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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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40/120

Review40 代償

 翌朝。


 高瀬は職員室へ入ると、鞄を置くより先に藤原と真壁の机へ向かった。


「おはよう」


「おはようございます」


 藤原が答える。


 真壁は高瀬の顔を見るなり、少しだけ眉を寄せた。


「寝てない?」


「寝た」


「何時間」


「三時間」


「それは寝たに入らない」


「厳しいな」


「普通です」


 高瀬は苦笑して、三人の間にノートを置いた。


 昨夜、最後に書いた一文。


『帰還代償 未確定』


 その下には。


『もし白石悠真の記憶を失うなら、ナオが戻る意味そのものがなくなる』


 藤原が、その一文を見つめた。


「今日は、ここですね」


「うん」


「佐伯先生に聞く?」


 真壁の問いに、高瀬は頷いた。


「俺の一年前と、佐伯先生の三年前。二つしか例がないけど、共通点はある」


「高瀬先生は桐谷先生」


「佐伯先生は、自分を待っていた人」


「どっちも」


 真壁が言葉を継ぐ。


「帰還に強く関係していた人物の記憶を失ってる」


「……だよな」


 高瀬は椅子に座った。


 昨日まで、どこかで考えていた。


 代償はランダムなのかもしれない。


 運が悪ければ大事なものを失う。


 逆に、運がよければ大したものは失わない。


 その方が、まだ救いがあった。


 でも。


「もし」


 藤原が静かに言った。


「ランダムじゃなかったら」


「うん」


「帰るために一番必要だったものを、帰った時に失う?」


 三人の間から、笑いが消えた。


「最悪だな」


 高瀬が呟く。


「かなり」


 真壁も否定しなかった。


「でも」


 藤原はノートを閉じた。


「まだ仮説です」


「分かってる」


「高瀬先生」


「何」


「今、ナオを帰還させる方法まで考え始めたでしょ」


「……」


「顔」


「もう嫌だ、俺の顔」


 真壁が小さく笑った。


「今日は、まず調べる」


「はい」


「帰すのは、その後」


「はい」


「勝手に自分を差し出さない」


「……」


「高瀬先生」


「そこまでセット!?」


「重要なので」


◇


 午前八時十二分。


 保健室。


 佐伯真由は、自分の名札を机の上に置いていた。


『佐伯 真由』


 昨日より。


 その文字を見つめる時間は短い。


「今日は」


 佐伯が名札を指で軽く叩いた。


「ちゃんと自分の名前に見えます」


「よかった」


 高瀬が言う。


「帰還維持率は?」


「高瀬先生」


 真壁。


「何」


「数字」


「あ」


 高瀬は口を閉じた。


 佐伯が小さく笑った。


「大丈夫です。今日は私から見ました」


 スマートフォン。


 画面。


━━━━━━━━━━━━


対象名


佐伯真由


━━━━━━━━━━━━


帰還維持率


51%


━━━━━━━━━━━━


外部固定


19


━━━━━━━━━━━━


「昨日46」


 藤原。


「少し上がった」


「はい」


 佐伯はスマートフォンを伏せる。


「でも、今日はその話じゃないんですよね」


「ナオ」


 高瀬が言った。


 佐伯の表情が少し変わる。


「帰還条件」


「揃いました?」


「ほぼ」


「本人も戻りたいって」


「……そうですか」


「ただ」


 高瀬は一度、息を吸った。


「帰還代償が未確定」


 佐伯の目がわずかに揺れた。


「だから」


 真壁。


「佐伯先生の時」


「戻る直前、何か表示されませんでした?」


「代償について?」


「はい」


 佐伯は考え込んだ。


「……ありました」


 三人の表情が変わる。


「覚えてる?」


 高瀬。


「全部ではないです。でも、一文だけ」


「何て」


 佐伯はゆっくりと記憶を探った。


「確か……」


 一度、目を閉じる。


「『帰還に使用した固定点を解除します』」


「……」


 高瀬の指が止まった。


 真壁がすぐノートへ書く。


『帰還に使用した固定点を解除』


「固定点」


 藤原。


「やっぱり」


 佐伯が頷く。


「その時の私には、意味が分からなかった」


「でも戻ったあと」


「その人を忘れた」


「はい」


「じゃあ」


 高瀬の声が低くなる。


「固定点の解除って」


「人との繋がりを切る?」


「可能性は高いです」


「……」


「高瀬先生」


 佐伯が高瀬を見る。


「あなたの時も」


「うん」


「桐谷先生が、最も強い固定点だった可能性がある」


「……」


 高瀬は返事をしなかった。


 一年前。


 自分は桐谷と未登録領域へ入った。


 三日後。


 一人で戻った。


 そして。


 桐谷を忘れた。


「じゃあ俺」


 高瀬が小さく言う。


「桐谷を使って帰った?」


「言い方」


 藤原がすぐに止めた。


「……ごめん」


「桐谷先生が、高瀬先生を帰した可能性もあります」


「うん」


「まだ、自分が利用したみたいに決めない」


「……はい」


 佐伯が少し驚いた顔をした。


「藤原先生」


「はい」


「強いですね」


「最近よく言われます」


 高瀬。


「俺が主に言わされてる」


「自業自得です」


「真壁まで!」


 少しだけ。


 空気が緩んだ。


◇


「じゃあ」


 真壁がノートを見る。


「仮に」


「うん」


「帰還すると、使用した固定点が解除される」


「うん」


「ナオの今の外部固定候補」


「白石悠真」


「はい」


「帰還目的」


 藤原。


「『悠真に、また明日と言いたい』」


「……」


 高瀬が机を見た。


「完全に」


「悠真中心」


「はい」


「じゃあ」


 佐伯が少し苦しそうな顔をする。


「今の状態で帰れば」


 誰も。


 続きを言いたくなかった。


 それでも。


 真壁が言う。


「白石の記憶が、解除対象になる可能性が高い」


「……」


 高瀬は椅子へ深く座った。


「最悪すぎる」


「はい」


「やっと思い出して」


「会いたいって言って」


「それで帰った瞬間」


「忘れる?」


「……」


「何だよそれ」


 声に。


 少しだけ怒りが混じった。


「高瀬先生」


 藤原。


「うん」


「怒っていいと思います」


「……」


「今回は止めないんだ」


「理不尽なので」


「……そっか」


 高瀬は少しだけ笑った。


「じゃあ怒るわ」


 そして。


 机を軽く叩く。


「ふざけんな」


「軽い」


 真壁。


「大声出せんだろ、保健室だぞ!」


 佐伯が思わず笑った。


◇


「でも」


 佐伯が笑みを収める。


「もしかしたら」


「何」


「避ける方法」


 三人。


 一斉に佐伯を見る。


「ある?」


「分かりません」


「おい!」


「高瀬先生」


「はい」


「最後まで聞く」


「はい」


 佐伯が少し笑う。


「私が帰った時」


「固定点は」


「一つしかありませんでした」


「……」


「その人だけ?」


「はい」


「少なくとも」


「私が認識していたのは」


「その人だけ」


「……」


「だから」


 藤原。


「一つを解除されたら」


「全部切れた」


「はい」


「もし」


 真壁。


「固定点が複数あれば?」


「分かりません」


「でも」


 佐伯。


「一つだけではない帰還」


「私は」


「試していません」


「……」


 高瀬が少し身を乗り出す。


「じゃあ」


「白石以外にも」


「固定点作れば」


「高瀬先生」


 藤原。


「作る、じゃない」


「……」


「昨日」


「佐伯先生の時」


「学びましたよね」


「……」


「そうだった」


 SYSTEM対策のために作った関係は。


 同じではない。


 普通に関わった結果。


 勝手に残ったもの。


「ナオが」


 高瀬は言い直す。


「すでに残してるもの」


「白石以外にも」


「あるかもしれない」


「はい」


「探す」


 真壁。


「ただ」


「それでも」


「誰か一人」


「失う可能性は残る」


「……」


 高瀬。


「なら」


「もっと根本」


「何」


「外部固定じゃなく」


「ナオ本人が」


「自分を固定できない?」


 三人。


 少し静かになる。


「自己固定」


 真壁が呟く。


「本人が」


「本人を」


「こちら側へ繋ぐ?」


「うん」


「他人のためじゃなく」


「自分が」


「戻りたい理由」


「……」


 藤原。


 目を細める。


「それ」


「大事かもしれない」


「白石くんに会いたい」


「それは」


「とても大事」


「でも」


「ナオ自身が」


「戻ったあと」


「何をしたいか」


「……」


 佐伯。


 静かに頷く。


「私」


「三年前」


「それがなかった」


「……」


「ただ」


「あそこから」


「出たかった」


「戻りたかった」


「怖かった」


「……」


「戻った先で」


「自分が何をしたいか」


「考えてなかった」


 高瀬は。


 その言葉を。


 しばらく聞いていた。


「だから」


 佐伯。


「もしナオくんが」


「誰かのためじゃなく」


「自分のために」


「こちらへ戻る理由を持てたら」


「……」


「結果」


「変わるかもしれない」


「仮説」


「はい」


 佐伯が笑う。


「真壁先生みたいですね」


「最近みんな保留するから」


 高瀬。


「いい影響?」


「半分」


「また!」


◇


 昼休み。


 三人は。


 旧視聴覚室へは行かなかった。


 代わりに。


 図書室へ行った。


「何で」


 真壁。


「ナオ」


「本好きだったから」


「本人の」


「好きだったもの」


「探す」


「……」


「高瀬先生」


「何」


「今日は」


「ちゃんと本人見てる」


「褒めた?」


「半分」


「もう半分何!?」


 藤原が少し笑う。


「貸出履歴」


「前」


「ファンタジー多かった」


「はい」


「具体的に」


 三人。


 古い記録。


 見る。


 異世界。


 冒険。


 魔法。


 歴史もの。


 青春。


「偏ってる?」


 高瀬。


「結構」


 真壁。


「ファンタジー」


「好きだったんですね」


 藤原。


「……」


 高瀬。


 少し笑う。


「普通の中学生っぽい」


「高校です」


「そうだった」


「大丈夫ですか」


「眠い!」


◇


 図書委員の保管箱。


 過年度。


 古い。


 メモ。


 おすすめ本。


 POP。


「これ」


 藤原。


 一枚。


 手書き。


『現実が嫌な日に読む本』


「……」


 高瀬。


「誰書いた」


 裏。


 小さく。


『水城』


「ナオ」


 三人。


 少し。


 笑う。


 文章。


『現実が嫌でも、物語の中なら一回くらい世界を救えます。たぶん。』


「……」


 高瀬。


「たぶん付けるんだ」


「真壁っぽい」


「俺?」


「保留」


「そこ!?」


 さらに。


 別。


『主人公が強すぎる。でも面白いので許す。』


「辛口」


 藤原。


「ナオ」


「結構」


「普通に面白いな」


 高瀬。


 次。


 もう一枚。


『いつか自分でも書いてみたい。』


 三人。


 止まる。


「……」


 高瀬。


 紙を。


 慎重に。


 持つ。


「これ」


 真壁。


「本人?」


 裏。


『水城尚』


「……」


 藤原。


 少しだけ。


 目を細める。


「書きたい?」


「小説?」


「多分」


 高瀬。


 胸。


 少し。


 強く鳴る。


「ナオ」


「戻ったら」


「やりたいこと」


「あるじゃん」


「待って」


 真壁。


「昔のナオが」


「書いた」


「今のナオが」


「まだ同じか」


「……」


「本人に聞く」


「はい」


「危な」


 高瀬。


 少し笑う。


「また決めるとこだった」


「癖」


「根深いですね」


「二人して!」


◇


 放課後。


 午後五時三十八分。


 旧視聴覚室。


 三人。


 扉の前。


「桐谷」


「いる」


「返事早!」


「今日は」


「待ってた」


「……」


 高瀬。


「俺らを?」


「ナオが」


 一度。


 扉の向こう。


 小さな声。


「先生」


「ナオ」


「はい」


「今日」


「何点」


「二十四」


「倍!」


 真壁。


「この方式続くんですか」


「百まで行けばいいな」


 高瀬。


「急がなくていいです」


 藤原。


「はい」


 少し。


 笑い。


「ナオ」


「はい」


「今日」


「昔のお前」


「ちょっと見つけた」


「……僕?」


「図書室」


「……」


「POP」


「おすすめ本」


「……」


 向こう。


 静かになる。


「覚えてる?」


「少し」


「ファンタジー」


「好きだった?」


 少し。


 間。


「……好き」


「主人公強すぎるって」


「書いてた」


「……」


「それ」


 ナオ。


 少し笑う。


「多分」


「僕」


「……」


「あと」


 高瀬。


 今度は。


 少しゆっくり。


「一枚」


「これ」


 扉の下。


 写真。


 滑らせる。


 原本ではない。


 撮影したもの。


 向こう。


 ナオ。


 拾う音。


「……」


『いつか自分でも書いてみたい。』


 長い。


 沈黙。


「ナオ」


「……」


「覚えてる?」


「……」


 呼吸。


 少し。


 乱れる。


「僕」


「小説」


「書いてた」


「……」


 三人。


 表情が変わる。


「書いてた?」


 高瀬。


「うん」


「どこ」


「……」


 ナオ。


 記憶を探す。


「図書室」


「パソコン?」


「違う」


「ノート」


「……」


「青い」


「ノート」


「……」


「途中まで」


「書いた」


「何の話」


「……」


 少し。


 笑う声。


「異世界」


「お」


「ありがち」


 真壁。


「真壁!」


「事実」


 ナオが。


 扉の向こうで。


 笑った。


「僕も」


「ありがちだって」


「思ってた」


「ほら!」


「でも」


 ナオ。


 声。


 少し。


 柔らかくなる。


「主人公」


「教師だった」


「……」


 高瀬。


 止まる。


「教師?」


「うん」


「何で」


「……」


 ナオ。


 少し。


 考える。


「先生」


「誰」


「……」


「高瀬先生」


 三人。


 静かになる。


「俺?」


「うん」


「モデル?」


「……少し」


「マジ?」


「でも」


「すぐ」


「死ぬ」


「おい!」


 藤原。


 吹き出す。


 真壁も。


 笑う。


「ナオ!」


「ごめんなさい」


「モデル殺すな!」


「話の都合」


「作家っぽい言い訳!」


 扉の向こう。


 ナオが。


 久しぶりに。


 ちゃんと。


 笑った。


◇


「ナオ」


 高瀬。


「その話」


「続き」


「書きたい?」


「……」


 高瀬は。


 待った。


 答えを。


 誘導しない。


「……書きたい」


 小さい。


 でも。


 はっきり。


「今も?」


「うん」


「悠真関係なく?」


「……」


 ナオ。


 少し。


 考える。


「悠真にも」


「読ませたい」


「うん」


「でも」


 一度。


 息を吸う。


「僕が」


「最後まで」


「書きたい」


「……」


 高瀬。


 目。


 少し。


 熱くなる。


「それ」


「いいじゃん」


「……」


「戻ったら」


「書く?」


「はい」


「最後まで?」


「……」


 ナオ。


 少し笑う。


「できれば」


「そこは言い切れ!」


「先生」


「何」


「書くの」


「大変だから」


「急に現実的!」


 三人。


 笑う。


 桐谷も。


 向こうで。


 少し。


 笑った。


◇


 その瞬間。


 三人のスマートフォン。


 同時。


 震える。


「……」


 SYSTEM。



━━━━━━━━━━━━


【識別対象001】


帰還目的


再評価


━━━━━━━━━━━━



「再評価」


 藤原。


 次。



━━━━━━━━━━━━


既存目的


白石悠真へ


「また明日」と伝える


━━━━━━━━━━━━



 次。



━━━━━━━━━━━━


追加目的


未完了作品の完成


━━━━━━━━━━━━



「……」


 ナオ。


 扉の向こう。


 息。


 止まる。


 さらに。



━━━━━━━━━━━━


自己固定候補


検出


━━━━━━━━━━━━



「自己固定」


 真壁。


「やっぱり」


 高瀬。


 次。



━━━━━━━━━━━━


外部固定


白石悠真


━━━━━━━━━━━━


自己固定


「物語を書き終える」


━━━━━━━━━━━━



 三人。


 誰も。


 すぐには。


 話さない。


「ナオ」


 高瀬。


「今」


「SYSTEMに」


「出た」


「……何が」


「お前が」


「書き終えたいって」


「思ったこと」


「……」


「自己固定」


 ナオ。


 静かになる。


「僕が」


「僕を」


「……」


「多分」


 高瀬。


「まだ仮説」


「でも」


「誰かに」


「待っててもらうだけじゃない」


「……」


「自分で」


「戻ってきたいって」


「言えるもの」


「見つかった」


 ナオ。


 長い。


 沈黙。


「……先生」


「何」


「僕」


「帰って」


「いいんですか」


「……」


 高瀬。


 少し驚く。


「何で」


「僕」


「一回」


「先生」


「壊したかもしれない」


「……」


「桐谷先生も」


「こっちに」


「残った」


「……」


「悠真にも」


「忘れられた」


「……」


「僕が」


「帰ったら」


「また」


「誰か」


「困るかもしれない」


「……」


 高瀬は。


 すぐには。


 答えなかった。


「ナオ」


「はい」


「帰っていいかどうか」


「俺が」


「決めることじゃない」


「……」


「でも」


 一度。


 声を。


 少し柔らかくする。


「帰ってきてほしいか」


「なら」


「答えられる」


「……」


「帰ってきてほしい」


 藤原。


「私も」


 真壁。


「俺も」


 向こう。


 桐谷。


 少し。


 間。



「俺も」



 ナオ。


 声。


 出ない。


「でも」


 高瀬。


「最後」


「決めるのは」


「ナオ」


「……」


「お前が」


「戻りたいなら」


「戻ろう」


「……」


「戻ったあと」


「困ったら」


「その時」


「一緒に困る」


「……」


 ナオ。


 小さく。


 笑う。


「先生」


「何」


「それ」


「頼りない」


「知ってる」


「でも」


 高瀬も。


 少し笑う。


「一人で」


「全部何とかするより」


「今は」


「そっちの方が」


「いい気がする」


「……」


「はい」


◇


 SYSTEM。


 新しい表示。



━━━━━━━━━━━━


帰還代償


再計算中


━━━━━━━━━━━━



 三人。


 表情。


 変わる。


「来た」


 真壁。


 ナオ。


 向こう。


 静か。


 数秒。


 長い。


 そして。



━━━━━━━━━━━━


外部固定切断


対象


白石悠真


━━━━━━━━━━━━



「……」


 高瀬の。


 顔。


 強張る。


「やっぱり」


 藤原。


 ナオ。


 声。


 震える。


「悠真」


 次。


━━━━━━━━━━━━


自己固定を検出。


━━━━━━━━━━━━



「……」


 真壁。


 目。


 細くなる。



━━━━━━━━━━━━


帰還経路


再構築。


━━━━━━━━━━━━



 数秒。


 表示。


 変わる。



━━━━━━━━━━━━


外部固定切断


不要


━━━━━━━━━━━━



「……え?」


 高瀬。


 藤原。


 真壁。


 三人。


 動かない。


 ナオ。


「何」


「何が」


 高瀬。


 少しずつ。


 笑顔。


 広がる。


「ナオ」


「……」


「悠真」


「忘れなくて」


「いいかもしれん」


「……」


 向こう。


 ナオ。


 息。


 詰まる。


「本当?」


「まだ」


 真壁。


「確定表示」


「最後まで」


「はい!」


 高瀬。


「今は慎重!」


 SYSTEM。


 次。



━━━━━━━━━━━━


新規帰還方式


候補


━━━━━━━━━━━━


自己固定型


━━━━━━━━━━━━



「自己固定型」


 藤原。


 さらに。



━━━━━━━━━━━━


過去実行例


0


━━━━━━━━━━━━



 三人。


 笑顔。


 少し。


 止まる。


「ゼロ」


 真壁。


「初めて?」


 高瀬。


 次。



━━━━━━━━━━━━


成功率


算出不能


━━━━━━━━━━━━



「……」


 ナオ。


 向こうから。


 小さく。


「先生」


「うん」


「それ」


「怖いやつ?」


「かなり」


「……」


「でも」


 高瀬。


 今回は。


 すぐには。


 大丈夫とは言わない。


「ナオ」


「はい」


「成功するって」


「言えない」


「……」


「失敗したら」


「どうなるかも」


「分からない」


「……」


「だから」


「今すぐ」


「やらなくていい」


 ナオ。


 静か。


「先生なら」


「前」


「やってた?」


 桐谷が。


 向こうから。


 即答。



「やってた」



「桐谷!」


「事実」


 藤原と。


 真壁。


 二人。


 笑う。


 ナオも。


 少し。


 笑った。


「じゃあ」


 ナオ。


 しばらく考える。


「一日」


「待っていいですか」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 目を細める。


「もちろん」


「明日」


「決めます」


「うん」


「帰るか」


「……」


「まだ」


「こっちにいるか」


「うん」


「自分で」


「決めます」


 高瀬。


 静かに。


 頷く。


「待ってる」


◇


 三人。


 帰り道。


 廊下。


「今日」


 藤原。


「かなり」


「進みましたね」


「うん」


 高瀬。


「でも」


 真壁。


「成功率算出不能」


「はい」


「まだ」


「帰還させない」


「分かってる」


「本当に?」


「分かってるって!」


 藤原が笑う。


「高瀬先生」


「何」


「ナオ」


「一日待つって」


「言いました」


「うん」


「ちゃんと」


「待てます?」


「……」


「高瀬先生」


「待つ!」


「今の間」


「うるさい!」


 三人。


 笑いながら。


 階段を下りた。


◇


 夜。


 高瀬。


 ノート。


『帰還代償』


『強い外部固定点が一つの場合、その固定点が切断される可能性』


『佐伯真由→待っていた人物』


『高瀬→桐谷?』


『水城尚→白石悠真の可能性』


 その下。


『自己固定』


『本人自身が「戻って何をしたいか」を持つ』


『ナオ:未完の物語を書き終える』


『外部固定切断 不要』


『新規帰還方式 自己固定型』


『過去例 0』


「……」


 高瀬。


 ペン。


 止める。


 さらに。


 小さく。


『ナオは、誰かに戻してもらうんじゃない』


 一度。


 考える。


『自分で戻る』


「……」


 少しだけ。


 笑う。


 その時。


 SMS。


 知らない番号。


「……」


 開く。



『自己固定まで


辿り着きましたか。』



 高瀬。


 返信。



『知ってたなら


言え』



 数秒。



『前回、


存在しなかった方法です。』



「……」


 高瀬。


 眉。


 寄る。



『じゃあ何で


名前知ってる』



 返信。



『今、


生成されたからです。』



「……」



『お前


SYSTEMなのか』



 送る。


 既読。


 長い。


 でも。


 返事。



『違います。』



「……」


 高瀬。



『じゃあ誰だ』



 打つ。


 止まる。


 また。


 最後の質問権。


 相手は。


 これを。


 使わせたがっている?


 高瀬。


 文字を。


 消す。


「まだ」


「いい」


 スマートフォン。


 伏せる。


 でも。


 すぐ。


 震える。



『高瀬。』



「……」


 初めて。


 相手から。


 名前だけ。


 呼ばれた。



『一つだけ、


覚えておいてください。』



 次。



『自分で自分を固定できるなら、


未登録領域から


戻ることはできます。』



 高瀬。


 少し。


 息。


 吐く。


 次。



『ただし。』



「……」



『それは、


SYSTEMから見れば


最も危険な帰還です。』



 高瀬の。


 表情。


 変わる。



『何で』



 返信。



『外部固定なら、


切断できます。』



 次。



『役割なら、


再分類できます。』



 次。



『記憶なら、


消去できます。』



 そして。



『でも。』



 長い。



『本人が


「自分は自分だ」と


決めたものは、』



『SYSTEMには


採点できません。』



「……」



 高瀬。



 胸。



 強く。



 鳴る。



 採点不能。



 あの言葉。



 ずっと。



 追ってきた。



 さらに。



 最後の一通。



『自己固定型の帰還が成功すれば、


001は消えます。』



「……」



 高瀬。



 息。



 止まる。



『ナオが?』



 返信。



『違います。』



 次。



『001という番号が。』



「……」



 高瀬。



 ゆっくり。



 椅子へ。



 座る。



 ナオは。



 消えない。



 番号が。



 消える。



 もし。



 それが。



 本当に。



 できるなら。



 SYSTEMが。



 一番恐れているのは。



 人が。



 消えることではない。



 人が。



 番号でも。



 役割でも。



 評価でもなく。



 自分自身で。



 自分を。



 決めてしまうこと。



 なのかもしれない。



◇



 同じ頃。



 未登録領域。



 ナオ。



 青いノートの。



 幻のようなものを。



 膝の上に。



 置いていた。



 中。



 途中まで。



 書かれた。



 物語。



 主人公。



 教師。



 名前。



 空欄。



「……」



 ナオ。



 少し。



 笑う。



「高瀬先生じゃ」



「そのまますぎるな」



 桐谷。



 少し離れた場所。



「そこ悩むのか」



「大事です」



「帰還より?」



「今は」



「同じくらい」



 桐谷。



 小さく。



 笑う。



 ナオ。



 ノート。



 最後の。



 白紙。



 一ページ。



 見つめる。



「帰ったら」



「うん」



「続きを」



「書く」



「うん」



「悠真にも」



「読ませる」



「うん」



「あと」



 ナオ。



 少し。



 考える。



「先生にも」



「どっち」



「……二人とも」



「俺も?」



「桐谷先生も」



「いらない」



「読みます」



「強制?」



「はい」



 桐谷。



 少しだけ。



 笑った。



「じゃあ」



「戻れ」



「……」



 ナオ。



 顔を。



 上げる。



「桐谷先生」



「何」



「一緒に」



「帰らないんですか」



 桐谷の。



 笑顔が。



 止まった。



「……」



「先生?」



 長い。



 沈黙。



「俺は」



 一度。



 目を逸らす。



「まだ」



「帰れない」



「何で」



 ナオ。



 桐谷を見る。



 桐谷は。



 答えなかった。



 ただ。



 暗闇の中。



 自分の手を。



 見つめた。



 そこには。



 薄く。



 数字。



『003』



 浮かんでいた。

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