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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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31/123

Review31 消えるということ

 午後十時二十三分。


 高瀬は。


 スマートフォンの画面を。


 まだ閉じられずにいた。



『分類できない対象は、


削除されます。』



「……削除」


 何度。


 この言葉を見ただろう。


 桐谷。


 DELETED。


 記憶。


 記録。


 そして今度は。


 自分たち。


「……」


 画面を。


 ゆっくり伏せる。


 すぐに。


 三人のグループチャットを開いた。


『起きてる?』


 真壁。


 即既読。


『起きてます』


「早」


 藤原。


 少し遅れて。


『起きてます。どうしました?』


 高瀬。


『電話いい?』


 藤原。


『はい』


 真壁。


『どうせあれでしょ』


 高瀬。


『あれ』


 真壁。


『削除』


「……」


 高瀬は。


 少しだけ苦笑した。


 自分だけ。


 考えているわけじゃない。


 その事実に。


 少し救われた。


◇


「で」


 通話。


 藤原の声。


「誰から来たんですか」


「いつもの知らない番号」


『また』


 真壁。


「うん」


「内容」


『共有お願いします』


「今送る」


 スクリーンショット。


 三人。


 確認。


 少し。


 沈黙。


「……分類不能で削除」


 藤原。


『高瀬先生』


 真壁。


「何」


『これ』


「うん」


『採点不能と』


『同じ?』


「分からん」


『そこ』


 真壁。


『一番大事』


「俺も思ってる」


 高瀬。


 少しだけ。


 声を落とす。


「俺」


「一年前」


「採点不能になった」


「でも」


「現実では」


「十六日に学校来てる」


「はい」


 藤原。


『じゃあ』


 真壁。


『削除=死』


『ではない』


「可能性高い」


「でも」


 高瀬。


「桐谷は」


「DELETED」


「今」


「学校にはいない」


「連絡も」


「普通には取れない」


「……」


 藤原。


「ナオも」


「消えました」


「うん」


『でも』


 真壁。


『ナオ』


『完全に消えたとは』


『まだ確認してない』


「……」


 高瀬。


 少し止まる。


「確かに」


「今日」


「見えなくなっただけ」


『はい』


「明日」


「また来るかもしれない」


「……」


 藤原。


「それ」


「希望込み?」


「……半分」


『残り半分』


 真壁。


「分からん」


『正直』


「成長」


『それ禁止』


 高瀬。


「俺の台詞!」


 ほんの少し。


 笑い。


 でも。


 空気は。


 重いままだった。


◇


「高瀬先生」


 藤原。


「一個」


「聞いていいですか」


「何」


「もし」


 一度。


 間。


「自己選択率が上がって」


「はい」


「SYSTEMが」


「高瀬先生を」


「分類できなくなって」


「……」


「削除されるかもしれない」


「……」


「それでも」


「今のまま」


「自分で選び続けます?」


 高瀬。


 黙った。


 答えは。


 すぐに出なかった。


『藤原先生』


 真壁。


『今』


『聞く?』


「聞きます」


『……』


「だって」


 藤原。


「大事だから」


「……」


 高瀬は。


 天井を見る。


「怖い」


「はい」


「めちゃくちゃ」


「……」


「消えるって」


「死ぬより」


「意味分からん」


「……」


「死ぬなら」


「まだ」


「死んだって分かる」


「でも」


「消えるって」


「何」


「誰から?」


「記録から?」


「記憶から?」


「世界から?」


「……」


『高瀬先生』


 真壁。


「何」


『今』


『答え出さなくていいんじゃない』


「……」


「何で」


『まだ』


『削除が何か』


『分かってない』


「……」


『分からないことに対して』


『覚悟だけ先に決めても』


『意味ない』


 高瀬。


 少しだけ。


 笑う。


「お前」


「ほんと」


「こういう時」


「冷静だな」


『冷静じゃないです』


「……」


『怖いから』


「……」


『順番決めてるだけ』


 その言葉。


 前にも。


 聞いた。


 怖いからこそ。


 順番。


「……そっか」


『はい』


「じゃあ」


 高瀬。


「今は」


「決めない」


 藤原。


「それでいいと思います」


「でも」


「うん」


「一個だけ」


「何」


 高瀬。


 少し。


 笑う。


「数字のために」


「生き方変えるのは」


「嫌」


 藤原も。


 少し。


 笑う。


「それは」


「私も嫌です」


『俺も』


 真壁。


「お」


『何ですか』


「素直」


『切りますよ』


「ごめん!」


◇


 翌朝。


 高瀬は。


 いつもより。


 少し早く。


 二年四組の前へ。


 行った。


「……」


 一番後ろ。


 窓側。


 ない。


 机。


 ない。


 椅子も。


 ない。


「ナオ」


 小さく。


 呼ぶ。


 返事。


 なし。


「……」


 分かってた。


 でも。


 少しだけ。


 胸が沈む。


「先生」


「うわっ!」


 女子生徒。


「今日もう驚くの早くない?」


「普通に来ただけです」


「それ禁止!」


「何で!」


 女子生徒。


 少し笑う。


「何してるんですか」


「……」


「確認」


「何の」


「昨日の」


「二年四組?」


「うん」


「……」


 女子生徒も。


 教室を見る。


「誰か」


「探してる?」


「……まあ」


「昨日言ってた」


「変な男の子?」


 高瀬。


 表情。


 少し。


 変わる。


「覚えてる?」


「うん」


「顔」


「……」


 女子生徒。


 少し考える。


「やっぱ」


「思い出せない」


「声」


「分からない」


「名前」


「知らない」


「……」


「でも」


「何」


「いた」


 高瀬の。


 目が。


 少しだけ。


 動く。


「本当に?」


「はい」


「何で」


「何が」


「顔も声も」


「覚えてないのに」


「なんで」


「いたって分かる?」


 女子生徒。


 少し。


 困った顔。


「……分かんない」


「……」


「でも」


「先生」


「何」


「昨日」


「その子と」


「話してる時」


「……」


「先生」


「笑ってた」


「……」


「だから」


 一度。


 考える。


「誰かは」


「いた」


「……」


 高瀬。


 すぐには。


 何も言わなかった。


 その言葉。


 妙に。


 残った。


「誰かは」


「いた」


 小さく。


 繰り返す。


「先生?」


「いや」


「ありがとう」


「何が」


「そのまま」


「忘れないで」


「……怖」


「違う違う!」


「急に」


「『忘れないで』は怖い」


「ごめん」


「また謝った」


「今のは謝るだろ!」


 女子生徒。


 笑う。


「でも」


「うん」


「忘れないです」


「……」


「先生が」


「誰かと話してたことくらい」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 笑った。


「ありがと」


◇


 職員室。


「それ」


 真壁。


「かなり大事じゃない?」


「だろ」


 高瀬。


 藤原も。


 ノート。


 開く。


「女子生徒」


「ナオの」


「顔」


「名前」


「声」


「覚えてない」


「でも」


「誰かがいた事実は」


「覚えてる」


「はい」


 真壁。


「つまり」


「削除」


「されても」


「痕跡」


「全部は」


「消えない?」


「可能性」


 藤原。


「うん」


「感情」


 高瀬。


「何」


「ナオの顔とか」


「名前じゃなく」


「俺が」


「あいつと話して」


「笑ってた」


「それ」


「残ってる」


「……」


 真壁。


 少し。


 考える。


「人の記憶」


「情報と」


「感情で」


「残り方」


「違う?」


「……」


 藤原。


「ありそう」


「名前は消える」


「顔も消える」


「でも」


「その人がいた時に」


「自分が何を感じたか」


「そこまで」


「消し切れない?」


「……」


 三人。


 少し。


 黙る。


「人を記録にする」


 高瀬。


「前」


「真壁」


「言ったよな」


「うん」


「もしかして」


「紙より」


「写真より」


「強いの」


「こっち?」


 高瀬。


 自分の胸を。


 軽く叩く。


「……」


 藤原。


 少しだけ。


 笑う。


「くさい」


「何で!」


「でも」


「多分」


「大事です」


「結局褒めるじゃん」


「半分」


「また!」


◇


 その日の昼。


 二年四組。


 真壁。


 授業。


「先生」


「何」


「そこ」


 一人の男子生徒。


 後ろを。


 指す。


「何」


「机」


「……」


 真壁。


 止まる。


 一番後ろ。


 窓側。


 何もない。


「机が何」


「昨日」


「なんか」


「そこ」


 一度。


 首を傾げる。


「狭くなかった?」


「……」


「狭い?」


「うん」


「机」


「一個多かったような」


 真壁の。


 指。


 少し。


 止まる。


「覚えてる?」


「いや」


「なんとなく」


「……」


「先生」


「何」


「変なこと聞いた?」


「いや」


「続けて」


「……」


 男子生徒。


 少し考える。


「昨日」


「誰か」


「そこ座ってた?」


「……」


 真壁。


 すぐには。


 答えなかった。


「何でそう思う」


「分かんない」


「でも」


 一度。


 笑う。


「誰かいた気がする」


「……」


 真壁の。


 胸。


 少し。


 強く鳴る。


「顔」


「覚えてる?」


「全然」


「名前」


「知らない」


「声」


「分からない」


「……」


「でも」


 男子生徒。


 少しだけ。


 教室の後ろを見る。


「なんか」


「寂しい感じする」


「……」


 真壁。


 しばらく。


 何も言わなかった。


「先生?」


「……いや」


「授業戻る」


「逃げた?」


「戻るだけ」


「昨日も誰か言ってた」


「誰」


「分かんない」


「……」


 真壁。


 少しだけ。


 目を細める。


「そっか」


◇


 昼休み。


 三人。


 また。


 同じ机。


「今度は」


「二年四組の生徒」


 真壁。


「ナオの存在」


「断片」


「残ってる」


「はい」


 藤原。


「しかも」


「寂しい感じ」


 高瀬。


「感情」


「……」


「やっぱ」


 高瀬。


「そこ」


「残る?」


 真壁。


「まだ」


「二人だけ」


「でも」


「確認価値ある」


「じゃあ」


 高瀬。


「聞いて回る?」


「待って」


 真壁。


「全員に」


「『昨日誰かいた?』」


「は」


「誘導になる」


「……」


「確かに」


「自然な形」


 藤原。


「何か」


「ないかな」


「……」


 三人。


 考える。


 高瀬。


 少し。


 笑う。


「席替え」


「何」


 真壁。


「教室の」


「座席表」


「昨日の」


「残ってない?」


「……」


「ある」


「お」


「印刷」


「昨日の出席確認用」


「見よう」


◇


 座席表。


 二年四組。


 三十五人。


 一番後ろ。


 窓側。


 空白。


「やっぱ」


「ない」


 高瀬。


「でも」


 真壁。


 紙。


 少し。


 目を細める。


「待って」


「何」


「印刷」


「ここ」


 空白のマス。


 ほんの少し。


 インク。


 滲み。


「……」


 藤原。


 顔を近付ける。


「文字?」


「いや」


「影?」


「……」


 高瀬。


「拡大」


 スマートフォン。


 撮影。


 ズーム。


 白い。


 空白。


 でも。


 そこだけ。


 薄く。


 何か。


「……数字?」


 藤原。


「何」


「これ」


 真壁。


 目を細める。


「0」


「0?」


「いや」


「01?」


「……」


 さらに。


 拡大。


 ノイズ。


 印刷ムラ。


 その中。


 薄い。


 三文字。



『001』



「……」


 三人。


 黙る。


「座席表に」


 高瀬。


「残ってる」


「でも」


 真壁。


「名前じゃない」


「番号」


「……」


 藤原。


「SYSTEMの識別」


「だけ?」


「人としての名前」


「ナオ」


「は」


「残ってない」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 眉を寄せる。


「SYSTEMは」


「001として」


「残せる」


「でも」


「ナオとしては」


「消す?」


「……」


「逆かも」


 真壁。


「何が」


「SYSTEMが」


「人の名前を消したんじゃなく」


「最初から」


「番号でしか」


「認識してない」


「……」


「だから」


「SYSTEM上では」


「001が残る」


「俺らが」


「ナオって呼んだ部分だけ」


「SYSTEMの外にある?」


「……」


 藤原。


 小さく。


 息を吸う。


「それ」


「もし本当なら」


「何」


「名前を呼ぶこと」


「かなり」


「大事かもしれない」


「……」


 高瀬。


 真壁を見る。


「お前」


「真壁」


「何」


「No.004じゃない」


「……」


「真壁」


「……」


 真壁。


 少しだけ。


 笑う。


「知ってます」


「確認」


「今更」


「でも」


 藤原。


「私も」


「真壁先生は」


「真壁先生」


「……」


 真壁。


 少し。


 顔を逸らす。


「二人して」


「何」


「急に」


「やめてください」


「照れた」


「違う」


「顔」


「見ないで」


 高瀬。


 少し。


 笑う。


 でも。


 その笑顔。


 すぐ。


 消える。


「桐谷」


「……」


 二人。


 表情。


 変わる。


「俺」


「桐谷」


「名前で」


「覚えてる」


「うん」


「ナオも」


「名前」


「残ってる」


「……」


「なら」


 高瀬。


 少し。


 声を低くする。


「削除されても」


「名前を」


「誰かが」


「覚えてれば」


「完全には」


「消えない?」


「……」


 藤原。


「可能性」


「真壁」


「うん」


「保留」


「はい」


「成長」


「それ禁止!」


 三人。


 少し。


 笑う。


◇


 放課後。


 高瀬は。


 一人。


 廊下。


 二年四組の前。


「ナオ」


 小さく。


 呼ぶ。


「……」


 返事。


 なし。


「ナオ」


 もう一度。


「……」


 誰も。


 いない。


 でも。


「お前」


「いたからな」


 声。


 小さい。


「ちゃんと」


「覚えてるから」


「……」


「勝手に」


「消えたことに」


「しない」


 静か。


 返事。


 ない。


 でも。


 高瀬。


 それで。


 よかった。


◇


 午後七時三十六分。


 高瀬。


 自宅。


 ノート。


『ナオ』


 名前。


 大きく。


 書く。


 その下。


『二年四組』


『座席記録上は001』


『一般生徒に感情の残滓あり』


『完全削除ではない可能性』


 最後。


 高瀬。


 少し考える。


『削除≠消滅?』


「……」


 ペン。


 置く。


 その時。


 SMS。


「……」


 知らない番号。


 また。


 開く。



『そこまで気付きましたか。』



「……」


 高瀬。


 眉。


 寄る。



『何が』



 返信。



『SYSTEMが消せるのは、


記録です。』



 高瀬。


 息。


 止まる。


 次。



『人間が、


人間に残したものまでは、


完全には消せない。』



「……」



 高瀬。



『感情?』



 既読。



 返信。



『それも。』



『他には』



 少し。


 間。



『癖。』


『言葉。』


『選択。』


『痛み。』


『後悔。』


『そして――』



 そこで。


 止まる。


「……そして?」


 高瀬。



『何』



 送信。



 返事。



『名前です。』



「……」



 高瀬。



 ナオ。



 桐谷。



 真壁。



 藤原。



 自分。



 次。



『名前は、


識別番号より強い。』



 高瀬の。



 表情が。



 少し。



 変わる。



『なら』



 打つ。



『ナオは


戻せる?』



 既読。



 長い。



 一分。



 二分。



 返信。



『戻す、


ではありません。』



「……」



『じゃあ何だ』



 返信。



『見つける。』



 高瀬の。



 指が。



 止まる。



 さらに。



『削除されたものは、


消えたわけではない。』



 次。



『見つけられない場所へ、


移されただけです。』



「……」



 高瀬。



 声。



 出ない。



 桐谷。



 ナオ。



 DELETED。



 削除。



 それは。



 存在しなくなった。



 という意味ではない。



 なら。



 どこに。



 いる?



 最後。



 一通。



『そして一年前、


高瀬も一度、


そこへ行っています。』



「……は?」



 高瀬は。



 完全に。



 動きを。



 止めた。



 一年前。



 三日間。



 高瀬は。



 学校を休んだ。



 記憶がない。



 SYSTEM上では。



 死亡。



 現実では。



 十六日に。



 戻った。



 その三日間。



 もし。



 高瀬が。



 死んでいたのではなく。



 削除された者たちのいる場所へ。



 行っていたのだとしたら。



「……俺」



 高瀬は。



 小さく。



 呟いた。



「桐谷に」



 一度。



 息を止める。



「会ってる?」



 答えは。



 まだ。



 返ってこなかった。

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