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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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38/117

Review38 ここにいた人

 午前六時四十九分。


 高瀬は。


 目覚ましが鳴る前に。


 目を覚ました。


「……」


 昨夜のSMS。


 佐伯真由。


 帰還処理。


 未完了。


 そして。



『次に彼女が忘れるのは、


自分の名前です。』



 嫌な文章。


 頭から。


 離れない。


「……」


 スマートフォン。


 確認。


 三人のグループ。


 真壁。


『もう起きてます』


 藤原。


『私もです』


「早」


 高瀬。



『七時半学校』


 真壁。


『了解』


 藤原。


『はい』


 一度。


 送って。


 高瀬の指が。


 止まる。


 昔なら。


『佐伯先生絶対助ける』


 とか。


『何とかする』


 とか。


 書いていた気がする。


「……何とかって」


「何だよ」


 自分で。


 小さく笑う。


 まだ。


 方法も。


 分からない。


 なら。


 まず。


 会う。


 話す。


 そこから。


◇


 午前七時二十六分。


 学校。


 保健室。


 電気。


 消えている。


「まだ」


 藤原。


「来てない?」


「勤務」


 真壁。


「通常なら」


「七時四十五分前後」


「……」


 高瀬。


 保健室の扉を見る。


「電話」


「待って」


 真壁。


「何」


「一回」


「本人に」


「連絡」


「うん」


「出なかったら」


「次」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 息を吐く。


「了解」


 電話。


 高瀬。


 佐伯。


 発信。


 一回。


 二回。


 三回。


「……」


 出ない。


「もう一回」


 高瀬。


「待って」


 藤原。


「五分」


「……」


「高瀬先生」


「はい」


「今」


「焦ってる」


「めちゃくちゃ」


「分かります」


「でも」


「電話連打されたら」


「普通でも怖いです」


「……確かに」


 高瀬。


 スマートフォンを。


 下ろす。


「五分」


「はい」


 三人。


 廊下。


 待つ。


 一分。


 長い。


 二分。


 もっと長い。


 三分。


「……」


「高瀬先生」


 真壁。


「何」


「時計」


「見すぎ」


「分かってる」


「でも」


「見る」


「……」


 四分。


 その時。


 廊下の向こう。


 足音。


「……」


 三人。


 一斉に。


 顔を上げる。


 白衣ではない。


 私服。


 鞄。


 一人の女性。


「……佐伯先生」


 藤原。


 佐伯。


 こちらを見る。


 でも。


 すぐには。


 反応しなかった。


「……」


 高瀬の。


 胸。


 少し。


 冷える。


「佐伯先生?」


 もう一度。


 呼ぶ。


 佐伯の。


 眉が。


 少しだけ。


 寄る。


「……私?」


 三人。


 動かない。


「……」


 高瀬。


 ゆっくり。


 一歩。


 近付く。


「佐伯先生」


「……」


「俺」


「分かる?」


 佐伯。


 高瀬を見る。


 長い。


 数秒。


「……高瀬先生」


 高瀬。


 息。


 抜ける。


「分かる」


「はい」


「藤原」


「藤原先生」


「真壁」


「真壁先生」


「……」


 三人。


 少しだけ。


 安心する。


「佐伯先生」


 藤原。


「自分の名前」


「……」


 佐伯。


 表情。


 固まる。


「言えます?」


「……」


 沈黙。


 高瀬。


 何も。


 言わない。


 待つ。


 佐伯。


 口。


 開く。


「さ」


 一度。


 止まる。


「……さえ」


 喉。


 動く。


「佐伯」


「……」


 藤原。


 少しだけ。


 表情を緩める。


「下の名前」


「……」


 佐伯。


 目。


 伏せる。


「……」


「真」


 一度。


「……由」


「……」


 高瀬。


 小さく。


 頷く。


「佐伯真由」


「……はい」


 佐伯。


 でも。


 顔。


 晴れない。


「言えた」


 高瀬。


「はい」


「でも?」


 佐伯。


 少し。


 自分の手を見る。


「自分の」


「名前だって」


「感じが」


「……」


「薄い」


 三人。


 黙る。


◇


 保健室。


 佐伯。


 椅子。


 三人。


 向かい。


「昨夜」


 藤原。


「何が」


「起きました?」


「……」


 佐伯。


 名札。


 机。


『佐伯 真由』


「これ」


「見て」


「はい」


「読める」


「はい」


「でも」


 一度。


 指。


 止まる。


「知らない人の」


「名前みたいに」


「見えました」


「……」


 真壁。


「SYSTEM」


「出ました?」


「はい」


「見せられる?」


 佐伯。


 スマートフォン。


 画面。


 スクリーンショット。



━━━━━━━━━━━━


002


帰還維持率


11%


━━━━━━━━━━━━


外部固定


0


━━━━━━━━━━━━


再接続まで


残り


1


━━━━━━━━━━━━



「外部固定」


 高瀬。


「ゼロ」


「……」


「三年前」


「佐伯先生を」


「待ってた人」


「今」


「誰」


「分からない」


「……」


「名前」


「忘れた」


「関係も」


「ほとんど」


「……」


「じゃあ」


 高瀬。


「その人が」


「固定点だった?」


「多分」


「でも」


「本人の記憶から」


「抜けた」


「はい」


「だから」


 真壁。


「固定点」


「切れた?」


「……」


 佐伯。


「そうだと思ってました」


「思ってました?」


 藤原。


「違う?」


 佐伯。


 少し。


 目を伏せる。


「昨日」


「考えたんです」


「……」


「もし」


「固定点が」


「その一人だけだったなら」


「私は」


「もっと前に」


「戻されてたんじゃないかって」


「……」


 三人。


 表情。


 変わる。


「三年」


 高瀬。


「こっちに」


「いた」


「はい」


「外部固定」


「本当に」


「ゼロだった?」


「SYSTEM表示では」


「昨日」


「ゼロ」


「……」


 藤原。


「でも」


「それまでは?」


「確認してません」


「……」


 真壁。


 少し。


 考える。


「固定点」


「人だけ?」


「……」


「どういう意味」


 高瀬。


「佐伯先生」


「三年」


「保健室」


「いた」


「うん」


「生徒」


「先生」


「保護者」


「関わってる」


「……」


「一人の」


「強い固定点が」


「なくなったあと」


「小さい固定点が」


「大量に」


「残ってた?」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 息を吸う。


「佐伯先生を」


「覚えてる人」


「いっぱいいる」


「……」


 藤原。


「でも」


「SYSTEMでは」


「外部固定0」


「何で」


 真壁。


「認識条件」


「満たしてない?」


「何が必要」


「名前?」


「感情?」


「関係?」


「……」


 三人。


 考える。


 佐伯。


 静かに。


 聞いていた。


「高瀬先生」


「何」


「私」


「……」


 一度。


 言葉を止める。


「消えますか」


 高瀬。


 胸。


 強く。


 鳴る。


「……分からない」


 佐伯。


 少し。


 笑う。


「言い切らなくなりましたね」


「うん」


「三年前なら」


「絶対」


『消させません』


「とか」


「言ってました」


「……言いそう」


 真壁。


「言う」


 藤原。


「言いますね」


「三人で俺を過去から殴るな!」


 佐伯。


 少しだけ。


 笑う。


 でも。


 笑ったあと。


「……怖いです」


 声。


 小さい。


「また」


「あそこに」


「戻るの」


「……」


「何が」


「一番」


「怖い?」


 高瀬。


 佐伯。


 考える。


「静かなんです」


「……」


「未登録領域」


「はい」


「何も」


「ない?」


「ものは」


「あります」


「場所も」


「でも」


「人との」


「繋がりが」


「薄い」


「……」


「自分の声も」


「自分で」


「聞いてるだけ」


「……」


「何日いたか」


「分からなくなる」


「……」


「最後」


「自分が」


「本当に」


「いた人間なのか」


「分からなくなる」


 高瀬。


 藤原。


 真壁。


 誰も。


 軽い言葉を。


 返せない。


「だから」


 佐伯。


「戻れた時」


「嬉しかった」


「……」


「でも」


「戻ったあと」


「誰かの名前」


「失って」


「自分の記憶も」


「少しずつ」


「抜けて」


「……」


「私」


「ちゃんと」


「戻れたのかなって」


「……」


 藤原が。


 ゆっくり。


 口を開く。


「佐伯先生」


「はい」


「今」


「ここに」


「います」


「……」


「少なくとも」


「私は」


「そう思ってます」


「……」


「昨日まで」


「保健室で」


「生徒の話」


「聞いてた」


「……」


「私」


「一学期」


「頭痛くて」


「ここ来た時」


「佐伯先生に」


「水分足りてないって」


「怒られました」


「……」


 佐伯。


 少し。


 目を見開く。


「覚えてます?」


「……」


「はい」


「私も」


「覚えてます」


「……」


 藤原。


 少しだけ。


 笑う。


「じゃあ」


「その時の」


「佐伯先生」


「いました」


「……」


 真壁。


 少し。


 佐伯を見る。


「俺も」


「はい」


「去年」


「生徒」


「保健室」


「連れてきた」


「……」


「怪我」


「たいしたことないって」


「俺」


「言ったら」


「佐伯先生」


『痛いかどうかは本人が決めます』


「って」


「……」


 高瀬。


「言いそう」


「言いました」


 佐伯。


 少しだけ。


 笑う。


「結構」


「怒ってた」


 真壁。


「はい」


「今も」


「覚えてます」


「……」


 佐伯。


 目。


 少し。


 潤む。


「高瀬先生は?」


「え」


「私との」


「記憶」


「……」


 高瀬。


 少し。


 考える。


「三年前」


「多分」


「俺」


「めっちゃ質問した」


「それは」


「嫌でも覚えてます」


「嫌でも!?」


 佐伯。


 笑う。


「あと」


 高瀬。


「保健室の」


「コーヒー」


「……」


「佐伯先生」


「めちゃくちゃ薄い」


「……」


 佐伯。


 止まる。


 藤原。


 真壁。


 高瀬を見る。


「何」


「そこ?」


 藤原。


「もっとあるでしょ」


「いや!」


「印象強いんだって!」


「私」


 佐伯。


 少し。


 笑う。


「濃いコーヒー」


「苦手なので」


「ほら!」


「覚えてる!」


 高瀬。


 少しだけ。


 嬉しくなる。


「これだ」


「何が」


 真壁。


「佐伯先生」


「大きい記憶じゃなくても」


「残ってる」


「……」


「水分」


「怪我」


「コーヒー」


「……最後だけ弱い」


「俺だけ!?」


 少し。


 笑い。


 その瞬間。


 佐伯の。


 スマートフォン。


 震えた。


「……」


 三人。


 表情。


 変わる。


 佐伯。


 開く。



━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


002


外部反応を検出。


━━━━━━━━━━━━



「外部」


 藤原。


 次。



━━━━━━━━━━━━


暫定固定


3


━━━━━━━━━━━━



「……三」


 真壁。


「俺ら?」


 高瀬。


 佐伯。


 画面。


 見つめる。



━━━━━━━━━━━━


帰還維持率


11%


 ↓


18%


━━━━━━━━━━━━



「上がった」


 藤原。


「……」


 佐伯。


 口。


 少し。


 震える。


「三年ぶり」


「何が」


「この数字」


「上がったの」


 三人。


 何も。


 言えない。


「佐伯先生」


 高瀬。


「じゃあ」


「これ」


「もっと」


 言いかける。


「……」


 止める。


「高瀬先生?」


 佐伯。


「いや」


「今」


「人集めようとした」


「……」


「全校放送で」


「佐伯先生覚えてますかって」


「……」


 真壁。


「最悪」


「分かってる!」


 藤原。


 少し。


 笑う。


「でも」


「方向は」


「悪くないかもしれません」


「何」


「無理に」


「思い出させるんじゃなくて」


「佐伯先生が」


「今まで」


「誰に」


「何を残したか」


「自然に」


「見つける」


「……」


 高瀬。


「人を」


「集めるんじゃなく」


「残したものを」


「探す?」


「はい」


 真壁。


「それなら」


「本人の人生」


「そのまま」


「使える」


「……」


 佐伯。


 少し。


 目を伏せる。


「私」


「そんな」


「残してますかね」


「……」


 高瀬。


 すぐ。


 言おうとする。


『残してる』


 でも。


 止める。


「探しましょう」


「……」


「俺らが」


「決めるんじゃなく」


「確認する」


「……」


「佐伯先生が」


「ここで」


「何してきたか」


 佐伯。


 しばらく。


 高瀬を見る。


「はい」


 小さく。


 頷いた。


◇


 一時間目。


 高瀬。


 教室。


「先生」


「何」


「保健室の先生」


 いつもの女子生徒。


「佐伯先生?」


「そう」


 高瀬。


 少し。


 止まる。


「何で」


「昨日」


「友達」


「保健室行って」


「うん」


「めっちゃ話聞いてもらったって」


「……」


「佐伯先生」


「どんな人?」


「何で急に」


「友達が」


「すごい優しかったって」


「へえ」


「先生より?」


「比べるな!」


 女子生徒。


 笑う。


「でも」


「佐伯先生」


「優しい?」


「……」


 高瀬。


 少し考える。


「優しい」


「即答」


「でも」


「ただ」


「何でもいいよって」


「言う感じじゃない」


「へえ」


「ちゃんと」


「ダメな時」


「ダメって言う」


「……」


「先生より?」


「また!?」


「気になる」


「俺も言うわ!」


「たまに」


「お前今日当たり強いな!」


 女子生徒。


 笑う。


「でも」


「友達」


「昨日」


「学校辞めたいって」


「言ってたらしくて」


「……」


「佐伯先生」


「何て?」


「『今日決めなくていい』って」


「……」


 高瀬。


 止まる。


「それだけ?」


「あと」


「『明日来なくてもいいけど、来たいと思った時に来られる場所は残しとく』」


「……」


 高瀬。


 胸。


 少し。


 強く鳴る。


「先生?」


「いや」


「その子」


「今日」


「来てる?」


「来てる」


「……」


「朝」


「佐伯先生に」


「会いに行くって」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 笑った。


「そっか」


「何」


「いや」


「何でもない」


「また大人の事情?」


「今日は」


「ちょっと」


「いい話」


「珍しい」


「俺の扱い!」


◇


 休み時間。


 保健室。


 ノック。


 一人の女子生徒。


「佐伯先生」


「はい」


「昨日」


「ありがとうございました」


「……」


 佐伯。


 一瞬。


 止まる。


「どうしたの」


「いや」


「昨日」


「話聞いてくれて」


「……」


「今日」


「学校来れたから」


「……」


「それだけ」


 女子生徒。


 少し。


 照れたように。


「じゃあ」


「戻ります」


「……うん」


 佐伯。


 声。


 少し。


 震える。


「来てくれて」


「ありがとう」


「はい」


 生徒。


 出ていく。


「……」


 佐伯。


 一人。


 手。


 少し。


 震える。


 スマートフォン。


 ポケット。


 震えた。


 開く。



━━━━━━━━━━━━


暫定固定


3


 ↓


4


━━━━━━━━━━━━



「……」


 佐伯。


 椅子。


 座る。


 目。


 閉じる。


「私」


「昨日」


「何言った」


 覚えてる。


『今日決めなくていい』


『来たい時に来られる場所は残しておく』


「……」


 覚えてる。


 ちゃんと。


 自分が。


 言った。


 その言葉が。


 誰かに。


 残った。


「……」


 佐伯。


 少し。


 泣いた。


 静かに。


◇


 昼休み。


 三人。


 保健室。


「四?」


 高瀬。


「はい」


 佐伯。


「生徒一人で」


「増えました」


 藤原。


「やっぱり」


「関係」


「過去の接触」


「感情」


「そのあたり」


「固定になる」


「でも」


 真壁。


「重要」


「何」


「その生徒」


「佐伯先生を」


「SYSTEM対策で」


「覚えてたわけじゃない」


「……」


「普通に」


「昨日」


「助けてもらった」


「それで」


「今日」


「会いに来た」


「……」


 高瀬。


 少し。


 目を細める。


「それ」


「強いな」


「はい」


「作った固定点じゃない」


「すでに」


「ある」


「……」


 佐伯。


 小さく。


「私」


「もっと」


「いるかな」


「何が」


「私を」


「覚えてる人」


「……」


 高瀬。


 今回は。


 すぐ。


 答えた。


「いると思う」


「……」


「根拠」


「三年」


「ここで」


「働いてる」


「……」


「毎日」


「誰かの」


「体温測って」


「絆創膏貼って」


「話聞いて」


「怒って」


「コーヒー薄くして」


「最後いらない」


「大事!」


 佐伯。


 少し。


 笑う。


「だから」


 高瀬。


「俺らが」


「新しく」


「佐伯先生を」


「作る必要ない」


「……」


「もう」


「この学校に」


「佐伯真由が」


「いっぱい」


「残ってる」


 佐伯。


 何も。


 言わない。


「それ」


 藤原。


「かなり」


「いいですね」


「お」


「今日褒められた」


「調子乗らない」


「早!」


 真壁。


 少し。


 笑う。


「でも」


「同意」


「……」


 佐伯。


 目。


 少し。


 潤む。


「ありがとう」


「まだ」


 高瀬。


「何もしてない」


「それでも」


「……」


「言えるうちに」


「言っときます」


 高瀬。


 少し。


 止まる。


「……それ」


「大事」


◇


 午後。


 高瀬。


 藤原。


 真壁。


 三人。


 それぞれ。


 普段通り。


 仕事をした。


 佐伯先生を。


 覚えている人を。


 探して回ることは。


 しなかった。


 でも。


 不思議と。


 自然に。


 見つかった。


「佐伯先生います?」


 一年生担任。


「この前」


「薬のことで」


「相談したくて」


 固定。


 5。


「佐伯先生」


 男子生徒。


「この前借りた」


「保冷剤」


「返しに来ました」


 固定。


 6。


「先生」


「この前」


「ありがとうございました」


 固定。


 7。


「佐伯先生」


「来週の健診」


「これで合ってます?」


 固定。


 8。


「……」


 佐伯。


 一つ増えるたび。


 スマートフォン。


 見た。


 最初は。


 数字。


 でも。


 途中から。


 見なくなった。


 誰が。


 何を。


 言ってくれたか。


 そっちを。


 覚えるようにした。


◇


 午後三時五十二分。


 保健室。


 小学生くらいの。


 いや。


 卒業生。


 制服。


 違う。


「失礼します」


 佐伯。


 顔を上げる。


「……?」


 一人の。


 高校生くらいの男子。


「佐伯先生」


「……はい」


「覚えてます?」


 佐伯。


 少し。


 考える。


「……ごめんなさい」


「ですよね」


 男子。


 笑う。


「三年前」


「ここの生徒でした」


「……」


「俺」


「学校」


「ほとんど来てなくて」


「……」


「でも」


「保健室だけ」


「たまに来てた」


 佐伯。


 目。


 少し。


 大きくなる。


「名前」


 男子。


 名乗る。


 佐伯。


 少しずつ。


 表情が。


 変わる。


「……あ」


「思い出した?」


「……少し」


「俺」


 男子。


 笑う。


「卒業できました」


「……」


 佐伯。


 息。


 止まる。


「先生」


「前」


「言ってくれたじゃないですか」


「何を」


「『教室に戻れなくても』」


「……」


「『学校から消えたわけじゃない』」


「……」


 佐伯の。


 目。


 大きくなる。


「保健室でも」


「廊下でも」


「どこでも」


「来たら」


「出席じゃないかもしれないけど」


「……」


「ちゃんと」


「ここにいるって」


「……」


 男子。


 少し。


 笑う。


「俺」


「あれ」


「結構」


「救われました」


「……」


「今日」


「近く来たんで」


「先生まだいるかなって」


「……」


 佐伯。


 何も。


 言えない。


「先生?」


「……います」


「はい?」


 佐伯。


 涙。


 少し。


 こぼれる。


「ちゃんと」


「います」


「……」


 男子。


 少し。


 驚いて。


 でも。


 笑った。


「そりゃ」


「いますよ」


「何言ってんすか」


「……」


 佐伯。


 笑いながら。


 泣いた。


「そうですね」


 スマートフォン。


 震える。


 でも。


 見なかった。


 今。


 必要なのは。


 数字じゃない。


 目の前の。


 人。


「卒業」


「おめでとう」


「三年前の話ですよ」


「今」


「言いたくなった」


「遅!」


 二人。


 笑う。


◇


 廊下。


 高瀬。


 たまたま。


 その男子生徒が。


 保健室から。


 出てくるところを見る。


「……卒業生?」


「はい」


「佐伯先生に?」


「はい」


「……」


 高瀬。


 保健室。


 見る。


「先生」


 卒業生。


「何ですか」


「佐伯先生」


「どんな先生だった?」


「……」


 男子。


 少し。


 考える。


「忘れない人」


「……」


「何を」


「生徒が」


「教室来てないとか」


「勉強してないとか」


「そういうのより」


「……」


「その日」


「俺が」


「何話したか」


「覚えてる人でした」


「……」


 高瀬。


 胸。


 少し。


 熱くなる。


「そっか」


「はい」


「先生」


「何ですか」


「ありがとう」


「俺?」


「うん」


「何で」


「何となく」


「変な先生」


「よく言われる」


 男子。


 笑って。


 歩いていった。


◇


 午後四時二十一分。


 三人。


 保健室。


 佐伯。


 スマートフォン。


 机。


「見ます?」


 藤原。


「……はい」


 佐伯。


 開く。



━━━━━━━━━━━━


002


帰還維持率


18%


 ↓


━━━━━━━━━━━━



 数字。


 表示。



46%



「……」


 高瀬。


「めっちゃ」


「上がった」


 真壁。


「固定数」


 次。



━━━━━━━━━━━━


外部固定


17


━━━━━━━━━━━━



「十七」


 藤原。


「……」


 佐伯。


 口。


 少し。


 震える。


「私」


「そんなに」


「……」


 高瀬。


「いたんだよ」


「……」


「佐伯先生が」


「知らなくても」


「……」


「佐伯先生を」


「知ってる人」


「ちゃんと」


「いた」


 佐伯。


 少し。


 目を伏せる。


「私」


「何も」


「残してないと思ってました」


「……」


 真壁。


「それ」


「本人」


「一番」


「分からないのかも」


「……」


「自分が」


「人に」


「何残したか」


「自分から」


「見えない」


「……」


 藤原。


「でも」


「相手には」


「残ってる」


「……」


 佐伯。


 ゆっくり。


 頷く。


 その時。


 SYSTEM。



━━━━━━━━━━━━


再接続判定


中止。


━━━━━━━━━━━━



 三人。


 息。


 止める。


 佐伯。


 画面。


 見る。



━━━━━━━━━━━━


002


一時識別解除。


━━━━━━━━━━━━



「……」


 高瀬。


「解除?」


 次。



━━━━━━━━━━━━


対象名


佐伯真由


━━━━━━━━━━━━



 佐伯。


 完全に。


 止まる。


「……」


 自分の。


 名前。


 SYSTEMの。


 画面。


 初めて。


 番号ではなく。


 名前。


「佐伯先生」


 藤原。


「見えてます」


「……はい」


「読める?」


 真壁。


「……」


 佐伯。


 唇。


 震える。


「佐伯」


 一度。


「真由」


 自分の。


 名前。


「……私」


 胸。


 手。


 当てる。


「佐伯真由です」


 高瀬。


 少し。


 笑う。


「知ってる」


 藤原。


「私も」


 真壁。


「はい」


 佐伯。


 笑う。


 泣きながら。


「……よかった」


◇


 その日の夜。


 三人。


 グループ通話。


「成功?」


 高瀬。


「高瀬先生」


 真壁。


「その言葉」


「まだ早い」


「分かってる」


「でも」


「今日は」


 藤原。


「かなり」


「大きかったと思います」


「うん」


「佐伯先生」


「番号」


「外れた」


「一時」


「だけど」


「名前」


「出た」


「……」


 真壁。


「ナオにも」


「使える?」


「同じこと」


「……」


 高瀬。


 少し。


 考える。


「いや」


「何」


 藤原。


「佐伯先生は」


「三年間」


「こっちで」


「人と関わった」


「……」


「ナオ」


「こっちに」


「何が残ってるか」


「まだ」


「俺ら」


「知らない」


「……」


「だから」


「まず」


「ナオが」


「ここにいた時」


「何してたか」


「誰といたか」


「探す」


「……」


 真壁。


「賛成」


 藤原。


「私も」


「じゃあ」


「明日」


「ナオの過去」


「調べる」


 高瀬。


 少しだけ。


 笑う。


「今度は」


「戻すためじゃなく」


「……」


「ナオが」


「ここに」


「何残したか」


「見つける」


「はい」


◇


 通話。


 終了。


 高瀬。


 ノート。


 今日。


 書く。


『佐伯真由』


『外部固定17』


『帰還維持率46%』


『002→一時識別解除』


『対象名:佐伯真由』


 その下。


 少し。


 考える。



『人は、


自分が残したものを


自分では全部見られない。』



「……」


 少し。


 くさい。


「でも」


「今日はいいか」


 ペン。


 置く。


 SMS。


 知らない番号。


「……」


 開く。



『かなり進みましたね。』



 高瀬。



『佐伯先生のこと?』



『はい。』



『お前』


『佐伯先生の外部固定


知ってた?』



 返信。



『知っていました。』



 高瀬。


 眉。


 寄る。



『じゃあ最初から言えよ』



 少し。


 間。



『それでは、


固定にならないからです。』



「……」


 高瀬。



『どういう意味』



 返信。



『SYSTEM対策として


「覚えてください」と言われて作られた記憶と、』



 次。



『その人と生きた結果、


勝手に残った記憶。』



 そして。



『同じではありません。』



「……」



 高瀬。



 今日。



 生徒。



 卒業生。



 佐伯先生の。



 言葉。



 行動。



 全部。



 思い出す。



 確かに。



 誰も。



 SYSTEMのために。



 佐伯先生を。



 覚えていたわけじゃない。



 ただ。



 普通に。



 一緒に。



 生きた。



 だから。



 残った。



 次。



『ナオにも、


同じものがあります。』



 高瀬。



 目。



 少し。



 大きくなる。



『誰』



 送信。



 返信。



『それを』



『あなたたちは』



『もう一度』



『見つける必要があります。』



「……」



 高瀬。



『もう一度?』



 既読。



 長い。



 そして。



『一年前、


あなたは見つけています。』



「……」



 高瀬の。



 指が。



 止まる。



 次。



『だからナオは、


あなたを待っていました。』



「……」



 胸。



 強く。



 鳴る。



『ナオと俺』


『一年前』


『どんな関係だった』



 打つ。



 止まる。



 残り。



 一問。



 質問権。



 これを。



 使えば。



 答えられる?



「……」



 高瀬。



 ゆっくり。



 文字を。



 消した。



「聞かない」



 今度は。



 自分で。



 探す。



 その時。



 知らない番号から。



 最後の一通。



『正解です。』



「……」



 高瀬。



 一瞬。



 画面を。



 睨む。



「採点すんな」



 小さく。



 呟いた。



 そして。



 返信。



『正解かどうかは


俺が決める』



 送信。



 既読。



 返事。



 なし。



「……」



 高瀬。



 少しだけ。



 笑う。



 その頃。



 未登録領域。



 ナオ。



 暗闇。



 目を閉じていた。



 その耳に。



 何か。



 遠い。



 声。



「……?」



 子どもの。



 声。



『ナオ』



 ナオ。



 目。



 開く。



『ナオくん』



「……」



 知らない。



 いや。



 知っている。



 声。



 誰?



 暗闇。



 少しだけ。



 景色が。



 揺れる。



 学校。



 廊下。



 誰か。



 自分へ。



 笑っている。



『また明日』



「……」



 ナオ。



 胸。



 押さえる。



 痛い。



 でも。



 嫌じゃない。



「……誰」



 記憶。



 まだ。



 顔。



 見えない。



 ただ。



 その言葉だけ。



 妙に。



 懐かしかった。



『また明日』



 ナオは。



 初めて。



 戻る理由を。



 自分の過去の中に。



 見つけ始めていた。

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