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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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26/118

Review26 嘘

 午後五時十七分。


 資料室。


 藤原美咲は。


 まだ。


 画面の前に座っていた。



『高瀬へ。』


『今は、


私を信用しないで。』


『私が言うことを、


全部信じたらダメ。』


『私は、


もう一度、


嘘をつく。』



「……」


 何度読んでも。


 意味は。


 変わらない。


 作成者。


 藤原美咲。


 更新者。


 藤原美咲。


 日付。


 一年前。


 十月十四日。


「……私が」


 自分で。


 書いた?


 でも。


 覚えていない。


「もう一度」


 藤原は。


 そこだけを。


 小さく。


 口にする。


「一回」


「もう」


「嘘ついてる」


 いつ。


 誰に。


 何を。


「……」


 高瀬に。


 だろうか。


 桐谷に。


 真壁に。


 それとも。


 三人全員に。


 スマートフォン。


 机の横。


 手を伸ばす。


 高瀬。


 真壁。


 三人のグループ。


「……」


 送ればいい。


 すぐ。


 今まで。


 何度も。


 そう決めた。


 一人で抱えない。


 確定していなくても。


 共有する。


 真壁が。


 昨日。


 それをやった。


 なら。


 自分も。


「……」


 指。


 止まる。


 もし。


 この文章通り。


 自分が。


 また嘘をつくなら。


 今。


 高瀬へ。


 何かを話すこと自体。


 危険なんじゃない?


「……違う」


 藤原は。


 小さく。


 自分へ言った。


「それ」


「言い訳」


 怖い。


 ただ。


 怖いだけ。


 高瀬に。


 真壁に。


 疑われるのが。


「……」


 藤原は。


 ゆっくり。


 グループ通話を押した。


◇


「はい」


 高瀬。


 すぐ出た。


『何ですか』


 真壁。


 少し遅れて。


「今」


 藤原。


「二人とも大丈夫?」


『大丈夫』


 高瀬。


『大丈夫です』


 真壁。


「……」


『藤原?』


 高瀬。


「一個」


「見つけました」


『何』


「私の」


 一度。


 言葉が。


 止まる。


『藤原先生』


 真壁。


『急がなくていいです』


「……」


 その一言で。


 少し。


 呼吸が戻る。


「一年前」


「私」


「自分で」


『うん』


「ファイル残してました」


『何て』


「……」


 藤原は。


 画面を。


 もう一度見る。


 そして。


 逃げなかった。


「『今は私を信用しないで』」


 沈黙。


 高瀬。


 何も言わない。


 真壁も。


 何も。


「それと」


 藤原。


「『私が言うことを全部信じたらダメ』」


『……』


「最後」


「『私は、もう一度、嘘をつく』」


 言った。


 全部。


 言い終わった。


 藤原は。


 スマートフォンを。


 強く握っていた。


「……」


 数秒。


 長い。


「何か」


 藤原。


「言ってください」


『じゃあ』


 高瀬。


『一個』


「はい」


『今』


「……」


『嘘ついてる?』


「……」


 藤原の眉が。


 寄る。


「ついてません」


『よし』


「何がよし!?」


 高瀬が。


 少し笑う。


『確認』


「高瀬先生!」


『いや』


 声。


 少し。


 柔らかくなる。


『話してくれてありがとう』


「……」


 藤原が。


 止まる。


『怖かったろ』


「……」


「何が」


『これ』


「……」


『自分で』


『信用するなって』


『残してるんだから』


「……」


 藤原は。


 すぐには。


 答えられなかった。


「……ちょっと」


『うん』


「怖かったです」


『何が一番』


「二人に」


 一度。


 言葉を止める。


「疑われるの」


 高瀬。


 すぐには。


 返さない。


 真壁が。


 先に言った。


『俺』


「はい」


『疑います』


「……」


『これだけ見たら』


「……」


『でも』


 真壁の声は。


 いつも通り。


 静か。


『疑うことと』


『信用しないことは』


『別だと思う』


「……」


 藤原。


 少しだけ。


 目を見開く。


『俺』


『一年前の藤原先生は』


『分からない』


『でも』


『今の藤原先生は』


 一度。


 間。


『信用してます』


「……」


 藤原の。


 目が。


 少し。


 熱くなる。


「真壁先生」


『何ですか』


「今」


「めっちゃいいこと」


『やめて』


「言った」


『だからやめて』


 高瀬が。


 笑う。


『真壁』


『照れんな』


『切りますよ』


「……」


 藤原も。


 少しだけ。


 笑った。


◇


『で』


 真壁。


『確認』


「はい」


『そのファイル』


『見せられる?』


「今」


 藤原。


「画面共有します」


 ファイル。


 表示。


 三人。


 読む。


『今は、


私を信用しないで。』


「今は」


 高瀬。


『そこ』


 真壁。


『気になります』


「はい」


 藤原。


『ずっと信用するな』


『じゃない』


「今は」


 高瀬。


「特定の時間?」


『可能性』


 真壁。


「一年前の」


 藤原。


「10月14日」


『高瀬先生が』


『休んでた二日目』


「はい」


『じゃあ』


 高瀬。


『14日の俺に』


『信用するな?』


「……」


 三人。


 少し。


 考える。


『次』


 真壁。


『「もう一度」』


「はい」


『一回目の嘘』


「それ」


 藤原。


「全然」


「思い出せない」


『高瀬先生』


 真壁。


『一年前』


『藤原先生に』


『何か』


『嘘つかれた記憶』


「ない」


『ですよね』


「記憶飛んでるから」


『……』


「お前」


「言ってから気付くな」


『すみません』


 高瀬。


 少し笑う。


「でも」


「嘘」


「って」


「どんな」


 藤原。


「悪意のあるものだけじゃない」


『はい』


 真壁。


「守るため」


 高瀬。


「隠すため」


「安心させるため」


「……」


『どれか』


 真壁。


『分からない』


「うん」


『じゃあ』


『調べる』


 高瀬。


「何を」


『藤原先生の』


『10月13日から15日』


「……」


 藤原。


 少しだけ。


 表情を変える。


「私の」


「記録?」


『はい』


『勤務』


『メール』


『連絡』


『校務』


「……」


 藤原。


 小さく。


 息を吐く。


「分かりました」


『嫌?』


 高瀬。


「少し」


『やめる?』


「……」


 藤原。


 少し考える。


「やります」


『無理すんな』


「無理じゃないです」


『本当に?』


「はい」


『高瀬先生』


 真壁。


『今』


『詰めすぎ』


「……」


「ごめん」


『また』


「でも今の必要だろ!」


 藤原が。


 笑う。


「大丈夫です」


「今度は」


「私が」


「調べたい」


『……』


「自分が」


「何したか」


「知りたい」


 高瀬。


 少しだけ。


 声を柔らかくする。


『分かった』


◇


 翌日。


 午後一時二十三分。


 三人。


 空き教室。


 藤原の。


 一年前。


 10月13日。


「勤務」


 真壁。


「通常」


「はい」


「授業」


「通常」


「はい」


「メール」


「……」


 藤原。


「これ」


「何」


 高瀬。


「13日」


「17時51分」


「送信」


「誰に」


「高瀬先生」


「俺?」


 三人。


 見る。


 件名。



『大丈夫です。』



「……」


 高瀬。


「俺に?」


「はい」


 藤原。


「開きます」


 本文。



『高瀬先生。


今のところ、

学校では何も起きていません。


桐谷先生も、

普通に帰りました。


今日はもう、

無理に戻ってこなくて大丈夫です。』



「……」


 三人。


 止まる。


「桐谷」


 高瀬。


「普通に帰った?」


「でも」


 真壁。


「17時44分」


「放送」


「桐谷先生」


「高瀬先生を」


「追った」


「……」


 藤原の。


 顔から。


 血の気が。


 少し引く。


「私」


「これ」


「嘘?」


「可能性」


 真壁。


「でも」


「かなり」


 高瀬。


「高い」


「だって」


「桐谷」


「帰ってない」


「……」


 藤原。


 画面を。


 見つめる。


「私」


「何で」


「こんなの送った?」


「……」


 高瀬。


 すぐには。


 何も言わない。


「それ」


「一回目の嘘?」


 藤原。


 声。


 少し震える。


「かもしれない」


 真壁。


「でも」


「まだ」


「理由」


「分からない」


「……」


「藤原」


 高瀬。


「俺」


「このメール」


「読んだ?」


「送信履歴だけじゃ」


「分からない」


 真壁。


「受信側」


「高瀬先生の」


「メール」


「確認できる?」


「ある」


 三人。


 高瀬の。


 過去メール。


 検索。


 件名。


『大丈夫です。』


「……ある」


 高瀬。


「既読」


「……」


 藤原。


「既読です」


「時間」


 真壁。


「17時53分」


「……」


「俺」


 高瀬。


「読んだ」


「……」


「で」


「信じた?」


 誰も。


 答えられない。


◇


「次」


 真壁。


「高瀬先生」


「このあと」


「メール」


「送ってる?」


「検索」


 17時56分。


 一通。


 送信先。


 藤原。


 本文。



『分かった。


今日は行かない。


ありがとう。』



「……」


 藤原の。


 表情が。


 完全に。


 止まった。


「高瀬先生」


「うん」


「これ」


「……」


「私の嘘」


「信じた」


「……」


 高瀬も。


 画面を見る。


「俺」


「行かなかった?」


「少なくとも」


 真壁。


「17時56分時点では」


「……」


「でも」


 高瀬。


「その日」


「学校に」


「俺いたって」


「証言」


「ある」


「……」


 藤原。


 すぐ。


 顔を上げる。


「じゃあ」


「一回」


「行かないって」


「決めた」


「でも」


「後から」


「来た?」


「……」


 真壁。


「何か」


「きっかけ」


「ある」


「メール」


 高瀬。


「このあと」


「誰かから」


 三人。


 確認。


 17時58分。


 18時02分。


 18時11分。


 普通。


 保護者。


 校務。


 同僚。


「桐谷」


「なし」


 高瀬。


「SMS」


 真壁。


「電話履歴」


 藤原。


「……あります」


「誰」


「非通知」


「時間」


「18時07分」


 三人。


 黙る。


「通話」


 高瀬。


「長さ」


「……」


 藤原。


「十一秒」


「短」


 真壁。


「でも」


「そのあと」


「高瀬先生」


「18時12分」


「……」


「位置情報」


「校内Wi-Fi」


「接続」


「……」


 高瀬。


「五分で?」


「電話」


「18時07」


「学校」


「18時12」


「無理」


 真壁。


「自宅からなら」


「絶対無理」


「じゃあ」


 藤原。


「高瀬先生」


「その時」


「もう」


「学校の近く?」


「……」


 高瀬。


「分からない」


「でも」


「メールでは」


「行かないって」


「……」


「その直後」


「非通知」


「十一秒」


「……」


「それで」


「学校へ」


 三人。


 顔を見合わせる。


「桐谷?」


 高瀬。


「可能性」


 真壁。


「はいはい」


「確定しない」


「成長」


「もういい!」


 でも。


 誰も。


 笑わなかった。


◇


「藤原」


 高瀬。


「お前」


「うん」


「その日」


「俺を」


「学校から」


「遠ざけようとした?」


「……」


 藤原。


 すぐには。


 答えない。


「多分」


「……」


「でも」


「何で」


「分からない」


「桐谷を」


「助けさせないため?」


「可能性」


「高瀬先生を」


「守るため?」


「……」


「それなら」


 高瀬。


「俺に」


「嘘ついた」


「うん」


「……」


「藤原」


「はい」


「それ」


「俺」


「怒っていい?」


 藤原。


 少し。


 目を伏せる。


「いいです」


「……」


「でも」


「今の藤原に」


「怒っても」


「仕方ないよな」


「……」


「覚えてないんだから」


 藤原。


 少しだけ。


 顔を上げる。


「でも」


「私です」


「一年前でも」


「……」


「私が」


「嘘ついた」


「……」


「だから」


「怒るなら」


「受けます」


「……」


 高瀬。


 少し。


 困った顔。


「お前」


「真面目だな」


「何で今それ」


「いや」


「怒る気」


「ちょっと失せた」


「……」


 真壁。


 横から。


「高瀬先生」


「何」


「怒るなら」


「ちゃんと怒っていいと思います」


「……」


「藤原先生」


「過去の自分と」


「今の自分」


「分けすぎても」


「違う気がする」


「……」


 藤原。


 真壁を見る。


「真壁先生」


「何ですか」


「今日」


「めちゃくちゃ」


「刺してきますね」


「事実」


「……」


 高瀬。


 少し笑う。


「でも」


「俺」


「怒ってる」


「……」


 藤原。


「何に」


「嘘つかれたこと」


「じゃなくて」


「……」


「一年前の俺」


「藤原に」


「一人で」


「こんな判断させたんだろ」


「……」


「それ」


「ちょっと」


「腹立つ」


 藤原。


 何も。


 言えない。


「多分」


 高瀬。


「俺」


「何も話してなかった」


「……」


「藤原は」


「何か知って」


「でも」


「全部分からなくて」


「……」


「一人で」


「俺を止めようとした」


「……」


「それ」


「今なら」


「させたくない」


 藤原の。


 目が。


 少し。


 潤む。


「高瀬先生」


「何」


「また」


「いいこと」


「言った?」


「言ってません」


「即答」


「……」


 少し。


 笑う。


◇


 放課後。


 三人。


 ノート。


『10月13日』


『17:51 藤原→高瀬』


『桐谷は帰った、と虚偽連絡』


『17:53 高瀬既読』


『17:56 高瀬「今日は行かない」』


『18:07 非通知着信 11秒』


『18:12 高瀬 校内Wi-Fi接続』


「……」


 真壁。


「非通知」


「誰か」


「調べられる?」


「一年前」


 藤原。


「厳しい」


「電話会社」


「無理」


「じゃあ」


 高瀬。


「ここ」


「保留」


「はい」


「あと」


 藤原。


「もう一度」


「嘘をつく」


「……」


 三人。


 止まる。


「一回目」


 高瀬。


「これ」


「多分」


「桐谷は帰った」


「じゃあ」


 真壁。


「二回目」


「まだ」


「……」


「起きてない?」


 藤原。


「一年前の」


「14日時点では」


「これから」


「……」


「何を」


「嘘ついた」


「……」


 高瀬。


 少し。


 嫌な顔をする。


「それ」


「また」


「調べるしかない」


「はい」


◇


 その夜。


 藤原。


 自宅。


 今日の。


 記録。


 読み返す。


「……」


 一年前。


 自分が。


 高瀬へ。


 嘘をついた。


「桐谷先生は」


「普通に帰りました」


 事実。


 違った。


 でも。


 高瀬を。


 学校から。


 遠ざけようとした。


「……守ろうとした?」


 そう。


 思いたい。


 でも。


 次。


『私は、


もう一度、


嘘をつく。』


「……」


 何を。


 次に。


 嘘ついた?


 その時。


 スマートフォン。


 震える。


「……」


 SMS。


 知らない番号。


 藤原の。


 表情が。


 変わる。


 開く。


 一行。



『一回目の嘘を、


思い出しましたか?』



「……」



 藤原の。



 指が。



 止まる。



 返信。



『誰ですか?』



 送信。



 数秒。



 既読。



 返信。



『二回目は、


まだ思い出さない方がいい。』



「……」



『誰ですか』



 もう一度。



 返信。



 今度は。



 少し。



 長い。



『あなたが二回目の嘘を思い出した時、


高瀬はまた、


あなたを信用できなくなる。』



「……」



 藤原の。



 呼吸が。



 浅くなる。



『桐谷先生?』



 送信。



 数秒。



 返信。



『違います。』



 次。



『001でもありません。』



「……」



 藤原は。



 すぐに。



 三人のグループチャットを。



 開いた。



 一人で。



 抱えない。



 今度は。



 迷わなかった。



『二人とも。


また来ました。』



 送信。



 直後。



 知らない番号から。



 最後の一通。



『そう。』



 次。



『今回は、


ちゃんと共有できた。』



「……」



 藤原は。



 画面を。



 見つめた。



 まるで。



 誰かが。



 自分たち三人を。



 ずっと。



 見ている。



 いや。



 もっと。



 嫌な可能性。



 一年前から。



 今の三人が。



 こうやって。



 動くことまで。



 知っている。



 誰かが。



 いる。

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