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「先生、もし将来つらくなったらどうしますか?」
卒業式の日。
藤原美咲はそう言った。
今でも、その言葉を覚えている。
むしろ。
忘れられない。
教師を辞めて半年が経った今でも。
あの日の教室。
あの日の笑顔。
そして。
あの日の自分の返事を。
「そうだな。コーヒーでも飲みながら考えるかな」
美咲は笑った。
「先生らしいですね」
俺も笑った。
それで会話は終わった。
終わったはずだった。
もし人生にやり直しがあるなら。
俺はあの日に戻りたい。
そして。
もっと違う言葉をかける。
◇
雨上がりの夜だった。
高瀬悠介はコンビニの駐車場で缶コーヒーを開けた。
三十二歳。
元中学校教師。
現在無職。
肩書きだけ見ると人生失敗した人間みたいだな、と苦笑する。
教師を辞めたことは後悔していない。
少なくとも、そう自分に言い聞かえている。
だが。
藤原美咲の名前を思い出すたびに。
その自信は少しずつ崩れていく。
(俺は本当に正しかったのか)
何度考えても答えは出ない。
だから考えないようにしていた。
コーヒーを飲み干し、スマホを見る。
その時だった。
スマホが震えた。
通知。
見覚えのないアイコン。
見覚えのないアプリ。
インストールした記憶もない。
表示された文章は一行だけだった。
【あなたへのレビューが更新されました】
「……は?」
意味が分からない。
レビュー?
何の?
試しに通知を開く。
数秒後。
白い画面に文字が表示された。
★★★★★
人生としては面白いです。
高瀬は眉をひそめる。
悪質な広告かと思った。
だが。
その下の文章を見た瞬間。
呼吸が止まった。
【評価対象】
高瀬悠介
【現在の評価】
2.8
【改善点】
教師を辞めた判断は妥当でした。
それだけじゃない。
さらに下には。
【総評】
藤原美咲への対応については、現在も評価が分かれています。
高瀬の指が止まった。
全身から血の気が引いていく。
なぜ。
どうして。
その名前を知っている。
雨上がりの夜風が吹く。
スマホの光だけが妙に明るかった。
気付けば高瀬は、画面から目を離せなくなっていた。




