Review4 評価者不明
高瀬はスマホを見つめていた。
【選定理由】
閲覧権限がありません。
その一文は十分すぎるほど意味不明だった。
閲覧権限。
まるで社内システムだ。
教師時代にもよく見た文言だった。
成績管理システム。
校務支援システム。
管理者権限。
閲覧権限。
編集権限。
そういう言葉なら理解できる。
だが。
人生のレビューに権限とは何だ。
「意味分かんねぇ……」
独り言が漏れる。
窓の外を見る。
朝だった。
通勤する車が見える。
歩道を歩く高校生もいる。
世界はいつも通り動いている。
なのに。
自分だけがおかしい場所に取り残されたような感覚があった。
高瀬は大きく息を吐く。
眠気が酷い。
結局ほとんど寝ていない。
こんな状態で正常な判断ができている自信もなかった。
ふと。
自分が教師だった頃を思い出す。
生徒からよく相談を受けた。
SNSトラブル。
悪口。
なりすまし。
匿名掲示板。
誰が書いたか分からない言葉に傷付く生徒は多かった。
その度に言っていた。
『証拠を集めよう』
『感情で決めるな』
『まず事実を整理しよう』
今ならその言葉の意味が少し分かる。
高瀬はノートを開いた。
① 誰が送ったのか
② 目的は何か
③ なぜ自分なのか
④ なぜ藤原美咲なのか
そこへ新しく書き加える。
⑤ 誰が評価しているのか
ペン先が止まる。
誰が送ったのか。
誰が評価しているのか。
似ている。
だが違う。
送信者と評価者は別かもしれない。
レビューの文章を思い出す。
【総評】
【改善点】
【現在の評価】
まるで一人の感想ではない。
誰かが会議でもしているような文章だった。
高瀬は苦笑する。
人生を評価する会議。
そんなものが存在するわけがない。
その時だった。
スマホが震えた。
反射的に肩が跳ねる。
通知。
たった数回届いただけなのに、もうこの音が嫌になっていた。
【あなたへのレビューが更新されました】
高瀬は顔をしかめる。
そして開く。
★★★★☆
本質に近付いています。
高瀬はしばらく動けなかった。
本質。
今考えていた内容。
今書いていた内容。
まるでノートを覗かれているようだった。
いや。
覗かれている。
そう考えた方が自然だった。
高瀬は立ち上がる。
部屋を見回す。
テレビの裏。
本棚の隙間。
机の下。
自分でも馬鹿らしいと思う。
盗聴器や隠しカメラを探しているみたいだった。
当然見つからない。
それでも確認せずにはいられなかった。
高瀬はソファへ腰を下ろす。
そしてスマホを睨んだ。
「誰なんだよ」
思わず呟く。
「何がしたい」
返事なんて来ない。
そう思った。
だが。
数秒後。
スマホが震える。
【あなたへのレビューが更新されました】
高瀬の喉が鳴る。
通知を開く。
今まで存在しなかった項目が増えていた。
【評価者】
高瀬は目を見開いた。
反射的にタップする。
画面が切り替わる。
そして。
【閲覧権限がありません】
「……」
期待した自分が馬鹿みたいだった。
思わず笑う。
乾いた笑いだった。
気味が悪い。
腹が立つ。
だが。
同時に気付いてしまった。
自分はもう、このレビューを無視できない。
その時。
最後の通知が届く。
【あなたへのレビューが更新されました】
★★★★★
適切な順序で真実へ近付いています。
高瀬はその文章を見つめたまま、しばらく動けなかった。




