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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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23/119

Review23 共有

 翌朝。


「……眠」


 高瀬は職員室の椅子へ身体を預けた。


「昨日何時に寝たんですか」


 藤原。


「十二時くらい」


「普通ですね」


「普通なのに眠い」


「年齢では」


「殴るぞ」


「教師が暴力予告」


「冗談です」


 真壁が。


 パソコンから目を離さないまま言う。


「冗談に聞こえない」


「お前も朝から厳しいな」


「事実」


「今日みんな冷たくない?」


「いつもです」


 藤原。


「それはそれで嫌!」


 高瀬が笑う。


 藤原も。


 少しだけ笑う。


 真壁だけ。


 画面を見たまま。


「……」


 高瀬が。


 その横顔を見る。


「真壁」


「何」


「眠い?」


「別に」


「機嫌悪い?」


「別に」


「何かあった?」


「別に」


「三回言う奴は絶対別にじゃない」


 真壁の指が。


 キーボードの上で止まる。


「……何もないです」


「嘘」


「高瀬先生」


「何」


「最近人の顔読みすぎ」


「やられてきたからな」


「悪影響」


「で?」


「何が」


「何かある?」


 真壁は。


 一瞬だけ。


 高瀬を見る。


「……ない」


 それだけ。


 高瀬は。


 追わなかった。


「そっか」


「……」


 真壁が。


 少しだけ。


 意外そうな顔をした。


「何」


「いや」


「聞かないんですね」


「言いたくないんだろ」


「……」


「じゃあ」


 高瀬は。


 机の資料を手に取る。


「言いたくなったら言え」


 真壁は。


 何も返さなかった。


 ただ。


「……はい」


 小さく。


 答えた。


◇


 一時間目。


 真壁は。


 授業をしていた。


「じゃあ」


 黒板。


「ここ」


 一人の生徒を指す。


「答えて」


「えー」


「えーじゃない」


「分かりません」


「考える」


「先生厳しい」


「考えずに分かりませんはなし」


「じゃあ……」


 生徒が。


 教科書を見る。


 真壁は。


 待つ。


「三?」


「何が三」


「答え」


「昨日もそれ聞いた」


「同じ問題?」


「違う」


「じゃあ違う三です」


「便利だな」


 教室が。


 少し笑う。


 真壁も。


 ほんの少しだけ笑った。


 でも。


 頭の中では。


 昨日の紙。


『藤原を信用――』


 それが。


 何度も。


 浮かんでいた。


 信用しろ。


 なのか。


 信用するな。


 なのか。


 確定できない。


 だから。


 言わない。


 それでいい。


 そう思っていた。


「先生」


「ん?」


「今」


「何」


「またぼーっとしてた」


「してない」


「してた」


「授業聞いて」


「先生が聞いてないじゃん」


 少し笑い。


「……悪い」


 真壁が。


 珍しく。


 素直に謝った。


 生徒が。


 少し驚く。


「先生」


「何」


「今日変」


「どこが」


「なんか」


 少し考える。


「考えすぎ」


 真壁の表情が。


 止まった。


「……」


「先生?」


「いや」


 チョークを置く。


「そう見える?」


「うん」


「普段」


「秒で決めるじゃん」


「何を」


「全部」


「それは言い過ぎ」


「でも」


 生徒が。


 少し笑う。


「今日」


「止まる」


「……」


 真壁は。


 自分でも。


 少しだけ。


 気付いた。


 確かに。


 昨日から。


 何かを決めるたびに。


 藤原の顔が。


 浮かぶ。


「……授業戻るぞ」


「逃げた」


「戻るだけ」


「はいはい」


 真壁は。


 黒板へ向き直った。


◇


 昼休み。


「真壁先生」


 藤原が。


 職員室で声を掛ける。


「何ですか」


「昨日の紙」


 真壁の手が。


 ほんの少し止まる。


「何かありました?」


「……何で」


「いや」


「コピー」


「真壁先生が持って帰ったやつ」


「はい」


「何も変化なし?」


「……」


 高瀬も。


 少し離れた席から。


 こちらを見る。


 真壁は。


 その視線に気付く。


「変化」


 一度。


 言葉を止める。


「……ないです」


 高瀬の眉が。


 わずかに動く。


 藤原。


「本当に?」


「はい」


「消えたり」


「増えたり」


「ない」


「……」


「そっか」


 藤原は。


 それ以上聞かなかった。


 自分の席へ戻る。


 真壁は。


 画面を見る。


 胸の奥。


 少しだけ。


 重くなる。


「……」


 嘘。


 ついた。


 必要だから。


 まだ。


 確定していない。


 藤原へ。


『信用するな』


 なんて情報を。


 証拠なしで出す方が。


 危険。


 だから。


 今は。


 言わない。


 それでいい。


 そう。


 何度も。


 自分へ言い聞かせる。


◇


「真壁」


 数分後。


 高瀬が。


 隣へ来た。


「何」


「ちょっといい?」


「何ですか」


「外」


「……」


 二人。


 廊下。


「何」


 真壁。


「さっき」


「うん」


「嘘ついた?」


「……」


 真壁の表情が。


 少しだけ。


 固くなる。


「何で」


「何でって」


「顔」


「……」


「俺」


 高瀬が。


 少し笑う。


「最近」


「人の顔読むの」


「ちょっと上手くなった」


「悪趣味」


「で」


「……」


「何かあった?」


 真壁は。


 すぐには答えなかった。


「高瀬先生」


「うん」


「仮に」


「うん」


「人を疑う情報が出て」


「うん」


「でも」


「証拠が不十分」


「うん」


「それ」


「本人に言う?」


 高瀬は。


 少し考える。


「内容による」


「逃げた」


「真面目に答えてる」


「じゃあ」


「もし」


「藤原先生について」


「……」


 高瀬の顔が。


 変わる。


「藤原?」


「仮に」


「何が出た」


「……」


 真壁は。


 少しだけ。


 目を伏せる。


「まだ」


「言えない」


「……」


「確定してないから」


 高瀬は。


 すぐには。


 詰めなかった。


「じゃあ」


「何」


「一個だけ」


「うん」


「それ」


「一人で持つ?」


「……」


「真壁」


「何」


「俺ら」


「最近」


「何回」


「一人で抱えて失敗した?」


「……」


 真壁は。


 言い返せない。


「でも」


「藤原本人に」


「言いたくないなら」


「言わなくていい」


「……」


「俺には」


「言える?」


 真壁が。


 高瀬を見る。


「……」


「高瀬先生」


「うん」


「信用できます?」


「藤原を?」


「俺を」


「……」


 高瀬は。


 一瞬。


 驚いた。


「何それ」


「いいから」


「信用する」


「即答?」


「する」


「……」


「何で」


「何でって」


 高瀬は。


 少しだけ笑う。


「今まで」


「いたから」


「……」


「俺が倒れた時も」


「藤原と一緒にいた」


「記録も考えた」


「生徒の話もちゃんと聞く」


「たまに冷たい」


「余計」


「でも」


「信用してる」


「……」


 真壁は。


 少しだけ。


 視線を逸らす。


「だから」


 高瀬。


「言え」


 真壁は。


 しばらく。


 何も言わなかった。


 そして。


「昨日」


「うん」


「紙」


「裏」


「うん」


「文字がありました」


「……」


 高瀬の表情が。


 変わる。


「何て」


「途中までしか」


「読めない」


「うん」


「『藤原を』」


「……」


「『信用』」


「……」


「そこまで」


 高瀬が。


 黙る。


「続き」


「消えてる」


「……」


「信用しろ」


「かも」


「信用するな」


「かも」


「……」


「だから」


 真壁。


「言わなかった」


「……」


 高瀬は。


 廊下の窓を見る。


「そっか」


「怒らない?」


「何で」


「隠したから」


「……」


「ちょっと」


「怒ってる」


「……」


「でも」


 真壁を見る。


「理由は分かる」


「……」


「ただ」


「次」


「うん」


「確定してなくても」


「一人で抱えるの」


「やめよう」


「……」


「藤原に言うかどうかは」


「三人で決めればいい」


「……」


「俺ら」


「チームなんだろ」


「……」


 真壁が。


 少しだけ。


 笑った。


「いつ決まったんですか」


「知らん」


「雑」


「でも」


「藤原も」


「多分そう思ってる」


「……」


「多分」


「そこ保留?」


「成長」


「自分で言うな」


 二人。


 少しだけ。


 笑った。


◇


「じゃあ」


 午後。


 三人。


 空き教室。


 真壁は。


 昨日のコピーを。


 机へ置いた。


「これ」


 藤原が。


 紙を見る。


「裏?」


「はい」


「光」


「当てます」


 スマートフォン。


 斜め。


 凹み。


 浮く。


「……」


 藤原の表情が。


 少し変わる。


『藤原を――』


 少し。


『信用――』


「……」


「見える?」


 高瀬。


「はい」


「真壁先生」


 藤原。


「何で昨日」


「言わなかったんですか」


「……」


「藤原」


「待って」


 高瀬。


「俺から話した」


「……」


「真壁なりに」


「確証なかったから」


「……」


 藤原は。


 真壁を見る。


「私を」


「疑った?」


 真壁は。


 すぐには答えなかった。


「……少し」


「……」


「ごめんなさい」


「……」


 藤原が。


 少しだけ。


 目を伏せる。


 高瀬。


 すぐに。


 何か言おうとする。


 藤原が。


 先に。


「でも」


「うん」


 真壁。


「もし」


「私が真壁先生の立場なら」


「……」


「私も」


「少し疑うと思います」


「……」


「だって」


 紙を見る。


「『藤原を信用するな』かもしれない」


「……」


「怖いです」


 真壁。


 少しだけ。


 驚いた顔。


「怒ってない?」


「ちょっと怒ってます」


「……」


「でも」


「疑ったことじゃなくて」


「一人で抱えたこと」


「……」


「それ」


「高瀬先生と同じ」


「最悪」


 真壁。


 高瀬。


「おい!」


 藤原が。


 思わず笑う。


「でも」


「次から」


「言ってください」


「確証なくても」


「……」


「はい」


 真壁。


「分かりました」


「本当に?」


「はい」


「高瀬先生の『はい』よりは」


「信用できる」


「藤原!」


 三人。


 少し笑った。


 空気。


 戻る。


◇


「問題」


 高瀬。


「続き」


「どうやって読む」


「赤外線?」


 藤原。


「学校にない」


 真壁。


「鉛筆の凹みなら」


「別紙」


「上に置いて」


「鉛筆で」


「こする?」


「小学生の暗号?」


「でも有効」


「やる?」


「やりましょう」


 別の紙。


 上。


 鉛筆。


 軽く。


 擦る。


 少しずつ。


 凹みが。


 浮かぶ。


「……」


 三人。


 顔を近付ける。


『藤原を』


 次。


『信用』


 その下。


 一文字。


「……し」


 高瀬。


「し?」


 藤原。


「しろ?」


 真壁。


「するな?」


「どっち」


 さらに。


 擦る。


 少し。


 文字。


 浮かぶ。


『信用し――』


「まだ」


「続き」


「……」


 ゆっくり。


 最後。


 出る。


『信用しろ。』


「……」


 三人。


 黙った。


 真壁が。


 目を閉じる。


「……」


「真壁」


 高瀬。


「何」


「良かったな」


「何が」


「信用しろだった」


「……」


「疑って」


「ごめんなさい」


 藤原が。


 少しだけ。


 真壁を見る。


「謝るの」


「私じゃないですよ」


「……?」


「一年前の高瀬先生に」


「……」


 高瀬。


「俺!?」


「だって」


 藤原が。


 紙を指差す。


「この人」


「私信用しろって」


「書いてくれてる」


「……」


「今の高瀬先生より」


「見る目あるかも」


「何それ!」


 真壁が。


 吹き出す。


「そこ笑う!?」


「すみません」


「全然悪いと思ってない!」


 三人。


 久しぶりに。


 ちゃんと笑った。


◇


「でも」


 真壁が。


 紙を見る。


「何で」


「信用しろって」


「わざわざ」


「書いた?」


「……」


「普通」


 高瀬。


「信用する相手なら」


「書く必要ない」


「……」


 藤原。


 少し表情を変える。


「つまり」


「今の私たちみたいに」


「一年前も」


「誰か」


「藤原を疑う状況が」


「あった?」


「……」


 三人。


 また。


 黙る。


 高瀬。


 紙。


『藤原を信用しろ。』


「俺」


「一年前」


「藤原を」


「疑った?」


 藤原が。


 すぐには答えない。


「……覚えてない」


「……」


「本当に」


「何も?」


「少なくとも」


「その時期」


 藤原が。


 少し苦しそうに。


 考える。


「高瀬先生」


「私に」


「距離置いてた気はします」


「……」


「なんで」


「分からない」


「聞かなかった?」


「聞きました」


「何て」


「……」


 一度。


 目を伏せる。


「『藤原には関係ない』」


「……」


「それだけ」


 高瀬の胸。


 少し。


 痛む。


「俺」


「ひど」


「今さら?」


 真壁。


「お前!」


「でも」


 藤原が。


 少し笑う。


「そのあと」


「これ」


 紙を見る。


「信用しろって」


「書いたんですよね」


「……」


「なら」


 高瀬。


「一年前の俺」


「途中で」


「間違いに気付いた?」


「可能性」


 真壁。


「はいはい」


「確定しない」


「成長」


「もういいって!」


◇


 放課後。


 高瀬。


 教室。


 朝の揉め事。


 あの二人。


 今日は。


 同じ机。


 何か。


 話している。


 高瀬は。


 近付かなかった。


 少し遠く。


 見ている。


「先生」


 後ろ。


 女子生徒。


「……」


「先生?」


「驚かないんですか」


「今日」


「もう予想してた」


「つまんない」


「何を求めてるの」


 女子生徒が。


 二人を見る。


「仲直り?」


「分からん」


「でも」


「話してる」


「先生何もしてないのに」


「それ昨日も言われた」


「じゃあ」


「先生いらなくない?」


「教師の存在意義!」


 女子生徒が。


 笑う。


「でも」


「うん」


「先生」


「待ったんですよね」


「まあ」


「難しかった?」


「……」


 高瀬は。


 少し考える。


「めっちゃ」


「そんなに?」


「口出したかった」


「何て」


「謝れ」


「話せ」


「仲直りしろ」


「全部」


「……」


「でも」


「言わなかった」


「何で」


 高瀬は。


 少しだけ。


 笑う。


「本人たちの話だから」


「……」


 女子生徒が。


 少し。


 真面目な顔をする。


「先生」


「何」


「最近」


「ちょっと」


「いい先生ですね」


「最近!?」


「前は」


「前もいい先生!」


「自分で言う?」


「誰も言わんから!」


 また。


 笑う。


 高瀬も。


 笑った。


◇


 夜。


 三人のグループチャット。


 藤原。


『今日の記録まとめました』


 真壁。


『確認します』


 高瀬。


『俺も』


 数分。


 藤原。


『修正ありますか?』


 真壁。


『なし』


 高瀬。


『なし』


 真壁。


『珍しい』


 高瀬。


『何が』


 真壁。


『高瀬先生が何も足さない』


 高瀬。


『完璧だから』


 藤原。


『私が作ったので』


 高瀬。


『そこ!?』


 少し。


 くだらないやり取り。


 でも。


 高瀬は。


 画面を見ながら。


 少しだけ笑っていた。


 その時。


 Review。


 通知。


「……」


 開かない。


 今日は。


 三人で。


 ちゃんと。


 共有した。


 それでいい。


 スマートフォンを。


 伏せる。


◇


 同じ頃。


 真壁。


 自宅。


 昨日の紙。


 机。


『藤原を信用しろ。』


「……」


 真壁は。


 その文字を。


 もう一度見る。


「信用しろ」


 少し。


 笑う。


「……分かったよ」


 誰に。


 答えたのか。


 自分でも。


 分からない。


 その時。


 紙の。


 さらに下。


「……?」


 光。


 また。


 薄い凹み。


「まだある?」


 真壁は。


 スマートフォンのライトを。


 斜めから。


 当てる。


 一行。


 かなり。


 薄い。


「……」


 読む。


 表情が。


 止まる。


 そこには。



『真壁には――』



「……俺?」



 続き。


 凹み。


 薄い。



『全部を――』



 さらに。



『話すな。』



「……」



 真壁は。



 しばらく。



 紙を。



 見つめた。



『藤原を信用しろ。』


『真壁には全部を話すな。』



 同じ紙。



 同じ筆跡。



 一年前の高瀬が。



 二人へ。



 まるで。



 正反対の。



 指示を。



 残していた。



「……何で」



 真壁は。



 今度こそ。



 一人で。



 抱えないために。



 スマートフォンを。



 手に取った。



 そして。



 三人のグループチャットへ。



 写真を。



 送信した。

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