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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『あなたは、あなたを何点にしますか』

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22/118

Review22 同じ場所

 午前七時十二分。


「……何だこれ」


 高瀬は玄関で靴を履く手を止めた。


 スマートフォン。


 昨夜のSYSTEM。


 通知履歴に。


 一件だけ残っている。


━━━━━━━━━━━━


【SYSTEM】


過去記録との

一致を確認。


LOOP 1


自己選択率

21%時点


同一地点へ到達。


━━━━━━━━━━━━


「……同じ場所」


 高瀬は。


 何度か読み返した。


 一年前。


 自己選択率21%。


 今。


 21%。


「だから何なんだよ」


 小さく呟く。


 SYSTEMは。


 当然。


 答えない。


「同じなら」


 玄関のドアへ手を掛ける。


「同じことが起きる?」


 自分で言って。


 少し嫌になった。


 昨日。


 教室で。


 生徒に言われた。


『結構、幸せじゃないですか』


 そうだ。


 昨日は。


 悪くなかった。


 むしろ。


 いい日だった。


 それなのに。


 数字一つで。


 また不安になる。


「……」


 高瀬は。


 スマートフォンをポケットへ入れた。


「学校行こ」


 今日は。


 今日だ。


 そう言い聞かせて。


 ドアを開けた。


◇


「高瀬先生」


 職員室へ入った瞬間。


 真壁が呼んだ。


「何」


「顔」


「朝一でそれやめない?」


「見ました?」


「何を」


「SYSTEM」


 高瀬の足が止まる。


「……お前も?」


「いや」


 真壁が自分のスマートフォンを見せる。


「俺には来てない」


「じゃあ何で」


「藤原先生から」


「藤原?」


 少し離れた席。


 藤原が。


 申し訳なさそうに手を上げる。


「おはようございます」


「おはようじゃなくて」


「昨日」


「高瀬先生寝たあと」


「スマホ、画面共有の設定残ってました」


「……何それ」


「Review記録用に」


「勝手に?」


「前に許可もらいました」


「……」


「覚えてない?」


「覚えてる」


「なら勝手じゃないです」


「ぐっ」


 真壁が。


 少しだけ笑う。


「で」


「見た?」


 高瀬。


「はい」


 藤原の表情が。


 少しだけ硬くなる。


「21%」


「うん」


「一年前と同じ」


「うん」


 三人。


 少し黙る。


「高瀬先生」


 真壁。


「怖い?」


「……」


 高瀬は。


 正直に考えた。


「怖い」


「はい」


「でも」


 少しだけ。


 間を置く。


「昨日よりは」


「マシ」


「何で?」


 藤原。


「一年前」


 高瀬は。


 二人を見る。


「多分」


「俺一人だった」


「……」


「今」


「二人いる」


 藤原が。


 少しだけ目を細める。


 真壁は。


 視線を逸らした。


「真壁」


「何」


「今照れた?」


「違います」


「顔」


「見ないで」


「分かりやすい」


「高瀬先生」


「はい」


「朝から元気ですね」


「おかげさまで」


 ほんの少し。


 笑いが生まれる。


 高瀬は。


 それだけで。


 少し呼吸が楽になった。


◇


「で」


 真壁が。


 机の上へノートを置く。


「同じ地点なら」


「うん」


「一年前の21%以降」


「何が起きたか」


「調べる?」


「調べる」


 高瀬。


「即答」


 藤原。


「でも」


「今日は一人で走らない」


「……」


「何その間」


「いや」


「高瀬先生が」


「自分から言った」


「成長」


「最近それ禁止にしない?」


「褒めてるのに」


「生徒扱いされてる気分」


 真壁が。


 ノートを開く。


「一年前」


「10月13日」


「校内放送」


「はい」


「高瀬先生」


「採点不能」


「はい」


「桐谷先生」


「高瀬先生を追って職員室を出る」


「はい」


「その後」


 真壁のペンが。


 止まる。


「空白」


「……」


「高瀬先生」


「三日欠勤」


「……」


「桐谷先生」


「十六日退職」


「……」


「で」


 藤原が。


 ゆっくり言う。


「今の高瀬先生」


「同じ21%」


「……」


「でも」


「昨日までと」


 高瀬が。


 少しだけ笑う。


「全然違う」


「はい」


「何が違う?」


 真壁。


「俺がいる」


 高瀬。


「藤原も」


「生徒も」


「……」


「桐谷」


 藤原。


「今は」


「存在を知ってる」


「うん」


「一年前は?」


「覚えてない」


「……」


「じゃあ」


 真壁が。


 ペンを置く。


「同じ地点じゃない」


「……?」


「SYSTEM上では」


「21%」


「同じ」


「でも」


 真壁が。


 高瀬を見る。


「高瀬先生自身は」


「一年前と」


「同じじゃない」


 高瀬は。


 少し黙った。


「……いいこと言うな」


「やめて」


「何で」


「褒められる流れ嫌い」


「最近それも見慣れた」


 藤原が笑う。


「でも」


 高瀬は。


 真壁を見る。


「それ」


「大事かも」


「同じ数字でも」


「同じ人間じゃない」


「……」


「じゃあ」


 ほんの少し。


 笑う。


「同じ未来になるとは限らない」


 藤原が。


 静かに頷いた。


「はい」


「そう思います」


◇


 昼休み。


 三人は。


 去年の資料を。


 もう一度確認していた。


「何か」


 高瀬。


「残ってない?」


「何が」


 真壁。


「一年前の俺」


「メモとか」


「ノートとか」


「パソコン」


「高瀬先生の?」


「うん」


「去年のデータ」


「残ってる?」


「多分」


 藤原が。


 少し考える。


「校務用PC」


「年度更新してますけど」


「個人フォルダ」


「残してるものは」


「あるかも」


「見てみる?」


「はい」


 三人。


 高瀬のパソコン。


「パスワード」


 真壁。


「見ないで」


「見ません」


「藤原も」


「見ません」


「絶対?」


「高瀬先生」


「何」


「そんな重要なパスワードなんですか」


「いや」


「じゃあ早く」


「はい」


 入力。


 ログイン。


 フォルダ。


 去年。


「……汚」


 真壁。


「第一声それ?」


「整理してください」


「これでも分かる」


「本人しか分からない整理は整理じゃない」


「お前ほんと細かいな」


「高瀬先生が雑」


「藤原」


「どっち?」


「真壁先生」


「即答!?」


 藤原が笑う。


「で」


「去年」


「10月」


 フォルダ。


 授業。


 学年。


 生徒対応。


 会議。


「普通だな」


 高瀬。


「普通ですね」


 藤原。


「13日」


 真壁。


「ファイルある?」


「……」


 クリック。


 十月十三日。


 空。


「ない?」


「はい」


「十四」


「空」


「十五」


「空」


「……また三日」


 三人。


 少しだけ。


 表情を変える。


「十六日」


 高瀬。


 ファイル。


 一件。


「……ある」


「何」


「タイトル」


 藤原が。


 画面へ顔を近付ける。


『確認用』


「開く?」


 高瀬。


「待って」


 真壁。


「バックアップ」


「先」


「お」


「コピー」


「外部」


「できる範囲」


「はい」


 藤原。


「写真も」


「撮ります」


「準備」


「完了」


 真壁。


「じゃあ」


 高瀬が。


 マウスへ指を置く。


「開くぞ」


 二人。


 頷く。


 クリック。


 ファイル。


 テキスト。


 最初。


 一行。



『これを読んでいる俺へ。』



「……」


 高瀬の手が。


 止まった。


「俺?」


「はい」


「一年前の」


「高瀬先生」


 藤原。


「自分宛て」


「……」


 高瀬は。


 ゆっくり。


 スクロールする。



『たぶん、


 また忘れてる。』



「……」


 胸が。


 少し。


 強く鳴る。



『だから、


 先に書いておく。』



 高瀬。


 藤原。


 真壁。


 三人とも。


 息を詰める。



『桐谷を探すな。』



「……」


 高瀬の表情が。


 固まった。


 桐谷本人も。


『俺を助けるな』


 そう言った。


 そして。


 一年前の高瀬自身も。


『桐谷を探すな』


 と。


「……何で」


 高瀬が。


 小さく呟く。


「続き」


 真壁。


「はい」


 スクロール。



『もし、


 桐谷を見つけても。』



 次。



『助けようとするな。』



「……」


 藤原が。


 高瀬を見る。


 高瀬は。


 画面から。


 目を離さなかった。



『あいつは、


 それを望んでいない。』



 続く。



『それでも、


 俺は行った。』



「……」


 高瀬の。


 指が。


 少し震える。



『俺なら、


 また行く。』



 次。



『だから、


 これを読んでる俺へ。』



 一行。


 空白。



『頼む。』



 さらに。



『今度は、


 俺の言うことを聞いてくれ。』



 高瀬は。


 何も言えなかった。


 去年の自分。


 今の自分。


 同じ。


 人を放っておけない。


 助けたい。


 走る。


「……」


 藤原も。


 真壁も。


 急かさない。


 高瀬が。


 自分で。


 次へ進む。


 スクロール。



『桐谷を助ければ、


 俺は――』



 文章。


 そこで。


 切れていた。



「……え?」


 高瀬。


「続き」


「ない」


 藤原。


「ファイル」


「壊れてる?」


 真壁。


「待って」


 下。


 スクロール。


 空白。


「……ここまで」


「何だよ」


 高瀬の声に。


 苛立ちが混じる。


「一番大事なとこ!」


「高瀬先生」


「分かってる」


 深呼吸。


「……ごめん」


「また」


 真壁。


「今はいいだろ!」


 藤原が。


 少しだけ笑う。


 空気。


 ほんの少し。


 戻る。


「でも」


 真壁が。


 画面を見る。


「ファイル情報」


「何」


「作成日時」


 三人。


 確認。


『10月16日 06:12』


「……」


「高瀬先生」


 藤原。


「学校復帰した朝」


「うん」


「記憶」


「なかった?」


「そう聞いてる」


「でも」


「これを書いた?」


 高瀬。


 画面を見る。


「……おかしい」


「何が」


「もし」


「俺が十六日に」


「桐谷忘れてたなら」


「……」


「これ」


「誰が書いた?」


 三人。


 黙る。


 真壁が。


 すぐ。


 ファイルの更新履歴を見る。


「作成者」


「高瀬」


「……」


「端末」


「このPC」


「ログイン」


「高瀬先生のアカウント」


「……」


「じゃあ俺?」


 高瀬。


「でも」


「覚えてない」


「……」


 藤原が。


 少しだけ。


 声を落とす。


「忘れたあと」


「一瞬だけ」


「戻った?」


「記憶が?」


「可能性」


「……」


 高瀬。


 画面を見る。


『たぶん、また忘れてる。』


「いや」


「これ」


「書いた俺」


「自分が忘れるって」


「知ってる」


「……」


 真壁。


「つまり」


「忘れる前に」


「未来の自分へ」


「残した?」


「でも作成日は十六」


「……」


 矛盾。


 また。


 矛盾。


◇


「印刷」


 真壁。


「しよう」


「今」


 高瀬。


「はい」


「紙」


「複数」


「コピー」


「藤原」


「はい」


「写真」


「撮りました」


「クラウド」


「はい」


「三人」


「共有」


「はい」


「今回」


 高瀬が。


 少し笑う。


「消させんぞ」


 真壁が。


 高瀬を見る。


「それ」


「フラグっぽい」


「言うなよ!」


 藤原が笑う。


 プリンター。


 動く。


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 文章。


 紙。


 残る。


「よし」


 高瀬。


 その瞬間。


 職員室の電気が。


 一瞬。


 消えた。


「……」


 暗闇。


「停電?」


 藤原。


 すぐ。


 戻る。


「……」


 三人。


 無言。


 高瀬が。


 プリンターを見る。


 紙。


 ある。


「残ってる」


「PC」


 真壁。


 画面。


 ファイル。


 ある。


「スマホ」


 藤原。


 写真。


「ある」


 三人。


 少し。


 息を吐く。


「……今回は」


 高瀬。


「勝った?」


「まだ言わない」


 真壁。


「慎重!」


「学習」


 高瀬が笑う。


◇


 午後。


 高瀬は。


 授業。


 いつもの教室。


「先生」


「何」


「今日なんか機嫌いい?」


「そう?」


「うん」


「何で」


「知らん」


「いいことあった?」


「……」


 少し考える。


「昔の俺から」


「手紙来た」


「は?」


 教室。


 一瞬。


 静か。


「先生」


「うん」


「病院行った方がいいですよ」


「行ったばっかだわ!」


 笑い。


「冗談?」


「半分」


「半分本当なの怖!」


 高瀬も笑う。


 その時。


 朝の女子生徒が。


 手を挙げる。


「先生」


「はい」


「昔の自分から」


「はい」


「今の自分に何て?」


 高瀬は。


 少しだけ。


 止まった。


「……同じ失敗するなって」


 教室の空気が。


 ほんの少し。


 変わる。


「先生」


 別の生徒。


「失敗したんですか?」


「したんじゃない?」


「覚えてないの?」


「……まあ」


「何それ」


 笑い。


 高瀬も。


 軽く笑った。


「でも」


 女子生徒。


「昔の先生が」


「今の先生に」


「失敗するなって言ってるなら」


「うん」


「今の先生」


「前より強くない?」


「……何で」


「一回」


「知ってるから」


「……」


 高瀬は。


 その言葉に。


 少し。


 返事が遅れた。


「……そうかもな」


「でしょ」


「じゃあ先生」


「何」


「今度はちゃんとしてください」


「急に雑!」


 教室。


 笑い声。


 高瀬も。


 笑った。


「……今度は」


 小さく。


 自分へ。


「ちゃんとするよ」


◇


 放課後。


 高瀬。


 藤原。


 真壁。


 三人。


 空き教室。


 一年前のメモ。


 机の上。


「今度は」


 高瀬が。


 紙を見る。


「俺の言うこと聞け」


「……」


「昔の俺」


「自分のこと」


「全然信用してないな」


「今の高瀬先生見てたら」


 真壁。


「理由分かる」


「お前!」


「半分冗談」


「残り半分本気じゃん」


 藤原が笑う。


「でも」


 高瀬。


「桐谷も」


「昔の俺も」


「同じこと言ってる」


「助けるな」


「探すな」


「はい」


 藤原。


「だから」


 高瀬が。


 少しだけ。


 視線を落とす。


「余計」


「気になる」


「高瀬先生」


「分かってる!」


「まだ何も言ってない」


「言う顔してた」


「顔読むの上手くなりましたね」


「みんなにやられてるから」


 真壁。


 少し笑う。


「でも」


「今」


「行かないんですよね」


「……うん」


「なんで」


 高瀬は。


 少し考える。


「桐谷が」


「来るなって言った」


「昔の俺も」


「行くなって言った」


「……」


「二人分」


「聞いてやろうかなって」


「……」


 藤原が。


 少し笑う。


「二人とも」


「高瀬先生ですけどね」


「確かに」


 三人。


 小さく笑う。


 でも。


 高瀬の目は。


 紙の最後。


 途切れた一文に。


 残っていた。



『桐谷を助ければ、


 俺は――』



 その先。


 何が。


 書かれていた?


◇


 午後七時四十三分。


 真壁。


 帰宅。


 鞄。


 机。


 今日の資料を整理する。


 コピーした。


 一年前の高瀬のメモ。


「……」


 読む。



『これを読んでいる俺へ。』


『たぶん、また忘れてる。』



 真壁は。


 少し。


 眉を寄せる。


 何か。


 違和感。


「……」


 もう一度。


 読む。


『桐谷を探すな。』


『助けようとするな。』


『俺なら、また行く。』


「……」


 違う。


 文章じゃない。


 紙。


「……?」


 端。


 薄い。


 何か。


 裏に。


 書いてある。


「……」


 真壁は。


 紙を。


 部屋の照明へかざした。


 透ける。


 表の文章の裏。


 鉛筆。


 ほとんど。


 消されている。


「……文字?」


 角度を変える。


 読めない。


 スマートフォンのライト。


 横から。


 当てる。


 凹み。


 少し。


 浮かぶ。


「……」


 一文字。


 次。


 繋げる。


 真壁の表情が。


 少しずつ。


 変わっていく。


 そこには。



『藤原を――』



「……藤原先生?」



 その先。


 消えている。


「何で」


 真壁は。


 さらに。


 角度を変える。


 続き。


 僅かに。


 見える。



『信用――』



 そこで。


 途切れる。



「……」



『藤原を信用――』



 信用しろ。



 なのか。



 信用するな。



 なのか。



 一文字違えば。



 意味は。



 真逆になる。



 真壁は。



 しばらく。



 紙を。



 見つめた。



 そして。



 すぐには。



 二人へ。



 連絡しなかった。



「……まず」


 小さく。



「確認してから」



 それが。



 真壁透という人間の。



 長所だった。



 そして。



 時に。



 一番危険な。



 短所でもあった。

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