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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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32/118

Review32 空白の三日間

 午前七時四十六分。


「……寝不足」


 藤原が、高瀬の顔を見るなり言った。


「おはようより先にそれ?」


「おはようございます」


「遅い」


「じゃあ改めて」


 一拍。


「寝不足ですね」


「結局言うんかい」


 高瀬は鞄を机の横へ置き、そのまま椅子へ座った。


 昨夜。


 ほとんど眠れなかった。


『そして一年前、

高瀬も一度、

そこへ行っています。』


 知らない番号から届いたメッセージ。


 何度も読み返した。


 そのたびに。


 三日間。


 という言葉が頭に浮かんだ。


 十月十三日。


 十四日。


 十五日。


 自分の記憶から。


 丸ごと抜け落ちている三日間。


「真壁は?」


「まだ来てません」


「珍しい」


「今朝、役所寄るって」


「役所?」


「高瀬先生の件」


「俺の?」


「去年の三日間」


「……」


 高瀬の表情が変わる。


「何調べるの」


「救急搬送記録とか」


「警察への届出とか」


「あと」


 藤原は少し声を落とした。


「行政で確認できる範囲」


「そこまで?」


「高瀬先生」


「はい」


「三日間」


 一度。


 言葉を選ぶ。


「本当にどこにもいなかった可能性」


 高瀬は。


 少しだけ笑った。


「朝から怖い話するなあ」


「笑えます?」


「笑わんと」


 高瀬は机の上のペンを弄る。


「ちょっと無理」


 藤原は。


 それ以上。


 何も言わなかった。


「藤原」


「はい」


「昨日の話」


「削除」


「はい」


「怖い?」


 藤原は。


 少し考えた。


「怖いです」


「即答」


「でも」


「うん」


「昨日より」


 高瀬を見る。


「調べたい気持ちの方が強い」


「……」


「高瀬先生は?」


「俺?」


「はい」


 高瀬も。


 考える。


「同じかな」


「怖いけど」


「うん」


「もし」


 一度。


 指を止める。


「その三日間に」


「桐谷がいたなら」


「……」


「知りたい」


「助けたい?」


 藤原が聞く。


 高瀬は。


 すぐには答えなかった。


「……分からん」


 藤原の目が。


 少しだけ柔らかくなる。


「今」


「何」


「ちゃんと分からないって言いましたね」


「最近それ褒められるな」


「前はすぐ決めてたから」


「褒め方が保護者なんよ」


 藤原が小さく笑う。


 その時。


「おはようございます」


 真壁。


 職員室。


「遅い」


 高瀬。


「八時前ですけど」


「真壁基準では遅い」


「何その基準」


 真壁が鞄を置く。


「で」


 高瀬。


「何か分かった?」


「朝一でそれ?」


「気になる」


「見れば分かります」


 真壁が。


 封筒を一つ。


 机へ置いた。


「何これ」


「確認できた範囲」


「……」


 三人。


 自然に。


 同じ机へ集まった。


◇


「まず」


 真壁が言う。


「救急搬送」


「はい」


「十月十三日から十五日」


「高瀬先生の名前」


「なし」


「病院」


「うん」


「近隣」


「分かる範囲」


「受診履歴なし」


「警察」


「失踪届」


「捜索願」


「なし」


「……」


 高瀬が。


 少しだけ眉を寄せる。


「家は?」


「そこ」


 藤原。


「昨日」


「高瀬先生」


「一人暮らしでしたよね」


「うん」


「管理会社」


「確認できる?」


「……」


 真壁。


「個人情報なので」


「直接は無理」


「でも」


「高瀬先生本人からなら」


「いける」


「じゃあ電話」


「今?」


「今」


「高瀬先生」


 藤原。


「授業」


「あと二十分」


「五分で終わる」


「最近その五分信用ない」


「今日はほんと!」


◇


「お世話になります」


 電話。


 管理会社。


 本人確認。


 住所。


 名前。


 生年月日。


 高瀬は。


 去年。


 三日間。


 部屋にいた形跡があるか。


 かなり変な質問だった。


『少々お待ちください』


「……」


 三人。


 無言。


 スピーカー。


『お待たせしました』


「はい」


『当時の記録ですと』


「はい」


『十月十三日から十六日朝まで』


「……」


『共用玄関の入退館履歴がありません』


「……」


 高瀬。


 指。


 止まる。


「一度も?」


『カードキー上では』


「はい」


『ありません』


「……」


「十六日は?」


『午前五時四十一分』


「……」


『入館記録があります』


 三人。


 顔を見合わせる。


「外から?」


『はい』


「俺」


 高瀬。


「その時」


「帰ってきた?」


『記録上は』


『そうなります』


「防犯カメラ」


『保存期間が』


「ですよね」


『申し訳ありません』


「いえ」


「ありがとうございます」


 電話。


 切る。


「……」


 高瀬。


 少し。


 黙る。


「十六日」


「五時四十一分」


 藤原。


「帰宅」


「そのあと」


 真壁。


「学校」


「来てる」


「……」


「俺」


 高瀬。


「どこから」


「帰ってきた?」


 誰も。


 答えられない。


◇


「次」


 真壁。


「交通系IC」


「そこまで調べたの?」


「高瀬先生」


「はい」


「昨日俺に」


『できるだけ現実側から調べる』


「って言いましたよね」


「言った」


「なので」


「仕事できすぎ」


「褒めないで」


「まだ言ってない」


「言う顔」


「お前も顔読むようになったな」


 藤原が笑う。


「で」


「交通系」


 真壁。


「高瀬先生の履歴」


「残ってる?」


「一年前」


「オンラインなら」


「全部は厳しい」


「でも」


「クレカ」


「……」


 高瀬。


「カード履歴」


「見れるかも」


「銀行アプリ」


「開く」


 三人。


 画面。


 十月十三日。


 コンビニ。


 朝。


 7時21分。


「これ」


「学校近く」


「うん」


 その後。


 なし。


 十四日。


 なし。


 十五日。


 なし。


 十六日。


 6時12分。


「……コンビニ」


 藤原。


「家の近く」


「多分」


「三日間」


 真壁。


「完全に」


「支出なし」


「現金使った可能性」


「ある」


「はい」


「でも」


 高瀬。


「俺」


「財布」


「どうだった?」


「覚えてない」


「まあ」


 真壁。


「そこは」


「追えない」


「……」


◇


「スマホ」


 藤原。


「一年前の」


「位置情報」


「残ってない?」


「Google」


「Apple」


「何か」


「……」


 高瀬。


「見てみる」


 アカウント。


 履歴。


 日付。


 十月十三日。


 午前。


 学校。


 午後。


「……」


 途切れている。


「何時」


 真壁。


「17時31分」


「そこから?」


「なし」


「十四日」


「なし」


「十五」


「なし」


「十六」


「……」


「5時49分」


「家」


「……」


 三人。


 静かになる。


「スマホ」


 藤原。


「電源切れてた?」


「可能性」


「バッテリー」


 真壁。


「それは分からない」


「でも」


「三日」


「丸ごと」


「位置情報なし」


「……」


 高瀬。


 画面を見る。


「俺」


「スマホも」


「一緒に」


「消えてた?」


「……」


「可能性」


 真壁。


「まだ」


「そこまでは」


「うん」


「保留」


 高瀬。


 自分で言う。


「成長」


 二人同時。


「それ禁止!」


「俺より先に言うな!」


 三人。


 少し。


 笑う。


 笑えるうちは。


 まだ。


 大丈夫だった。


◇


 昼休み。


「ここまで」


 藤原。


 ノート。


『10/13 17:31 位置情報消失』


『10/13〜10/16 5:41 自宅入退館なし』


『病院受診なし』


『救急搬送なし』


『警察記録なし』


『カード利用なし』


『10/16 5:41 自宅帰宅』


「……」


 高瀬。


「どこにも」


「いないな」


「現時点では」


 真壁。


「はい」


「でも」


 藤原。


「学校」


「十三日の」


「17時台」


「高瀬先生」


「いた」


「証言」


「ある」


「はい」


「じゃあ」


 高瀬。


「最後」


「学校から」


「消えた?」


 真壁。


 すぐには。


 答えない。


「17時44分」


「放送」


「17時47分」


「真壁」


「高瀬対応」


「17時52分」


「真壁退勤」


「……」


「高瀬先生の」


「位置情報消失」


「17時31」


「放送より前」


「……」


「スマホだけ」


「先に?」


「あるいは」


 藤原。


「位置情報だけ」


「切られた?」


「……」


 高瀬。


「気持ち悪」


 真壁。


「同意」


「お前が言うと珍しい」


「普通に気持ち悪いです」


◇


「先生」


 昼休み。


 いつもの女子生徒。


「何」


「今日」


「元気ない」


「そう?」


「うん」


「大丈夫度」


「……」


 高瀬。


 少し考える。


「五十三」


「微妙」


「リアルだろ」


「何があった」


「大人の事情」


「便利」


「便利だから使う」


「先生」


「何」


「一人で考えてる?」


「……」


 高瀬。


 少し笑う。


「今日は」


「三人」


「お」


「成長」


「それ禁止!」


「先生も言われてるんですか」


「最近めちゃくちゃ」


 女子生徒が。


 笑う。


「なら」


「大丈夫じゃない?」


「何が」


「一人じゃないなら」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 止まる。


「お前ら」


「何で」


「みんな同じこと言うんだろ」


「先生が」


「一人で抱えそうだから」


「……」


「そんな分かりやすい?」


「はい」


「即答!」


 女子生徒。


 少し笑う。


「でも」


「先生」


「五十三なら」


「半分超えてる」


「……」


「今日は」


「それでいいんじゃない」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 笑った。


「そっか」


「うん」


「じゃあ」


「五十四」


「一個だけ?」


「今上がった」


「安い!」


 二人。


 少し笑う。


◇


 放課後。


 三人。


 再び。


 資料室。


「最後」


 真壁。


「学校側」


「何かない?」


「何を」


 高瀬。


「入退館」


「職員玄関」


「カード」


「……」


 藤原。


「あります」


「古いけど」


「去年分」


「残ってるかも」


 データ。


 管理。


 検索。


 十月十三日。


「高瀬」


 藤原。


「出勤」


「7時38分」


「退勤」


「……」


「ない」


「……」


「退勤記録なし」


 高瀬。


「つまり」


「出た記録ない?」


「はい」


「十六日」


「出勤」


「7時21分」


「……」


 真壁。


「十三日に」


「学校へ入って」


「出てない」


「でも」


「十六日に」


「外から」


「また入ってる」


「……」


 三人。


 黙る。


「それ」


 高瀬。


「おかしくない?」


「はい」


 藤原。


「物理的には」


 真壁。


「相当」


「……」


「じゃあ」


 高瀬。


「十三日」


「俺」


「学校から」


「出てない?」


「記録上は」


「はい」


「でも」


「十四日」


「学校に」


「いた?」


「……」


「そこ」


 藤原。


「職員室の」


「出勤簿」


「欠勤」


「十五日も」


「欠勤」


「……」


「学校内に」


「いたなら」


「誰か」


「見る」


「普通は」


 真壁。


「でも」


「誰も」


「見てない」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 背筋を伸ばす。


「じゃあ」


「十三日の夜」


「学校の中で」


「俺」


「消えた?」


 誰も。


 答えない。


◇


「一個」


 藤原。


「まだあります」


「何」


「防犯システム」


「校内?」


「はい」


「夜間」


「センサー」


「……」


 高瀬。


「そんなログ」


「残ってる?」


「全部じゃないです」


「でも」


「異常検知」


「警備会社へ」


「残ることがあります」


「確認できる?」


「学校側の」


「保管資料」


「探します」


 三人。


 過年度。


 警備。


 十月。


 ファイル。


「……」


 真壁。


「十三」


「これ」


 一枚。


 夜間異常記録。


『10月13日』


『18:03』


『校舎内人感センサー作動』


「……」


 高瀬。


「場所」


 藤原。


 指。


『旧視聴覚室』


「……旧視聴覚室?」


「今」


「倉庫」


 真壁。


「三階」


「使ってない」


「誰か入った?」


「記録」


 藤原。


『現地確認』


『異常なし』


「……」


「警備員」


「18時21分」


「現場確認」


「誰もいない」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 眉を寄せる。


「18時03分」


「俺」


「その時」


「……」


「分からない」


「次」


 真壁。


「異常」


「他に」


 ページ。


 下。


 もう一件。


『18:17』


『同地点』


「また」


 藤原。


『人感センサー作動』


「確認」


『18:26』


『異常なし』


「……」


「二回」


 高瀬。


「人」


「いた?」


「でも」


「誰も」


「いない」


 真壁。


 さらに。


 下。


 最後。


『18:44』


「……」


 三人。


 見る。


『旧視聴覚室』


『異常作動』


『映像記録あり』


「……映像?」


 高瀬。


「残ってる?」


 藤原。


 ページ。


 追う。


『静止画添付』


 三人。


 同時に。


 息を止める。


「……ある」


 封筒。


 古い。


 警備会社から。


 印刷された。


 白黒。


 画像。


 藤原が。


 ゆっくり。


 取り出す。


「……」


 一枚。


 旧視聴覚室。


 廊下。


 誰もいない。


「何も」


 高瀬。


「次」


 二枚目。


 同じ。


 廊下。


 何もない。


 三枚目。


「……」


 藤原の。


 手が。


 止まる。


「どうした」


 高瀬。


「これ」


 写真。


 廊下。


 旧視聴覚室の前。


 一人。


 人影。


「……俺?」


 高瀬。


 そこに。


 自分が。


 立っている。


「時間」


 真壁。


 写真。


 右下。


『18:44:09』


「……」


 高瀬。


「俺」


「いた」


「はい」


 藤原。


「でも」


「次」


 真壁。


「何」


「写真」


 四枚目。


 藤原。


 めくる。


『18:44:11』


 二秒後。


「……」


 廊下。


 高瀬。


 いない。


「二秒」


 高瀬。


「消えた?」


「……」


 藤原。


「待って」


「何」


「三枚目」


 戻す。


 高瀬。


 旧視聴覚室の扉。


 その前。


「……」


 真壁。


 目を細める。


「高瀬先生」


「何」


「隣」


「……?」


 高瀬。


 写真を見る。


 暗い。


 粗い。


 自分。


 その。


 すぐ横。


「……人?」


 薄い。


 輪郭。


 一人。


 小柄。


 制服。


「……」


 藤原。


「生徒?」


 高瀬の。


 胸。


 強く。


 鳴る。


「拡大」


 スマートフォン。


 撮影。


 ズーム。


 ノイズ。


 でも。


 そこに。


 いる。


 男子生徒。


「……ナオ」


 三人。


 誰も。


 声を出さない。


「一年前」


 高瀬。


「ナオ」


「いた?」


「……」


 真壁。


「でも」


「ナオは」


「一回目」


「高瀬先生が」


「同じように動くと思ったって」


「言ってた」


「……」


 藤原。


「ということは」


「一年前」


「すでに」


「会ってた」


「……」


 高瀬。


 写真。


 じっと。


 見る。


 その時。


「待って」


 藤原。


「何」


「もう一人」


「……?」


 写真。


 高瀬。


 ナオ。


 その。


 さらに奥。


 旧視聴覚室。


 扉。


 半分。


 開いている。


 暗闇。


 そこ。


「……」


 顔。


 いや。


 人。


 誰かが。


 立っている。


「誰」


 高瀬。


 真壁。


 写真。


 見つめる。


 藤原の。


 指。


 少し。


 震える。


「これ」


「……」


「桐谷先生」


「……」


 高瀬。


 息。


 止まる。


 三人。


 写真。


 そこには。


 高瀬。


 ナオ。


 桐谷。


 三人。


 一年前。


 同じ場所に。


 いた。


「……」


 高瀬。


 小さく。


 呟く。


「ここだ」


「何が」


 藤原。


「俺」


「多分」


 写真。


 視聴覚室。


 見つめる。


「ここから」


「消えた」


 真壁。


 すぐに。


 写真の記録を見る。


「次」


「ある?」


 藤原。


 最後。


 五枚目。


 手。


 止まる。


「……」


「何」


 高瀬。


「時間」


『10月16日』


『05:32:41』


「……」


 高瀬。


「三日後?」


「はい」


 写真。


 同じ。


 旧視聴覚室。


 扉。


 閉じている。


 廊下。


 そこに。


 一人。


 高瀬。


「……戻ってる」


 真壁。


 次。


『05:32:43』


 高瀬。


 歩き出している。


「……」


 高瀬。


 写真を。


 見つめる。


 三日間。


 自宅にいない。


 病院にもいない。


 警察記録もない。


 学校から。


 出た記録もない。


 そして。


 十月十三日。


 18時44分。


 旧視聴覚室。


 高瀬。


 消失。


 十月十六日。


 5時32分。


 同じ場所。


 高瀬。


 出現。


「……」


 藤原。


 ゆっくり。


 言う。


「三日間」


「高瀬先生」


「ここに」


「いなかった」


「……」


 真壁。


「少なくとも」


「今までの」


「現実の記録には」


「……」


 高瀬。


 写真。


 握る。


「でも」


「俺」


「ここから」


「戻ってきた」


「……」


 三人。


 旧視聴覚室。


 写真。


 見つめる。


 高瀬。


 小さく。


「行く?」


 藤原。


 即答。


「三人で」


 真壁。


「今は」


「入らない」


「え」


「まず」


「外から」


「確認」


「……」


「慎重」


「必要です」


「分かってる」


「でも」


 高瀬。


 少しだけ。


 笑う。


「行こう」


「うん」


「三人で」


◇


 午後五時三十六分。


 三階。


 旧視聴覚室前。


 三人。


 立っていた。


「……」


 扉。


 普通。


 古い。


 鍵。


 掛かっている。


「ここ」


 高瀬。


「本当に」


「何かあった?」


「覚えてない?」


 藤原。


「全然」


 真壁。


 扉を見る。


「鍵」


「誰が」


「管理」


「職員室」


「開ける?」


 高瀬。


「今日は」


 真壁。


「外だけ」


「さっき言った」


「……」


「はい」


 高瀬。


 少しだけ。


 口を尖らせる。


「何」


 藤原。


「いや」


「開けたい」


「顔に出てます」


「最近全員俺の顔読めるな」


 その時。


 廊下。


 誰も。


 いない。


 なのに。


 扉の向こう。


 音。


 ――コツ。


 三人。


 止まる。


「……」


 高瀬。


「今」


「聞いた」


 藤原。


「はい」


 真壁。


「一回」


 ――コツ。


 もう一度。


 内側。


 誰か。


 いる。


「……」


 高瀬。


 一歩。


 前。


 真壁。


 腕。


 掴む。


「待って」


「分かってる」


「本当?」


「今日は」


「待つ」


「……」


 藤原。


 少しだけ。


 扉へ近付く。


「誰か」


「いますか?」


 返事。


 なし。


「藤原先生」


「はい」


「近付きすぎない」


「分かってます」


 高瀬。


 小さく。


 声。


「ナオ?」


 ……。


「桐谷?」


 ……。


 静か。


「……」


 三人。


 顔を見合わせる。


 その瞬間。


 扉。


 下。


 隙間。


 何か。


 滑ってくる。


「……!」


 三人。


 一歩。


 下がる。


 紙。


 一枚。


 床。


「……何」


 藤原。


「触る?」


 高瀬。


「待って」


 真壁。


「写真」


「先」


「了解」


 三人。


 撮影。


 紙。


 表。


 白。


 裏。


 文字。


 高瀬が。


 しゃがむ。


 触れずに。


 読む。


「……」


 手書き。


 一行。



『ここには来るな。』



「……」


 藤原。


「誰」


 次。


 下。



『三人で来たなら、


なおさら。』



「……」


 真壁。


 表情。


 変わる。


「三人」


「見えてる」


 高瀬。


 扉を見る。


「中から?」


 ……。


 返事。


 ない。


 最後。


 紙の。


 一番下。



『次は、


三人とも戻れる保証がない。』



「……」



 高瀬の。



 喉が。



 鳴る。



 その時。



 ポケット。



 三人のスマートフォン。



 同時。



 震えた。



━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


地点確認。


━━━━━━━━━━━━



 次。



━━━━━━━━━━━━


未登録領域


接続候補


旧視聴覚室


━━━━━━━━━━━━



「……未登録領域」


 藤原。



━━━━━━━━━━━━


接続履歴


1


━━━━━━━━━━━━



「一回」


 真壁。



━━━━━━━━━━━━


接続対象


高瀬


━━━━━━━━━━━━



「……俺」


 高瀬。



 次。



━━━━━━━━━━━━


帰還記録


あり


━━━━━━━━━━━━



 一瞬。



 高瀬の。



 表情が。



 少しだけ。



 緩む。



 でも。



 最後。



━━━━━━━━━━━━


同伴者


桐谷


帰還記録


なし


━━━━━━━━━━━━



「……」



 高瀬の。



 顔から。



 血の気が。



 引く。



「桐谷」



 藤原。



 何も。



 言えない。



 真壁も。



 扉を。



 見つめる。



 一年前。



 高瀬は。



 ここから。



 戻った。



 でも。



 桐谷は。



 戻らなかった。



「……俺」



 高瀬。



 声。



 少しだけ。



 震える。



「一人で」



「帰ってきた?」



 扉の向こう。



 静か。



 返事は。



 ない。



 なのに。



 高瀬には。



 その沈黙が。



 まるで。



『そうだ』



 と。



 答えているように。



 聞こえた。

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