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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『人生としては面白いです』

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2/6

Review2 レビューを削除できません

 眠れなかった。


 ベッドに入ってからどれくらい時間が経ったのか分からない。


 高瀬悠介は天井を見つめたまま、小さく息を吐いた。


 時計を見る。


 午前一時九分。


 最悪だった。


 明日仕事があるわけではない。


 だが、だからといって夜更かしが許される年齢でもない。


 三十二歳。


 徹夜すれば翌日に響く。


 そんなことは嫌というほど分かっている。


 原因は一つだった。


 枕元に置かれたスマホ。


 正確には、その中にある意味不明なレビュー。


 高瀬はスマホを手に取った。


 何度目かも分からない。


 画面を開く。


 そしてまた、同じ文章を読む。


★★★★★


 人生としては面白いです。


【評価対象】


 高瀬悠介


【現在の評価】


 2.8


【改善点】


 教師を辞めた判断は妥当でした。


【総評】


 藤原美咲への対応については、現在も評価が分かれています。


「……」


 意味が分からない。


 教師を辞めたことはいい。


 知っている人間はいる。


 だが。


 藤原美咲。


 その名前だけが引っ掛かった。


 卒業して何年も経つ。


 今さら誰がそんなことを持ち出す。


 高瀬はスマホを伏せた。


 考えても答えは出ない。


 悪質なイタズラ。


 そう考えるのが一番自然だった。


 そうでなければ困る。


 しばらく目を閉じる。


 だが眠れない。


 脳が勝手にレビューの文章を思い出す。


 結局、高瀬は再びスマホを手に取った。


「消そう……」


 誰もいない部屋で呟く。


 当たり前だ。


 こんな気味の悪いものを残しておく理由がない。


 ホーム画面を開く。


 探す。


 ない。


 一ページ目。


 二ページ目。


 三ページ目。


 どこにもない。


「は?」


 思わず声が漏れた。


 通知は届いている。


 レビューも開いた。


 なのにアプリが存在しない。


 設定画面を開く。


 インストール済みアプリ一覧。


 上から順番に確認する。


 レビュー。


 評価。


 採点。


 それらしい名前は一つもなかった。


 高瀬は眉間を押さえた。


 教師だった頃。


 問題が起きれば、まず事実を整理した。


 感情論は後回し。


 原因を探す。


 証拠を確認する。


 順番に潰していく。


 だから今も同じことをする。


 通知は届いた。


 レビューは存在する。


 自分はそれを読んだ。


 ならばアプリも存在するはずだ。


 どこかで見落としている。


 そう考えるのが自然だった。


 再起動する。


 待つ。


 立ち上がる。


 再び探す。


 やはりない。


「なんだよ……これ」


 少しだけ声が震えた。


 その時だった。


 スマホが震える。


 高瀬の肩が跳ねた。


 通知。


 嫌な予感がした。


 だが無視できなかった。


 画面を見る。


【あなたへのレビューが更新されました】


 指先が少し冷たくなる。


 通知を開く。


 新しく追加されていた文章は一行だけだった。


★★★★☆


 適切な対応です。


 高瀬は固まった。


 適切な対応。


 今の行動に対して言われているようにしか見えない。


 アプリを探した。


 設定を確認した。


 再起動した。


 まるで。


 誰かが見ていたような文面だった。


「偶然だ……」


 そう呟く。


 だが声に力がない。


 偶然。


 そうであってほしい。


 そう願っているだけだ。


 高瀬はベッドから起き上がった。


 喉が渇いた。


 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。


 一口飲む。


 冷たい。


 少しだけ落ち着く。


 だが。


 視線は再びスマホへ向かっていた。


 気味が悪い。


 それなのに気になる。


 触れたくないのに確認してしまう。


 事故現場を見てしまう時のような感覚だった。


 高瀬はレビュー画面を開く。


 ゆっくりと下へスクロールする。


 そこで初めて気付いた。


 画面の最下部。


 小さな文字。


【このレビューを削除しますか?】


 迷わず押す。


 確認画面が表示される。


【本当に削除しますか?】


 はい


 いいえ


「当たり前だろ」


 高瀬は即座に「はい」を押した。


 数秒。


 読み込み。


 そして。


【レビューを削除できません】


 それだけだった。


 理由はない。


 説明もない。


 エラーコードもない。


 ただ。


 削除できません。


 その一文だけ。


 高瀬は画面を見つめた。


 今までで一番気味が悪かった。


 意味が分からないからではない。


 削除できない理由を説明しないことが気味悪かった。


 まるで。


 最初から削除されることなど想定していないようだった。


 その時。


 再び通知が届く。


【あなたへのレビューが更新されました】


 震える指で開く。


 追加されていたレビューは一つ。


★★★★★


 諦めが悪いところは評価できます。


 高瀬は無意識にスマホを取り落とした。

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