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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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30/121

Review30 いない生徒

 午前八時四分。


「……普通にいる」


 高瀬は。


 二階の廊下。


 少し離れた場所から。


 一人の男子生徒を見ていた。


 昨日。


 No.001として。


 SYSTEMに表示された男子生徒。


 今日は。


 何事もなかったように。


 廊下を歩いている。


 他の生徒たちの間を。


 普通に。


「……」


 高瀬は。


 目を細める。


 一人。


 女子生徒が。


 男子生徒のすぐ横を通る。


 ぶつかりそうになって。


 少し避けた。


「見えてる?」


 高瀬が。


 小さく呟く。


「何が?」


「うわっ!」


 隣。


 藤原。


「今日もう二回目!」


「何がですか」


「急に来るやつ!」


「普通に来ました」


「もうその台詞飽きた!」


 藤原が。


 少し笑う。


「で」


「何見てたんです?」


「……あいつ」


 高瀬が。


 廊下の先を指す。


 男子生徒。


「昨日の?」


「うん」


「No.001」


「……」


 藤原も。


 見る。


「いますね」


「いる」


「普通に」


「うん」


「でも」


 高瀬。


 少しだけ。


 眉を寄せる。


「あいつ」


「何組?」


「……」


 藤原。


 止まる。


「昨日」


「聞きそびれましたね」


「というか」


「聞いたら」


「質問扱いされそうだった」


「……」


 藤原が。


 少し考える。


「でも」


「学校の生徒なら」


「教師として」


「名前確認しても」


「普通ですよね」


「だろ」


「聞きます?」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 男子生徒を見る。


「いや」


「今は」


「尾行?」


「言い方!」


「じゃあ観察」


「教師が生徒を観察」


「普通っぽくなった」


「全然普通じゃないです」


◇


 男子生徒は。


 二年生の廊下へ。


 曲がった。


「二年?」


 高瀬。


「制服同じなので」


「学年は分からない」


「そっか」


 二人。


 少し距離を置いて。


 追う。


「高瀬先生」


「何」


「これ」


「完全に怪しいです」


「分かってる」


「生徒から見たら」


「何してる先生たち?」


「職務」


「雑」


 男子生徒。


 一つの教室の前で。


 止まる。


「……」


 教室。


 二年四組。


「二年四組?」


 藤原。


「担任」


「誰」


「……」


 二人。


 顔を見合わせる。


「真壁」


「ですよね」


◇


 二年四組。


 男子生徒は。


 普通に。


 教室へ入った。


「……」


 高瀬。


 廊下から。


 中を見る。


 生徒たち。


 朝の準備。


 会話。


 笑い声。


 男子生徒も。


 その中へ。


「高瀬先生」


「うん」


「座りました」


「どこ」


「一番後ろ」


「窓側」


「……」


 男子生徒。


 椅子。


 机。


 普通に。


 ある。


「席」


 高瀬。


「あるじゃん」


「はい」


「じゃあ」


「名簿」


 藤原。


「真壁先生に」


「聞きましょう」


「うん」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 男子生徒を見る。


 向こう。


 目が。


 合った。


「……」


 男子生徒。


 ほんの少し。


 笑う。


 口。


 動く。


 音。


 聞こえない。


「何」


 藤原。


「今」


「何か言った?」


「分からん」


「口」


「……」


 高瀬。


 形を。


 思い出す。



『遅い。』



「……」


「何ですか」


「多分」


「遅いって」


「……」


「待ってた?」


「俺らが」


「……」


 その時。


 教室。


 前。


「高瀬先生?」


 真壁。


「うわっ!」


「何で二人して」


「廊下から覗いてるんですか」


「お前のクラス」


「はい」


「確認したい」


「何を」


 高瀬。


 教室内。


 男子生徒を。


 指す。


「あの子」


「……」


 真壁が。


 見る。


「どの子」


「一番後ろ」


「窓側」


「……」


 真壁。


 少し。


 眉を寄せる。


「誰もいませんけど」


「……」


 高瀬。


 藤原。


 同時に。


 止まる。


「え?」


「真壁先生」


 藤原。


「見えない?」


「何が」


「男子生徒」


「……」


 真壁が。


 もう一度。


 教室を見る。


「一番後ろ」


「はい」


「窓側」


「はい」


「空席です」


「……」


 高瀬の。


 背中。


 冷たくなる。


 もう一度。


 見る。


 いる。


 男子生徒。


 机。


 椅子。


 こちらを。


 見ている。


「藤原」


「はい」


「見える?」


「見えます」


「真壁」


「いません」


「……」


 三人。


 教室前。


 固まる。


◇


「ちょっと」


 真壁。


「廊下」


「うん」


 三人。


 離れる。


「説明して」


「昨日」


 高瀬。


「No.001」


「接触した」


「知ってる」


「今日」


「普通に学校来てる」


「それも今見た」


「いや」


 高瀬。


 少しだけ。


 声を落とす。


「俺と藤原には」


「見えてる」


「お前には」


「見えてない」


「……」


 真壁。


 少し。


 黙る。


「本当に?」


「はい」


 藤原。


「確実に」


「……」


 真壁が。


 教室を見る。


「席」


「あります?」


「ある」


 高瀬。


「俺には」


「机」


「椅子」


「全部」


「私も」


 藤原。


「でも」


 真壁。


「俺には」


「一番後ろ」


「窓側」


「机も」


「ない」


「……」


 高瀬。


「机ごと?」


「はい」


「……」


 藤原。


「見えてる世界」


「違う?」


「可能性」


 真壁。


「高い」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 息を吐く。


「俺ら」


「昨日」


「同じやつに」


「会ってたよな」


「はい」


「真壁も」


「見えてたよな」


「はい」


「じゃあ」


「今日は」


「何で」


「俺だけ」


「見えない」


 真壁の声。


 少し。


 低い。


「……No.004」


 藤原。


 真壁。


 一瞬。


 表情が。


 変わる。


「それ」


「関係ある?」


「分からない」


「でも」


 高瀬。


「No.001」


「お前だけ」


「見えない」


「……」


「真壁」


「何」


「怖い?」


「……」


 少し。


 間。


「はい」


「そっか」


「でも」


 真壁。


 少しだけ。


 高瀬を見る。


「今」


「一人じゃないので」


「……」


 高瀬。


 少し笑う。


「お前」


「それ」


「自分で言えるようになったな」


「やめて」


「成長」


「それ禁止!」


 藤原。


 少し。


 笑う。


 真壁も。


 ほんの少し。


 笑った。


◇


「名簿」


 真壁。


「確認します」


「うん」


「二年四組」


「生徒数」


「三十五」


「席」


「一番後ろ窓側」


「そもそも」


「ない」


「……」


 高瀬。


「じゃあ」


「俺と藤原が」


「見えてる席」


「存在してない?」


「学校の記録上は」


「はい」


「……」


 藤原。


「でも」


「他の生徒」


「さっき」


「避けてました」


「本当に?」


「はい」


「ぶつかりそうになって」


「避けた」


「……」


 真壁。


「じゃあ」


「他の生徒にも」


「見えてる?」


「可能性」


「聞く?」


 高瀬。


「待って」


 真壁。


「自然に」


「誰か一人」


「高瀬先生」


「はい」


「普段話す生徒」


「……」


「いつもの子」


 藤原。


「女子生徒」


「はい」


「協力」


「頼める?」


「巻き込みすぎない範囲で」


「うん」


◇


 昼休み。


「先生」


「何」


 いつもの女子生徒。


「今日」


「顔」


「もういいって!」


「まだ何も言ってない」


「顔の話だろ」


「違います」


「何」


「昼ご飯」


「茶色」


「藤原にも言われた!」


「誰ですか藤原」


「同僚!」


「また女」


「何でそこ拾う!」


 女子生徒。


 笑う。


「で」


「頼みある」


「何ですか」


「二年四組」


「うん」


「知り合い」


「何人か」


「います」


「一番後ろ」


「窓側」


「誰座ってる?」


「……」


 女子生徒。


 少しだけ。


 首を傾げる。


「何で?」


「確認」


「何の」


「大人の事情」


「便利なやつ」


「そう」


「……」


 女子生徒。


 少し考える。


「二年四組」


「一番後ろ」


「窓側」


「……」


「誰も」


「いないんじゃないですか?」


「……」


 高瀬の。


 表情。


 少しだけ。


 止まる。


「本当に?」


「はい」


「机」


「ある?」


「……」


「先生」


「何」


「普通」


「後ろまで」


「机ないですよ」


「……」


「三十五人だから」


「列」


「途中で切れてる」


「……」


「何かあった?」


「いや」


 高瀬。


 少し。


 笑う。


「ありがとう」


「怖」


「何が」


「先生今」


「めっちゃ笑顔作った」


「作ってない!」


「作った」


「最近自然な笑顔練習中」


「何それ」


「こっちの話」


 女子生徒。


 少し笑う。


「じゃあ」


「戻ります」


「うん」


 数歩。


「先生」


「何」


 振り返る。


「でも」


「昨日」


「二年四組の前」


「変な子いましたよ」


「……」


 高瀬。


 止まる。


「どんな」


「男の子」


「……」


「制服」


「はい」


「名前」


「知らない」


「……」


「顔」


「覚えてる?」


「うーん」


 女子生徒。


 考える。


「思い出せない」


「……」


「でも」


「何」


「先生と」


「話してた」


「……」


 高瀬。


 喉。


 少し。


 鳴る。


「俺と?」


「はい」


「朝」


「……」


「昨日?」


「多分」


「……」


「先生」


「その子」


「知り合い?」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 目を細める。


「今」


「確認中」


「何それ」


「俺も分からん」


「先生最近それ多い」


「ほんとにな」


◇


 放課後。


 三人。


 空き教室。


 ノート。


『No.001』


『高瀬・藤原→視認可能』


『真壁→視認不可』


『一般生徒→明確な視認なし』


『女子生徒→昨日見た記憶あり/顔は思い出せない』


「……」


 真壁。


「俺」


「昨日」


「見えてた」


「はい」


 藤原。


「今日」


「見えない」


「うん」


 高瀬。


「変化」


「何」


「昨日から今日」


「……」


 真壁。


 考える。


「特に」


「Review」


「★★★★★」


「固定」


「No.004」


「制止者」


「……」


 藤原。


「あと」


「未来記録」


「消えた」


「それ」


 高瀬。


「関係ある?」


「分からない」


「でも」


 真壁。


「高瀬先生が」


「記録から外れたことで」


「俺の」


「見える範囲も」


「変わった?」


「……」


「仮説」


「はい」


「保留」


「はい」


「成長」


「もういいって!」


◇


「一個」


 藤原。


「確認したいです」


「何」


 高瀬。


「No.001」


「今日」


「高瀬先生たちを」


「待ってたように見えた」


「うん」


「昨日」


「次会える保証ないって」


「言ってた」


「……」


「なのに」


「普通に」


「今日いた」


「確かに」


 真壁。


「矛盾」


「はい」


「じゃあ」


 高瀬。


「最後の一問」


 三人。


 止まる。


「使う?」


 藤原。


「……」


 高瀬。


 少し考える。


「まだ」


「使わない」


「理由」


 真壁。


「今日」


「直接」


「もう一回」


「話せるかもしれない」


「……」


「それで」


「聞けること」


「まだある」


「質問権使わず」


「普通に」


「……」


「なるほど」


 真壁。


「賛成」


 藤原。


「私も」


「三対ゼロ」


「決定」


◇


 午後四時五十六分。


 二年四組。


 授業。


 終了。


 生徒。


 出ていく。


 高瀬。


 藤原。


 廊下。


 待つ。


 真壁も。


 いる。


 ただし。


 真壁には。


 見えない。


「……いた」


 高瀬。


 男子生徒。


 教室。


 一番後ろ。


 窓側。


 一人。


 座っている。


「藤原」


「見えます」


「真壁」


「いません」


「……」


「行く」


 高瀬。


「待って」


 真壁。


「何」


「俺」


「一緒に入る」


「見えないのに?」


「だから」


「……」


「見えないから」


「一人にしない」


 高瀬。


 少しだけ。


 真壁を見る。


「……了解」


 三人。


 教室へ。


◇


「先生」


 男子生徒。


 少し笑う。


「遅かったですね」


「お前」


「今日ずっといた?」


「いました」


「何で」


「待ってたから」


「俺らを?」


「先生を」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 眉を寄せる。


「真壁」


 男子生徒。


 視線。


 高瀬の隣。


「……」


「見えてる?」


 高瀬。


「はい」


「お前からは」


「はい」


 真壁。


 声だけ。


「俺のこと」


「見えてる?」


 男子生徒。


 真壁を見る。


「見えてます」


「……」


「俺から」


「あなたは」


「見えない」


「はい」


「何で」


 男子生徒。


 少し。


 困ったような。


 顔。


「それ」


「最後の質問に」


「します?」


「……」


 真壁。


 黙る。


「しない」


 高瀬。


「俺が決めるの?」


「質問権」


「高瀬先生の」


「……」


「でも」


 高瀬。


 真壁を見る。


「お前のことだから」


「お前が」


「使いたいって」


「言ったら」


「考える」


「……」


 真壁。


 少し。


 驚く。


「今は」


「いい」


「分かった」


◇


「じゃあ」


 高瀬。


「普通に聞く」


「はい」


「お前」


「何で」


「ここに」


「席あるの」


「……」


 男子生徒。


 少し。


 笑う。


「僕には」


「あるから」


「答えになってない」


「先生たちには?」


「俺と藤原には」


「ある」


「真壁には」


「ない」


「……」


「他の生徒には」


「多分」


「ほとんど」


「ない」


「……」


 高瀬。


 少し。


 身を乗り出す。


「お前」


「学校に」


「存在してない?」


 男子生徒の。


 笑顔が。


 少し消える。


「先生」


「何」


「存在って」


「何だと思います?」


「……」


「また質問返し」


「ごめんなさい」


「珍しく謝った」


「僕も」


 少しだけ。


 笑う。


「成長します」


「それ禁止!」


 藤原。


 思わず笑う。


 真壁も。


 少しだけ。


 口元。


 緩む。


「でも」


 男子生徒。


 机へ。


 指を置く。


「名簿に」


「名前がない」


「うん」


「席も」


「記録にはない」


「うん」


「でも」


 一度。


 高瀬を見る。


「先生には」


「見える」


「……」


「話せる」


「……」


「昨日」


「笑った」


「……」


「今日」


「待った」


「……」


「それでも」


「僕」


「いないんですか?」


 高瀬。


 すぐには。


 答えなかった。


「……いる」


 男子生徒。


 少しだけ。


 目を見開く。


「俺には」


「いる」


「……」


「少なくとも」


「今」


「目の前に」


「いる」


「……」


 男子生徒の。


 表情。


 少しだけ。


 揺れる。


「だから」


 高瀬。


「名前」


 一度。


 止まる。


「教えて」


 男子生徒。


 目を伏せる。


「……」


「今」


「質問権」


「使ってない」


「普通に」


「聞いてる」


「……」


「答えたくないなら」


「言わなくていい」


「でも」


「聞きたい」


「……」


 長い。


 沈黙。


 藤原。


 真壁。


 待つ。


 男子生徒。


 ようやく。


 口を開く。


「……ナオ」


「ナオ?」


「はい」


「名字」


「……」


「今は」


「無理?」


「……はい」


「そっか」


 高瀬。


 少し笑う。


「じゃあ」


「ナオ」


「……」


 男子生徒。


 顔。


 上げる。


 その瞬間。


 男子生徒の。


 目。


 少しだけ。


 潤んだ。


「何」


 高瀬。


「いや」


「久しぶりに」


「……」


「名前で」


「呼ばれたから」


「……」


 三人。


 何も。


 言えなかった。


◇


「ナオ」


 藤原。


 初めて。


 名前を呼ぶ。


「はい」


「私たち」


「あなたを」


「助けた方がいい?」


 高瀬。


 少しだけ。


 藤原を見る。


 藤原。


「質問権じゃないです」


「普通に」


「聞いてます」


 ナオ。


 少し。


 困った顔。


「……分からない」


「自分でも?」


「はい」


「元に戻りたい?」


「……」


 ナオ。


 机を見る。


「前は」


「戻りたかった」


「今は?」


「……」


 長い。


 沈黙。


「分からない」


「何で」


 高瀬。


「先生たち」


「前と」


「違うから」


「……」


「戻るって」


「一回目を」


「やり直すこと?」


「それ」


「質問?」


「普通」


「……」


 ナオ。


 少しだけ。


 笑う。


「答えられません」


「ルール?」


「はい」


「くそ」


「高瀬先生」


 藤原。


「言葉」


「はい」


◇


「じゃあ」


 真壁。


 声。


「一個」


「俺から」


「はい」


 ナオ。


「俺」


「見えない」


「でも」


「あなたから」


「俺は見える」


「はい」


「それ」


「怖い?」


 ナオ。


 少しだけ。


 真壁を見る。


「……少し」


「何で」


「真壁先生」


「前」


「僕を」


「見つけたから」


「……」


 高瀬。


 藤原。


 表情。


 変わる。


「一年前?」


 高瀬。


「……」


「ナオ」


「真壁」


「お前を」


「見つけた?」


「……」


「最後の質問」


「使います?」


「……」


 高瀬。


 真壁を見る。


 真壁。


 少し。


 考える。


「使わない」


「理由」


 高瀬。


「今」


「本人が」


「ここにいる」


「……」


「無理に」


「答えを取らなくても」


「いい」


「……」


 ナオ。


 その言葉を。


 じっと。


 聞いていた。


◇


 その時。


 廊下。


 足音。


「先生?」


 女子生徒。


 いつもの。


 教室。


 入口。


「何してるんですか」


「……」


 高瀬。


 一瞬。


 ナオを見る。


 女子生徒。


 教室内。


 見る。


「先生」


「何」


「誰と」


「話してるんですか?」


「……」


 高瀬。


 藤原。


 真壁。


 三人。


 止まる。


「ナオ」


 高瀬。


 女子生徒。


「……誰?」


「……」


 ナオ。


 席。


 いる。


 女子生徒の。


 視線。


 その場所を。


 通り過ぎる。


「見えない?」


 高瀬。


「何が?」


「……」


「先生?」


「いや」


「何でもない」


「それ絶対何かあるやつ」


「大人の事情」


「また便利!」


 女子生徒。


 笑う。


「じゃあ」


「先生」


「忘れ物取りに来ただけなので」


「うん」


 机。


 数列。


 進む。


 ナオの。


 席。


 ある。


 はず。


 高瀬には。


 でも。


 女子生徒。


 その場所を。


 普通に。


 横切った。


「……」


 机を。


 すり抜けた。


「……は?」


 高瀬。


 声。


 漏れる。


 女子生徒。


「何?」


「今」


「……」


 ナオを見る。


 ナオ。


 目を伏せる。


 高瀬。


 ゆっくり。


 ナオの机へ。


 手を伸ばす。


「先生」


 藤原。


「待って」


「……」


 でも。


 高瀬。


 触れる。


 指。


 机へ。


 ――届かない。


「……」


 すり抜けた。


「……嘘だろ」


 もう一度。


 手。


 机。


 抜ける。


 椅子。


 抜ける。


「ナオ」


「……」


「これ」


「何」


 ナオ。


 少しだけ。


 苦しそうに。


 笑う。


「だから」


「僕」


「いるけど」


 一度。


 言葉。


 止まる。


「ここには」


「いないんです」


「……」


 高瀬。


 息。


 止まる。


 藤原も。


 机へ。


 手を伸ばす。


「……」


 同じ。


 すり抜ける。


「見えるのに」


「触れない」


「はい」


 真壁。


「俺には」


「最初から」


「何もない」


「はい」


「……」


 三人。


 ナオを見る。


 ナオ。


 少しだけ。


 笑う。


「先生」


「何」


「僕」


「前」


「言いましたよね」


「何を」


「元に」


「戻りたいって」


「……」


「何で」


「戻りたいか」


 高瀬。


 何も。


 言わない。


「僕」


 ナオ。


 自分の。


 手を見る。


「もう」


「誰にも」


「触れないからです」


「……」


 藤原。


 表情。


 変わる。


「いつから?」


「それ」


 ナオ。


 少しだけ。


 笑う。


「最後の質問に」


「します?」


「……」


 高瀬。


 拳。


 少し。


 握る。


「しない」


「……」


「今日は」


「聞かない」


「……」


「でも」


 高瀬。


 ナオを見る。


「触れないから」


「元に戻りたい?」


「……」


「だったら」


「方法」


「一緒に探す」


 ナオ。


 目を伏せる。


「先生」


「何」


「それ」


「一回目も」


「言いました」


「……」


 三人。


 止まる。


「で」


 高瀬。


「俺」


「失敗した?」


 ナオ。


 答えない。


 高瀬。


 少し。


 笑う。


「質問には」


「しない」


「……」


「今回は」


「一回目と」


「違う」


「……」


「俺だけじゃない」


 藤原。


 真壁。


 二人を見る。


「三人いる」


「……」


 ナオ。


 その三人を。


 順番に。


 見る。


 そして。


「……四人」


「え?」


 高瀬。


 ナオ。


 小さく。


 言い直す。


「今は」


「四人です」


「……」


 高瀬。


 少しだけ。


 笑った。


「そうだな」


「……」


「四人」


 ナオの。


 顔。


 少しだけ。


 崩れる。


 本当に。


 泣きそうな。


 顔。


 でも。


 泣かなかった。


◇


 その瞬間。


 教室。


 蛍光灯。


 一度。


 点滅。


「……」


 ナオ。


 表情。


 変わる。


「先生」


「何」


「離れて」


「何で」


「早く!」


 初めて。


 ナオが。


 声を。


 荒らげた。


「高瀬先生!」


 藤原。


「下がって!」


 三人。


 反射的に。


 後ろへ。


 次の瞬間。


 ナオの机。


 輪郭。


 大きく。


 歪む。


「……」


 黒板。


 文字。


 勝手に。


 浮かぶ。


 チョーク。


 誰も。


 触っていない。


 なのに。



『識別対象001』



「……」


 ナオ。


 顔。


 強張る。


「違う」


 小さく。


「何が」


 高瀬。


「僕」


「……」


「その名前」


「嫌いです」


「……」


 黒板。



『返却期限超過』



 高瀬。


「星」


 藤原。


「返してないから?」


 ナオ。


「先生」


「何」


「逃げて」


「お前は?」


「いいから!」


 黒板。



『回収処理を開始』



「……回収?」


 真壁。


 その瞬間。


 高瀬。


 ナオへ。


 一歩。


 出る。


「高瀬先生!」


 真壁。


 腕。


 掴む。


「離せ」


「行くな」


「ナオが」


「今」


「行くな!」


 真壁の。


 声。


 強い。


 ナオ。


 それを見る。


「……」


 高瀬。


 真壁。


 一年前。


 桐谷。


 制止者。


 頭を。


 よぎる。


「真壁」


「何」


「今」


「止める?」


「止める」


「SYSTEMに?」


「違う」


 真壁。


 高瀬を。


 真っ直ぐ見る。


「俺が」


「今」


「危ないと思うから」


「……」


「役割じゃない」


「SYSTEMでもない」


「俺が」


「止める」


「……」


 高瀬。


 動き。


 止まる。


 ナオ。


 少しだけ。


 目を見開く。


「……違う」


 ナオ。


「何が」


「前と」


「違う」


「……」


 黒板。


 文字。


 乱れる。



『制止行動 確認』



 真壁。


 画面。


 見る。


「勝手に」


「採点するな」


 黒板。



『No.004――』



「やめろ」


 高瀬。


 低い声。


 黒板へ。


「こいつ」


「真壁だから」


「……」


 文字。


 一瞬。


 止まる。


 藤原。


 高瀬を見る。


 高瀬。


 続ける。


「ナオも」


「001じゃない」


「……」


「番号で」


「呼ぶな」


 教室。


 静か。


 黒板。


 数秒。


 何も。


 動かない。


 そして。


 全部。


 消えた。


「……」


 ナオ。


 まだ。


 いる。


「ナオ」


 高瀬。


「大丈夫?」


「……」


 ナオ。


 少し。


 笑う。


「その質問」


「また」


「最初ですか」


「今は」


「普通に聞いてる」


「……」


「大丈夫?」


 ナオ。


 少し。


 考える。


「……六点」


「低!」


 高瀬。


 思わず。


 声。


 出る。


 藤原。


 笑いそうになる。


 真壁。


 少しだけ。


 口元。


 緩む。


「何点満点」


 高瀬。


「百」


「低すぎるわ!」


 ナオ。


 初めて。


 小さく。


 笑った。


◇


 でも。


 その直後。


 ナオの。


 輪郭。


 少し。


 薄くなる。


「……」


「ナオ?」


 高瀬。


「先生」


「何」


「次」


「会えたら」


「……」


 声。


 少し。


 遠くなる。


「最後の質問」


「使ってください」


「何で」


「もう」


「時間が」


「……」


「何の」


「ナオ」


「待て」


 輪郭。


 さらに。


 薄い。


「先生」


「何」


「聞くなら」


「……」


「僕が」


「誰なのか」


「じゃなくて」


「……」


 一度。


 高瀬を見る。


「どうして」


「僕が」


「こうなったのか」


「聞いてください」


「……」


 高瀬。


 声。


 出ない。


 ナオ。


 最後。


 少し。


 笑う。


「名前」


「呼んでくれて」


「ありがとうございました」


「待て」


「ナオ!」


 手。


 伸ばす。


 でも。


 最初から。


 触れない。


 そして。


 ナオは。


 消えた。


 机も。


 椅子も。


 何も。


 残らない。


「……」


 高瀬の。


 手。


 宙。


 そのまま。


 数秒。


「……くそ」


 小さく。


 拳。


 握る。


「高瀬先生」


 藤原。


「……うん」


「今」


「追えない」


「分かってる」


「……」


「分かってるよ」


 声。


 少し。


 震えた。


 真壁。


 何も。


 言わない。


 ただ。


 高瀬の。


 横へ。


 立つ。


 三人。


 何もない。


 教室の後ろを。


 見つめる。


◇


 数分後。


 高瀬のスマートフォン。


 震えた。


 SYSTEM。


━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


識別対象001


回収失敗。


━━━━━━━━━━━━



「……失敗」


 藤原。


 次。



━━━━━━━━━━━━


原因


予測外行動


━━━━━━━━━━━━



「予測外」


 真壁。


 さらに。



━━━━━━━━━━━━


検出


真壁透


自主制止


━━━━━━━━━━━━



「自主」


 高瀬。


 真壁を見る。


「お前」


「役割じゃなく」


「自分で止めたから?」


「……」


 真壁。


 何も言わない。


 次。



━━━━━━━━━━━━


検出


高瀬


識別拒否


━━━━━━━━━━━━



「識別拒否?」


 藤原。


 高瀬。


 黒板へ言った。


『こいつ真壁だから』


『ナオも001じゃない』


 それ。


「番号」


 高瀬。


「拒否したから」


「……」


 最後。


━━━━━━━━━━━━


LOOP 1再現率


38%


 ↓


31%


━━━━━━━━━━━━



 三人。


 止まる。


「下がった」


 藤原。


「また」


 高瀬。


「前と」


「違うことした」


「……」


 真壁。


 少しだけ。


 笑う。


「なら」


「今の」


「間違いじゃなかった?」


 高瀬。


 真壁を見る。


「星」


「聞く?」


「嫌」


「だよな」


 三人。


 少しだけ。


 笑った。


 でも。


 ナオは。


 いない。


 その事実だけは。


 変わらない。


◇


 その夜。


 ノート。


『ナオ』


『No.001とSYSTEMに識別』


『高瀬・藤原には視認』


『真壁には一時視認不可』


『物理接触不可』


『回収処理』


『予測外行動により失敗』


 最後。


 高瀬。


 ペン。


 止まる。


 そして。


 書く。



『最後の質問候補』


『どうしてナオはこうなった?』



「……」


 残り。


 一問。


 高瀬は。


 ノートを。


 閉じた。


 その時。


 スマートフォン。


 SMS。


「……」


 知らない番号。


 開く。



『名前をつけましたね。』



「……」


 高瀬。


 表情。


 変わる。



『何で知ってる』



 送信。



 返信。



『前回にはなかった行動だからです。』



 次。



『それで一つ、


確認できました。』



「……」



『何を』



 返信。



『001は、


番号ではなくなり始めています。』



「……」



 さらに。



『同時に、


No.004も。』



 高瀬の。



 指が。



 止まる。



 真壁。



 自主制止。



 SYSTEMの役割ではなく。



 本人が。



 選んだ。



 次。



『識別が崩れれば、


SYSTEMは対象を


正しく分類できなくなる。』



「……」



 高瀬。



『それって』



 打つ。



『SYSTEMから


抜けられるってことか』



 既読。



 長い。



 返事。



『いいえ。』



 そして。



『分類できない対象は、


削除されます。』



「……」



 高瀬の。



 顔から。



 笑みが。



 完全に。



 消えた。



 ナオ。



 真壁。



 そして。



 自分。



 採点不能。



 識別不能。



 SYSTEMから。



 自由になることと。



 SYSTEMに。



 存在を認められなくなること。



 その二つは。



 もしかすると。



 同じ場所に。



 繋がっている。

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