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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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3/120

Review3 43秒

15時46分17秒。


事故まで。


あと四十三秒。


高瀬は廊下を走った。


「先生!! こっち!」


声のする方へ曲がる。


階段前。


数人の生徒が集まっていた。


その中心に。


男子生徒が一人、倒れている。


「どいて!」


高瀬が膝をつく。


「先生、急に倒れて……!」


「分かった。大丈夫、落ち着け」


返事はない。


肩へ触れる。


「聞こえるか?」


反応なし。


呼吸。


――ある。


「保健室!」


高瀬が顔を上げる。


「先生呼んできて!」


「はい!」


「AEDも!」


「分かりました!」


「救急車!」


別の生徒がスマートフォンを取り出す。


「俺が!」


「頼む!」


生徒たちが動く。


高瀬はもう一度、倒れた男子生徒を見る。


呼吸はある。


脈も。


ただ。


意識が戻らない。


「おい」


頬へ軽く触れる。


「聞こえるか?」


反応はない。


ポケットの中で。


スマートフォンが震えた。


――ブッ。


見なくても分かった。


Reviewだ。


高瀬は無視した。


「先生……」


すぐ横。


女子生徒が震えている。


「どうしよう」


「大丈夫」


言いかけて。


止めた。


大丈夫かどうかなんて。


今の高瀬には分からない。


「……今、先生たちで何とかする」


女子生徒が。


小さく頷いた。


それでいい。


今は。


嘘をつく必要はない。


「先生!」


廊下の向こうから声。


別の教師がAEDを抱えて走ってくる。


「状況は!?」


「突然倒れた。呼吸あり、意識なし!」


「救急車は?」


「呼んでます!」


高瀬は場所を譲る。


その瞬間。


ポケットの中で。


またスマートフォンが震えた。


時計が見えた。


15時46分49秒。


「……」


事故まで。


十一秒。


高瀬は周囲を見る。


倒れた生徒。


集まる生徒たち。


教師。


階段。


廊下。


何が起きる。


これじゃないのか?


男子生徒が倒れたことが。


事故じゃないのか?


15時46分53秒。


あと七秒。


「先生!」


倒れていた男子生徒の指が。


わずかに動いた。


「おい!」


高瀬が手を握る。


「聞こえるか?」


瞼が。


ゆっくり開いた。


「……せん、せ……」


「喋らなくていい」


意識が戻った。


高瀬は息を吐く。


15時46分58秒。


あと二秒。


59。


そして。


15時47分00秒。


――何も起きなかった。


「……?」


高瀬は時計を見る。


15時47分01秒。


「過ぎた……?」


違う。


倒れたのは15時46分だった。


Reviewが告げた事故は。


15時47分。


なら。


これは――。


「先生!」


声。


高瀬が振り向く。


階段の上。


一人の女子生徒が立っていた。


そのさらに上。


壁際に置かれていた消火器が。


傾いている。


「……え」


一瞬だった。


消火器が倒れる。


階段へ落ちた。


ガンッ!


金属音。


一段。


跳ねる。


二段。


加速する。


その先。


女子生徒。


動けていない。


「危ない!」


高瀬は走った。


腕を掴む。


「きゃっ!」


引き寄せる。


直後。


消火器が二人の横を通り抜けた。


ガンッ!!


壁へ激突する。


鈍い音が。


廊下に響いた。


静寂。


「……」


女子生徒が。


高瀬の腕の中で固まっている。


「大丈夫か?」


「……はい」


「どこか当たった?」


首を振る。


高瀬は消火器を見る。


もし。


あと一秒遅かったら。


頭。


肩。


身体のどこかに。


直撃していた。


時計。


15時47分。


高瀬は。


ようやく理解した。


これだ。


Reviewが言っていた。


『本日のあなたには、一つの事故が予定されています』


この事故。


でも。


「……待てよ」


Reviewは言った。


職員室から出るな。


もし。


従っていたら。


高瀬はここにいなかった。


この女子生徒を。


助けられなかった。


「何なんだよ……」


ポケットの中。


スマートフォンは。


もう震えていなかった。



◇



救急車が到着した。


倒れた男子生徒は、そのまま病院へ運ばれた。


意識は戻っており、会話もできていた。


消火器の近くにいた女子生徒にも、大きな怪我はない。


高瀬は職員室へ戻った。


椅子へ座る。


ようやく。


スマートフォンを見る。


通知。


六件。


全てReview。


そして。


一件だけ。


見たことのない表示。


【SYSTEM】


「……SYSTEM?」


まず。


Reviewを開く。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


警告を無視しました。


━━━━━━━━━━━━


次。


━━━━━━━━━━━━


指示に従いませんでした。


━━━━━━━━━━━━


次。


━━━━━━━━━━━━


予定された行動から

逸脱しました。


━━━━━━━━━━━━


「……」


高瀬の眉が寄る。


「それが何だよ」


次。


━━━━━━━━━━━━


結果。


事故への介入を確認。


━━━━━━━━━━━━


次。


━━━━━━━━━━━━


対象A


負傷回避。


━━━━━━━━━━━━


「対象A……」


あの女子生徒。


そういうことか。


そして。


最後。


━━━━━━━━━━━━


あなたの行動を評価します。


━━━━━━━━━━━━


星。


━━━━━━━━━━━━


★★★★★


━━━━━━━━━━━━


「……は?」


高瀬は。


思わず声を出した。


「何でだよ」


警告を無視した。


指示にも従わなかった。


予定された行動からも外れた。


なのに。


★★★★★。


「意味分かんねえよ」


高瀬は画面へ問いかける。


「お前、職員室から出るなって言ったよな?」


反応なし。


「俺が出なかったら」


あの女子生徒は。


どうなっていた?


「怪我してたんじゃないのか?」


数秒。


返事はない。


代わりに。


【SYSTEM】


その表示が。


ゆっくり点灯した。


高瀬は。


初めて開く。


━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


観測結果を更新しました。


━━━━━━━━━━━━


「観測……?」


文字が続く。


━━━━━━━━━━━━


対象


高瀬


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


予測一致率


0.0%


━━━━━━━━━━━━


「ゼロ?」


次。


━━━━━━━━━━━━


予定行動


職員室に待機。


━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━


実行行動


事故へ介入。


━━━━━━━━━━━━


「……」


高瀬は。


画面を見つめた。


予定行動。


職員室に待機。


つまり。


Reviewが言った通り。


高瀬は。


本来。


職員室にいるはずだった。


でも。


出た。


━━━━━━━━━━━━


結果が変更されました。


━━━━━━━━━━━━


高瀬の指が止まる。


「……変更?」


未来。


Reviewが知っていた未来。


そこでは。


高瀬は職員室に残っていた。


女子生徒は。


消火器に巻き込まれていた。


でも。


自分は。


そこから外れた。


「変わった……?」


高瀬の心臓が。


強く鳴った。


未来が。


決まっているわけじゃない。


Reviewの指示に逆らったことで。


結果を。


変えた。


その瞬間。


昨夜の言葉が蘇る。


『3日後』


『あなたは死にます』


「……」


もし。


同じなら。


自分の死も。


変えられる?


初めて。


そんな考えが浮かんだ。


三日後。


必ず死ぬわけじゃない。


選択で。


未来が変わるなら。


「俺も……」


生きられる。


そう言いかけた時だった。


画面が。


切り替わった。


━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


修正処理を開始します。


━━━━━━━━━━━━


「……修正?」


高瀬の表情が変わる。


━━━━━━━━━━━━


変更された結果を


既定値へ戻します。


━━━━━━━━━━━━


「待て」


嫌な予感。


「既定値って何だ」


返事はない。


「おい」


画面。


━━━━━━━━━━━━


修正率


1%


━━━━━━━━━━━━


「何を戻すんだよ」


対象A。


負傷回避。


変更された結果。


もし。


それを。


元へ戻すなら。


「……あの子?」


高瀬は立ち上がった。


その瞬間。


職員室の電話が鳴った。


――プルルルル。


近くにいた教師が取る。


「はい、○○中学校です」


高瀬は。


スマートフォンを握ったまま。


その教師を見る。


「……はい」


教師の表情が。


変わった。


「え?」


嫌な。


感覚。


「分かりました。今確認します」


電話を切る。


「どうしました?」


別の教師が聞く。


受話器を置いた教師が。


高瀬を見る。


「高瀬先生」


「……はい」


「さっきの事故にいた女子生徒なんですけど」


心臓が。


強く鳴った。


「駅の近くで」


一度。


言葉を止める。


「倒れたそうです」


「……は?」


スマートフォン。


━━━━━━━━━━━━


修正率


4%


━━━━━━━━━━━━


高瀬は。


画面を見る。


未来を変えた。


確かに。


変えたはずだった。


なのに。


戻そうとしている。


「……違う」


未来を。


教えてくれているんじゃない。


Reviewは。


未来を予言しているんでもない。


変わった結果を。


元へ戻そうとしている。


なら。


これは。


未来を教えてくれるアプリなんかじゃない。


未来を。


採点している。

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