Review34 未確定
午後十一時十八分。
三人のビデオ通話。
画面中央。
真壁透のスマートフォンに表示された文字。
━━━━━━━━━━━━
対象
真壁透
役割
制止者
↓
未確定
━━━━━━━━━━━━
その下。
━━━━━━━━━━━━
No.004
識別率
82%
━━━━━━━━━━━━
候補分類
UNKNOWN
━━━━━━━━━━━━
「……」
高瀬は。
画面を見たまま。
すぐには何も言わなかった。
藤原も。
同じだった。
「何か」
真壁が先に口を開いた。
「言ってください」
「いや」
高瀬。
「今考えてる」
「珍しい」
「お前な」
「すみません」
「謝るなら言うな」
「癖」
「俺のやつ取るな」
ほんの少し。
いつもの空気。
でも。
誰も笑い切れなかった。
「真壁先生」
藤原。
「今」
「どういう気持ちですか」
「……」
真壁は。
少しだけ。
画面から目を逸らした。
「分からない」
「……」
「怖い?」
高瀬。
「……はい」
今回は。
間が短かった。
「結構」
「怖いです」
「そっか」
「はい」
「何が一番?」
「高瀬先生」
「何」
「今日」
「ちゃんと聞きますね」
「聞いてる途中に褒めるなよ」
真壁が。
少しだけ笑う。
でも。
すぐに。
表情が戻った。
「……自分が」
「うん」
「何になるか」
「分からないのが」
「怖い」
「UNKNOWN?」
「はい」
「でも」
藤原。
「No.004」
「嫌だったんですよね」
「嫌でした」
「★★★★★固定も」
「嫌でした」
「制止者も」
「勝手に決めるなって」
「思ってました」
「……」
「なのに」
真壁は。
自分のスマートフォンを見る。
「それが」
「なくなりそうになったら」
一度。
言葉に詰まる。
「怖い」
「……変ですよね」
「変じゃない」
高瀬が。
すぐに言った。
真壁が。
顔を上げる。
「俺」
「教師辞めろって急に言われたら」
「多分」
「めちゃくちゃ困る」
「……」
「仕事きついとか」
「嫌だとか」
「言う日あっても」
「俺」
「教師って」
「ずっと自分の一部だから」
「……」
「それが」
「明日から」
「あなた教師じゃありません」
「って」
「勝手に消されたら」
「……」
「嫌」
高瀬は。
少しだけ。
笑った。
「だから」
「No.004が嫌でも」
「それが今まで」
「真壁を説明する唯一の答えみたいになってたなら」
「なくなるの」
「怖くても」
「普通じゃない?」
「……」
真壁は。
しばらく。
何も言わなかった。
「高瀬先生」
「何」
「今日」
「本当に」
「ちょっといいこと言いますね」
「ちょっと!?」
藤原が。
小さく笑う。
「でも」
「私も」
「そう思います」
「……」
「真壁先生」
「はい」
「今まで」
「SYSTEMに」
「真壁透を説明されてた」
「……」
「★★★★★」
「No.004」
「制止者」
「全部」
「外側から」
「付けられた言葉」
「……」
「それが」
「剥がれてきてる」
「……」
「だから」
藤原。
少し。
言葉を選ぶ。
「今度は」
「自分で」
「自分のことを」
「決めないといけなくなった」
「……」
「それ」
「怖いですよ」
真壁。
小さく。
息を吐いた。
「……面倒だな」
「何が」
高瀬。
「自分で決めるの」
「今さら!?」
「高瀬先生」
「何」
「あなた」
「最近それに苦しんでるでしょ」
「ぐう」
藤原が。
吹き出した。
「二人」
「似てきましたね」
「嫌です」
「嫌です」
二人同時。
「ほら」
「そこ合わせるな!」
少しだけ。
笑い。
今度は。
三人とも。
ちゃんと笑えた。
◇
「で」
高瀬。
「問題」
「はい」
真壁。
「識別率」
「82%」
「これ」
「下がったら」
「削除?」
「知らない番号の情報では」
藤原。
「分類できない対象は」
「削除される」
「でも」
真壁。
「SYSTEM表示では」
「50%下回ったら」
「再分類」
「はい」
「削除とは」
「まだ」
「出てない」
「じゃあ」
高瀬。
「50%で」
「別の何かになる?」
「可能性」
「それとも」
藤原。
「UNKNOWNが」
「新しい分類?」
「可能性」
「……」
高瀬。
「可能性ばっか」
「今そういう段階なので」
真壁。
「分かってる」
高瀬が。
少し考える。
「じゃあ」
「今」
「できるのは」
「記録」
藤原。
「はい」
「変動した条件」
「真壁が」
「自分で高瀬を止めた」
「うん」
「役割じゃなく」
「自分の判断」
「その後」
「制止者が未確定」
「はい」
「つまり」
高瀬。
「真壁が」
「真壁らしく動くほど」
「No.004から」
「外れる?」
真壁。
「それ」
「言い方」
「ちょっと嫌」
「何で」
「真壁らしいって」
「誰が決めるんですか」
「……」
高瀬。
口。
止まる。
「お」
藤原。
「今の」
「大事かも」
「……」
真壁。
「俺」
「自分らしく」
「って」
「正直」
「よく分からない」
「……」
「今まで」
「仕事なら」
「必要なこと」
「やる」
「人なら」
「迷惑かけない」
「答えなら」
「なるべく正しい方」
「……」
「それで」
「ずっと」
「やってきた」
「……」
「でも」
「最近」
少しだけ。
苦笑する。
「高瀬先生といると」
「正しい方が」
「分からなくなる」
「俺のせい!?」
「半分」
「残り半分?」
「SYSTEM」
「なら仕方ない」
藤原が。
笑う。
真壁も。
ほんの少し。
笑った。
「でも」
真壁。
「昨日」
「高瀬先生を止めた時」
「正しいかどうか」
「考えてなかった」
「……」
「俺が」
「危ないと思った」
「だから」
「止めた」
「……」
「結果」
「役割から外れた」
高瀬。
静かに。
真壁を見る。
「じゃあ」
「それでいいんじゃない」
「何が」
「正しいかじゃなくて」
「お前が」
「どう思ったか」
「……」
「それを」
「少しずつ」
「選んでけば」
「……」
真壁。
眉を寄せる。
「高瀬先生」
「何」
「それ」
「めちゃくちゃ怖い生き方ですね」
「分かる」
「分かるんだ」
「最近毎日怖い」
藤原。
「でも」
「二人とも」
「ちょっと楽しそうですよ」
「……」
二人。
顔を見合わせる。
「そう?」
高瀬。
「俺は違う」
真壁。
「嘘」
藤原。
「顔」
「見ないで」
「出た」
三人。
また。
笑った。
◇
翌朝。
学校。
真壁は。
二年四組。
朝の会。
「はい」
「提出物」
「後ろから」
「前」
「先生」
「何」
一人の男子生徒。
「今日」
「何か」
「違くない?」
「何が」
「先生」
「……」
「髪?」
「同じ」
「服?」
「いつも」
「機嫌?」
「普通」
「じゃあ何」
生徒。
真壁を見る。
「分かんない」
「……」
「でも」
「なんか」
「昨日より」
「普通」
「意味分からない」
「俺も」
「じゃあ言うな」
教室。
少し笑う。
「先生」
別の生徒。
「昨日」
「廊下で」
「高瀬先生と」
「話してました?」
「少し」
「仲良いんですか」
「……普通」
「絶対仲良いじゃん」
「何で」
「普通って言う時」
「先生ちょっと間あった」
「細かい」
「観察係だから」
「そんな係ありません」
笑い。
真壁。
ふと。
思う。
以前なら。
「仕事仲間」
そう答えた気がする。
今。
普通。
何だ。
普通って。
「……」
「先生?」
「何」
「また止まった」
「考え事」
「珍しい」
「教師もします」
「何を」
「考え事」
「授業中はやめてね」
「はいはい」
真壁。
少し笑う。
その瞬間。
ポケット。
スマートフォン。
震えた。
「……」
見ない。
朝の会。
続ける。
「今日」
「六時間目」
「変更」
「えー!」
「俺に言うな」
「先生権力あるでしょ」
「そんなない」
「じゃあ偉くなって」
「嫌」
「即答!」
笑い。
真壁も。
少し笑う。
スマートフォン。
もう一度。
震えた。
それでも。
見なかった。
◇
朝の会後。
廊下。
スマートフォン。
開く。
━━━━━━━━━━━━
【SYSTEM】
対象
真壁透
━━━━━━━━━━━━
No.004
識別率
82%
↓
79%
━━━━━━━━━━━━
「……」
真壁の。
表情が。
少し硬くなる。
たった。
三%。
「何した」
朝の会。
普通に。
生徒と話した。
笑った。
それだけ。
次。
━━━━━━━━━━━━
既定応答との差分を検出。
━━━━━━━━━━━━
「既定応答?」
さらに。
━━━━━━━━━━━━
対象行動
雑談
━━━━━━━━━━━━
既定値
最小
━━━━━━━━━━━━
現在値
増加
━━━━━━━━━━━━
「……」
真壁。
少し。
眉を寄せる。
「俺」
「雑談増えただけで」
「分類崩れるの?」
ちょっと。
腹が立つ。
「どんな人間だと思われてたんだよ」
その瞬間。
後ろ。
「先生」
「うわっ」
生徒。
「珍し」
「何が」
「真壁先生」
「びっくりするんだ」
「する」
「もっとロボットかと思ってた」
「……」
「今の」
「結構失礼」
「ごめん!」
生徒。
走る。
「走るな!」
「早歩き!」
「それどこで流行ってんだ」
真壁。
小さく。
笑う。
スマートフォン。
また。
震えた。
見る。
79%
↓
78%
「……」
真壁。
数秒。
画面。
見る。
そして。
少しだけ。
笑った。
「じゃあ」
「下がれば」
「いいか」
言ってから。
止まる。
違う。
数字を。
下げるために。
雑談する?
それでは。
高瀬が。
自己選択率69%を。
目標にするのと。
同じ。
「……違うな」
画面。
閉じる。
「普通に」
「やろ」
ポケット。
戻す。
◇
昼休み。
「ということです」
真壁。
「七十八?」
高瀬。
「はい」
「めっちゃ減ってるじゃん」
「昨日82」
「今78」
藤原。
「原因」
「雑談」
「らしいです」
「……」
高瀬。
一拍。
吹き出す。
「笑うな」
「いや!」
「だって!」
「SYSTEMの中のお前」
「どんだけ喋らん設定なんだよ!」
「俺に言わないで」
「雑談したら」
「No.004じゃなくなる男」
「面白すぎる!」
「高瀬先生」
「はい」
「今日」
「もう喋らない」
「それSYSTEMに戻るやつ!」
藤原も。
笑いをこらえきれない。
「すみません」
「藤原先生まで」
「いや」
「ごめんなさい」
「でも」
一度。
息を整える。
「ちょっと」
「安心しました」
「何で」
「分類が」
「大きな事件だけで」
「変わるんじゃない」
「……」
「普通に」
「人と話す」
「笑う」
「そういう小さいことでも」
「変わる」
「……」
真壁。
少しだけ。
表情が変わる。
「確かに」
「なら」
高瀬。
「お前が」
「人間になるほど」
「No.004じゃなくなる?」
「その言い方」
「元々人間です」
「ごめん!」
「また」
「今のは謝る!」
三人。
笑う。
「でも」
藤原。
「真壁先生」
「はい」
「数字」
「下げようとしないでくださいね」
「分かってます」
「雑談ノルマ作るとか」
「しない」
「一日三笑」
「何それ」
高瀬。
「健康によさそう」
「高瀬先生」
「はい」
「黙って」
「はい」
◇
放課後。
高瀬。
職員室。
資料を閉じる。
「今日」
「旧視聴覚室」
真壁が。
すぐ見る。
「行く?」
「外だけ」
「……」
「何その顔」
「本当に?」
「本当!」
藤原。
「私も行きます」
「三人」
高瀬。
「……」
三人で来るな。
昨日の紙。
思い出す。
「どうする」
藤原。
「三人だと」
「なおさら来るな」
「……」
真壁。
「じゃあ」
「二人?」
「誰が残る」
「俺」
高瀬。
二人。
「ダメ」
同時。
「まだ何も言ってない!」
「高瀬先生一人で行く」
「なし」
藤原。
「俺も同意」
「じゃあ」
高瀬。
「俺残る?」
「嫌でしょ」
「……」
「ほら」
「難しいな!」
真壁。
少し考える。
「三人で」
「近くまで」
「行く」
「うん」
「扉前」
「二人」
「一人」
「階段付近」
「……」
藤原。
「それなら」
「誰が」
三人。
一瞬。
黙る。
「じゃんけん?」
高瀬。
「大事な場面をじゃんけんで決めない」
真壁。
「正論!」
「じゃあ」
藤原。
「私」
「残ります」
「何で」
高瀬。
「高瀬先生」
「一年前」
「接続対象」
「はい」
「真壁先生」
「No.004関連」
「はい」
「私は」
「今」
「直接」
「旧視聴覚室との」
「関連が一番少ない」
「……」
真壁。
「合理的」
「でも」
高瀬。
「藤原」
「一人になるぞ」
「階段」
「職員室からも近い」
「スマホ」
「繋ぐ」
「……」
「大丈夫です」
高瀬。
少しだけ。
顔をしかめる。
「高瀬先生」
藤原。
「何」
「今」
「止めたい?」
「ちょっと」
「でも」
「私が決めました」
「……」
高瀬。
一度。
息を吐く。
「分かった」
「よし」
「ただ」
「何かあったら」
「すぐ呼ぶ」
「はい」
「絶対」
「はい」
「本当に」
「高瀬先生」
「何」
「しつこい」
「ごめん」
真壁。
「それ」
「一個」
「踏み込みすぎ」
「……」
「はい」
高瀬。
素直に。
引く。
藤原が。
少しだけ笑った。
◇
午後五時二十八分。
三階。
藤原。
階段付近。
スマートフォン。
三人通話。
高瀬。
真壁。
旧視聴覚室前。
「聞こえる?」
『聞こえます』
藤原。
『問題なし』
「よし」
高瀬。
「扉」
昨日と。
同じ。
鍵。
掛かっている。
「……」
真壁。
少し。
目を細める。
「音」
「しない」
「昨日は」
「コツ」
「二回」
「はい」
「紙」
「隙間から」
「……」
高瀬。
少し。
扉へ近付く。
「高瀬先生」
真壁。
「触らない」
「分かってる」
「じゃあ」
「誰か」
「いますか」
高瀬。
扉へ。
「……」
返事。
なし。
「ナオ」
「……」
「桐谷」
「……」
静か。
「今日は」
「いない?」
その時。
扉の向こう。
「……高瀬」
声。
二人。
完全に。
止まる。
『今』
藤原。
『聞こえました』
「……」
高瀬。
喉。
鳴る。
「桐谷?」
数秒。
「その名前」
向こう。
「まだ覚えてるんだな」
「……」
高瀬の。
胸。
大きく。
鳴る。
「お前」
「桐谷?」
返事。
少し。
遅い。
「そう呼ばれてた」
「……何だよそれ」
真壁。
高瀬の。
横。
黙っている。
「高瀬先生」
「何」
「今」
「一人で」
「詰めない」
「……分かってる」
高瀬。
一度。
息を吸う。
「藤原」
『はい』
「聞こえてる?」
『全部』
「真壁」
「はい」
「三人」
「いる」
扉。
向こう。
短い。
沈黙。
「知ってる」
「……」
高瀬。
「見えてる?」
「見えてる」
「どうやって」
「それは」
一度。
声。
止まる。
「まだ言えない」
「またそれ!」
「高瀬先生」
真壁。
「はい」
高瀬。
堪える。
「……じゃあ」
「一個」
「桐谷」
「何」
「昨日」
「紙」
「出した?」
沈黙。
「出した」
三人。
表情。
変わる。
「じゃあ」
高瀬。
「昨日」
「中にいた?」
「いた」
「今も?」
「いる」
「……」
「ナオは?」
声。
止まる。
「桐谷」
「ナオ」
「いる?」
「いる」
高瀬。
一歩。
前へ。
真壁。
腕を。
掴まない。
でも。
「高瀬先生」
「……」
「今」
「選ぶ」
「……分かってる」
高瀬。
扉。
見る。
「ナオ」
「大丈夫?」
向こう。
桐谷。
少し。
笑った気配。
「お前」
「本当に」
「最初にそれ聞くようになったんだな」
「……」
高瀬。
少し。
息を止める。
「見てた?」
「一部だけ」
「ナオ」
「今」
「どうしてる」
「寝てる」
「寝てる?」
「回収処理」
「失敗した」
「その反動」
「……」
「危険?」
少し。
間。
「今すぐは」
「大丈夫」
高瀬。
息。
少しだけ。
抜ける。
藤原。
通話越し。
『よかった』
真壁も。
ほんの少し。
肩の力が。
抜けた。
◇
「桐谷」
高瀬。
「俺」
「一年前」
「ここ来た?」
「来た」
「お前と?」
「そう」
「三日?」
「……」
扉。
向こう。
沈黙。
「それ」
真壁。
「答えられない?」
「違う」
「……」
「答えたくない」
「……」
高瀬。
少し。
眉を寄せる。
「何で」
「高瀬」
「何」
「今」
「お前」
「少しずつ」
「一年前と違う」
「……」
「だから」
「過去を」
「全部教えるの」
「怖い」
「何で」
「お前が」
「また」
「過去に合わせるから」
「……」
高瀬。
口。
閉じる。
「俺」
「そんなこと」
「する」
桐谷。
即答。
「……」
「即答すんなよ」
「一年前も」
「同じだった」
「答えがあるって分かると」
「答え通りに」
「やろうとする」
「……」
「今」
「ようやく」
「そこから」
「外れ始めた」
「……」
「なら」
「俺が」
「答えを渡しすぎたら」
「また」
「お前を」
「戻す」
「……」
高瀬。
何も。
言えない。
真壁が。
小さく。
「分かる気がします」
「お前まで?」
「高瀬先生」
「答え」
「知ると」
「気にする」
「……」
『私も』
藤原。
『そこは』
『同意です』
「二対一!」
『民主主義』
真壁。
「今それやる!?」
扉の向こう。
ほんの少し。
笑い声。
三人。
止まる。
「……桐谷」
「何」
「今」
「笑った?」
「笑ってない」
「絶対笑った」
「気のせい」
「お前」
「思ったより」
「普通だな」
向こう。
少し。
沈黙。
「……それ」
「久しぶりに言われた」
声。
さっきより。
少しだけ。
人間らしかった。
◇
真壁。
一度。
高瀬を見る。
「俺」
「聞いていい?」
「俺に?」
「桐谷先生に」
「どうぞ」
真壁。
扉へ。
「桐谷先生」
「何」
「俺」
一年前」
「高瀬先生を」
「止めました?」
「……」
沈黙。
長い。
「桐谷先生」
「止めた」
「……」
真壁。
顔。
少し。
硬くなる。
「何で」
「真壁」
「はい」
「お前」
「覚えてないんだろ」
「はい」
「なら」
「今」
「理由だけ」
「言う」
「……」
「高瀬に」
「ここへ」
「入らせたくなかった」
「……」
「SYSTEMに」
「命令された?」
「違う」
「……」
「俺が」
「頼んだ」
三人。
止まる。
「お前が?」
高瀬。
「真壁に?」
「そう」
「……」
「じゃあ」
真壁。
声。
少し。
低くなる。
「制止者」
「俺が」
「SYSTEMに」
「決められたわけじゃない?」
「最初は」
「違う」
「……」
「最初?」
「高瀬」
桐谷。
「何」
「真壁は」
「俺に頼まれて」
「お前を止めた」
「……」
「その行動を」
「SYSTEMが」
「後から」
「役割にした」
「……」
三人。
誰も。
言葉が。
出ない。
「役割」
藤原。
『人が先?』
「そう」
桐谷。
「SYSTEMは」
「人が一度やったことを」
「役割にする」
「……」
「繰り返させる」
「……」
「それが」
「分類」
真壁。
小さく。
「だから」
「俺」
「制止者」
「だった?」
「そう」
「……」
真壁。
目。
伏せる。
「じゃあ」
「元々」
「俺は」
「No.004じゃない?」
扉の向こう。
桐谷。
少し。
間。
「誰も」
「最初から」
「番号じゃない」
「……」
真壁の。
指先。
少し。
震える。
高瀬。
何も。
言わない。
藤原も。
静か。
「真壁」
桐谷。
「はい」
「お前が」
「最初に」
「高瀬を止めたから」
「004になったんじゃない」
「……」
「その前に」
「別のことがある」
「……」
「でも」
声。
少し。
低くなる。
「それは」
「まだ」
「思い出すな」
「……」
真壁。
「何で」
「お前が」
「一番」
「戻れなくなるから」
「……」
高瀬。
少しだけ。
身体。
前へ。
「桐谷」
「何」
「戻れないって」
「何から」
沈黙。
「答えない?」
「今は」
「答えない」
「……」
高瀬。
息。
吐く。
「分かった」
真壁が。
少し。
高瀬を見る。
「聞かないんですね」
「聞きたいよ」
「でも」
一度。
扉を見る。
「今は」
「桐谷が」
「言いたくないって」
「言ってる」
「……」
「じゃあ」
「待つ」
扉の向こう。
長い。
沈黙。
「……高瀬」
「何」
「それ」
「一年前の俺に」
「見せてやりたい」
「何で」
「お前」
「話」
「聞かなかったから」
「……」
「マジ?」
「マジ」
「俺」
「面倒くさ!」
「今さら?」
真壁。
藤原。
少し笑う。
桐谷も。
今度は。
明らかに。
笑った。
◇
「桐谷」
高瀬。
「最後」
「今日は」
「一個だけ」
「何」
「俺ら」
「入らない」
「……」
「まだ」
「扉」
「開けない」
「……」
「でも」
「ナオ」
「桐谷」
「二人とも」
「そこにいるって」
「分かった」
「……」
「だから」
高瀬。
一度。
言葉を止める。
「勝手に」
「いないことに」
「しない」
扉。
向こう。
返事。
すぐには。
ない。
「それだけ」
「今日は」
「帰る」
「……」
「いい?」
桐谷。
小さく。
「それを」
「俺に聞くんだな」
「……」
「前は」
「俺が」
「来るなって言っても」
「来た」
「……」
「今は」
「帰っていいか」
「聞く」
「……」
少し。
声が。
柔らかくなる。
「帰れ」
「……」
「今日は」
「普通に」
「家に帰れ」
高瀬。
少し笑う。
「分かった」
真壁。
扉を見る。
「桐谷先生」
「何」
「また」
「話せます?」
沈黙。
「たぶん」
「……」
「保証は」
「できない」
「それでいいです」
藤原。
『私も』
『一つだけ』
「何」
「次」
『三人で来ても』
『いいですか』
長い。
沈黙。
そして。
「……来るなら」
「三人で来い」
三人。
表情。
変わる。
「昨日」
高瀬。
「三人で来るなって」
「言ったじゃん」
「昨日は」
「そうだった」
「今日は?」
「……」
「お前ら」
「昨日と」
「違ったから」
「……」
高瀬。
少しだけ。
笑った。
「そっか」
「じゃあ」
「またな」
扉。
向こう。
「……またな」
◇
三人。
階段。
下りる。
高瀬。
途中。
足を止める。
「どうした?」
真壁。
「いや」
「桐谷」
「いたな」
「はい」
藤原。
「ナオも」
「はい」
「……」
「なんか」
高瀬。
少し。
笑う。
「それだけで」
「今日」
「結構いい」
真壁。
少しだけ。
口元を緩める。
「単純」
「うるさい」
「でも」
「分かります」
「お」
「桐谷先生」
「普通だった」
「そこ?」
「もっと」
「謎の人物っぽいと思ってた」
「俺も」
藤原。
「笑ってましたね」
「な」
「……」
三人。
少しだけ。
笑う。
その時。
真壁のスマートフォン。
震える。
「……」
高瀬。
「また?」
「はい」
画面。
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【SYSTEM】
対象
真壁透
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No.004
識別率
78%
↓
61%
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「……一気に」
藤原。
「十七%」
高瀬。
「何した?」
「桐谷先生と」
「話した」
「……」
次。
━━━━━━━━━━━━
既定記憶との
不一致を確認。
━━━━━━━━━━━━
「既定記憶?」
真壁。
さらに。
━━━━━━━━━━━━
外部情報により
役割起源を認識。
━━━━━━━━━━━━
「役割起源」
高瀬。
「桐谷から頼まれた」
「それ?」
藤原。
「多分」
次。
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No.004
安定条件
破損
━━━━━━━━━━━━
「……破損」
真壁。
顔。
硬くなる。
さらに。
━━━━━━━━━━━━
再分類準備
開始。
━━━━━━━━━━━━
「真壁」
高瀬。
「大丈夫?」
「……」
真壁。
少し。
息を吸う。
「怖い」
「うん」
「でも」
「……」
スマートフォン。
見る。
「さっきより」
「少しだけ」
「マシです」
「何で」
「桐谷先生」
「言ってた」
「……」
「誰も」
「最初から」
「番号じゃない」
「……」
「だから」
真壁。
少し。
笑う。
「004じゃなくなっても」
「俺」
「真壁透では」
「あるんですよね」
高瀬。
すぐ。
笑う。
「当たり前だろ」
藤原。
「はい」
「……」
真壁。
顔を逸らす。
「何」
高瀬。
「いや」
「照れた?」
「違う」
「顔」
「見ないで」
「また!」
三人。
笑う。
でも。
SYSTEM。
最後。
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再分類候補
UNKNOWN
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識別安定度
61%
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削除判定開始まで
残り
12%
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「……」
三人の。
笑顔が。
消える。
「十二%?」
藤原。
「49%」
真壁。
「50を」
「下回ったら」
「……」
高瀬。
画面を見る。
「削除判定」
「始まる?」
「……」
真壁。
小さく。
「みたいですね」
高瀬。
真壁を見る。
「じゃあ」
「どうする」
「……」
真壁。
少し考える。
そして。
「普通に」
「生きます」
「……」
高瀬。
少し。
目を見開く。
「数字を」
「戻すために」
「昔の俺みたいに」
「振る舞うの」
「嫌です」
「……」
「削除」
「怖い」
「でも」
「No.004でいるために」
「人と話すのやめたり」
「高瀬先生を」
「役割だから止めたり」
「……」
「そっちの方が」
一度。
息を吸う。
「もっと嫌です」
高瀬の。
表情が。
ゆっくり。
変わる。
藤原も。
少しだけ。
笑った。
「真壁」
「何」
「今」
「めちゃくちゃ」
「カッコよかった」
「やめて」
「いやこれは言わせろ!」
「嫌です」
「藤原」
「私も」
「二対一!」
「民主主義!」
「それ今使う!?」
三人。
また。
笑った。
真壁も。
最後には。
小さく。
笑った。
識別率。
61%。
削除判定まで。
あと12%。
数字だけ見れば。
危険は。
近付いている。
でも。
真壁透という人間は。
今。
少しずつ。
初めて。
SYSTEMの外へ。
自分の足で。
歩き始めていた。
◇
その夜。
旧視聴覚室。
暗闇。
ナオは。
床に。
横になっていた。
「……先生」
小さな声。
桐谷。
近く。
「起きたか」
「……来た?」
「来た」
「三人?」
「ああ」
ナオ。
少し。
笑う。
「帰った?」
「帰った」
「……よかった」
桐谷。
ナオを見る。
「でも」
「何」
「真壁が」
一度。
言葉を止める。
「外れ始めた」
ナオの。
表情が。
変わる。
「004から?」
「ああ」
「……」
「このままだと」
桐谷。
暗闇。
前を見る。
「先に」
「真壁が」
「こっちへ来る」
「……」
ナオ。
身体を。
起こそうとする。
「ダメ」
桐谷。
止める。
「まだ動くな」
「でも」
「大丈夫」
「何が」
「高瀬がいる」
「……」
ナオ。
少しだけ。
笑う。
「それ」
「一番」
「不安じゃない?」
桐谷。
一瞬。
黙る。
そして。
小さく。
笑った。
「……今回は」
少しだけ。
「前よりはな」
暗闇の中。
スマートフォン。
画面。
点灯。
━━━━━━━━━━━━
【対象接続候補】
真壁透
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その下。
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接続条件
識別率
49%以下
━━━━━━━━━━━━
ナオの。
笑顔が。
消える。
「桐谷先生」
「分かってる」
「真壁先生が」
「ああ」
桐谷は。
画面を。
消した。
「消されるんじゃない」
暗闇。
静かに。
「こっちへ」
「落とされる」




