者なんだ】
数秒後。
再び通知。
★★★☆☆
その質問にはまだ答えられません。
高瀬は天井を見上げた。
「会話になってるじゃねぇか……」
怖い。
本当に怖い。
だが。
少しだけワクワクしている自分もいた。
教師時代からそうだった。
分からない問題を解くのは嫌いじゃない。
ただ。
今回の問題は規模がおかしい。
高瀬は深呼吸した。
そして。
一番聞きたいことを打ち込む。
【評価者は百九人か?】
送信。
数秒。
十秒。
二十秒。
返事は来ない。
「都合悪い質問か?」
そう呟いた時だった。
画面の右上に。
見慣れない文字が表示された。
既読
高瀬の思考が止まる。
「……は?」
既読。
今。
何が。
既読?
画面を閉じる。
開く。
消えない。
既読
そこにある。
確かにある。
レビューは返事をしなかった。
だが。
読んだ。
読んだことだけは伝えてきた。
高瀬はスマホを握り締める。
「誰なんだよ……」
部屋には自分しかいない。
だが。
誰かに見られている気がした。
カーテンを見る。
窓を見る。
玄関を見る。
誰もいない。
それなのに。
妙な視線だけがある気がする。
嫌な汗が流れた。
その時。
再び通知が届く。
【あなたへのレビューが更新されました】
高瀬はゆっくり開いた。
★★★★★
良い質問です。
それだけだった。
いや。
違う。
その下に。
今までにない長文が追加されていた。
★★★★☆
高瀬悠介という人間は、
昔から答えを急ぐ傾向があります。
教師時代もそうでした。
結論を求めます。
理由を求めます。
正解を求めます。
それ自体は悪いことではありません。
ですが。
全ての問いに、
すぐ答えが存在するわけではありません。
今のあなたが知るべきことは、
評価者の正体ではありません。
評価者が存在するという事実です。
焦らないでください。
レビューは逃げません。
「いや、怖ぇんだよ」
高瀬は即座にツッコんだ。
レビューが逃げない。
そんな情報はいらない。
だが。
最後の一文だけが妙に引っかかった。
高瀬はもう一度画面を見る。
その時。
画面の一番下に。
小さな文字が追加されていることに気付いた。
回答保留中
高瀬はしばらくその文字を見つめた。
そして。
力なくベッドへ倒れ込む。
「いや、チャットアプリじゃねぇんだぞ……」
誰もいない部屋で呟く。
返事はない。
だが。
既読だけは消えなかった。




